トニオ「ワタシの料理は、グールの人でも食べられるように作ってるんですよ」   作:紅羽都
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お待たせしました、後編になります。
沢山のお気に入り、感想、評価、誠にありがとうございます。
念の為にR-15タグを付け足しました。


イタリア料理を食べに行こうin東京喰種 後編

一生叶わぬ夢と思っていた喰種の食べられる料理、その衝撃に思わず涙してしまったトーカちゃん。ややあって少し冷静さを取り戻した彼女は、自分の行動を省みる余裕が出来たようで、ちょっと焦り始めました。

仕方なかったとはいえ、サラダを食べていきなり号泣は幾ら何でも不自然過ぎです。依子ちゃんに何と弁明したものか。頭を悩ませますが、まともな言い訳は思い浮かばず口がアワアワと動くばかり。さぞかし怪訝に思われているだろう、そう考えたトーカちゃんはおずおずと依子ちゃんの顔を伺いました。するとどうしたことでしょうか、不思議なことに依子ちゃんは平然としているではありませんか。

 

「どう?おいしいでしょ!」

 

「えっ……うん」

 

「でしょー!私も初めてここでお料理食べた時、おいし過ぎて涙が止まらなくなっちゃたの!」

 

そう、実は依子ちゃんもトニオさんの料理を食べて泣いちゃっていたのです。それはそれは号泣で、効果音を付け足すならドボドボーーーって感じになってしまったのです。ちなみに、白目のところがしぼんでフニャフニャになったりはしませんが、眠気はふっとびお目々はスッキリサッパリになりました。

 

「でもちょっと意外だなー、トーカちゃんがあんなに泣いちゃうなんて思わなかった」

 

ニヤニヤとニコニコの中間くらいの笑みを浮かべる依子ちゃん。してやったりと思う心と、幸せそうなトーカちゃんの姿に心底嬉しくなった心が表情に表れています。

 

「なっ、泣いてなんか!あっ、えっと、んぅ……」

 

あ、もにょった。泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのか、赤面して不貞腐れるトーカちゃん。その様子を見た依子ちゃんは、なんだか無性に頭をなでなでしてあげたい衝動に駆られてしまいました。でも、流石にちょっとトーカちゃんに悪いかなと考え、自重することに。

 

 

 

「……依子のバカ」

 

 

 

いいや!限界だ 撫でるね!今だッ!

普段クールなトーカちゃんが涙目で顔を赤くしていじける姿は、途轍もないギャップ萌を醸し出していました。

誰も「爪」を伸びるのを止めることができないように、気持ちが抑えられなくなった依子ちゃん。無意識の内にトーカちゃんの頭へ手が伸びます。だってしょうがないじゃない、トーカちゃんが可愛過ぎるのがいけないのよ。

 

「おー、よしよし。いい子いい子してあげるからねぇ……」

 

「ちょっ、なに⁉︎やっ、やめ!」

 

キマシタワー

突然の凶行に走る依子ちゃんに驚きつつ、全力で阻止するトーカちゃん。そのじゃれ合いはなかなか終わらず、トニオさんがスパゲティを持ってくるまで続きましたとさ。

 

ここで一旦cmです。

 

 

 

東京都名所その①

 

『イタリア料理店・トラサルディー』

 

[行き方]行きたい 誰か教えて

 

決まったメニューがない、一風変わった料理店。

店主が、客のその日の体調に合わせてメニューを考えてくれる。

席数が少ないので、行くときは予約をオススメする。

 

 

 

「次は第一の皿(プリモ・ピアット)パスタ料理です。名付けて娼婦風スパゲティ」

 

賞味期限は熱いうち。赤唐辛子が印象的なあのスパゲティ、娼婦風スパゲティの登場です。

ここで大川さんのナレーションが入ります。

 

 

 

『あまりにも忙しい娼婦が適当に作ったらうまかったというのがこの名の起源らしい。にんにくを使ったパスタにはチーズを普通かけないがこのパスタはかけて食べる』

 

 

 

イタリアではスパゲティ・アッラ・プッタネスカ呼ばれるこのスパゲティ。意味はまんま娼婦風のスパゲティですが、名前の由来は諸説あるそうです。(Wiki調べ)

では、2人に食べてもらう前に、今回も億泰君にお手本の食レポをしてもらいましょう。

 

 

 

『俺辛いの駄目なんだよな……でもよ思わず舐めたくなっちまうんだよこのスパゲティソース

食えるはずがねぇんだよなこんな辛いの……でもなんかクセになるっつーか一旦味わうと引きずり込まれる辛さっつーか……

たとえると『豆まきの節分』の時に年齢の数だけ豆を食おうとして大して好きでもねぇ豆をフト気づいてみたら一袋食ってたッツー感じかよぉ~~~っ!

うわああああ!はっ……腹がすいていくうよぉ~~~っ!食えば食うほどもっと食いたくなるぞッ!こりゃあよお―――ッ!!

ンまあーーいっ!!味に目醒めたァーっ』

 

 

 

以上、億泰君の食レポコーナーでした。

さて、依子ちゃんの前にスパゲティが置かれました。その量は一人前にしてはちょっと多めです。そして、トーカちゃんの前には空きの皿が置かれます。これは、初来店のお客様に対するトニオさんからのサービスです。

 

「少し、量を多めにしてありマス。どうぞ、お二人で食べてください。もちろん、追加の料金はいただきマセン」

 

「わぁ、ありがとうございます!よかったねトーカちゃん」

 

「……うん。そうだね」

 

山盛りのキャベツ……じゃなくて、山盛りのスパゲティを見て僅かに警戒心を露わにするトーカちゃん。感動のあまりすっかり忘れていましたが、今回の事態はっきり言ってかなりの異常事態です。どうして人間用の料理がおいしく感じたのか、今のところさっぱり分かっていません。

 

何故おいしく感じたのだろうか?この謎に包まれた料理は、本当に食べても大丈夫なものなんだろうか?身体に害はあるのだろうか?さっきのサラダの様においしいのだろうか?それとも普通の食べ物の様にまずいのだろうか?

 

考えれば考えるほど、胸中に様々な不安が湧き上がります。これまでの人生で培った常識とあまりに懸け離れた事態に、もしかしたらこれは夢なんじゃないかという疑心暗鬼にすら陥ります。頭の中では『絶対に怪しい。危険だ。食べない方がいい』と脳が警告をしています。

 

でも、

だけど、

これは、

なんというか、

 

 

 

すごく、おいしそう

 

 

 

目の前にあるのはイタリア料理店に赴けばどこでも見かけられるような、普遍的で、一般的なスパゲティとなんら違いは無い見た目をしています。先程のカプレーゼもそうでした。

それなのに、どうしてこんなに目を奪われるのか、どうしてこんなにもおいしそうに見えるのか、トーカちゃんには理解できませんでした。

 

「ゴクリ……」

 

思わず生唾を飲み込みます。思えばかなりの量の唾が口腔内に溜まっていました。そう、このスパゲティが目の前に現れてから、芳しい香りが脳にダイレクトに突き刺さる様に刺激して、食欲を掻き立てて掻き立ててしょうがないのです。

みるみる空腹感が増していきます。それは生存の危機を煽る、苦しみに満ちたグールの飢えとは全く違った初めての感覚でした。そこにあるのは、ただひたすら享楽を楽しみたいという期待感。これから体験するであろう快感を引き立てる為、脳が自ら胃袋を責め立てて準備した最高級のスパイス。

最早、危険があるかもしれないという懸念すら、怖いもの見たさという妖しい欲求と期待に変換されていきます。

 

「はい、どーぞ」

 

「あっ、ありがとう」

 

依子ちゃんの声にふと、我に返ったトーカちゃん。いつの間にやら、目の前の皿にはこんもりとスパゲティが盛り付けられていました。言うまでもなく、依子ちゃんが自分のお皿から取り分けたものです。

 

「いただきまーす」

 

依子ちゃんがフォークに巻きつけた熱々のスパゲティを冷ます為、ふーふーと息を吹きかけました。より一層香り立ち、強烈な刺激がまるで劇薬の様に脳を揺さぶります。そして、

 

「んー、辛いけどおいしー!」

 

それは天使の導きか、はたまた悪魔の囁きか。依子ちゃんがそれを一口味わったのを見た途端、一気にトーカちゃんの理性という名の箍が外れました。急いでフォークに手を伸ばし、皿を手前に引き寄せます。瑞々しい輝きを目の前に、キュウと小さくお腹が鳴りました。

 

「……いただき、ます」

 

いざ、実食。フォークにひと口分のスパゲティを巻きつけ、震える手でそれを口元に運びます。

 

幸福は、あと3cm先に

あと、2cm

あと、1cm

そして……

 

 

 

 

 

 

そこから先のことを、トーカちゃんはよく覚えていません。(ほん怖的場面転換)ひたすら無心で、ひたすら味わって、ひたすら至福で、ひたすらおいしくて、気がついたらお皿は綺麗サッパリ。スパゲティは跡形もなく無くなっていきました。

 

「おいしかった……」

 

口の中に残るのは新鮮なトマトソースの旨味の余韻と、舌をピリリと痺れさせる赤唐辛子の熱。そして、その熱を冷ます為に口にしたただの水さえ、この世のものとは思えないおいしさがありました。それは例えると、アルプスのハープを弾くお姫様が飲むような気品に満ちた爽やかな味。あるいは、3日間砂漠をうろついて初めて飲む水といった感じでしょうか。

 

「私、どうなっちゃったんだろ?」

 

小さく呟くトーカちゃん。どうやら、若干自身の正気を疑い始めてすらいるようです。そして、今まで感じたことのない味の連発に、最早彼女は自分の味覚を完全に信じられなくなっていました。

 

「……あっ」

 

ここでトーカちゃんは、ふとあることを思い出しました。自身の味覚をチェックするのに最適なものが、身近にあるではありませんか。

そう、思い出したのはトニオさんの『血の匂いがする』という発言です。このお店に来た時、トーカちゃんのお腹にはまだ治りきっていない傷があり、それを塞ぐ為に貼ったガーゼには血がべっとりとついていました。

自分自身の血の味は、戦闘の際に口の中を切ったりして散々味わったのでしっかりと覚えています。つまり、ガーゼに付着した血を舐めとって、それがいつもと同じ味に感じたならば味覚は正常ということになります。

不潔だしあまり気は進まないけれど、これは自身の正気を確かめる為には致し方ないこと。そう割り切ったトーカちゃんは、お腹のガーゼを剥がす為上着を脱ごうと、服の裾に手をかけました。

 

「……ちょっとお手洗い」

 

「あっ、うん。いってらっしゃい」

 

既の所で冷静になり、レストランでの唐突なストリップを踏みとどまったトーカちゃん。友人が外食中に上半身をはだけさせて血の付いたガーゼを舐め始めたら、おっとり依子ちゃんといえど救急車を呼んで頭の病院に連行したかも知れません。

という訳で、誰にも見られないようにお手洗いへ移動です。

 

 

 

少女移動中……

 

 

 

「何これ……どういうこと?」

 

鏡の前で驚愕の表情を浮かべるトーカちゃん。視線の先にあるのは、鏡に映ったまっさらで傷一つない綺麗なお腹。家を出る前には確かにあった傷が綺麗さっぱり無くなっている光景でした。その傷は、完治までにはあと1日はかかる筈のものでした。

トーカちゃんは赫子を出し、指先に小さな傷を作ります。赤い血が一筋流れると、傷口は緩やかに塞がっていきました。そして、そのスピードは明らかに普段より速まっています。

 

「料理が原因?でも一体何の為に……」

 

不可解な現象の数々、そのトリガーとなっているのはトニオさんの料理と考えて間違い無いでしょう。しかし、この現象の理屈も起こす理由もこれっぽっちも見当がつきません。思い悩みながら、トーカちゃんは流れた血を舌で舐めとりました。

 

「……まずっ」

 

いつも通りの血の味ですが、直前まで食べていたスパゲティとの格差の所為で余計にまずく感じます。そしてトーカちゃんは、そのまずさに若干の安心感を覚えました。味覚が正常だということがこれで確かめられたからです。それはつまり、トニオさんの料理は人間が食べても喰種が食べても、おいしく感じるものだということを意味しています。

 

「やっぱりあの料理は異常すぎる。何を企んでるか知らないけど、変なもの混ぜ込んでないか確かめないと」

 

厨房へと乗り込む覚悟を決めたトーカちゃん。捲り上げていた服を下ろし、血のこびり付いたガーゼを屑かごに捨てました。

 

 

 

トイレから出ると、何かを焼く音が狭い店内に響いていました。どうやらトニオさんは厨房で料理を作っている真っ最中のようです。

 

「秘密を暴いてやる」

 

出来れば、トニオさんにバレない様に盗み見をしたいトーカちゃんは、なるべく足音を立てない様に歩みを進めます。緊張感からか、日差しと電灯で照らされている筈の店内が異様に薄暗く感じました。

 

「肉の匂い、まさか人肉料理?いや、流石にそれはないか……」

 

喰種の鋭敏な嗅覚が捉えたのは、微かな血の匂いと焼けた肉の匂い。トーカちゃんの頭をよぎったのは、自称美食屋の変態と喰種レストランという生きた人間を調理して喰らう悪趣味なレストランでした。今日食べた料理が人肉を調理したものだという可能性は、決して0ではありません。

ですが、トニオさんの作った料理は見た目も味も人肉とは全く違ったものでしたし、漂う匂いも人のそれとはまた違った様に感じます。トーカちゃんは深読みのし過ぎはよくないと考え、頭に浮かんだ想像を振り払いました。

と、その時。

 

「きゃーっ!」

 

ガシャンッ!ドサッ!

 

「依子っ⁉︎」

 

店に響いたのは依子ちゃんの悲鳴と、大きな物音。テーブルの方を振り返ると彼女の姿は

無く、椅子の上に置かれた小さなショルダーバッグだけがポツリと残されていました。

悲鳴が聞こえたのは厨房の方、そして僅かに漂うのは、人の血の匂い。

 

喰種にも食べられるもの

肉を使った料理

人間の血の匂い

 

「まさか、本当にっ⁉︎」

 

トーカちゃんの頭に思い浮かんだのは、かつて見た月山さんの獲物となった人間が調理される光景。部位ごとに解体されるマグロの様に、或いは子供が虫をバラバラにして遊ぶように、人が人でなくなる過程。

最悪の光景が次々に目の裏に浮かび上がります。もしトニオさんが喰種なのだとすれば、厨房の奥でその想像が現実のものとなっている可能性は十分に有り得ます。

 

「絶対にさせない!」

 

強い決意を込め、叫びました。

頭から爪の先まで至る所のRc細胞が熱を帯びて、身体全体が沸騰したような感覚に襲われます。そして、その逃げ場を無くした熱を、全て動力源に変えて足を踏み出しました。

 

ドウッ!ベキャッ!

 

あまりの衝撃に、床板はヒビ割れ落ち窪みます。羽赫の特徴である人知を超えた速度。まるで音に追い縋ろうとしているかの如き疾走。世界を縮めるその駿足は、たったの2歩で目標の場所へ身体を運びます。そして、少し顔を出した赫子と赫眼のことを気にも止めず、そのままの勢いで厨房へと飛び込みました。

 

「依子っ‼︎だいじょ……う……ぶ?」

 

 

 

依子がトニオさんを押し倒している

 

 

 

トーカちゃんにはそのように見えました。

赫子も赫眼も瞬時に引っ込み、氷水をぶっかけられたかの様に一瞬で体の熱が冷めました。やっぱりこれは夢なんじゃないかと現実逃避すら試みるトーカちゃん。

 

「とっ、トーカちゃん⁉︎えっと、えっとね、コレは違くて!あのその私が転びそうになったのをトニオさんが庇ってくれて、そしたらこうなってちゃってそれでそのだから私が押し倒したとかそういう訳じゃないんだよ⁉︎」

 

飛び込んで来たトーカちゃんに気づき、顔を真っ赤にしてすっごい早口で弁明する依子ちゃん。どうやら、厨房にあった段差に気づかずに足を踏み外してしまい、そのまま倒れそうになった所をトニオさんが体を張って助けてくれたようです。その結果、漫画やラノベでよく見る光景が再現される結果となったのでした。

筆者すら予想だにしなかった展開にトーカちゃんは唖然。仕方がなかったんです。シリアスパートからそれをぶち壊すという原作通りの流れをやりたかったけど、シリアスパートをうまく盛り上げられなかったんです。だからぶち壊しパートを思いっきりはっちゃけさせるしかなかったんです。

さて、ベッタベタなラブコメ展開に一瞬放心状態に陥ってしまったトーカちゃん。ややあって気を取り戻し、落ち着いた目で縺れ合う2人を眺めます。

 

「えーっと、色々聞きたいけど、取り敢えず退いてあげたら?」

 

「あっ、そうだった!ごめんなさいトニオさん!私の所為で怪我を……」

 

慌てて立ち上がった依子ちゃん。そして、彼女が心配そうに見つめる先には、一筋の血が流れるトニオさんの手がありました。倒れた拍子に、お皿の破片で切ってしまったようです。トーカちゃんが感じ取った血の匂いは、トニオさんのものだったということですね。

 

「ワタシのことならお気になさらずに。それより、お怪我はありませんカ?」

 

依子ちゃんが横に退けた途端スクッと立ち上がって、座り込んだままの依子ちゃんに怪我していない方の手を差し伸べるトニオさん。自分より他人を心配する紳士がそこにいました。

 

「ありがとうございます」

 

依子ちゃんが差し出した手を取って、立たせてあげるトニオさん。2人に向かって優しく微笑みかけ、何事もなかったかのようにこう言いました。

 

「では、料理を続けましょうか」

 

 

 

『メイド・イン・ヘブン!』

 

 

 

結局、トーカちゃんが飛び込んだ時には既に料理がほぼ完成状態だったらしく、作る過程を見ることは叶いませんでした。なんだか気が抜けてしまったトーカちゃんは、トニオさんに促されるままテーブルへと戻ったのでした。

そして現在、第二の皿(セコンド・ピアット)である子羊背肉のリンゴソースかけを食べ終えた2人は、デザートのプリンを楽しみながら雑談をしていました。

 

 

 

『我慢できねぇ!腹が痛いけど食わずにはいられねぇ!

リンゴソースの甘ズッパさと子羊の肉汁がのどを通るタビに幸せを感じるッ!こんな味がこの世にあったとはァーーーッ

幸せだァーーーッ幸せの繰り返しだよぉぉぉぉぉ〜〜〜っ ンまあーーいっ』

 

 

 

BGMとして億泰君の食レポが流れています、風流ですね。

 

「ところで、依子はなんで厨房にいたの?」

 

「いやぁ、トニオさんの料理が何であんなにおいしいのか気になっちゃって、少しだけ見学させて貰ってたの。実は私、調理師さんになるのが夢なんだ」

 

「へぇー、そうなんだ。いいね、きっと繁盛するよ。……それでトニオさんの料理のことなんだけど、何かおかしなことはなかった?(怪しげな粉とか人骨とか)」

 

「おかしなこと?うーん、特には無かったかなぁ。凄いテクニックだったけど、これといって特別なことはしてない感じだった。(どうしてこんなに味が違うんだろう?)」

 

ちょっと意味合いは異なりますが、2人とも味の秘密を知りたがっているようです。

 

キィー……パタン

 

「いらっしゃいマセ」

 

おっと、ここでもう1人お客さんの来店です。物音に振り向いたトーカちゃんは少し驚いた表情を見せます。

 

「入見さん?」

 

「やっほ」

 

黒狗こと入見カヤさんのご来店です。

 

「そちらはお友達?」

 

「はい。初めまして、トーカちゃんのクラスメイトで親友の小坂依子です」

 

「私は入見カヤ、トーカとは同じバイト先の先輩よ」

 

入見さんは隣のテーブルの席に腰掛けると、コーヒーを1つ注文しました。

 

「入見さんはどうしてここに?」

 

「偶然よ、あなたを見かけたから声を掛けに来ただけ。それより、お腹の調子悪そうだったけど大丈夫なの?」

 

この言葉が指しているのは、お腹の怪我のことと人間の食事を食べて大丈夫なのか、という意味です。その意味を正確に受け取ったトーカちゃんは、大丈夫だという旨を伝えると共にあることを閃きました。

 

「入見さんはお昼はまだ?」

 

「えぇ、そうね。まだ食べていないわ」

 

「じゃあ、ここで食べていかない?おすすめだよ、今まで食べたことないくらいすっごくおいしいから」

 

入見さんの瞳が妖しく光りました。彼女の脳裏に浮かんだのも、やはり喰種レストランという単語のようでした。喰種が喰種を食事に誘うということは、つまりそういうことです。

 

「ふーん、そうなの。じゃあ食べていこうかしらね。一人前、お願いするわ」

 

「かしこまりまシタ」

 

コーヒーを持って来たトニオさんは、入見さんの注文に恭しく答え、厨房へと戻ろうとします。それを、トーカちゃんは呼び止めました。

 

「トニオさん、ちょっとお願いがあるんだけど、料理を作るところ見学させてもらってもいい?依子も気になってるみたいだし」

 

「もちろん、構いまセン」

 

トニオさん即答。ちょっと呆気に取られるトーカちゃん。

 

「えっ、でも色々迷惑かけちゃったし、これ以上お邪魔する訳には……」

 

「先ほどのことなら気にしないでくだサイ。段差があることを伝えていなかったのは、ワタシのミスです。依子さんは調理師を目指しているのですよネ?だったら遠慮する必要はありまセン。ワタシも最初から料理が出来た訳ではありません。色々な人に教えてもらって今のワタシがありマス。今度はワタシが教える側に立つ時でス」

 

渋る依子ちゃんをトニオさんが焚き付けます。そして、それを聞いた依子ちゃんの瞳は、憧れの人を前にしたかの様に輝いていました。

 

「えっと、それじゃあ、よろしくお願いします!」

 

「お願いします」

 

「はい、では付いてきてくだサイ」

 

2人はトニオさんの後に続いて、厨房へと入って行きました。




食べて帰るだけの予定だったのにいつの間にか厨房見学が始まっていました……
全く考えてないので全カットするかも知れません。

次話はまた1ヶ月後ぐらいに投稿出来ればいいなぁと思っています。



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