米司法当局は先月末、中国の華為技術(ファーウェイ)と孟晩舟副会長を、米企業の秘密を盗んだとして起訴した。中国は反発するが、官民一体となった知的財産権侵害の闇は深く被害は深刻だ。
米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は記者会見で「ファーウェイは米国企業を食い物にした」と厳しく批判した。
中国は「中国企業に対する道理のない圧力を即座に停止すべきだ」と強く反発し、孟氏を逮捕したカナダが米国に身柄を引き渡さないようクギを刺した。
だが、米国は次世代通信規格「5G」で中国に主導権を握られると、機密情報が狙われ、国の安全保障に影響すると見て、神経をとがらせている。
確かに、ファーウェイは中国の国有企業ではないが、政府とつながりを持ちながら、米中の技術覇権争いで主要な役割を果たしてきたことは否定できない。
孟氏は昨年、故郷・成都での講演で「わが社の通信サービス利用者は世界の三十億人」と胸を張った。同社の研究開発費は売り上げの10%を占め、習近平政権のハイテク産業育成戦略「中国製造二〇二五」の中核企業である。
ファーウェイの創業者で中国人民解放軍出身の仁正非氏は先月、娘である孟氏の事件について深センで記者会見し、中国政府に不適切な情報提供を要求されたら「拒絶する」と述べた。
だが、共産党一党支配の中国でそんなことが可能であると考える人はごく少数であろう。さらに、中国は二〇一七年に「国家情報法」を成立させた。同法七条には「いかなる組織や個人も国家の情報活動に協力する義務を有する」と規定している。
ファーウェイに限らず中国の企業は国の諜報(ちょうほう)活動への協力を拒むことはできない。ポーランド当局は先月、産業スパイ容疑で同社の中国人社員を逮捕した。米国が、先端分野での知的財産権侵害を極度に警戒し、先兵ともいえるファーウェイ排除を国際社会に呼びかけたのは当然である。
米中貿易摩擦解消に向けた交渉は正念場を迎えている。米中対立は景気減速を招いており、摩擦解消は国際社会の利益にもかなう。
中国は市場開放を進めるだけでは不十分である。知的財産権の保護はむろん、外国企業からの技術移転の強制や、「官民一体」の産業政策といった経済構造の改革に踏み込むことが肝心である。
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