挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
629/919

長い名前

「だが……ただ剣で殺すよりも効果的だと、私もイワタニ殿の脅迫を見て思った」

「報いを受けさせるのは必要だとは思うけど、それをイミアちゃんの前でするのはどうかと思ったしね……捕獲はしておいてもらったから、後はフォーブレイに行くだけだよ。絶対に、こんな真似を赦しちゃいけない」


 お義父さんがそう言うと錬と樹は頷きましたぞ。


「あ、あの……」


 モグラがお義父さんを呼びましたぞ。


「どうしたの? お腹が空いた?」

「い、いえ……その、わ、私も……その……」


 モグラの視線が助手に向いていますな。

 今は暗いからサングラスが無くても良い様ですが、確か昼間はまぶしいのではないですかな?


「ウィンディアちゃんみたいに強くなりたい?」

「は、はい……」

「それは……復讐?」


 お義父さんが尋ねるとモグラは首を横に振りましたぞ。


「あの……貴方が、家族を探してくれて……一緒に居られるようになったとして、またこんな事が起こったら、守れるように……」

「そう……まあ、ウィンディアちゃんやガエリオンちゃんのLvを上げるついでに上げるなら良いよ。だけど……力がどういう結果になるかも一緒に学んでほしいな。俺も常に悩み続けている問題だから」

「はい」


 お義父さんが手を差し出すとモグラは同じように手を出して握手をしましたぞ。


「また尚文の周りに仲間が増えたのか」

「別にイミアちゃんは俺の専属の仲間って訳じゃないでしょ。ガエリオンちゃんは俺とウィンディアちゃんが良いみたいだけどさ」

「えっと……」


 モグラはお義父さんに隠れるようにって助手と同じ感じですな。


「大丈夫だって、君を助ける時にみんな一緒にいたでしょ? あの理不尽を怒ってくれる、優しい人達だよ」

「あ、はい……よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますね。なんか変わった種族ですが、手先が器用なんでしたっけ?」

「ルーモ種だ。父から聞いた話だと手先が器用で、土魔法の使い手であるらしい」

「じゃあ自己紹介からだね。俺の名前は岩谷尚文、あっちの弓を持っているのが川澄樹、剣を持っている男の子が天木錬、綺麗な女の人がエクレールさん。エクレールさんの名字ってセーアエットだっけ?」

「イワタニ殿! き、綺麗とか言うではない! それに私は恨まれても良い立場に居るのだ。名前など知らなくてもいい……かもしれん」


 モグラが首を傾げていますぞ。


「また真面目に言って……別にエクレールさんが悪い訳じゃないよ。エクレールさんのお父さんだってみんなを守ろうとして結果的にそうなっちゃっただけなんだから」

「だが、私は謝らねばならない。恨まれねばならないのだ。守れなかったのだから」


 空気が重くなりましたぞ。

 エクレアも真面目ですなー。

 もっと気楽に考えれば良いと思いますぞ。


「それってどういう?」

「うーん……イミアちゃんはどうして不幸になっちゃったのか……元々の理由がわかる?」

「えっと、確かりょーしゅ様がみんなを守って亡くなったからって大人は言ってた」

「うん……みんなを守ろうとして立派に戦って死んじゃったんだって。彼女はその領主様の娘さんなんだ。それでみんなを守れずに亡くなった親に代わってイミアちゃんに恨まれる義務があるって言ってるの」


 お義父さんに説明されてモグラはエクレアを見ますぞ。


「だけど助けてくれた」

「うん、そうだね。だけど、エクレールさんのお父さんが死ななかったらイミアちゃんも不幸にならなかったかもしれないってエクレールさんは言っているんだ。わかるかな?」

「んー……?」


 ピンとこないという感じですな。

 お義父さんは子供に説明する感じに優しく言っております。


「でも、悪いと思えない」

「イミアちゃんは偉いね。そう、誰が悪いのかって言ったら、そりゃあ奴隷狩りをした人達に決まってる。その奥に居る連中ともエクレールさんは仲が悪くて敵対してる。本当はイミアちゃん達を大切にしているからね」


 お義父さんに撫でられてモグラは照れていますぞ。


「イワタニ殿……感謝する」


 その後、お義父さんが助手とサクラちゃん達をそれとなく指し示しますぞ。

 自己紹介の続きですな。


「えっと、ウィンディア……言います」

「ガウ!」

「この子はガエリオン」


 そしてサクラちゃん達が立ち上がりましたぞ。


「サクラはサクラって言うのー」

「ユキですわ」

「コウ……」


 コウが涎を垂らしてモグラを見ていますな。

 お義父さんがコウに対して眉を寄せていますぞ。


「はい。じゃあイミアちゃん、自己紹介をして」

「……イミア=リュスルン=リーセラ=テレティ=クーアリーズです……」

「な、長い……」


 錬とエクレアが呟きましたぞ。


「えっと、イミアさんでよろしいですか?」


 樹は流しましたな。

 モグラは頷きました。


「ルーモ種独特の文化なのかな?」

「私も話でしか聞いた事は無いが、代々語り継ぐ名があるという人種がいるそうだ」

「なるほどね。俺達の方の世界でもあるよね。それの長いバージョンって事だね」

「子供の時に妙に長いアニメキャラクターっていませんでした?」

「あったねー。確か……モゲ? サナタビッチ……ロビンサスカッチ……うーん。思い出せないや」

「料理のレシピなら一目で覚える癖にな」


 錬がお義父さんに言うと、お義父さんが苦笑いをしますぞ。


「えっとチュルボ・チェド・アスペルジュ・ヴェルト・エ・ジュ・オ・アスペルジュなら何かわかるよ」


 なんの呪文ですかな?

 強力な防御魔法が発動しそうな気がしますぞ。


「だからなんで料理名ならそうスラスラと出てくるんだ!」

「ちなみに何ですかそれ?」


 錬がお義父さんを指差し、樹が呆れ気味に尋ねますぞ。

 さすがお義父さんですな。俺では一文字も覚えていられないですぞ。


「日本名だとヒラメとアスパラガスの温製アスパラガス・ソース添えだね」

「はぁ……尚文、お前はやはり何処かおかしいぞ」

「今度作ってあげるよ。まあ、似た感じの料理で終わっちゃうけどさ」

「作り方まで知ってるとかどんだけですか……」

「美味しいのー?」

「イミアちゃんの名前は美味しくないからね。料理の味は……ピンからキリまであるけど、良い所なら美味しいと思うよ」


 サクラちゃんの質問に念を押してお義父さんは答えますぞ。

 なんて談笑をしている内に、助手とモグラは船をこぎ始めましたぞ。

 その頃には今後の方針に話題が切り替わっていましたな。


「メルロマルクの闇の裏取りが出来たな。こんな真似をする国……違うか。宗教に大義は無い、とフォーブレイへ行って証言すれば良いと思うのだがどうだ?」


 錬が言うと樹が頷きましたぞ。


「ええ、国自体はエクレールさんの言う通り亜人を守ろうとしている人達も居ました。ですからその根源である三勇教にトドメを刺さないといけません」

「何だかんだでフォーブレイまでの旅路に加えてメルロマルクの調査……俺達が召喚されて一カ月が過ぎようとしている。調度良いから波を終えたら速攻でフォーブレイへ行こう」

「「おう!」」

「やりますぞ!」

「とは言っても、波の怖さを近隣の人は味わってもらわないといけません。タイミングは重要だと僕は思います」

「人命優先と言っても勇者達がすぐに助けてくれるなんて甘えは消えて欲しい。幸いにして場所は分かっている。少し撃ち漏らす様にすべきかもな」

「完全に守りきるのも悪くて、かといって見過ごすのも問題……本当に難しいね」

「だな……」

「俺はフィロリアル様を守りますぞ。あの村にはフィロリアル様の牧場がありますからな」

「ああ、そうなんだ。そっちも重要だよね。じゃあ元康くんはそっちをよろしく」

「任されました!」


 そんな感じでしばらく話し合いました。

 錬や樹も俺がフィロリアル様達を守る事に賛成してくれました。

 実に有意義な作戦会議でしたな。


「さ、じゃあウィンディアちゃんとイミアちゃん。そろそろ寝ようね」

「んんー……」


 モグラがお義父さんから離れたがらない様に駄々を捏ねていますな。

 亜人や獣人が崇拝する盾の勇者であるお義父さんと一緒だと、各地に残る伝説を見ているようですな。


「はいはい。じゃあ寝るまでの間にお話ししてあげるから」


 そう言いながら現地で作成した馬車の中にお義父さんは助手とモグラを連れて入って行きました。


「完全に保父ですね、アレ」

「だな。面倒見の良さ、人外に好かれる資質。盾の勇者だと納得だ」

「これ以上聞かれると睨まれますから黙りましょう」

「ああ」


 その後、本当に錬と樹は黙りました。

 お義父さんが複雑な表情をしてましたな。

 そんなこんなで夜は更けて行ったのですぞ。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。