モグラ鍋
「グングニルⅩ!」
俺の放った槍が一直線にキメラの獅子の頭を貫きました。
「とう!」
戻ってきた槍で地に落ちる前に切り分けてやりましたぞ。
それぞれの頭と骨、そして肉ですな。
「よし! こんな所ですな!」
「後は亀裂だけだね!」
「行くぞ!」
「はい!」
錬と樹が波の亀裂に流星剣と流星弓を放ち、即座に波は静まりました。
「さあ! 即時に素材を武器に入れて撤収だよ」
お義父さんが後方を確認します。
すると、城の方から何やら土煙が上がっているのが見えますな。
よーく目を凝らしてみると殺気を放った団体なのが分かりますぞ。
おそらく俺達を殺そうと出撃した騎士団でしょうな。
「元康も器用なマネをするな。落下するまでに解体とか……」
「むしろ錬さんがやらないといけない作業のような……」
「そうだな。元康、俺の役目を奪うな」
「これは失敬ですぞ」
なんて言いながらキメラの死骸をそれぞれ武器に吸わせていると、遠くから矢が飛んできますぞ。
間違いなく俺達を仕留めようと放った恩知らずな攻撃ですな。
「まだ届いてないけど、何処まで身勝手な連中なんだろうね」
「まったくだ……この際、勇者を攻撃するのがどれくらい愚かな事なのかその身を以って教えてやるべきじゃないのか?」
「錬さん、元康さんが感染してますよ」
何故か錬がハッとした表情になりましたな。
「そうだったな。今はあんな連中の相手をしている暇は無い。さっさと離脱するぞ」
「うん! 元康くん、ポータル出来る?」
俺は即座にポータルの準備をしますぞ。
……若干イラつきますな。
こちらに儀式魔法を放つ準備をしているのですな。
ですが、まだ問題ない範囲でしょう。
何処まで愚かなのですかな?
少し身を持って教えてやった方が良いかと思いますぞ。
それとなく意識を集中しながら俺はお義父さんの方を向きます。
「大丈夫ですぞ」
「そう、じゃあ離脱の為にポータルをお願い」
「わっかりましたぞ! ポータルスピア!」
転送する人員を選ぶ僅かな隙に魔法をその手に生成します。
「元康! 何をしている!」
「少しだけ脅しをするのですぞ!」
「誰か元康さんを止めてください!」
「ガウ!」
ライバルが妨害魔法の準備をしようとしていますが、リベレイションまでは不可能ですぞ。
「これでも喰らえですぞ! リベレイション・プロミネンス!」
思い切り、騎士団の方に向けて投擲してから転移致しました。
お義父さん達は青い顔をしながら俺が投げた魔法の玉を目で追いながら、転移したのですぞ。
「元康くん!」
「コイツはどうしてこうも置き土産をしたがるんだ……」
フォーブレイの隣の国に転移した俺達をお義父さんは最初に叱りつけ、錬は呆れたように額に手を当てておりますぞ。
「懲りないから裁いたまでですぞ」
「ちなみにどれくらいの威力の魔法を放った訳?」
「そうですなー……死にはしない程度に生焼けになる魔法ですぞ」
「アレだけの高密度の魔法を放って……ですか?」
「ははは、強過ぎる日差しが肌を焼き焦がす魔法ですぞ」
お義父さん達はそれぞれ深い溜め息をしております。
「まあ、少しイラっとしていたから良い気味なのかもしれないとは思う」
「まったく……よりによって波の為に戦っている勇者達に矢や魔法を放つとは……どれだけ腐敗しているのだ」
エクレアが呆れ返っていますぞ。
「だけど様子が変だよね。えっと王様は元より、三勇教の教会まで元康くんが消失させたと言うのに……」
「僕も思っていました。女王という人が良く出来た人なら、上手く立ち回るはずなのでは?」
「私もそう思っていた……女王が私怨で勇者達を殺せと命じたとは考え難いはずなのだ」
「かと言って、長年愛した旦那を殺した勇者だろ?」
「それにしても、完全に娘を無視している僕達もどうなんでしょうね」
赤豚の事など気にする必要は無いですぞ。
アイツはいるだけで害があるのですからな。
「どっちにしてもメルロマルクの暴走はあまりにも酷過ぎる。フォーブレイでその事をちゃんと報告すべきでしょ」
「だな、どっちにしてもこれで波を一つ鎮める事は出来た」
「ミッションコンプリートですね。急いで武器に素材を入れてきましたが……キメラはちょっと武器としての性能は低めですね」
「まあな……」
「無いよりはマシでしょ。解放効果を馬鹿にしていると痛い目を見るよ」
「そうですけどね」
「どっちにしても疲れたね。まずは宿屋で休んでから、フォーブレイに行こう」
そんなこんなで宿屋で一泊する事になりましたな。
お義父さん達はそれぞれゆっくりと休む様ですぞ。
「アレが波……なんだね」
助手がライバルに向けて呟きますぞ。
「ガーウ」
「ウィンディアちゃんとガエリオンちゃんに引っ付いてるだけだったけど、怖かった……」
モグラはライバルから降りて腰を抜かしております。
「大丈夫だった?」
お義父さんがそんな助手たちとサクラちゃん達に尋ねますぞ。
「みんな怪我は無い? あんまり得意じゃないけど怪我をしてたら魔法を掛けるし、傷薬もあるよ」
「大丈夫」
「ガウ」
「うん」
「サクラも怪我は無いよー」
「ユキもありませんわ」
「コウもないない」
「そっか、じゃあみんな安心だね」
ここまで余裕のある波はありましたかな?
何だかんだで錬や樹の心配をしていたことが多かった覚えがありますぞ。
とにかく、今までの苦労が報われた様な気がしてきましたな。
「ねえねえイワタニー」
「なんだい? コウ」
宿屋の前で休んでいるとコウがお義父さんに上目使いで尋ねておりますぞ。
「ごはん」
「今日くらいは宿屋の食事で我慢してほしいなー」
「えー……」
さすがにお義父さんもお疲れですぞ。
それくらいは我慢すべきでしょうな。
俺がそれとなくコウがこっちへ来るように指示しますぞ。
「ねえイワタニー」
「だからダメだって。悪いけど今日は我慢して――」
「モグラはいつ料理するのー?」
ピシッと辺りの空気が凍りついた様な気がしますな。
俺も絶句して、コウを凝視しますぞ。
「コウ、鍋が良いーモグラ鍋!」
「ヒィ!」
モグラはライバルの後ろに隠れました。
どうやらフィロリアル様と仲が悪いというのを理解している様ですな。
この関係からしてライバルの後ろに助手と一緒に居れば安全だと思ったのでしょう。
「コウさん……まさか全く理解していなかったんですか?」
樹が半ば呆れながらコウに言いますぞ。
「なにがー? 違うの?」
「はぁ……尚文さん、どうやらコウさんはイミアさんを育ててから食べる家畜か何かだと思っているみたいですよ」
この空気! 覚えがありますぞ!
今すぐに止めなければいけません。
それがコウの為なんですぞ。
「コウ、今からでも遅くないですぞ! お義父さんに謝るんですぞ。でなけば、とんでもない経験をする羽目になりますぞ!」
「えー? 何があるのー?」
「前回のコウはそれはもう怖い思いをして常にその事に触れると脅えるようになりましたな」
「な、何が起こるんだ?」
「尚文さんの躾とかじゃないですか? なら丁度良いですよ。尚文さん、コウさんの僕の髪に対する情熱も一緒に叱ってください……見てくださいよ、僕の毛先……」
そういえば樹の髪がいつにも増してボサボサですな。
しかし樹、コウがピンチだというのに適当な事を言うんじゃないですぞ。
おそらく樹はお義父さんが軽く説教する程度だと考えているのでしょうが、前回のキールを考えるに、コウの反応はお義父さんを怒らせてしまう可能性が高いと思います。
この流れはやばいですぞ。
「毎日毎日、僕の髪の毛を甘噛するんですよ。何度注意してもやめないんですよ」
「そこも……うん、あんまりしつこいと注意した方がいいよね」
お義父さんはコホンと咳をしてコウに向けて注意しますぞ。
さあ、コウ! 早く反省の意を見せるのですぞ。
「コウ、イミアちゃんは食べ物じゃないの。わかる?」
「んー?」
コウは首を傾げていますぞ。
若干ヘラヘラしている様にも見えますな。
これは危険な兆候ですぞ。
お義父さんはサクラちゃんとユキちゃんに目を向けます。
「サクラちゃんとユキちゃんはわかるよね?」
「うん、イミアちゃんはー……最初は美味しそうだと思ったけど、お友達ー」
「ですわ。そもそも品がありませんわ」
「ま、まあ……どっちにしてもイミアちゃんは獣人であって家畜でも魔物でも無いの。わかる?」
「んー……よくわかんない。こんなに美味しそうなのに、なんで食べちゃダメなの?」
フィロリアル様の中でもコウはあんまり頭が良い方じゃないのですぞ。
その代わり好奇心が旺盛で、怖い物知らずな所があるのです。
う……あの時の事を思い出して、頭が!