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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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モグラ

「元康くん、今日はコウを手伝いにさせていたでしょ? 錬達と一緒に居るユキちゃんの手伝いに行って欲しいんだ」

「わかりましたぞ」


 何だかんだで逃げ足だけは速い連中が居ますからな。

 しかも錬も樹も割と人間相手では不殺な面があるので、捕まえるのに苦労しているのでしょう。


「タイミングが悪かったのか、奴隷狩りは殆ど撤収済みだったそうなんだ……今、奴隷狩りの仲間の居場所を錬達は追いかけてる所」

「それでその生き物は何ですかな?」


 お義父さんが宥めている生き物を俺は良く確認しますぞ。

 人型ですが、獣の色が強いですな。

 これは獣人という奴ですぞ。

 お姉さんのお姉さんやパンダ獣人と同じ分類ですな。


 ですが種類は違うらしく、ぱっと見、モグラ人間にしか見えませんな。

 足には鉄球でも付けられていたのか足輪がまだ付いていますな。

 鎖自体は壊されているようですがな。

 何やらお義父さんに引っ付いて啜り泣いているように見えますぞ。


「あー……うん。どうにか助けた子なんだけど……」


 何処かで見た覚えのあるモグラですな。


「ほう……」

「どうにかこの子は保護出来たんだけどね。捕まえた奴隷狩り曰く、『一匹しか捕まえられなかったのに運が悪い』ってさ」

「ぐすっ……」


 震えるモグラをお義父さんが優しく抱きしめて宥めていますぞ。

 この光景、見覚えがありますぞ。

 前回のお義父さんが助手を慰めていた時と同じですな。


「大丈夫、もう大丈夫……誰も君をこれ以上傷つけさせなんてしないから」


 その様子をサクラちゃんとライバルが羨ましそうに見ていますぞ。


「エクレールさんの話だとこの子は獣人なんだってさ。見た感じだと……廃坑にしか見えない隠れ里の入り口だったね」

「生存者を確認したのですかな?」

「……うん」


 お義父さんは視線を逸らしておりますぞ。

 あんまり良い結果では無いのですな。


「樹の性格を知っているから宥めるのに苦労したよ。今、錬とエクレールさんは樹を止めるのにがんばってもらってるとも言えるかな」

「そんなに酷かったのですかな?」

「うん……嬲り殺しの後もあったし、嬲るのに飽きたら捕まえて奴隷にってことなんだろうね。この子の親も酷い死に方をしていて……」


 ビクッとまたモグラが震えていますぞ。


「人間って……こんなにも残酷になれる生き物なんだね」


 と、呟いたお義父さんの声がずいぶんと疲れている気がしますぞ。


「元康くんのやり方の方がまだ救いがあるよ。子供の目の前で、して良いはずがない。絶対に」

「えと……その、盾の勇者は見せてくれなかったけど、何があったの?」


 助手は見ていないのですかな?


「ウィンディアちゃんは知らない方が良いと思う。その……どうしても知りたかったら、もう少し大人になってからじゃダメかな?」

「……」


 何にしても、とても残酷な事が起こったという事を理解したのか、助手は静かに頷きましたぞ。

 サクラちゃんは悲しい雰囲気に大人しくしています。

 ライバルも同じですな。


 俺はお義父さんに何があったのか耳元で聞きました。

 どうやら今、モグラから聞いた話の様ですぞ。

 捕まる前に父親は奴隷狩りに殺され、年上の血の繋がった兄弟が撲殺され、母親は……身重だったそうですが。

 惨たらしくとても酷い方法で殺されたらしいですぞ。


「運良く生き残った、最後に連行されるはずだった子だったんだろうね。俺もどうにかしてこの子の母親を助けようと思ったんだけど……」


 逃げる奴隷狩りが最後の一発とばかりに母親にトドメを刺した所にお義父さん達は来て、この子を助けたらしいですぞ。

 錬と樹が奴隷狩りを仕留め、お義父さんが守ったお陰でどうにかお義父さんにだけ懐いた感じだそうですぞ。


「ループしてウィンディアちゃんの不幸を助ける事は出来ても、この子の不幸には初めて遭遇したんだろうね」


 暗に俺に覚えて置いてほしいとお義父さんは伝えて来ていますぞ。

 ですから俺も覚えるよう心がけますぞ。

 メルロマルクの亜人排斥運動を早急に終わらせないといけないのですな。


「それでね。この子を俺は保護したいんだけどダメかな? フォーブレイに連れて行って、亜人狩りがどれだけ悲惨なのかを注意しなきゃいけないと思うんだ」

「お義父さんが決めた事に異など唱えません」

「……ありがとう」

「んー?」


 コウがお義父さんが抱えているモグラを覗きこみますぞ。

 そしてクンクンと匂いを嗅いでいますな。

 何やら見覚えがある様な無い様な顔をしていますぞ。


「それでこの者は何なのですかな? 獣人なのはわかりましたが」

「えっとね。名前がずいぶん長くて覚えきれないんだけど、イミアちゃんって言うらしい」


 お義父さんが呼ぶと泣きながら俺の方に目を向けました。

 確か……最初の世界でフィロリアル様達が仰っていたと思いますぞ。


「この者に見覚えがありますぞ」

「え? そうなの?」

「最初の世界でお義父さんの領地に居ましたな。手先が器用なので奴隷達の服を作っていたと思いますぞ」

「へー……かと言って、今のこの子にそんな事はさせないけど」

「ちなみにフィロリアル様が――」

「なんか美味しそうな子だねー」


 俺が言うよりも早く、コウが感想を述べました。

 こ、これは不味いですぞ。

 コウには前回の様なトラウマは出来ないでいて欲しいのですが……。


「ヒィ!」


 戦慄したモグラがお義父さんに引っ付いて震えています。

 お義父さんは宥めながら俺とコウを半眼で睨みますぞ。


「年中狙ってたとかそんな所?」

「よくわかりましたな。みんな美味しそうと言っていたモグラですぞ」


 お義父さんが深く溜息を洩らしました。

 キールもみんなが狙っておりましたが、何分相手が強かったですからな。

 モグラも手こずるようでした。


「絶対にダメだからね」

「わかっていますぞ。なーに、みんな舐めたかっただけでしょうな」

「フィロリアルという生き物が危険生物に見えてきた……」

「ぶー! サクラはしないもん」

「ガウー?」

「しないもんしないもんしないもん!」


 サクラちゃんとライバルの問答が微笑ましいですな。

 まあかわいいのはサクラちゃんであって、ライバルは引き立て役ですがな。


「とりあえずイミアちゃん、君さえ良ければ、俺は君を守るからね」

「うう……」

「ナオフミの周りにどんどん人が増えてくー」


 サクラちゃんが首を傾げて言いますぞ。


「そうだね。ドンドン増えて行くね」

「サクラ負けないよー」

「勝負じゃないかなー……とりあえず、イミアちゃんの家族……一族の生き残りを探してあげないと」


 と言ってからお義父さんは俺の方を向きましたな。


「多分、最初の世界で俺はこの子の家族か親戚を見つけたんだよね?」

「おそらくそうですな。それなりに村にいた記憶がありますぞ」

「そう……うん。元康くんの知る未来の様に、俺はこの子の親戚を探し出して見せるよ」


 と言ったお義父さんの顔を、モグラは泣き止んで静かに見つめていました。

 今までのループで何度か今のお義父さんの表情を見ましたが、ループさえしなければ必ず守っていましたな。

 さすがお義父さんですぞ。



 結果で言えば奴隷狩りの逃げ足は速く、ユキちゃんやコウでも追いきれませんでした。

 モグラと助手は年が近いのか、割とすぐに親和出来たらしくキャンプをしている最中に一緒にいるようですな。

 お義父さんの料理を食べて人心地ついた様ですぞ。


「くそ! 捕まえられなかった!」


 錬が悔しげにしております。

 強化された剣の勇者である錬から逃げ切るとは、ある意味凄いのではないですかな?

 しかもそこに弓の勇者である樹が加わっています。

 最速のフィロリアル様を想う俺としては、どれだけ逃げ足が速ければこんな編成に逃げ切れるのか俺の方が知りたいですぞ。


「イミアさんを捕えていた奴隷狩りを締め上げて得られた情報も微々たるものでしたもんね」

「しかも奴隷狩りをギルドに突き出そうとしたら職員が首を傾げていたからな!」

「常識は場所ごとに変わるって言うけど、それを本気で感じるね」

「歯痒いモノだ。私も間違っていると大きく声を出して捕まった手前、今のままではどうにもできん……」

「その点で言えば激怒した尚文さんの拷問はスッキリしましたね。それと背後に他国がいるギルドに持って行くという案は名案でした」


 錬と樹がお義父さんに対して友好的な目で、モグラを助けた後の事を仰っていましたぞ。

 それは立ち会いたかったですな。


「尚文を怒らせるべきではないな。あの矛先が俺達の方へ向いたらどんな地獄が待っているか」

「あのね……」

「縛り上げて、サクラさんとガエリオンさんの餌にすると囁いた時の表情は迫真の演技でしたよね。どうせ誰も罰する事が出来ないとか舐めた考えをしているんだろうし……と言った時はスッとしましたよ」

「ガエリオンに噛み付かせた時の奴隷狩りの表情は滑稽だったな」

「命乞いをする奴隷狩りに、『同じ言葉を言った亜人達を君は助けた?』と言うのもですって」

「褒められる事じゃないんだから、あんまり参考にしないでよ?」

「怒らせると怖いのはやはり尚文さんですね」


 お義父さんが困ったような表情で自慢気に話す錬と樹に注意しております。

 ですが気持ちはわかりますぞ。

 時に優しく、時に厳しい。

 それがお義父さんなのですぞ。


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