The Real Face
Vol.3 乗本賢吾(SO/27歳)
~ケガで失った時間、そして学んだもの。仲間、仕事、家族~
焦って何もかもやると、うまくいかなかった時にバラバラになる。
そうではなくて、簡単なことを一からやっていきたい。
先程も触れましたが、ケガにはだいぶ悩まされたのでしょうね。
ケガ…多かったですねぇ(笑)。去年は5月に練習中にアキレス腱を切りました。折り返し走をやっていて急に足首に違和感が走ったのですが、まさか切れているとは思いませんでした。トレーナーにその場で診てもらったら『これ、たぶん切れているよ』って言われて。
で、手術してギプスで固定し2カ月目からは装具に切り替え、3カ月目から1カ月半リハビリし約100日間入院していました。最初2カ月はまったく歩けなかったので、ほとんどベッドで横になったりTVを見たりといった状態でした。
救われたのは、ほとんど同じ時期に森島さんと小吹が入院してきた事です。3人でベッド並べて寝ていました(笑)。完全にあやしまれる3人でしたが、しっかりリハビリはやりましたよ。最初は足首も全然動かなかったり痛みもありましたが。ケガにはもう慣れているので、そんなに落ち込んだりとかはなかったですね。
それ以前にも、入社1年目から大きなケガを経験しました。
入社3カ月目くらいに左足の腿裏に筋断裂を起こし復帰まで1年かかり、ようやく復帰しても、最初の試合の開始10分で肩を脱臼してしまいました。そこでは1カ月半くらい休みました。さらに入社2年目はTL元年で開幕戦から出させてもらったのですが、2、3試合目ぐらいに膝を傷め、今度は治ったと思ったら練習中に肩を脱臼し手術をしました。
精神的にも大変だったのでは。
もう慣れた部分もありますが(笑)、昨シーズンのアキレス腱に関しては「復帰まで半年」といわれていたのが結局1年かかり、結構長かったですね。チーム自体も調子が良くなかったですし。
プライベートでは最近ご結婚され、また先日誕生日を迎えたりとにぎやかですね。
4月に所帯を持ちあと9月11日で27歳になりました。休日もあまりないので奥さんには迷惑かけていますが、今はしょうがないですね。自宅も練習場から1、2分のところなのですが、自分だけ近くてこれも嫁には申し訳ないです(笑)。たまの休みは結構ボーっとしている事が多いですね。後は翼(春口選手)と磯(磯岡選手)と飲みに行ったりとか。磯は大学の後輩でもあるしいつもイジっています(笑)。
お仕事は営業職という事ですが、こだわりや自慢できる成果などはありますか。
あまりないですね(笑)。でも営業はいろいろな人に会えるので楽しいです。人間観察とか好きなので(笑)。ラグビーと一緒で、お客さんによって戦略を変えたりとか。あと提案書とかを作成しているときは、自分の中で余韻に浸りますね。でも上司とかに見てもらうと、「これ何?」って…。
社会人5年目。生活に大きな変化はありますか。
もともと自分はわがままで怒りっぽくて、っていう感じですが、最近ようやく人の話を聞くようになってきましたね(笑)。穏やかになったというか、落ち着いてきたんですかね。父親に少し似てきたのかもしれません。親父は飲むと気さくな人です。飲まないとボーっとTVを見ているような感じ。母親は身の回りの事をなんでもやってくれた、いいお母さんです(笑)。あとは妹と弟がいます。
乗本選手のラグビーの原点、礎はどこにあるのでしょう。
やはり高校時代(啓光学園)に多くの事を教えていただいた、記虎先生(現龍谷大監督)の影響が大きいですね。ラグビーそのものはもちろんですが、仲間や周りの人への気配り、感謝の気持ちの大切さ等多くの事を教わりました。高校の時は2年から試合に出られたのですが、決勝で今チームメイトの太田さんがいた西陵に負けました。3年の時はベスト4。
法政では3年から試合に出るようになったのですが、大学選手権準決勝で慶應に国立で勝った試合がベストゲームでした。『絶対勝つ!』っていう気持ちがプレーに乗り移っていましたし、浅野(NEC)、麻田、赤沼、渡辺、遠藤(共にトヨタ)、斎藤、金澤、小吹(共にリコー)といったメンバーも揃っていました。4年の時はベスト4、チームではバイスキャプテンでした。
たくさんの人に出会い、様々な事を学んできたのですね。
では最後にプレーヤーとしての将来像を訊かせてください。
あまり先は見ないタイプなのですが、これまでケガでチームや会社に迷惑をかけた分も、しっかり動けるうちは頑張ってプレーしたいですね。SOとしてはより創造的なプレーヤーになりたい。これまででは大学4年時に、SOとして理想に近い形でBKを動かせたのですが、正直リコーではまだそこまでいけていない。ただ少しずついい感じにできてきているので、これからが楽しみです。
チームとしては結果も求められますが一つひとつを積み上げていきたい。焦って何もかもやると、うまくいかなかった時にバラバラになってしまうと思うんです。そうではなくて、簡単なことを一からやっていけばいい。誰かができないことがあったりミスしたりしたら、全員でカバーしていくというように。個人的には…もうケガだけはしないように祈っています(笑)。
インタビュー開始直後はやや表情も硬かった乗本選手だが、最後にはすっかり打ち解け予定時間をオーバーしながらも取材に応じてくれた。同期のPR片岡選手にその素顔を訊ねてみると、「シャイ。でも…慣れてくるとよくしゃべる。関西人なので笑いをとるのが好き」との事。ちなみにその笑いのセンスの方はというと、「非常に微妙」だそうだ。だが片岡選手は最後に「ケガで苦しんできたはずなのにグチを一切こぼさなかったし、リハビリをすごく頑張ってやっていました」と付け加えてくれた。同期で共に大きなケガに悩まされてきた間柄なだけに、その言葉も重い。
その表情と台詞には一切表さなかったものの、乗本選手はこれまで多くのケガによって少なからずの犠牲を払ってきたに違いない。だが…きっとそれ以上により多くの事を培ってきた事も、また間違いないだろう。明るく、そして時には厳しく自らを律し、チームを奮い立たせる司令塔の未来に期待したい。
のりもと・けんご…1979年生まれの27歳。大阪・啓光学園高校‐法政大。主な代表歴:関東代表。172cm75kg、ポジションはSO。特技:「日曜大工!」。出身地・東大阪市の自慢:「ラグビーの街で実家は花園ラグビー場から5分です」。ラグビーの魅力:「相手を抜いた時の快感」。課題:「コンタクトプレー。先週クリブが突破してきた時は『やってもうた!』って思いました(笑)」。
(文・中島聖司 2006.9.21)