スーツ姿の会社員が満員電車のなかでマンガ雑誌を取り出し、読みふける――。外国人に奇異に映った光景も、いまや過去のものになりつつある。取って代わったのが、スマートフォン(スマホ)やタブレット端末を使った「マンガアプリ」。場所を選ばず片手で読める手軽さが受け、数年であっという間に浸透した。ページ数や内容の制約が少ないアプリは読み方だけではなく、出版社中心で動いてきたマンガ界の構図そのものも変えつつある。
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■いいね250万超
連載70話を超えたラブストーリー「文学処女」。恋愛下手の出版社の女性社員と、恋愛が出来ないイケメンの小説家の恋を描いた作品は読者の共感を呼び、「いいね!」は累計250万を超える。2018年にTBS系で、森川葵と城田優が主演の実写ドラマが放映された。人気作家に仲間入りした愛知県在住の中野まや花。数年前まで大手商業誌への連載を断られ続け、プロになる自信を失いかけていた。
「商業誌では限界かもしれない」。16年春、大手出版社系の少女マンガ雑誌の連載を目指していた中野は、挫折感に打ちのめされていた。5年間にわたって作品を投稿し続け、読み切りは10作品ほど掲載されたものの、連載作品はゼロだった。
■自信作がボツに
実は冒頭に紹介した作品も、雑誌編集者からは「ボツ」を言い渡されたもの。練りに練って作り上げた自信作を拒絶されたことへの失望感は大きく、「雑誌のコンセプトに自分の作品が受け入れられなかった」と振り返る。
病弱で病院への入退院を繰り返していた幼少期。母親が買ってきてくれた少女マンガが唯一の気分転換だった。「ちゃお」や「少女フレンド」などを読みふけり、登場人物の絵を描くことが好きなマンガ少女は、進学するにつれ、マンガ家ではなく、普通の会社員の道を選んだ。
アパレル、不動産会社と数年ずつ働いた後、次の就職先を探そうとした際、頭に浮かんだのはかつて憧れたマンガ家になる姿。一念発起してマンガサークルで基本的な技術を学び、作品を執筆したが、連載デビューの壁は想像以上に高かった。
■きっかけはピクシブ
「うちで作品を書きませんか」。マンガ家として続けていく自信を失いつつあったとき、ツイッターを通じたメッセージが届く。イラスト投稿サイトのピクシブ(東京・渋谷)に投稿された中野のイラストに目をとめたLINEマンガの編集者からの誘いだった。
連載の申し出に胸を膨らませる一方、不安も大きかった。当時はアプリの知名度は低く、「商業誌でデビューできなかったマンガ家の場所といったイメージがあった」。雑誌かアプリか――。悩みながらもアプリを選択したことが、人生を大きく変えた。
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