名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立ての是非を問う県民投票について芥川賞作家の大城立裕氏(93)=那覇市=は「県民は歴史的な大成長を遂げたと感じる」との見方を示した。かつて日本へ「同化」しようともがいた時期もあった県民が「異化」に意識が変容し「政府に対し県民投票という大げんかを売るまで成長した」と語った。本土に対する劣等感から来る同化志向に対し独自のアイデンティティーを求めるのが「異化」だとし、日本政府による構造的差別を前に、辺野古での新基地建設への抵抗運動は「異化の爆発だ」と指摘した。
大城氏が「同化と異化」という概念を初めて提起したのは1968年ごろ。当時は「祖国復帰一辺倒だった人たち」から「大城は何を言っているのか」と批判を受けたという。
最も端的にその概念を言葉で示したのは、西銘順治元知事だったと指摘する。「沖縄の心とは、の問いに『やまとぅんちゅになりたくてもなりきれない心』と述べた。潜在的にはそう思っている人たちが当時たくさんいたと思う」
文化や芸能面からは、80年代にウチナーグチでお笑いの舞台を展開した「笑築過激団」、歌手の喜納昌吉、照屋林賢らが脚光を浴びた。その後90年代に安室奈美恵が登場。2000年代の連続テレビドラマ「ちゅらさん」ブームで県民は沖縄の文化に自信を持ち「異化作用」が起きた。80年代を大城氏は「沖縄文化史のターニングポイントだった」と振り返る。
一方で、政治的に「異化」が理解されるようになったのは、95年の米兵による少女乱暴事件を機に、いつまでたっても変わらない米軍基地の存在と被害が再認識されるようになってからという。同年、当時の大田昌秀知事が県民大会を、翌年には県民投票を実施した。基地の整理縮小や日米地位協定改定を求めた県民投票は約9割が賛成したが、いまだに実現していない。
近年の急速な「異化作用」は、2014年の翁長雄志知事の誕生が大きいとみる。「イデオロギーよりアイデンティティー」という翁長氏の言葉は「異化」へのシフトに大きな影響を与えたとする。
県民の意識は大きく変容していったが、政府の「辺野古が唯一の選択肢」とする姿勢は変わっていない。県外・国外に普天間の代替施設を検討さえしない政府に対し「構造的な沖縄差別がある」と確信を深めている。
政府は24日の県民投票の結果にかかわらず、辺野古の新基地建設を進める考えを示している。しかし署名運動から県民投票を実現した県民の動きと、投票結果は「少なくとも本土の人たちに潜在意識として影響は与えると思う」と期待する。
薩摩の侵攻、琉球処分、戦前の皇民化教育、米統治下からの日本復帰など、本土の間で同化と異化に揺れてきた県民。「大成長」を遂げた県民の今後に大城氏は注目している。(知花亜美)
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大城 立裕(おおしろ・たつひろ) 1925年、中城村生まれ。作家。67年に「カクテル・パーティー」で県出身作家として初の芥川賞受賞。93年「日の果てから」で平林たい子文学賞。2015年「レールの向こう」で川端康成文学賞。19年井上靖記念文化賞。著書に「小説 琉球処分」「普天間よ」「あなた」など多数。