弱肉強食
「さーてと! じゃあウィンディアちゃんが入った歓迎会を開かないとね。色々と奮発するから楽しみにしててね」
「?」
助手は野生しか知りませんからな。
お義父さんの手料理の味わいを知らないのですぞ。
ちなみに前回の助手はお義父さんの料理に夢中でしたな。
「それよりも……」
助手は卵をお父さんに渡しますぞ。
「その卵で卵料理をするのですな!」
「違う!」
助手が俺を思い切り睨みつけてきます。
「元康くん、わかっててボケてない?」
「ボケてませんぞ」
「真顔……尚の事性質が悪いよ!」
お義父さんは俺を注意した後、助手を見ます。
どうやら本当に料理では無い様ですな。
「ああ、登録だね。その卵の育ての親として、君と俺が登録するんだってさ」
「うん、早くやりたい」
助手は何をするのか分かっているのか、自分の指を噛んで、血を卵に塗りましたぞ。
お義父さんもナイフで軽く指先を突いて、血を出して登録をしました。
「これで完了だね」
「早く孵らないかなー……弟かな? 妹かなー?」
「どっちだろうね」
なんてお義父さんと助手は話しておりましたぞ。
いつの間にか仲良くなっていますな。
さすがお義父さんですぞ。
そんな調子でお義父さんは朝食を作り始めました。
お義父さんが朝食を作った所で錬と樹、エクレアが目覚め、助手と自己紹介をした後に食事を終えましたぞ。
助手はお義父さんが作った料理を最初は警戒しておりましたが、直ぐに貪る様に食べ始めたのが印象的でしたな。
「ま、最初は手掴みでも良いよね」
「徐々にマナーを覚えて行くんだな」
錬は助手に対してどう対処したら良いか悩んでいる様ですぞ。
以前のループを多少引き摺っているようですな。
樹は普通に話をしようとしている感じですぞ。
エクレアは行儀に関してうるさそうですな。
「目的は達したな。後はエクレールの件か?」
「そうだね。とは言ってもウィンディアちゃんと、新しく孵る子のLv上げを多少はしておいた方が良いと思うけどね」
助手が居る手前、俺達の事情を直接言えないのが歯がゆいですな。
ちなみに事前にお義父さんが念入りに俺に注意したので俺は黙っていますぞ。
どちらにしてもライバルをある程度強くさせないとフォーブレイの竜帝から情報を引き出せるか怪しいですからな。
「サクラちゃんは……」
「その子は良いけどドラゴンは、やー!」
「嫌ですわ」
「いやー」
「はぁ……フィロリアルは面倒な性質を所持していますね」
「パワーレベリングで強引に引き上げるのが適切なんだが……な」
「今の俺達なら大丈夫でしょ。勇者同士は入らないけど仲間はその限りじゃないし」
そうですな。
ですが言わせてもらいますぞ。
「俺は嫌ですぞ。ライバルのLv上げは手伝いません」
「うん、そう言うだろうと思って元康くんにはお願いしてないから大丈夫」
おや? 何やら蚊帳の外にされてしまっている様な気がしますぞ。
勘違いしてもらっては困ります。
俺がライバルを手伝うのが嫌なのであって、お義父さんを手伝うのは名誉だと思っているのですぞ。
「お義父さん、俺はお義父さんの力になりたいのですぞ。仲間はずれは嫌なんですぞ」
「別に仲間はずれにはしてないけど……」
若干困り顔をしてお義父さんに答えられてしまいました。
「とりあえずは僕達でウィンディアさんのLv上げを手伝って、元康さん達はどうにかしてもらうしかないでしょうね」
「んー……そうだね。元康くん達に出来る事と言ったら……」
何か閃いたのか、お義父さんが俺を手招きしますぞ。
俺はすぐに駆け寄りました。
「なんですかな?」
「竜帝の欠片を集めるのをお願い出来る?」
おお! 名案ですな。
奴等ドラゴンはフィロリアル様の宿敵。
宿敵だけあって、連中の力を低くは見れません。
何よりも竜帝の欠片の中にある知識は役に立ちますぞ。
「名案だとは思うが、元康が間接的にドラゴンの強化に協力をしてくれるのか?」
「やりますぞ! ドラゴン退治ですな」
「む!?」
助手が俺を睨みつけてきます。
くくく……ですぞ。
ドラゴン退治は俺とフィロリアル様の仕事ですぞ。
数え切れない程の竜帝の欠片を集めてきてやりましょう。
「ああ、誤解しないでウィンディアちゃん。君のお父さんを倒す訳じゃないよ……えっと、その子の基礎能力を上げるのに必要なんだって」
「同族殺しだからな。無理も無いだろ」
「弱肉強食、盾の勇者の言ったのがあってる」
バッサリと錬の同情を助手は切り捨てました。
錬が若干、頬を引きつらせています。
また一つ現実の厳しさを知りましたな。
「お父さんに負けない子を私が育てる。そうすればお父さんはきっと認めてくれるもん」
「そうだね。がんばって行こうね」
助手は拳を握ってやる気を見せています。
どうやら親から欠片は重要な物だと教わっている様ですぞ。
「と言う事で当面、俺は竜帝を探して欠片を収集するのを目的にすれば良いのですな」
「一応はね。だけどフォーブレイに行く事も忘れちゃダメだよ。あくまでエクレールさんの確認が終わるまでの間で良いから」
「となると数日中って事で良いのか?」
「うーん……かなりアバウトになるけど、この際メルロマルクの波を即座に鎮めてから逃げるようにポータルでフォーブレイへ行っちゃうのも良いかもね」
「こんな真似をする国の波なんて無視すべきだろ」
「でも元康くんから前々回の事を聞いちゃったし」
前々回の波では錬と樹しか参加せずに随分と被害が出た様ですからな。
俺達がその場に居れば一瞬ですぞ。
しかしお義父さんはお優しいですな。
曰く、聞いてしまった事を無視は出来ない、みたいな事を言っていました。
最初の世界のお義父さんは無視するでしょうな。
「それに善意だけじゃなくて、波を速攻で鎮めて世界の為に戦っているとアピールしておけば各方面での味方を得やすいと思うよ。陰謀に屈せず、世界の危機にしか意識を持ってない勇者ってね」
「なるほど……」
「例え敵対していても救いに来る……こちらの思惑はともかく、人々には良く映るという訳ですか。ある意味、勇者という存在を体現して見せる感じですね」
「まあ、シルトヴェルトの波とかも挑んでおけば良かったのかも知れないけどね。ある程度、波にも慣れる必要があるから、期限は考えない様にして行こうと思うんだけど、どうかな?」
お義父さんは色々と考えているのですな。
当然ながら反対は無く、概ね話し合い通りで決定しました。
なんて話をしているとパキパキと助手が抱えている卵から音が聞こえてきました。
俺達が卵を見ていると、徐々に姿を現しましたな。
色合いから姿まで……前回のライバルの幼体……なのですかな?
何だかんだでちょっと大きくなっていましたからな。
良くわかりません。
「ガウ……!」
元気よく、ドラゴンの幼体が卵の殻を頭に乗せて卵から顔を覗かせますぞ。
「これがドラゴン?」
「うん、お父さんと私の世話をしてくれた魔物の子……卵を産んだ時に、私の弟か妹にってくれたの」
「へー……じゃあウィンディアちゃんにとって本当に兄弟なんだね」
「ガウ!」
ライバルはお義父さんと助手に向かって鳴きますぞ。
助手は卵の殻からライバルを出して、粘液を舐めはじめますぞ。
樹が若干、引いてますな。
錬は視線を逸らしていますぞ。
「えーっと、この子は男の子? 女の子?」
「女の子みたい」
「へー……名前は何にしようか?」
「ガ――ギャウ!」
一瞬、目付きが変わりましたな。
鳴き声も違いましたぞ。
助手は首を傾げています。
「どうしたの?」
「名前……決まってるみたい。赤ちゃんなのに」
「そうなんだ?」
「うん、卵の間に覚えて聞いていたのかな? お父さんに命令されてたのかも」
「どんな名前?」
「ガエリオン、お父さんの名前を使って良いって卵の時に言われたんだって」
「そっか、カッコいい名前だね。女の子なのに良いの?」
「ガウ!」
ライバルはお義父さんの言葉に頷くように鳴きましたぞ。
「良いみたい。これからよろしくねガエリオン。お父さんみたいに強くなろうね」
「ガウ!」
こうしてライバルまでもが加入しましたぞ。