巣立ち
おや、巣にいる連中は大人しいですぞ。
ライバルの配下というか血縁は先ほどの戦闘もあって、ある程度事情を察しているようですな。
ライバルの隣に立って何やら鳴いております。
それを聞いて助手がライバルを涙目で見ておりますな。
「とにかく、ウィンディアよ。汝を引き取ってくれる者達と今日、話をしたのだ」
「いや……なんで? 私はお父さん達と一緒にいたい!」
「ウィンディア、理解してくれ。汝はここでは幸せになれないのだ……」
「なれるもん!」
「……魔物には魔物の、人には人の領域が存在する。我もその者達が信頼に値すると思うからこそ、ウィンディア。汝を預けようと決めたのだ。どうか従ってほしい。さあ出て来るのだ勇者達よ」
ライバルは俺達の方を見て呼びますぞ。
ここで出てくるべきなのですかな?
「凄く出て行き辛いんだけど……じゃあ俺が代表して行くね」
お義父さんが困り顔で手を上げますぞ。
錬も樹も頷いております。
こういうのは確かにお義父さんに任せるべきですな。
俺は死んでも御免ですぞ。
お義父さんがゆっくりとライバルの方へ行きます。
すると助手は思い切りお義父さんを睨みつけていますな。
絶対に懐かないとばかりですぞ。
「えっと……君を引き取りに来た……って事になるのかな」
「うむ、任せるぞ」
と言うと同時に何やらライバルはお義父さんに囁いた様に見えますな。
「いや! 私絶対に行かない!」
「ワガママを言うな。ウィンディア! さ、早く連れて行かせるのだ!」
ライバルの指示に従い、配下の一匹が助手の襟を掴んで強引に俺達の方へ連れて行きますぞ。
「いやぁああああ! お父さぁああああん!」
もはや涙声で助手はライバルの方へ手を伸ばしていますな。
凄く悲痛な声ですぞ。
あ、抱えていた卵がごろりと転がってしまいますな。
それを咄嗟にお義父さんが支えました。
「うむ、感謝する。ウィンディアを任せたぞ」
「えーあー……はい、わかりました」
「お父さぁああああああああん。いや! 私行かない! はなしてぇええええええ!」
助手が必死に抵抗していますな。
「こうして僕達は少女の幸せを踏み躙ってしまったのでしょうかね?」
「どうなんだろうな」
「錬さんがあのドラゴンを仕留める訳じゃないのですから、問題は無かったのかもしれません」
「……」
「私は違うと思う。あのドラゴンはあの子を人の世に戻したかったのだろう。だからこそ私達に託そうとしているのだ。子としては悲しい事なのかもしれんが、良い親なのだと思う」
錬達は何やら難しい話をしておりますぞ。
「ウィンディア、人の世へ帰れ! ここに帰って来る事は禁ずる! ギャオオオオオオオオオ!」
ライバルが殺気を放って雄たけびと共に助手を睨みつけますぞ。
「ヒィ!?」
ライバルに怒鳴られた事が無かったのですかな? 助手は震えていますぞ。
ですが直ぐにまた泣き始めましたな。
「帰って来た時、我は汝を子供とは思わん! 死を覚悟するのだ!」
「放してぇええええ! お父さん!」
「すごーく、やり辛いなぁ……」
なんだかなとお義父さんは頬を掻いておりますぞ。
ライバルに卵を渡したお義父さんは助手と共に俺達の方へやってきました。
そして助手を受け取ったお義父さんは半ば強引に抱き抱えて巣穴から去りますぞ。
「やぁあああああああ! 放せぇええええええええ!」
助手は精一杯抵抗しております。
俺達もお義父さんに付いて行きますぞ。
そんなこんなで下山しました。
助手は必死にお義父さんに抵抗を示しますが、まったく手も足も出ませんぞ。
で、山を完全に降り切った所で助手も諦めが着いたのか、啜り泣くだけになりました。
俺達はそんな様子を心配するしか出来ませんぞ。
「半ば強引に引き取る事になっちゃいましたね」
「しょうがないよ。あのドラゴンはこの子の為だと思っているんだから」
「うく……ヒック……」
「とりあえず……えっと、これからよろしくね。後……なんか、ごめんね」
助手はお義父さんの言葉を完全に無視していますぞ。
塞ぎこんで心を閉ざしたかのように泣き続けていますぞ。
やがて……泣きつかれたのか静かに寝息を立て始めました。
エクレアが毛布を助手に掛けて優しく撫でておりますぞ。
「自立か……まだ幼いだろうに、辛い経験をさせてしまったな」
「どうやら俺達に預かってもらいたいみたいだしねー……」
ユキちゃん達は泣いていた助手に関して心配しておりましたぞ。
ライバルは嫌いですが助手に関してはその限りでは無いですからな。
「で? この後どうするんだ?」
「えっと、もう一回、あのドラゴンに会いに行くよ。途中までは来るって言ってたし」
「そうか、だがこの子はどうするんだ?」
「うーん。エクレールさん、サクラちゃん、お願い出来る?」
「わかった。目覚めない内に行って来てくれ」
「サクラも見てるー」
「ユキも見ていますわ」
エクレアとサクラちゃん達が助手を見ているのを了承しましたぞ。
「じゃあ行くか」
「うん」
俺達は再度ライバルの所へ行く為に山へと行きました。
山に入って割とすぐにライバルは待機していましたな。
何やら荷車とその上に財宝もありますぞ。
しかも配下も集まっています。
肉眼で見ようと思えば見える範囲にいました。
「そんなに心配なら俺達に預け無くても良いんじゃ……こう、一緒に来てくれるだけで良いんだけど」
「ダメだ」
「はぁ……それで? どうするつもりで?」
「うむ……ここにウィンディアに預けていた卵がある」
ライバルはそう言うと先ほどまで助手が抱えていた卵がありますな。
「これは言うなればウィンディアにとって義理の弟か妹になる卵だ」
「うん」
「汝らが話す未来の話が本当だとしたら、我を継承したのはこの者だろう。だから……」
ライバルは羽を広げて卵に手を添えますぞ。
そして、ライバルを中心に蛍のような光が集まって行きますぞ。
卵も何やら光っておりますな。
やがて魔法陣が地面に描かれて行きました。
スーッと魔法陣が縮んで行き、卵に文字が刻まれて行きますぞ。
最後に、ライバルが手から血を垂らしてポトリと卵に落としました。
「この卵に我の竜帝の欠片を宿させた……やがて汝らの言った、未来の我の状態に至るようにな」
「えっと、じゃあ貴方はどんな状態なんですか?」
お義父さんが聞きますぞ。
確かにそうですな。竜帝の欠片が本体のような言い回しだったはずですぞ。
「こうして話をするだけの為に汝等からもらった欠片で維持しているだけに過ぎない」
ライバルが淡い光を放っておりますぞ。
何やら揺らいでおりますな。
「確か核石が無くても活動できるのではないですかな?」
「その状態では人語を解するのは難しくてな。ある程度予防線も必要なのだ」
「予防線?」
「我も汝らに敵わぬと知っておるが、汝らが虚言を申していた時にウィンディアと共に逃げるだけの体を潜ませておるのだ」
と言う事はアレですな。
この卵の中にライバルの体が入り込んだのですぞ!
器用な真似をしますな。
「死ぬ気で挑む竜帝の恐ろしさを覚悟するのだぞ」
「嘘を言ってるつもりは無いよ。じゃあ今後ともよろしく的な?」
「……そうなる。ただし、生まれるこの子の意志と我は異なる事を忘れるな」
「はぁ……」
お義父さんが困り顔で答えますぞ。
何度も思いますが面倒な関係ですな。
ライバルは自分の配下に目を向けますぞ。
その中でも一番大柄の魔物の額に手を添えます。
「汝に我の縄張りの管理を任せる。ちゃんと統治するのだぞ」
コクリと頷くと、ライバルの配下は山に帰って行きましたな。