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劇場版『忍たま乱太郎 』原作者・尼子騒兵衛氏インタビュー

「涙はいらない、ギャグで突っ走れとお願いしました」――劇場版『忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』原作者・尼子騒兵衛氏が語る“リアリティとギャグのバランス感”

 TVアニメ放送スタートから19年目に突入し、今なお人気の『忍たま乱太郎』。『朝日小学生新聞』(朝日新聞社刊)にて連載中の原作『落第忍者乱太郎』も今年、25周年を迎える。そんな記念すべき2011年に2つの劇場版『忍たま乱太郎』が公開される。まず3月12日には劇場版アニメ『忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』、今夏には加藤清史郎さん主演の実写版の公開も控える。

 劇場版アニメ公開を記念して当サイトにてリレーインタビュー企画をお届けします。第一弾にご登場いただくのは原作者の尼子騒兵衛さんです。

●舞台に選んだ室町時代は忍者の発祥と日本文化の過渡期

――まず原作の連載開始から25年というのはすごいですね。

尼子騒兵衛氏(以下尼子):「『朝日小学生新聞』でギャグマンガを描きませんか?」とお話しをいただいたのがきっかけでした。編集の方から「忍者もので」と言われて。最初は3カ月だけというお話だったのが25年経ってました。いまだになぜ忍者ものだったのかは教えていただいていないんですけど(笑)。

――「忍者もので」と言われた時はどう思われましたか?

尼子:元々、日本史が好きだったのでそれほど抵抗はありませんでした。忍者ものは江戸時代を背景にした作品が多いですが、その出現は近世と言われていて、調べていくと室町時代がおもしろいと思ったんです。日本文化を確立する過渡期であり、その時代の人はなぜ生きているのか、疑問を持っていなくて、みんなキラキラしてる気がして。
 忍術の三大秘伝、万川集海・正忍記・忍秘伝に目を通すと派手な武器はほんの一部で、大部分は人間の心理をつくことにさかれていました。例えば楊枝隠れの術は何かものを投げて敵の気をそらし、逆方向に逃げる技とか。いわば心理学、人間観察に長けた忍者をアホな連中がやったらどうなるだろうと想像して生まれたのが忍術学園の一年は組、忍者の卵、乱太郎とその仲間達です。


●忍術学園は子供にとって夢のパラダイス! 設定は子供にもわかりやすく

――乱太郎達の過ごす忍術学園の生活はすごく楽しそうです。

尼子:読者の子達からすれば、同じ小学生なのに、忍者ということで夜の授業があったり、火縄銃を撃ったりと違った学校生活をしている乱太郎達に共感したり、あこがれを抱いてくれているのかもしれません。一年は組だけでなく、忍術学園の生徒は、みんな仲間というのは大前提です。いじめなんてないし、困っている人がいれば、上級生でも下級生でも助ける。しんべヱもよく迷惑をかけてるけど、それを追及するのではなく、どうしたら解決できるかを常に考える前向きさがみんなにあって。家庭崩壊寸前まで生徒に入れ込む熱血教師もいるし(笑)。生徒達に危ない任務をさせたりしても、それは信頼と彼らをフォローできる自信があるからです。だから子供にとって、忍術学園はパラダイスに見えるらしいです。

――作品制作にあたって、心がけたことやこだわったことはありますか?

尼子:子供達が読むものなので、忍者の学校を舞台にすれば入りやすいんじゃないかと考えて、まず忍術学園という設定を決めました。忍者というのは一子相伝であり、肝心な部分は口伝なので、本来はありえないんですけど。それに加えて、学校の門前に看板がかかってて(笑)。
 また忍者ものでありがちなドロンドロンと煙が出て消えたり、水の上を歩くような非現実的な忍術はやめ、人間ができる事で、子供でもできる事であれば、更にいいだろうと考えました。そして私が考えた忍術ではなく、資料で裏がとれるものにしようと。子供達にさりげなく、当時の風俗や背景が伝わればいいなと思って。ちなみに小判は出てきません。秀吉の時代からのものなので。TVアニメで寛永通宝が出てきたことがあって、それは間違いなので再放送では500円玉に替えていただきました。きり丸がよく「銭や、銭や!」と喜んでいる時に出てくるものも永楽通宝など当時の日本が輸入していたお金です。


●涙や感動、恋愛なんていらない! ひたすらギャグで突っ走る

――楽しい作品の影には緻密な資料調べとこだわりがあるんですね。

尼子:でもギャグマンガですから子供達でもわかる大きなウソはつこうと。自動販売機や自転車が出てきたり、腕時計を見たり。子供が本当か、ウソか判断できるかが大切なんです。
あとラブストーリーはなく、ギャグで押し切ろうと。ギャグマンガは楽しくなりたい、笑いたいと思って読むものだから『乱太郎』には涙とかウェットな部分がまったくないんです。劇場版アニメの藤森(雅也)監督にも「お涙や感動はいりません。最後までギャグでぶっとばしてください」と伝えました。

――この作品はギャグマンガらしく、テンポとパワフルさがありますね。

尼子:関西人だからなのか、自分が描いたもので笑ってもらえることがすごく快感なんです(笑)。私がおもしろいと思ったことを伝える手段が、たまたまマンガだった。でもわざと笑わそうとするのではなく、そうしないところで生じる笑いを狙ってます。プロ野球の珍プレーって、おもしろいじゃないですか? あれはプロの選手がまじめにプレーしているのに、思いがけない結果が生まれるからおもしろいと思うんです。ハロルド・ロイドなど大昔の喜劇スターもまじめな顔でまじめにやっているのに、意図しない方向へ話が進む、そのすき間に、笑いが生じると思うんです。

●TVアニメの台本やコンテもチェックするこだわり

――忍者ものとしてキャラの多さも目を引きます。

尼子:ゲストを入れると400人くらいいるんじゃないでしょうか。お城もたくさん出てきます。一度出たキャラが再登場したり、それぞれ特徴のあるお城を描いたり、武器もいろいろあるので描くのも調べるのも大変です。

――TVアニメはご覧になっているんですか?

尼子:見ていますし、時々、アフレコ現場にも顔を出させていただいてます。もちろん収録前には絵コンテや台本のチェックをさせていただいてますが、TVで初めて絵を見ることがほとんどですし、オリジナルストーリーもあるので楽しませていただいています。基本的にはアニメ制作の亜細亜堂さんとスタッフの皆様にお任せしてます。


●初の長編劇場用アニメは忍術学園メンバー勢ぞろいで巨悪に立ち向かう

――さて3月12日に劇場版『忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』が公開されます。2度目の劇場版にして初の長編アニメになるそうですね。

尼子:コミック2冊分を1本筋の通ったお話にしています。私がこだわってきた時代考証も室町時代は江戸時代に比べて描写が難しいのに服飾や住まい、武器など細かい部分にまで藤森監督はこだわってくださいました。私からも火縄銃は左肩で持つようにお願いしたり、文化や戦国作法も学べるようになってます。
 ギャグも画面の中心だけでなく、隅々にも張り巡らされています。せっかくの大画面なので見つけると楽しいと思います。私が気に入ったのは、お城をバックに武将が陣取る姿は、黒澤明監督の『蜘蛛巣城』をほうふつとさせるのに、誰もいなくなった後にポテトチップスやチョコバーの袋が落ちてて(笑)。

――タイトル通りに忍術学園のメンバーも勢ぞろいです。

尼子:二つの国の戦(いくさ)に巻き込まれた村から依頼を受け、忍術学園の生徒や先生達が活躍するお話で、みんなが一丸となって頑張る姿、力を合わせた時に生まれるパワーは素晴らしいです。でも乱太郎達なので、とんちんかんなことも起こしますけど(笑)。劇場用作品らしく、壮大であり、絵の枚数もすごく多くて、コンテを見るだけでワクワクしました。テンポもいいので、見始めたらあっという間に終わって、また見たくなる映画になっていると思います。


●夏には実写版も公開! キラキラまぶしい乱太郎達を見て元気になろう

――劇場版アニメの後、夏には実写版の映画が控えています。

尼子:賛否両論あったみたいですけど、私は純粋に見てみたいと思いました。忍者ショーとか大好きなので(笑)。三池(崇史)監督がどんな映像を作ってくださるのか楽しみです。まずは劇場版アニメから見ていただきたいです。

――最後にメッセージをお願いします。

尼子:ご存じものにはしないのが『乱太郎』のコンセプトなので、この映画で初めて『乱太郎』を見る方にもわかりやすくて、楽しんでいただけると思います。生きることに疑問を持たなかったであろう室町時代の人達はキラキラしていてうらやましい。そんな時代を生きている子供達を見るとこちらも元気になると思うんです。一人のために力を尽くす、困っている人がいたら助けるのが当たり前というところから始まったのが『忍たま乱太郎』です。まだ未熟な忍者の卵達が忍術で強敵に立ち向かい、どう事件を解決していくのか、そして大きなスクリーンで躍動する乱太郎達を見守ってください。

<取材・文:永井和幸>

『忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』
2011年3月12日(土)、全国ロードショー!
配給:ワーナーブラザーズ映画
原作:尼子騒兵衛「落第忍者乱太郎」(朝日新聞出版刊)
監督:藤森雅也 / 脚本:浦沢義雄
声の出演:高山みなみ 田中真弓 一龍斎貞友 田村亮(ロンドンブーツ1号2号) 河本準一(次長課長) 他
※TVアニメ『忍たま乱太郎』はNHK教育にて毎週月~金曜18:10~、土曜17:50~より好評放送中!!

>>劇場版アニメ『忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』公式サイト
>>『忍たま乱太郎』DVD公式サイト
>>実写版『忍たま乱太郎』公式サイト

(C)2011 アニメ版「忍たま乱太郎」製作委員会
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