知ってしまったら筋トレをせずにはいられない! 筋肉の9効能
筋トレで得られるご利益は、「いいカラダになれる」以外にもたくさんある。「筋肉×◯◯」と題して、9つのキーワードからその効果を総ざらい。知ってしまったら、もう筋トレをせずにはいられない!
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1. 筋肉×基礎代謝
筋肉1kg当たりのエネルギー消費が増える
筋肉1kg当たりの1日のエネルギー消費量は約20キロカロリーといわれている。たとえ一日中一歩も外に出ず、家でグダグダしていてもだ。
これは、骨格筋に流れ込む動脈血の酸素濃度と静脈血の酸素濃度から導き出された数値。前者から後者を差し引いた分の酸素が筋肉で代謝されていて、その酸素量をエネルギー代謝量に換算したもの。
筋肉の量は体重のおよそ40%。体重60kgの成人男子の場合なら、筋肉量は24kg。計算上は480キロカロリーくらいのエネルギーを代謝する計算になる。
ところが、筋トレをして筋肉を太く重くした後で基礎代謝を測定すると、なぜか筋肉1kg当たりの代謝量が変動するという。肥大後も変わらず20キロカロリーという場合もあるが、最大で150キロカロリー程度にアップすることもあるのだそう。現在のところ、筋肥大することで筋肉1kg当たりのエネルギー消費は50キロカロリーくらいにアップするのではないか、という見解に落ち着いている。
ってことは筋肉量24kgとして1,200キロカロリー。1日の基礎代謝量が2.5倍に跳ね上がるということ。ラッキー。
2. 筋肉×自律神経
交感神経と副交感神経のリズムが整う
筋肥大することによって、どうして代謝量がアップするのか? その詳しい理由は分かっていない。ただ、この場合の筋肉のエネルギー代謝は、収縮することで消費されるエネルギーではなく、熱を作り出すことによるエネルギー代謝。
筋肉が熱を作り出す際、大きな影響を及ぼしているのは自律神経。交感神経が活性化すると、筋肉の熱産生の効率がアップすることが分かっている。
一方で筋トレによって交感神経と副交感神経のリズムにメリハリがつくということは明らかな事実。肥満の人は交感神経と副交感神経、どちらの活性も弱い。熱産生レベルも低くて基礎代謝量も少ない。ところが一定期間、運動をさせると自律神経のリズムが整ってくるのだ。
有酸素運動でもそうした効果は狙えるが、強度が弱い分、時間がかかる。その点、効率がいいのは筋トレだ。
ふたつの事実を照らし合わせると、筋トレで自律神経が活性化し、その結果、熱産生エネルギーがアップするということも十分考えられる。安静時代謝が上がり、痩せやすくなり、一日の生体リズムにもメリハリがつく。またまたラッキー。
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3. 筋肉×脂肪細胞
脂肪がベージュ化して熱効率が上がる
体内で熱を作り出すのが得意なのは、なにも骨格筋だけではない。どこかで一度は耳にしたことのある褐色脂肪細胞も体温上昇にひと役買っている。
一般的な脂肪を指す白色脂肪細胞は、中性脂肪を蓄積するタンク。これに対して褐色脂肪細胞は、近くにある糖質や脂質を内部に取り込んで一度脂肪に置き換えた後、これを分解して熱エネルギーを作り出す働きをする。
熱産生の効率レベルは、実は骨格筋より褐色脂肪細胞の方が高い。ところが褐色脂肪細胞の量は全身で約40gと微々たるもの。よってトータルの熱エネルギー量としては筋肉に軍配が上がる。
ただ、最近の研究によると、筋トレによって白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞に似た働きをするようになることが分かってきた。完全に褐色脂肪細胞に変化するのではなく、近い働きをするベージュ細胞へと変化するのだ。
それなりにシンドい長時間の有酸素運動、あるいは筋トレをすると筋肉からはイリシンというホルモンが分泌される。このイリシンが白色脂肪細胞をベージュ細胞に変化させるという。筋トレを定期的にしている人は筋肉+ベージュ細胞効果でカラダがいつでもメラメラ状態。
4. 筋肉×糖代謝
血糖値コントロール機能が向上する
筋肉を動かすとエネルギー源である血液中の糖、グルコースが筋肉内に取り込まれる。よって血糖値が下がる。当たり前の話だが、これは非常に重要なこと。筋トレをして筋肉量を増やした人の糖代謝レベルを調べると、その機能がアップすることがすでに立証されている。
運動時に限った話ではない。食後に分泌されるインスリンに反応して、グルコースを筋肉中に取り込む機能が上がることが分かっているのだ。筋肉量が多いほど、筋肉の中で合成されるグリコーゲンの量が増えるというのがその理由。デリバリーに忙しくて、血糖がダブついている暇がなくなるのだ。
なら、糖尿病の予防には筋トレがいんじゃね? という話になるところだが、カラダに負担をかけないゆるい有酸素運動と食事療法の2本立てが長らくのスタンダードだった。
でも、よくよく考えると血糖の代謝能力は、有酸素運動で主に使われる遅筋より筋トレで主に使われる速筋の方が優位。アメリカでは最大運動強度の80%近くの筋トレによって血糖値が低下したという報告もある。というわけで、ここ最近、日本の臨床現場でも糖尿病患者に筋トレを、という潮流が見られるとか。
5. 筋肉×マイオカイン
筋トレした部位周辺の脂肪が減る
筋トレで筋肥大をすると、筋肉からマイオカインという生理活性物質が分泌されるようになる。マイオカインは特定の物質ではなく、複数の生理活性物質の総称。現在のところ30種類くらいの物質が報告されている。
マイオカインの働きにはさまざまなものがあり、そのひとつが筋肉を太くする作用。自分自身の組織に働きかけるこうしたシステムを自己分泌という。
で、その働きで筋肉がある程度肥大すると、今度はマイオカインが血液中に運ばれて全身に影響するようになってくる。たとえば、脂肪細胞に働きかけて脂肪の分解を促したり、肝臓に働きかけてグリコーゲンの分解を促すというように。
筋肉はひたすら糖質を消費し、脂肪は有酸素運動で燃える。これまで筋トレと脂肪燃焼は別の話と捉えられてきたが、ここ数年、マイオカインの研究が進むにつれ、脂肪と筋肉が密接にクロストークしていることが分かってきた。
その証拠によく動かす筋肉の周囲には脂肪が少ない。筋トレ部位周辺の脂肪が削ぎ落とされるからだ。背中の脂肪を落としたい? なら、デッドリフトでしょ。
6. 筋肉×BDNF
衰えた記憶力がアップする
1982年、ブタの脳からある物質が見出された。その名はBDNF、日本語に訳すと脳由来神経栄養因子という物質だ。主な働きとしては、神経細胞の生存を維持したり、神経突起の成長を促したり、神経伝達物質の合成を助けるというもの。平たく言えば、オツムを賢くするってことだ。
で、このBDNF、運動することによって脳内で増える。あるいは脳に作用するにもかかわらず、運動によって筋肉から分泌されることが分かっている。ネズミに運動させるとBDNFが増えて、記憶力がアップし迷路のルートを覚える。とにかく運動→BDNF→明らかに賢くなるという報告がわんさかある。
ただ、運動することで何がどうなってBDNFの増加に繫がるのかは分かっていない。筋肉からイリシンのような何らかの成長因子が分泌されて、それが脳に作用し、BDNFが作られるのかもしれない。
または、筋肉そのものから分泌されるBDNFが直接脳に働きかけているという可能性もある。メカニズムの解明は将来の研究に期待するとして、記憶力の衰えを自覚している人は、筋トレを。
7. 筋肉×コラーゲン
肥大した筋肉に付着する腱が強くなる
筋肉ばかりがどんどん肥大していけばいいってものではない。そのパワーをカラダの動きに反映させるためには丈夫な腱や靱帯が必要だ。
筋肉の材料はタンパク質だが、腱や靱帯の材料は、特殊ならせん構造で構成されているタンパク質のコラーゲン。通常のタンパク質に比べて柔軟性や弾力性を備えていることが最大の特徴だ。
コラーゲンの元となるのは、全身に散在している線維芽細胞。組織が壊れると周りにある線維芽細胞が集まってきてコラーゲンを大量に作り出す。そればかりではなく、実は筋トレによっても線維芽細胞が刺激され、コラーゲンの合成が促されるという。
筋トレをすると腱が厚くなり、コラーゲンでできている筋膜も厚く強くなるのだ。このメカニズムに関しても詳しくは分かっていない。ひょっとすると、マイオカインのような筋肉由来の物質が線維芽細胞に働きかけてコラーゲンの合成を促しているのかもしれない。
ただし、注意点がひとつ。強靱になった腱などの結合組織が維持されたまま、筋トレサボって筋肉が萎縮すると硬くなり、線維化してしまう。筋肉を一度太くしたら維持することがマストなのだ。
8. 筋肉×加齢
若々しさと機能性を保つのは下半身の筋肉
胸、肩、腕、背中など上半身の筋肉は男性らしいボディラインを強調する筋肉。世の男性がやっきになって上半身トレに励むのは、そうした理由。でも実は、年齢とともに減っていくのはヘソから下、つまり下半身の筋肉だということ、ご存じだろうか。
加齢によって筋肉量および筋力が低下すると考えられる代表部位は大腿四頭筋。30代以降徐々に減っていき、80歳では半分くらいの量になるといわれている。大臀筋も同じようなペースで減っていくと考えられていて、下半身の中では意外と落ちにくいといわれるハムストリングスでさえ、80歳では30代の3分の2程度の量になるという。
では、想像してみよう。太腿が全方位的に貧弱になり、お尻の筋肉が落ちて重力に負け下垂する。同時に脚力という機能も衰える。白髪よりもシワよりも、そうした下半身の様変わりこそがエイジングをアピールする。逆にお尻から脚にかけての筋肉がそれなりに発達していると、年を経ても若々しい印象を保つことができるのだ。
もっぱら上半身中心に鍛えていますという30代以上のあなた。見た目的にも機能的にも下半身トレは必須です。
9. 筋肉×転移効果
下半身トレで上半身の筋肥大が促される?
中強度から高強度の筋トレを行うと、トレーニング後、男性ホルモンや成長ホルモンの分泌が高まることはよく知られた話。とくに大きな筋肉を鍛えるほどその恩恵にあずかれる。実際、腕と脚のトレーニングを比較すると、やっぱり後者の方が各種ホルモン分泌の反応が高まるという。
男性ホルモンは筋肥大、成長ホルモンは脂肪燃焼に関与しているので、効率的にボディメイクをしたいなら、下半身トレは外せないというわけだ。
さらに、こんな研究報告がある。被験者に筋肥大が起こらないレベルの腕のトレーニングを行わせる。当然、筋肉は太くならない。ところが高強度の下半身トレと組み合わせると、ぬるい腕トレによってしっかり筋肥大が起こるという。
これが筋肥大の「転移効果」と呼ばれる現象だ。
なぜそんな現象が起こるのか原理は分かっていないが、脚の筋トレによってマイオカインのような物質が分泌され、それが腕の筋肥大をもたらしている可能性も考えられる。ともあれ、トレーニングは上半身と下半身のセットがお得。
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取材・文/石飛カノ イラストレーション/タケウマ 取材協力/石井直方(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部)
(初出『Tarzan』No.731、732・2018年11月22日、12月14日発売)