意識改善
助手、ライバル、モグラのLvをある程度上げた所でメルロマルクの波の時間が近づいてきました。
お義父さん達は速攻で鎮めるのではなく、少しだけ時間を掛け、住民達が波の恐怖を痛感した所で助けるという作戦を行なうそうですぞ。
まあ、問題は離脱ですかな?
今回起こる波は城に近いリユート村近隣ですから時間を掛けていると騎士団が駆けつけてきます。
そして転移の難点は儀式魔法クラスの魔力場がある時には妨害出来てしまう事でしょう。
「で? 元康、波が起こってからどれくらいの時間で騎士団はやってくる?」
「近場ですからな。30分程度で既に応援が来た覚えがありますぞ」
「仮に攻撃してきたとして、手加減して騎士団を押さえておくのか?」
「速攻で鎮めて逃げるのも手ではあると思うのですが……」
「それじゃあ波の驚異を経験できないだろ」
「すまない……我が国の問題だと言うのに」
エクレアが会議するお義父さん達に頭を下げますぞ。
「まあ……俺達が召喚される原因になった波の発生場所が悪かったんだろうね」
亜人排他主義の国の亜人が多い地域ですからな。
本来は友好の為に用意された地であるのに、その地が壊滅的打撃を受けるなど誰も想像出来ません。
そんな対岸の火事になりそうな場所での災害……国民からしたら敵地の天災とでも思ったのでしょう。
「とりあえず、決めた時間になるまで村を守って、時間になったら速攻でボスを仕留る。残った魔物は範囲スキルで殲滅後に離脱しよう。残りは現地の人と騎士団に任せて」
「それしかないか。しかし……世界の為とは言え、こんな真似をする国は滅ぶべきだとも思ってしまうな」
「それは言わない約束でしょ。ま、理解してくれたら良いんだけどね」
「元康さん、場所はリユート村近隣で、ボスはキメラで良いんですよね?」
「間違いないですぞ」
お義父さん達は念入りに打ち合わせし、逃走経路まで計算しておりました。
俺だったら速攻で波の亀裂ごとボスを瞬時にスキルを放って逃げますぞ。
「本当はこんなタイミングを狙う様な事をするのはイケナイ事だと思うんだけどね」
「気持ちはわかります。元康さんの話に出てくる僕も似た様な事をして失敗していますし」
「だが、メルロマルクの国民は波に対して危機感が無さ過ぎる。必要悪だと自分を納得させるしかないだろう」
「そう……だね」
お義父さん達は作戦自体に納得している様ですが、実行する事に若干の抵抗を持っている様ですな。
「時間ですね」
なんて打ち合わせをしている間に時間になりました。
「サクラがんばるー」
「私もがんばりますわ」
「コウもー」
フィロリアル様達は元気ですな。
「ガウ! ウ、な……」
「もうちょっとで人語でおしゃべり出来るかな?」
「喋るんだ?」
「うん」
助手とライバル、そしてモグラが仲良く話をしております。
お義父さんの後ろに付いて来ていますぞ。
「じゃあ転移したら人目に付かない様にして様子を見よう。魔物が村に襲来するのを確認したら飛び出す。で、村人達を守りながら速攻でボスを仕留める。その後は離脱だよ」
「わかっている」
「本当は様子見なんてしてはいけないのでしょうが、危機を実感してもらわないと始まりませんからね」
色々と問題が浮上して行くのですな。
「では……参る!」
エクレアが言うのと殆ど同時に波までの残り時間が0になりましたぞ。
やはりリユート村近隣に飛びましたな。
今までの経緯から、この波を経験するのは何度目になるでしょうかな?
最初は馬鹿の様にボスにだけ意識を向けて特攻……次はお義父さんと一緒に村を守りに行って……これが三度目ですな。
今まで錬と樹が馬鹿みたいに突っ込む事しかありませんでしたが、今回は静かに傍観しております。
「アレが……波……」
「ゲームとかのクエストでは再現されていたが……やはり現実に見るとすさまじいな」
「どんどん湧き出していますね。急いで飛び出してボスを倒して鎮めたい所ではありますが……」
「打ち合わせ通り……とはいえ、結構勢いがあるからそろそろ出よう!」
「わっかりましたぞー!」
俺がユキちゃんに乗って先陣を切りますぞ。
「ガエリオン、ゴー!」
「ガウ!」
ライバルに乗った助手とモグラが後を追ってきますな。
何分ライバルは範囲攻撃のブレスがありますから、今回の魔物達には効果的ですな。
「尚文は前衛を頼む! 俺は少し下がってスキルを使う」
「うん! 樹は村の方へ行く魔物をある程度撃ち抜いて」
「はい! 数の制御は任せてください」
「私も戦う! イワタニ殿、前衛は任せたぞ」
「大丈夫……みんなを守ってみせるから」
俺達は固まって次元ノキメラとその魔物達の所へ駆けて行きましたぞ。
何分、俊足のフィロリアル様達がおりますからな。
前回はフィロリアル様の牧場に被害が及びそうだったので急いで村の柵を破壊しましたが、今回はある程度制御し、大きな被害にならない様にする予定ですぞ。
「エイミングランサーⅩ!」
フィロリアル様の牧場に行きそうな魔物達は事前に本気で殲滅します。
「おー……凄い壮観だな」
「圧倒的な火力……さすが勇者だね」
「降り注ぐ槍がまるで爆撃しているみたいですよ」
この程度の波の魔物など雑魚も同然ですからな。
キメラも見かけ倒しで、そこまで強くは無いのですぞ。
「防衛線が辛うじて維持出来る範囲まで魔物の数を制御して……」
村の方へ行く魔物を意図的に漏らすのは意外と面倒ですな。
前回は俺達が強いと言うのを隠しておりましたが、今回はそれが無い代わりに波の驚異を国民に知らしめる必要が出て来ているのですぞ。
村の方では若干悲鳴が上がっていますが、そこまで大きな被害は出ていないのですぞ。
……。
次元ノイナゴ、次元ノ下級バチ、次元ノ屍食鬼がお義父さんに武器を振りかぶりますが、ビクともしませんな。
もはやお義父さんの周りに大量の魔物が群がっている状況ですぞ。
「う……なんか気持ち悪いね。MMOとかだとトレインとか魔物の引き回し状態になってるかも。誰かに押し付けたら完全にMPKだね」
「えっと尚文……スキルをお前に当ててしまうが大丈夫か?」
錬が遠慮がちに言いますぞ。
ああ、錬のゲーム知識だと耐えるのは無理ですからな。
俺も樹もその認識で間違いない状況なので、樹もどうしたらいいか俺とお義父さんに視線を向けています。
「アレだけ群がられてて平然としてるって……」
「どっちにしても早く倒してくれない?」
「ガウ!」
「うん! ガエリオン、お願い!」
助手がライバルに命じてお義父さんに向かって炎の息を空から放ちますぞ。
「サクラも負けないのー! ツヴァイト・トルネイド!」
サクラちゃんの魔法が合わさってお義父さんを中心に炎の竜巻となりボッとあっという間に魔物達に引火して辺りは火の海になって行きますな。
「えっと……とりあえずありがとう」
炎の竜巻をマントで散らしてお義父さんが振り返りました。
「凄いですね。ちょっと耐える尚文さんがカッコよく見えてしまいました」
「ああ、なんか……炎を纏っていてカッコいい。怪我をせずに無傷でいられる盾の勇者ってのも羨ましいな」
「こんなので見惚れられてもなー……その代わりに攻撃手段が無いから……それに――」
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
キメラが炎の嵐を飛び越えてお義父さんに飛びかかってきました。
それをお義父さんは受け止めますぞ。
「反撃の方法が乏しいんだよ。錬、樹、元康くん、そしてみんな、お願いするよ!」
思い切り受け止めたお義父さんが弾くようにキメラを投げ飛ばします。
「任された! エクレール! 一緒に行くぞ! 流星剣! エアストバッシュ!」
「わかった! ハァア!」
錬とエクレアが呼吸を合わせてから投げ飛ばされたキメラを空中で切りつけますぞ。
その一撃でキメラの腕が切り裂かれましたな。
「まだまだやりますよ! 流星弓!」
地面に落ちる直前、樹の放った矢でキメラは再度空中に投げだされましたな。
「ガエリオン! イミアちゃん、一緒に……」
「うん」
「ガウ!」
助手とモグラが力を合わせて魔法を唱えていた様ですな。ライバルが火岩弾のブレスを放ってキメラを焼き焦がしますぞ。
「サクラ達も負けないー」
「ですわ」
「コウもー」
フィロリアル様達がキメラに近づいて各々空高く蹴り飛ばして行きますぞ。
それぞれを足場にしてドンドン、キメラが高く飛んで行きます。
「ではトドメですな」
「元康くん、一応素材にするんだから加減してね」
「わかっていますぞ」
すっかり忘れる所でしたな。
もはや絶命寸前ですが、締めは俺がやりますぞ。
感想で指摘されましたが、Ⅹクラスは確かに威力が高過ぎるのでノーマルに変更しました。