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【暮らし】

<縁のカタチ 外国人と生きる>多文化介護(中) 粘り強く要望聞き解決へ

四ヶ所さん(右)から悩みを聞く藤井さん(左)と、やりとりを通訳する並里さん=愛知県豊田市で

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 愛知県豊田市の保見団地で、日系ブラジル人四ヶ所(しかしょ)エミリアさん(66)の介護サービスの計画(ケアプラン)を作成するケアマネジャー(ケアマネ)の藤井克子さん(59)は毎月一回、ケアプランを見直すために四ヶ所さんの部屋を訪れる際、必ず「ケアセンターほみ」の外国人ヘルパーに通訳として同行してもらう。

 今年一月に訪問したとき、目についたのは四ヶ所さんがベッドを起こして背もたれに使っているときの腰の位置。話をするうちに、徐々に下がっていくのを見逃さなかった。

 「ベッドのマットに穴が開いているので、新しいものを買いたい」と四ヶ所さん。通訳で、日系ペルー人のヘルパー並里カテリーネさん(42)とともに粘り強く聞き込み、念入りに体の状態を観察した。「床ずれもあるので、介護保険で予防マットをレンタルしようか」。藤井さんが提案し、並里さんが通訳した。

 四ヶ所さんはほっとした表情を浮かべ「通訳がいると、自分の気持ちが伝わる感じがある。必要なことを言えば、すぐに連絡がつながり解決する」と信頼を寄せる。だが、以前は違った。

 四ヶ所さんは昨秋、別の事業所から「意思疎通ができず、必要な支援ができない」として、同団地で活動するケアセンターほみに紹介されてきた。四ヶ所さんは手足が動きにくく、寝たきりに近い状態。こだわりや思い入れが強く、前のケアマネやヘルパーらと行き違いが生じていた。

 ほみを運営する県高齢者生協(名古屋市中区)で専務理事を務める藤井さんが担当になり、外国人ヘルパーの通訳と面会。どんな介護が必要なのかを調べる「アセスメント」で、四ヶ所さんの口腔(こうくう)ケアが十分に行われておらず、歯の状態が悪化していることが判明した。

 「手の力があまりなく、ゼリーのふたも歯で開けている。歯が健康でないと困る」。切実な訴えが、通訳を通じて初めて分かった。

 早速、訪問の歯科衛生士によるケアを取り入れた。だが、四ヶ所さんは歯科衛生士による歯磨きの仕方が気に入らずに拒否し、「入れ歯にしてほしい」と要求。藤井さんは歯科医師による訪問診療でまず歯周病の治療をしてから、入れ歯を作ることにした。

 要望は続いた。「おかゆ、もうやだ。フェイジョアーダ(ブラジルの煮込み料理)が食べたい」。目の前の昼食にため息をつく四ヶ所さんのために、藤井さんはブラジル料理を配達する弁当店を見つけて手配できないか、検討している。

 以前の事業所も、四ヶ所さんのために、さまざまな介護サービスをしていた。だが、「ケアプランを作るときのアセスメントが不十分で、支援するべき部分に手が届いていない」と感じた。「訴えはたくさんある。しっかり聞き込んで対応しないと、疑問や不信感につながってしまう」。じわじわと藤井さんの思いが四ヶ所さんに伝わっているのは、「ヘルパーの通訳があってこそ」と感謝する。

 言葉が通じる日本人の高齢者でも、心を開いてくれない困難なケースは少なくない。時間をかけて相手と向き合い、信頼関係を築いていく介護の基本は、日本人も外国人も同じだ。「四ヶ所さんはいつも不満はあるが、しっかり対応すれば最後は了解してくれる。相手の気持ちを聞け、こちらの考えを伝えられれば、次へスムーズに向かえる」

 

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