2010年にサンマーク出版から発売された『人生がときめく片づけの魔法』という本がベストセラーになり、日本で最も有名な「片づけコンサルタント」となった女性、近藤麻理恵氏。
いま彼女が、米国で最も有名な日本人女性の1人になっているのをご存じだろうか。
日本ではシリーズ累計発行部数199万部以上と言われる売り上げを記録し、14年に英語版を発売した。英語版も瞬く間に米国で大ベストセラーとなり、現時点で米ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに148週も掲載されている。これまでに世界40カ国で850万部以上が売れているという。
そんな近藤氏が今年になってさらに話題になっている。仕事柄、海外のテレビや新聞などを幅広く見たり読んだりしているが、最近頻繁に近藤氏のことを目にするようになった。その理由は、彼女が動画配信サービス「Netflix」で1月1日から「KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜」という冠番組を開始したからだ。同番組は世界190カ国で視聴が可能で、今後は今以上に世界にその名を轟かすことになる。
この盛り上がりっぷりについて記事を読んでいると、少し前に米国を中心に世界で大きな話題になった「ピコ太郎」をほうふつとさせる。残念ながら今ではほとんど話題にならなくなったピコ太郎だが、16年には音楽雑誌ビルボードの全米ヒットチャートで77位にランクイン。しかも、「ビルボードHot100にランクインした最も短い曲」として、ギネス世界記録に認定される快挙を達成している。その時点での再生数は約4億5000万回を超えていた。
このように日本人が世界で一気に名を売る現象を見ると、実は両者にはある共通点があることに気が付く。いま米国でどれくらいの数の日本人がエンタメや文化の世界で一旗揚げようとしているのか想像もつかないが、米国で日本人が上り詰めるためには、この2人の通った道が参考になるかもしれない。
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こんまりの本が日本と米国で売れた理由
本題に行く前に、そもそもこんまりとは何者なのか。またその人気と成功の裏側をのぞいてみたい。
近藤氏は東京出身の34歳。東京女子大学を卒業後、リクルートエージェント(当時)を経て、片付けに特化したコンサルタントに転身。そして単行本企画のコンペに応募した際に、サンマーク出版の編集者の目に止まったことで、ベストセラーの『人生がときめく片づけの魔法』という本が生まれたという。
Amazonの紹介文によれば、その編集者は「私が審査員の一人として参加していた、ある単行本企画コンペで優勝したのが、この本の著者、近藤麻理恵さん(通称・こんまりさん)です。その第一印象は強烈で、『この人はテレビに出て有名になる』と感じたことを鮮明に覚えています」と語っている。無名の作家を見つけ出してベストセラーを作り出すのだから、この編集者も本物の「プロ編集者」だと言えよう。
すでに述べた通り、『人生がときめく片づけの魔法』は日本でベストセラーになり、14年には米国で出版されることになった。この本は、カリフォルニア州バークレーにある出版社が版権を獲得した。その出版社によれば、米国での初版部数は「3万部」で、編集長は当初、この部数があまりに強気であると感じたという。ちなみに現在の日本では、無名作家のノンフィクション本でこの初版部数はギャンブルに近いと言っていい。
そこで同社は、発売前の表紙もない「ゲラ」を独立系の書店やブロガーなどにばらまく作戦を決行したという。それが奏功し、同著が発売されると、口コミなどでどんどん評判が広がっていった。さらにその頃に、今回番組を制作した元フォックス・エンターテイメントの女性プロデューサーが同著の映像化権を獲得し、3年たった19年にようやく放映されることになった。
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米国で社会現象になった「こんまりメソッド」
基本的に彼女の片付けは「断捨離」で、キーワードは「ときめき」。英語では「Spark Joy」と言っているが、要するに「ときめき」を感じない物は捨ててしまおうということらしい。それを米国では「こんまりメソッド」と呼んでいる。
米国では近藤氏の「信者」も多いと報じられている。事実、近藤氏を絶賛する記事やSNSのポストはしょっちゅう目にするし、こんまりメソッドに傾倒している人のWeb記事もある。「147センチしかない小さなお人形のような近藤のメッセージは強力なものだ」という記事も目にした。とにかく、一つの社会現象のような状態になっているのである。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「Kondo」という言葉が今では英語の動詞になっており、「処分する」「きちょうめんに畳む」という意味で使われるようになりつつあると報じている。
そして近藤氏は、多角的にビジネス展開にも乗り出している。
「こんまりメソッド」を広めるセミナーを開催すれば、ソールドアウト状態。19年も3月にニューヨーク、4月にロンドンでセミナーが予定されており、すでにソールドアウトだが、参加費は2泊3日で1人2200ドル(ニューヨーク)と2400ドル。しかも近藤氏は、セミナーの最初と最後にあいさつするだけである、と丁寧に説明までつけられている。セッション自体は、米国人らしき弟子がやるようだ。ちなみに弟子はコンサルとして証明書を維持するために、毎年500ドルを近藤氏に支払う必要があるという。
さらに、ボックスなどの収納用品も販売しており、商品は完売。米国で超有名な料理本や家庭生活グッズなどをプロデュースし、冠番組と自分の名前で雑誌を出版している「カリスマ主婦」マーサ・スチュワートと同じ路線で突き進んでいるようだ。ちなみに、基本的に米国人女性の多くはこうした「家庭を良くする」「理想的な家庭像」を啓発する文化にハマりやすい傾向があると感じるが、それに見事にハマったのだと言えよう。
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米国で成功した“重要なきっかけ”
ただ独自の理論を主張して名前が幅広く知られるようになると、批判的な意見が出てくるのも避けられない。
米ワシントン・ポスト紙は「本も捨ててしまおう」とアドバイスした近藤氏に対して、ネット上で反発が起きていると報じている。また米国でも数少ない片づけ協会の一つ、全米プロ片づけ協会(NAPO)のメンバーらは近藤氏に辛辣(しんらつ)で、ニューヨーク・タイムズ紙に「どうせ20代そこそこの日本人少女で、実家暮らしで、キティちゃんのおもちゃとかグッズを大量に持っているような子のための本でしょ」と話す人もいると紹介。さらに、「NAPOの女性たちにとっては近藤のメソッドはあまりに厳格で、そんな近藤の世界には生きていられない。仕事もあれば子供もいる」とも指摘している。
また日本在住の外国人ライターの記事では、「日本と海外で近藤に対する反応の特筆すべき違いは、日本ではほとんど誰も相手にしていないこと。メディアではちょっとしか取り上げられていないし、オンラインでもあまり話題になっていない。多くの日本人は宣伝文句にだまされていないようだ」とし、日本人女性がNetflixで彼女を見ると「うざい」と言っているとも紹介している。
それでも、1月からは冠番組を始め、制作会社によれば、視聴者からの評判も上々だという。これからさらに知名度も上がっていくだろう。
そんな近藤氏がここまで米国で上り詰め、成功を手にするまでには、ある重要なきっかけがあった。
それは米TIME誌の15年版「最も影響力のある100人」に選ばれたことだ。ただそこに選ばれたのには、ある大物ハリウッド女優からの推薦があった。ジェイミー・リー・カーティスである。映画『大逆転』(1983年)、『マイ・ガール』(91年)、『ハロウィン』シリーズなどで知られている有名女優だが、最近はブロガーとしてニュースサイトに寄稿もしている。
この推薦がターニングポイントとなって、一気に知名度が「スパーク」したといえる。
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こんまりとピコ太郎の“共通点”
大物スターの推薦は、日本人が米国で一気に成功するにはかなり重要だと言える。というのも、少し前に一世を風靡(ふうび)したピコ太郎も、大物歌手のジャスティン・ビーバーが2016年9月28日にTwitterで「インターネットでのお気に入り」と紹介している。それをきっかけに一気に世界規模のスターになった。
近藤氏とピコ太郎の共通点とは、米国で影響力のあるセレブに「認められた」ということにある。こうした後押しが、彼らを一気にスターダムに押し上げている。
また2人の成功からは、別の側面も垣間見られる。2人はどちらも英語を話さないことだ。
近藤氏は米国人の家庭を訪問して片付けを行う冠番組でも、通訳を伴って日本語でやりとりしている。要は英語ができる・できないは、米国での成功にはあまり関係ないということだろう。逆に、英語を話さないことで、「移民」というイメージではなく、「外国人」というイメージが広がり、人種や移民問題などに敏感な米国人には、「微妙な存在」または「敵」に見えない。特にドナルド・トランプ大統領の登場からいろいろと話題になっているため、余計なストレスなく見ていられるのかもしれない。しかも彼らが生粋の日本人であるというのも、日本文化を体現している存在として受け取られているということだろう。
とにかく、批判はあれど、こんまりの躍進はしばらく続きそうだ。まだ彼女を「Kondo」せずに、しばらくその動向に注目していきたい。