短編小説   作:重複
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詰め合わせ(書籍2巻、7巻、13巻、WEB)

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【寒村出身者の話】

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!

 

 

口に料理を運ぶ速度も大分ゆっくりになった。

最初は、口の中に詰め込むように、咀嚼も間に合わない勢いでひたすらに食べていたものだ。

今は取りあえず、この自分の前に配膳された皿は全て自分が一人で食べてよいと頭も体も理解し、最初の頃と比べれば多少はゆっくりと食べることが出来るようになった。

 

美味い食事だ。

 

材料から調味料、料理人の腕に至るまで全て一流の料理だろう。

 

それを――

 

 

「おいしくないわ!」

 

 

また「お嬢様」の癇癪が聞こえる。

何が不満だというのか。

きっとあの女(ソリュシャン)は、この料理にどれだけの人間の苦労が詰め込まれているのか、ちっともわかっていないに違いない。

 

村にいた頃から悔しかった。

 

毎日毎日。

 

日の出と共に起きなければ、寒村で活動できる時間などすぐになくなってしまう。

 

日のあるうちに仕事を済まさなければならない。

 

時間との勝負だ。

 

幼い頃から、ずっと日が暮れるまで畑仕事をしてくたくたになって、食事は自分達が作った物なのに満足に口にする事も出来ずに、死なないだけでしかない量を腹に納める。

 

毎日毎日その繰り返し。

 

晴れて日が照り、汗が目に沁みふらつこうとも。

雨の中、寒さと服が体に張り付く動きにくさに体温と体力が奪われ、意識が遠のこうとも。

寒さにかじかみ、農作業で硬くなった皮膚が裂け、農具や畑に血が滴っていても。

 

ただひたすらに働いた。

 

それしかなく、それ以外は何もなかった。

 

そしてどんなに働いても、報われる(豊作)とは限らない。

 

雨不足、干ばつ、冷害、虫害。

 

そして減っていくばかりの働き手。

 

せっかく実った作物を収穫も出来ず、食べることも出来ず、ただ腐らせてしまった時のあの虚しさ。

 

 

分かるものか。

 

貴族にも、金のある奴にも、飢えた事の無いやつらには、自分のこの思いは絶対にわからない。

 

 

あの「お嬢様」にも。

その我が儘を許す「執事」にも。

それに金を出す「父親」とやらにも。

金を受け取って笑っている、「この店の従業員」や「客」どもにも。

 

 

こいつら全員、どんな目に遭ったって自業自得なんだ。

 

 

 

 

「最後の晩餐は、美味しかったかしら? 最後の食事は、多少は良いものを与えるそうですからね」

 

ソリュシャンは、自分の中にいる男(ザック)に話しかける。

 

「この世は弱肉強食ですもの。『あなたなら』わかって(自業自得と)納得してくれるわよね」

 

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【金貸しの男の話】

 

 

「かわいそうにな」

 

金貸しの男は、禿げた頭を撫でながら思う。

 

あの少女の境遇が気の毒だった。

だからと言って、何をするという訳でもないのだが。

 

自分は「仕事」として金を貸し出し、その利子と共に金を回収しているだけだ。

 

人を苦しめて喜ぶような性格をしている訳ではないし、金を返せない状況に陥れようと画策している訳でもない。

 

そんな悪魔的な残虐性は持ち合わせてはいない。

 

あの「フォーサイト」というワーカーチームとて、モンスターが憎くて殺している訳ではないだろう。

討伐対象のモンスターが知性を持っていて命乞いをしてきたとしても、「仕事」であれば割り切って殺しているはずだ。

肉屋だって余程の例外でもない限り、家畜が憎くて殺している訳でもないだろう。

 

「仕事」だからだ。

 

自分が回収係なのは、この面構えの為だ。

 

そもそも、自分(強面)が行ったという時点で気付くべきだ。

 

期限が過ぎている、不良債権者なのだと。

 

誰もが期日までに、きちんと利子込みで返済してくれるのなら、自分などすぐに仕事を失うだろう。

 

自分に仕事があるという事は、「借りた金を返さない相手がいる」というだけの事だ。

 

実際、すぐに金が必要で、すぐに返せる人間からは感謝されているのだ。

 

そういった、良質の客に自分(強面)が宛がわれる事が無い、というだけの話だ。

 

財布を失くしたとか、大きな買い物に少し足りない等の、急な出費の際に、対した審査も担保も無く借りられる、自分達のような所は重宝されている。

 

結局は身の丈を知れ、という事なのだ。

 

無理矢理に貸し付けて利息をもぎ取ろうとか、身代を崩させようという訳では無い。

 

ただ「金を借りに来た相手に金を貸す」のが仕事なだけだ。

 

「きちんと金利を含めた分まで返してくれること。それを何度も自分の所から借りてくれること」

 

それ以上も、それ以外も、自分の仕事では無い。

 

だからこそ、きちんとした返済をしてもらわなくてはならない。自分達は慈善事業をしている訳ではないのだから。

 

「金を借りたら返す」

 

ごく当たり前のことだ。

 

それに金利がつく。

 

ちゃんと最初から毎回説明し、書面にしたためられている。

 

当然「理解したとして署名(サイン)をもらっている」

 

 

 

彼女(アルシェ)も、あれだけ身を張ってくれる仲間がいるのなら、相談すればいいものを、と思う。

 

いくら金を稼いできたとしても、彼女は社会的には子供とまでは言わないが、人生経験という観点から見れば、まだまだ未熟といっていいだろう。

 

ただ倒せばいいモンスターと違い、人間関係は様々な要素から変わってくる。

 

男が見るに、彼女の父親は彼女がどうやって、どんな思いで、どんな苦労をして金を稼いでいるのかさえ、理解していないように見えた。

 

よくいるパターンだ。

自分が頑張っていれば。

自分が何とかしなければ。

いつかきっとわかってくれる。

 

そう見えてしまうところが「人生経験の未熟」を感じるのだ。

 

結局、彼女(アルシェ)は、よくいる「貢ぐ女」で、親にとって「都合のいい女(娘)」なのだろう。

 

 

自分にだって養う家族がいる。

自分の生活のためにも、金がいる。

 

この仕事より割の良い仕事があれば、そちらに移るだろう。

 

そんなことは滅多に無いが。

 

それはあのフルトの娘、アルシェも同じだろう。

 

もっと割の良い仕事があれば、あんな犯罪すれすれのワーカーの仕事をすることも無いだろう。

 

自分だってそうだ。

 

そもそも、「仕事」であれば、多少の演技くらいはする。

金を返さない相手に威圧的に接したり脅したりするのは、踏み倒しをされないための予防対策だ。

 

借りてもきちんと利子まで返済してくれる「お客様」には、自分だって礼儀正しく愛想良く接する。

 

そんな客は、ほとんどいないが。

 

そもそも、実力行使に出るのは、金を完全に返せなくなった「踏み倒し」相手だけだ。

 

金を返さない、自称「客」が増えれば、当然自分たちの「商売」は成り立たない。

 

「仕事」を失い、路頭に迷い、それこそ自分たちが「金貸しに金を借りる」事態になるだろう。

 

だいたい「金を借りる」とは、とどのつまり「借金」なのだ。

自分たちが「金が無いから貸してもらう側」だと意識していない、自称「客」は質が悪い。

 

結局破綻して、こちらに迷惑をかけるのだから。

 

だから「かわいそうに」と思うだけだ。

 

あのワーカーの「フォーサイト」だって仲間だからと言って、借金を肩代わりなどしないだろう。

 

大抵の人間がそうだ。

 

誰だって自分の生活があるのだから。

 

安易に「かわいそう」と言って、「助けてほしい」と言われても助けられない。

 

だから、考えるだけだ。

 

 

 

誰だってそうだろ?

 

誰もが人の人生なんて、背負えない。

そんな事ができるのは、ほんの一握りだけだ。

だからこそ、脚光を浴びる。

 

自分たち凡夫に、そんなことができるわけがない。

 

だから、考えるだけだ。

 

考えるだけ。

 

それだけだ。

 

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【ゴブリン情勢の話】

 

ゴブリンという種族がいる。

 

彼らは人間の子供に例えられるほど、弱く小さな体で頭も良くない。

 

最弱のモンスターとして認識され、小さな体と夜目によるゲリラのような戦法以外には特色の無い、

繁殖の早さ以外は、これといった特徴はあげられない。

 

しかし彼らこそが、人間の住む以外の場所で必要不可欠な存在だ。

 

彼らは底辺であるが故に、他のモンスターの食料ともなっている。

繁殖の早さが、それを支えている。

 

もしゴブリンが全て駆逐されれば、モンスターの食糧事情は悪化し飢えるモンスターが増えることになるだろう。

 

そもそも、モンスターとの接触というのは、人間側に問題がある事が多い。

 

基本人間以外の種族は、平野でも森の中でも、己の身体能力のみで踏破が可能だ。

 

しかし劣等種たる人間には、そんな事は不可能だ。

 

足を守る為に靴を履き、歩き易さの為に道を造る。

荷物の運搬や大勢が通れるように、道幅を広げ舗装する。

 

結果、ただ通り過ぎるだけでは済まずに、その地に住むモンスターの縄張りを侵すこととなる。

 

そうなった場合のモンスターの対処は一つだろう。

 

人間とて、「近道をしたいので、貴方の家の中を通過させてくれ」と言われて納得などしないだろう。

しかもそれが土足で、ついでに家の物を持って(盗んで)いくような行いがあれば、それはもはや「敵」以外の何者でもない。

 

人間が襲われるのも、致し方なしというものかもしれない。

 

だが、そうしなければ生きていけない劣等種族なのが人間という存在だ。

 

だからこそ、危険度を下げる努力も怠らないし、怠れ無い。

 

例えば、冒険者は安易に森などのモンスターの領域に入り込んでモンスターを殺すことを禁止されている。

 

あくまでも、冒険者は「人間の領域」に入り込んだモンスターという脅威を排除するための存在なのだ。

 

だから、「モンスターを殺しまくりたい」などと言う者は冒険者にはなれず、「請負人(ワーカー)」になるしかない。

 

不必要に森に入り、弱いモンスターをひたすらに殺していけば、そのモンスターの領域を人間の物にできると考えるものもいる。

 

だが、自然の摂理とはそう簡単なものではない。

 

弱いモンスターがいなくなれば、別のモンスターがそこに入り込むのが常だ。

 

人の領域のように、開拓され舗装され、家が並び建つということがなくても、どれだけ自然のまま誰もいないように見えても、そこは何者かの「縄張り」なのだ。

 

そして「縄張り」は変動する。

 

モンスターが他のモンスターに敗れたり、寿命で死んだり病気、あるいは怪我によって弱体化すれば、縄張りを奪われることは珍しいことではない。

 

そして、最初の弱いゴブリンが駆逐され、食料事情が悪くなった場合、その代用品となりうるのは、当然代わりの「弱い生き物」だ。

 

そこに人間がいれば、喰われるのは必然となり、さらに不足となれば、人里にまでモンスターを呼び寄せることとなりかねない。

 

ゆえに人間は安易に「人間の領域に出現したモンスター」以外のモンスターを殺すことは避けている。

 

難度二〇のモンスターと互角で実力者。

難度六〇と戦えれば猛者。

 

そんな人間が数えられる程度しか存在しない。

それより上の人間は一国にいるかいないかという程度。

 

そんな力で劣り戦える者の数で負ける人間が、わざわざ危険を引き寄せても何の良いことも無い。

 

しかし「ワーカー」となる者が絶えないように、それらを守らない者がいるのが実状だ。

 

割の良いモンスターを優先的に殺す者。

高価な薬草や鉱石のために、縄張りを荒らす者。

モンスターを「試し切り」にしたいだけの者。

 

人間の社会よりも、自分の都合を優先させる者は必ずいるのだ。

 

 

 

「つまり、デミウルゴスは何が言いたいわけ?」

 

話を聞いていたアウラは、要約を聞く。

 

「注意をしてほしいのだよ」

「注意?」

「そう。カルネ村はあのゴブリンの軍勢と、ルプスレギナがいるので安全だろう」

 

少し引っかかってしまった。

 

アウラの中で、ルプスレギナの評価は低い。

というより、下がった。

 

ルプスレギナが「三大のことが、カルネ村で問題になっている」と報告していれば、自分が「三大」を放置することもなかったはずなのだから。

自分がいるのだから、あの当時でも「三大」がカルネ村に襲いかかることは無かっただろう。

 

むしろ、あのトロールやナーガは、彼らの言うところの「滅びの建物」、つまり自分のいた場所を狙っていたのだ。

 

アウラの所に来ていたのなら、あれらは「服従」か「せん滅」かのどちらかの未来しか無かっただろう。

 

だから、カルネ村が来もしないモンスターに右往左往する必要は無かったのだ。

 

それでも、あの報告ミスを「自分の説明不足」と不問にしたアインズの優しさに感動したし、あの事態を運用してナザリックの利益へと繋げた手腕に感心したものだ。

 

さすがはアインズ様。

僕のミスを活用し、さらなる結果を導き出す手腕は、至高の御方々のまとめ役であられるに当然の存在である。

 

最近のシャルティアの頑張りに付き合った者としては、ルプスレギナに対して「大丈夫か?」と疑心暗鬼がついてまわるのだ。

 

「あのアーグの一族のように、近隣のゴブリンはカルネ村の「エンリ将軍」を族長として配下になり、保護を得ようとするだろう。なにしろ、自分たちが従順であれば待遇もよく、食料扱いされる心配も無いのだから。だが、そうなった場合、ゴブリンたちを食料とみなしていた者たちが、新たな食料を求めてさまよい出てくる可能性がある」

 

デミウルゴスは言葉を区切った。

 

「どこへ向かうと思うかね」

「人間の村、だね」

 

「そう。畏れ多くもアインズ様の支配下にある人間に、その手を伸ばすかもしれないのだよ。そんな不敬は断じて許すことはできない。リュラリュースの配下には徹底してあるだろうが、モンスターの縄張りは変動するものだ。もしかしたら、アインズ様の威光を知らない者が流れてくるかもしれない。人間でも冒険者組合の決まりを守らない者が増える可能性がある。そういった不埒者に気を付けてほしいのだよ。トブの大森林は君の管轄だからね」

 

デミウルゴスは、さらに説明を続ける。

 

「以前、「三大」を大した存在ではないと思って放置しただろう?あれはルプスレギナが問題だったが」

 

デミウルゴスも、あの問題の経緯は把握しているのだと知れる発言だった。

 

「このナザリックでPOP(自動わき)するレベルの三大を、君が脅威と思わなかったことは理解できる。だが、どれほどレベルが低くとも問題を起こす者は必ずいるものだ。我々から見て「弱い」存在でも、自分を「強い」と思って驕る者は多い」

「……だよねえ」

 

アウラの脳裏に何人かの顔が浮かんだ。

 

「そういった存在は、人間にとってはこの上ない脅威となることもあるだろう。集団なら気づきやすいだろうが、単体は見逃し易いし探すのも面倒だ。アインズ様の支配地で被害が出るなど以ての外だ。だから、より一層の注意をお願いしたいのだよ」

「わかった。忠告ありがと、デミウルゴス」

 

こうやって先を見据えて助言をしてくれるデミウルゴスは、本当にありがたい存在だとアウラは思っている。

普段から、何かあったらデミウルゴスに相談する者が多いのも当然だ。

 

頭が良くて、視野が広くて、適切なアドバイスをくれる。

 

アインズがデミウルゴスにいろいろと任せるのも納得だ。

 

だからこそ――

 

いつか自分もアインズに頼られたいと思うのだ。

 

自分もいつまでも子供ではない。

 

アインズも言っていたではないか。

「将来」を考えると。

 

あの言葉がどれだけ嬉しかったか、きっとアインズは気付いていないだろう。

 

「これからも」アインズが自分と居てくれると、約束をもらったような気持ちになれたのだ。

だから、「アインズがいる未来」に向けて、自分は頑張らなければならないのだ。

 

 

「きっとお役に立ちます、アインズ様」

 

 

「だから、あたしたちとずっといてください」

 

◆◆◆

 

もうちょっと、アウラが何をしているかわかってからと思っていた頃の話。

 

アウラは普通に優秀で失敗しないらしいので、話を作るのに困る。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【帝国騎士の就職事情】

 

「失敗したーー!!」

 

男は心から後悔の叫びを吐き出した。

 

 

ここはバハルス帝国。

先頃、魔導国の属国となった国だ。

そして男は、騎士として働いていた。

 

つまり、過去形だ。

 

彼はカッツェ平野の戦闘に参加していた。

 

そこで見た。

 

多くの死を。

なす術無く、蹂躙される死を。

人間の理解の及ばない、神代の魔法の威力を。

 

彼は思った。

 

無理だ。

自分に騎士を続ける事は出来ない。

あんな戦いに、自分の出番など存在しない。

あそこでは、自分(人間)はただ踏みつぶされる虫けらでしかないのだと。

 

体調を崩す者が多数出た。

精神を病む者もいた。

 

彼も日々の中で、あの悪夢を思い出さない日はなかった。

 

だから――

 

騎士を辞めた。

 

安堵した。

もうあんな戦場という名の処刑場へ行く事は無いのだと。

 

ところが、バハルス帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国となった。

 

つまり――

 

「……魔導国と戦う事は無い?」

 

そう。

魔導国との戦いを避けてほしいと、騎士団上層部が連名で嘆願書を出していたのは、知っている。

 

だが、その願いを通り越して、魔導国の属国になるという現状は理解の範疇外だった。

 

魔導国と戦わなくていい。

 

これはいい。

 

しかも、魔導国は帝国の主国となったのだ。

 

つまり、帝国に何かあれば助けに来る存在となったのだ。

 

たった一体ですら、帝国全軍をもってしても滅ぼせないような、アンデッドの騎士。

それを「軍」という単位で運用できる魔導国が、帝国の主人となったのだ。

 

今まで「帝国騎士」とは、街の治安維持となにより「戦闘」に従事する、命の危険の伴う仕事だった。

 

それが、魔導国によって一気に安全な仕事となったのだ。

 

治安維持なら、そこらのごろつきに負けるような騎士ではない。

帝国がどこかの勢力に襲われても、今までのように命懸けで戦う必要は無い。

魔導国が救援に来るまで、持ちこたえれば良いのだから。

 

むしろ「あの」魔導国の属国となった帝国に、ちょっかいを出す国の方がいないだろう。

 

 

つまり帝国騎士は、有事の際には命を懸けて戦う存在から、手に負えない事態の際には魔導国に助けを求めることが可能な国となったのだ。

 

これほど心強い職業があるだろうか。

 

 

故に――

 

 

「失敗したーー!!」

 

 

冒頭の叫びへと戻るのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【辺境侯のメイド】WEBの話(設定)です

 

帝国で辺境侯となった、アインズ・ウール・ゴウン。

帝国領内用にと与えられた屋敷にやってきた十四人のメイドの内、十一人がスパイ行為を命じられていた。

 

戦闘メイド・プレアデスの中の幾人かが敵意をその瞳に宿した。

 

 

残りの者の表情は極端な程、二通りに分かれている。

当たり前の結果だと考えているナザリック側と、苛烈な対応に動けないでいる帝国側という内訳だ。

 

 

「敵意」とまでは行かなくとも、ナザリックから連れてこられた九人の人間の中の一人である「彼女」の思いは「当然」に属する。

今、彼女がここで人間として生きていられるのは、辺境侯、つまりナザリック大地下墳墓が支配者、アインズ・ウール・ゴウンの後ろ盾があるからだ。

 

王都で「物」として扱われ、廃棄処分という名の殺害をされるところまで貶められた自分たち。

その地獄から救い出し、新たな居場所を与えてくれたのは、人では無い存在だった。

 

自分たちを王都から実質的に救い出してくれたのは、確かにセバスという存在だ。

しかし、それは主人たるアインズの許可無くしては成り立たない。

どのような経緯で自分たち八人を助ける事になったのかは、知りようが無い。

だがツアレを含めた自分たち九人は幸運なのだ。

助け出された時に意識があり、ナザリックへ所属する意志を表明することができた。

意識が無く、意志の確認が取れなかった者たちは、もといた店に置いていかれたと聞く。

助けに来た者に託したそうだが、今の自分たちほど回復したとは到底思えない。

 

回復魔法をかける費用。

助けられた後の、身の処し方。

 

王国では「助けた」とは、その場限りの事が多い。

しかし、ナザリックでは違う。

アインズ・ウール・ゴウンの名の下になされた保護は、おそらく一生を視野にいれてのものだろう。

 

何しろナザリックの治療は、自分たちが「あのような行為が行われる前までの、肉体の状態を戻す」と「精神の傷を癒す」という方針で行われたのだ。

王都に残された者たちに、そこまでの治療が行われるとは思えない。

おそらく不自由な体を持ったまま、生きていく事になるのだろう。

 

ナザリックで働く為、メイドとして恥ずかしくない程度の技能を得た。

最悪、ナザリックを出てもやっていけるかもしれない。

もちろん許可がなければ、ナザリックから生きて外へ出ることなど出来ないだろう。

しかし、今まで自分がいた地獄といっても過言では無い状態は、同族たる人間が作り出し自分たち弱者に押しつけたものだ。

ナザリックに人間はいない。

異形の住む場所だ。

しかし共通の主人を仰ぐ為か、酷い扱いはない。

どの配下に入るかで待遇は異なるらしいが、セバスもペストーニャも厳しく甘くはないが、優しいといえる対応をしてくれる。

 

同じ人間が自分たちを、苦しめいたぶり命を奪う。

異形の存在が自分たちを助け、命と生活を保障してくれる。

 

ここで自分たちが放り出されるような事態になったら、どうなるのか。

王国に帰る場所など無い。

帰った所で、後ろ盾の無い身で何ができるだろう。

最悪、助けられる前と同じ状況になりかねない。

 

それは帝国でも同じ事だろう。

帝国臣民であれば、例え奴隷の身分に落ちようと帝国の法で守られている。

だが、自分たちはその対象外だろう。

であるならば、自分たちの身の安全と保障は、アインズによってのみ確約されているのだ。

 

それを脅かす存在、そしてその手先として送り込まれてきたメイドたちは、自分たちにとっても「敵」なのだ。

 

ナザリックに属さない。

しかし、その庇護下にある。

 

自分たちの存在は、そんなあやふやなものだ。

 

だから役に立たなければならない。

この環境を守らなければならない。

ナザリックを守らなければならない。

 

それはアインズを守るということ。

 

ひいてはそれが、己の身を守る事につながるのだ。

 

 

当然、ナザリックに正しく所属するための努力も欠かさない。

 

セバスの子を産めば安泰だと、あの悪魔が教えてくれた。

 

だから、元娼館の仲間で協定を結んでいる。

 

抜け駆けしないこと。

そして、外の人間をセバスに近づけないこと。

 

これ以上、確率が減っては死活問題だ。

 

外部の人間は、基本的に主人(アインズ)狙いだ。

その波がセバスに来ないように、注意を払っている。

 

誰だって、自分の幸せを壊されたくなどないのだから。

 



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