<社説>田中防衛局長発言 住民突き放す不見識さ

 沖縄防衛局の田中利則局長が、米軍嘉手納基地の航空機騒音に関して「騒音は瞬発的で、人体への影響は科学的に立証されたものではない」と述べた。航空機騒音が人体へ及ぼす健康被害は嘉手納爆音訴訟でも一部認定されているにもかかわらず、である。

 そもそも在日米軍基地周辺地域に適用される「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」は、「生活環境等の整備について必要な措置を講ずる」として国が騒音対策を行うと定める。沖縄防衛局は同法に基づき住宅防音工事などを行っており、基地周辺地域の生活環境に航空機騒音の悪影響があることは法の前提となっている。
 在日米軍専用施設面積の7割を負担させられる沖縄で地元対応に当たる沖縄防衛局の長としては極めて不見識だ。
 田中局長の発言は、米軍嘉手納基地から生じる被害について抗議決議を渡すために訪れた北谷町議会議員に対し、発せられた。
 北谷町議会は、嘉手納で垂直離着陸輸送機CV22オスプレイが飛来したことなどに抗議して沖縄防衛局を訪れた。
 日常的に米軍機の騒音や事件事故の危険にさらされる住民の声を聞き、米軍に改善を求めることは沖縄防衛局の重要な役割であるはずだ。しかし田中局長は、町議らが騒音被害が増幅していると指摘したことに、「人体への影響は科学的に立証されたものではない」との発言を繰り返した。
 嘉手納基地の健康被害については2017年2月の第3次嘉手納爆音訴訟判決で認定されている。裁判長は爆音による生活妨害や睡眠妨害などに加え「高血圧症発生の健康上の悪影響のリスク増大も生じている」として健康への悪影響を認定した。また、爆音が子どもに、より大きな影響を与えている可能性や、戦争体験者に大きな不安を与えることなど、心理的負担も認定した。
 過去に同局企画部長の経験もある田中局長が、判決を知らないはずはない。北谷町議会の亀谷長久議長は「周辺住民を突き放す発言」と指摘した。安倍晋三首相と同様、「沖縄に寄り添う」とは真逆の対応だ。
 沖縄防衛局では11年に当時の局長が、辺野古新基地の環境影響評価書の提出時期を巡り「(犯す前に)これから犯しますよと言いますか」と発言した。米軍人による女性暴行事件が何度も起きる沖縄で評価書の提出を性的暴力に例えた発言は、沖縄に基地の過重負担を押しつけて当然とする差別構造をあぶり出した。田中局長の発言も共通する部分がある。
 基地提供者として沖縄防衛局はむしろ積極的に住民の被害の訴えを調査し、米軍に物申していくべきだ。沖縄の現状に無理解で、住民の声を米軍に届けることすらできないのなら局長の任には堪えられない。早々にお引き取りを願うしかない。