親の体罰を法で禁止すべきか。千葉県野田市で小四女児が亡くなった事件を契機に、国の議論が本格化している。全国初の条例を審議する東京都議会も始まった。社会の意識を変える契機としたい。
体罰禁止って軽くはたいたりするのもダメなの? そんな戸惑いの声も聞こえてきそうだ。でもその線引きより、まずは社会全体で体罰をなくすことを一つの宿題として受け止められないだろうか。
これまでに世界で五十以上の国が子どもへの体罰を禁止している。国際NGOセーブ・ザ・チルドレンによると一番早く、一九七九年に法改正し、家庭を含むあらゆる場面での子どもへの体罰を禁止したスウェーデンでは、体罰を用いる人の割合は六〇年代は九割以上に上っていたが、二〇〇〇年代には約一割まで低下したという。
法律は、ふだん意識していなくても人々が考えたり、行動したりする際のいわば「土壌」となっている部分がある。この土壌を改良することで、「しつけ」と称した暴行を根絶やしにしていく挑戦には大きな意味があるだろう。
子どもへの体罰禁止はこれまでも議論はされてきたが、法制化には至らなかった。一六年の児童福祉法改正でも「体罰によらない子育てを啓発すること」という参院での付帯決議は付いたが、法的拘束力はない。
明治以来、親の懲戒権を定めている民法も、一一年の改正で文言は変更されたものの懲戒権そのものは残った。
都が、保護者の責務として「体罰その他の子供の品位を傷つける罰を与えてはならない」と定めた虐待防止条例案を作ったのは、目黒区で起きた虐待事件を受けてのことだ。野田市の事件を契機に政府・与党も、児童福祉法や児童虐待防止法の改正を今国会の重要法案と位置付け、体罰禁止を明記するかを検討している。民法の懲戒権見直しの動きも浮上する。
尊い命が奪われないと変われない社会は悲しいが、それでも変わらないよりましだ。
ただ、育児が母親に偏りがちな現状で、今の動きがさらに親たちを追い詰めるようなことがないよう、細心の配慮が必要だ。どうしたら体罰に頼らない育児が可能となるのか、行政や研究機関、NPOなどがともに考える場を設けていく必要がある。
社会全体で子育てをより深く広く考えていく。法や条例はそのよりどころと考えたい。
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