トニオ「ワタシの料理は、グールの人でも食べられるように作ってるんですよ」   作:紅羽都
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文章が肌に合わないと感じた方は3話からは多少改善されていると思うので、そちらから読み進めることをお勧めします。


イタリア料理を食べに行こうin東京喰種 前編

ある日ある時ある学校で、2人の女子生徒が楽しそうに会話をしていました。

 

「ねぇねぇ、トーカちゃん。今度の日曜日何か予定ある?」

 

「ないけど……どしたの、依子?」

 

「それがね、私この前すっっっごく美味しいイタリアンのお店見つけたの!それで、また行こうかなーって思ってるんだけどトーカちゃんも一緒に来ない?」

 

「…………」

 

親友の申し出に若干悲しげな表情を見せるトーカちゃん。それもその筈、トーカちゃんの本当の姿は人の肉を食べるグール。普通の人間の食べる料理は、とってもとっても不味く感じてしまい、そして身体にも悪い為これっぽっちも食べたくはないのです。

親友からの「あーん」攻撃にも大変な思いをしているトーカちゃん。レストランで料理を食べるなんてとんでもありません。出来ることなら断りたいのですが……

 

「トニオさんって人がやってるお店なんだけどね、私がこれまで行ったお店の中でダントツ1番美味しかったの。凄いんだよ、パスタを食べたんだけど、食べれば食べるほど美味しすぎてお腹が空いてきちゃうの。その所為でつい食べ過ぎちゃったんだけど————」

 

満面の笑みを浮かべて楽しそうにレストランについて語り続ける親友の姿を見ると、断るに断れません。トーカちゃんは依子ちゃんにベタ甘なのです。断るべきだ、でも断りたくない、心はメトロノームのように行ったり来たり。つい、上の空になって思い悩んでしまい、依子ちゃんの話にも生返事になってしまいます。

 

「ダメ、かな……?」

 

「行く」

 

トーカちゃんが乗り気じゃないことに気付いて少し落ち込む依子ちゃん。そして、寂しそうな顔と声の依子ちゃんを見て、トーカちゃんはノータイムでOKを出します。依子ちゃんを悲しませるなんて断じて許せないトーカちゃんなのでした。もし依子ちゃんを泣かせるような輩が現れたら、そいつはトーカちゃんの赫子の餌食になるでしょう。

さてさて、依子ちゃんは大はしゃぎ。あれやこれやとお出かけについて楽しそうに語ります。そんなこんなで、女子2人による『イタリア料理を食べに行こうin東京グール』が幕を開けることになりました。

 

 

 

『キング・クリムゾン!』

 

 

 

今日もお疲れ様ですボス。

さあ、依子ちゃんにとっては待ちに待った日曜日。トーカちゃんにとっては地獄のポーカーフェイス特訓の日がやって来ました。依子ちゃんの案内で件のお店へと向かいます。

 

「うーん、思い出しだけで涎が止まらないよぉ。なんかこう、ずぴって感じで」

 

「ははっ、なにそれ」

 

テンションアゲアゲな依子ちゃんに苦笑するトーカちゃん。なんだかんだで一緒のお出かけを楽しんいるようです。このままレストランに着かずに、ずっとぶらぶら散歩でもしていたいなぁ、なんて思いながら依子ちゃんの隣を歩きます。

 

「そろそろ着くよー」

 

勿論そんな訳にはいきません。2人の前の看板には『イタリア料理 トラサルディー ここ左折100M先➡︎』の文字。地獄の刑場はもう直ぐ先まで迫っているようです。トーカちゃんは溜息を噛み殺しました。なんだか既に口の中が苦くなってきた気がして、気が滅入ってしまいます。

 

「ここだよ!」

 

『レストラン・トラサルディー』お洒落な文字列が掲げられています。そして、看板には『3,500YENより』と高校生にはかなりお高いお値段が書かれています。トーカちゃんは益々憂鬱な気分になってしまいました。

 

「どう?雰囲気いいでしょう?」

 

「うん、そうだね」

 

軽い足取りでレストランへ歩いて行く依子ちゃん。意気揚々とOPENと札の掛かった扉を開きます。

 

「いらっしゃいマセ」

 

2人を迎え入れたのはコック帽を被った金髪碧眼の外国人男性でした。

 

「こんにちは、トニオさん」

 

「こんにちはヨリコさん。また来てくれてありがとうございまス。ワタシとても嬉しいでス。そちらの方はお友達ですか?」

 

「はい、親友のトーカちゃんです!トーカちゃん、こちらがここのお店の店主のトニオさんだよ」

 

親友と呼ばれて嬉しいトーカちゃん。ちょっぴり頬が緩みます。

 

「初めましてトーカさん。ワタシ、トニオ・トラサルディーといいます。トニオ、と呼んでください」

 

「……霧島薫香です」

 

緩んだ頬が一瞬で固まりました。挨拶されたからしぶしぶ返した、という感じの素っ気ない返事するトーカちゃん。これからこの見ず知らずの人の料理を食べなければならないのか、てな感じでテンションが急降下しています。

 

「それでは、お好きな席にお座りくだサイ」

 

促された2人は近くの席に腰掛けました。さて、量が少なそうなのを選んでさっさと食べ終えてしまおうと考えたトーカちゃんは、キョロキョロと周りを見渡しました。そして、目的のものが見つからないと分かるとトニオさんに質問をします。

 

「あの、メニューはどこですか?」

 

そう、それは当然の疑問です。メニューが無いのです。テーブルの上には見当たりませんし、トニオさんが持っているという訳でもなさそうです。

さあ、皆さん。この質問が出たということはつまり、あれが聞けるということです。トニオさんのセリフの中でもトップクラスに有名なあのセリフが!

 

「このお店にはね、メニューが無いんだよ」

 

ああっ、なんということでしょう!依子ちゃんがトニオさんのセリフを奪ってしまいました!某名作泥棒映画風に言うと『彼女はとんでもないものを奪っていきました、トニオさんの名言です』みたいな感じです!でも、かわいいので許します。

 

「メニューが無いってどういうこと?」

 

「トニオさんがお客さんを見て相応しい料理を決めるんだって。私も初めて来た時びっくりしちゃった」

 

「なにそれ、変なの。じゃ、私あんまお腹空いてないから、取り敢えずカプチーノ1つ」

 

「かしこまりまシタ」

 

メニューは無いけどトニオさんは注文すればちゃんと作ってくれます。ご安心ください。

 

「もう、トーカちゃん。ちゃんと食べないと栄養失調になっちゃうよ?」

 

調理師を目指している依子ちゃんは、食には少し気を使っているようです。やっぱり食べるしかないか、と諦めムードのトーカちゃん。そこに思わぬ援護射撃が、

 

「ヨリコさん……あなた少し栄養が足りていないヨーデスが、食事制限をされていますネ?」

 

トニオさんからの突然の指摘、依子ちゃんはビクッと肩を震わせました。ああ、これは間違いなく図星ですね。

 

「えっ⁉︎あ、あはは……あの、その、この前来た時食べ過ぎちゃったのが気になってて……」

 

「それはダメでス。ムリなダイエットは身体に毒です。脂肪を分解する効果のある特製のお茶をお出ししますカラ、今日は気にせず好きなだけ食べてください」

 

「すみません……ありがとうございます」

 

トニオさんの正論にぐうの音も出ない依子ちゃん。少し減らしただけなので平気だと考えてたみたいですが、トニオさんの目は欺けません。ちなみにトニオさんの言った特製のお茶というのは、余分な脂肪を1日分完全に分解しきってしまう優れものです。流石トニオさん。

トニオさん、今度はトーカちゃんに熱い眼差しを向けます。じっくり見られてちょっとたじろぐトーカちゃん。吸い込まれるような青い瞳に目が離せませんね。

 

「トーカさんも栄養が不足していますね……でも、あなたのそれはダイエットではない。食道が少し荒れていますね……もしかして、あなたは食べたものを戻してしまっているのですか?」

 

トーカちゃんの目が驚きで僅かに見開かれました。どんぴしゃりです。流石トニオさん、グール相手にも平然とやってのける!そこにシビれる!あこがれるゥ!

さて、少し焦ったトーカちゃんですが、顔は無表情を保っていました。まるで氷のようなポーカーフェイスです。そして整った眉をひそめ、心底呆れた表情を作ります。

 

「は?何言ってんのアンタ?」

 

可愛らしいお顔ですっとぼけたトーカちゃん。この時点でトーカちゃんはトニオさんが白鳩の関係者で、鎌をかけてきたのではないかと疑ぐり始めました。

実際こういう手を使って探りを入れてくる捜査官がいたとかいなかったとか、経験豊富な芳村さんからのありがたい教えです。年の功ですね。もちろん捏造設定です。

 

「おや?ワタシの勘違いでしたカ。ふーむ困りました、ワタシにはトーカさんの体調が分かりません」

 

お手上げのジェスチャーを見せるトニオさん。その仕草はとても様になっています。それはいいとして、どうやらグールの診察をするのは今回が初めてのようです。

珍しく弱気な表情を見せるトニオさん。ですが、次のコマでは既にジョジョ特有の不敵な笑みを浮かべていました。

 

「ですが、これだけは分かりマス。トーカさん、あなた……」

 

ここで一旦タメを作ります。粋な演出ですね。

 

「血の匂いがします」

 

ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"ニフ"とか┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"とか、背景に浮かんでいそうな感じでした。少なくともジョジョファンにはそういう風に見える筈です。

「血の匂いがする」その言葉は大きく分けて2つの意味でとることができます。1つは人殺しの気配を感じ取った勘のいい熟練の白鳩として、もう1つは血の匂いを嗅ぎ分けた鼻のいいグールとして、そのどちらかです。トーカちゃんはそのように考えました。もう警戒心はフルMAXです。

 

「あなた、もしかして……」

 

 

 

 

 

 

グールですか?

 

 

 

 

 

 

トニオさんが次に言うであろう言葉が、トーカちゃん脳裏に浮かびました。トーカちゃんピンチ! しかし、依子ちゃんがいるので下手な行動は取れません。脳の出す警鐘が体中を駆け巡りますが、どうすることもできません。嫌な汗が背筋を伝います。そして、トニオさんがゆっくりと口を開きました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生理中ですか?」

 

 

 

 

 

 

っていう、ハイウェイ・スターの使い手の墳上裕也くん(鼻がいい)のネタが本当はやりたかったのですが、トニオさん紳士なので多分そんなことは言いません。収拾がつかなくなりそうなのでここは無難にいきましょう。

 

「どこかケガをしていますね?」

 

これですよこれ!これこそこのトニオ・トラサルディーのイメージ!女性の身を案じる紳士的なキャラクターです。

さてさて、トニオさんこれも大当たりのようです。実は先日、白鳩とちょっといざこざがあったトーカちゃん。お腹の辺りに結構深い傷ができてしまい、まだ治りきっていませんでした。

 

「さっきから、何の話?あんた医者なわけ?」

 

この質問にもとぼけるトーカちゃん。依子ちゃんに余計な心配かけたくないからね。怪我しているなんて言いたくないのです。

 

「いいえ、ワタシは料理人でス。そして、お客様に快適になってもらうのが本分デス。では、ワタシは一旦失礼しマス」

 

厨房へと引っ込むトニオさんを怪訝な目で見送るトーカちゃん。その瞳は『こんなんでオイシイ料理ができるのか⁉︎』と疑っていました。

 

 

 

『キングクリムゾン!』

 

 

 

暫くして戻って来たトニオさん。トーカちゃんの前に差し出されたのは、

 

「カプチーノでス」

 

カプチーノでした。香ばしい香りが温かな湯気に乗って、テーブルに座る2人を包み込みます。

 

「へぇ……」

 

ポツリと零したトーカちゃん。仕事柄、コーヒーにはうるさい彼女ですが、どうやら香りは合格のようです。それも、かなりの高得点。

 

「いただきます」

 

香りや良し、はてさて味は如何なものか。何やらプロ根性の様なものが顔を出し始めたトーカちゃん。表情も一気に引き締まり、真剣にテイスティングに臨むようです。そしてカプチーノにゆっくりと口をつけ、僅かに一口、舐めるように啜りました。(そして、作者はコーヒーを一切飲まないので、テイスティングの仕方はサッパリなのでした)

 

「……おいしい」

 

そう呟いたトーカちゃんは、とても満足気な顔をしていました。心の中では「店長のコーヒーの方が断然おいしい」と言う気満々だったのですが、人は本当においしいものを食べると「おいしい」以外の言葉が出なくなってしまうのです。トーカちゃんは今、とても暖かい高揚感と安らぎに包まれていました。

 

(でも、店長のコーヒーの方が絶対おいしい)

 

そして、トーカちゃんは意地っ張りなのでした。実際はどちらの方がおいしいのか、それは読者の皆様のご想像にお任せするとしましょう。

 

 

 

「前菜(アンティパスト)はモッツアレラチーズとトマトのサラダです」

 

さて、トーカちゃんが少しトニオさんのことを見直している一方で、依子ちゃんの料理は本格的にスタートを切っていました。

 

「モッツアレラチーズは脂肪ぬきした柔らかくて新鮮なチーズのことデス。イタリアではみんな好んで食べテル、もっとも代表的なアンティパストのひとつデス」

 

「あ、私知ってます。カプレーゼって言うんですよね?」

 

「Exactly(そのとおりでございます)インサラータ・カプレーゼ、カプリ島のサラダという意味でス」

 

皆さんお待ちかね、トニオさんモッツアレラチーズとトマトのサラダのお出ましです。漫画を読んで実際に作ってみた人も多いことでしょう。私の兄貴も作っていました。誰だってそーする。

 

「トマトを一番最初に料理に使ったのはイタリア人でス。トマト料理をさせたらイタリア人に敵う者はいません。これは自慢ではありません、誇りなのでス」

 

『自慢では無く誇り』ンッン~名言だなこれは

それはさておき、依子ちゃんの前にお皿が置かれました。交互に盛り付けられたチーズとトマト、白と赤のコントラストが見る者の気を盛り上げ、一層食欲をそそります。依子ちゃんはもう辛抱堪りません。

 

「それじゃあ、いただきまーす!」

 

さあ!今、依子ちゃんがチーズとトマトを一緒に口へと運びました!

では、ここからは特別に億泰君に食レポをしてもらいましょう。億泰君お願いします。

 

 

 

『ゥンまああ~いっ!

さっぱりとしたチーズにトマトのジューシー部分が絡みつくうまさだ!チーズがトマトを、トマトがチーズを引き立てる!

ハーモニーっつーんですか?味の調和っつーんですか?例えるならサイモンとガーファンクルのデュエット!ウッチャンに対するナンちゃん!高森朝雄の原作に対するちばてつやのあしたのジョー!っつー感じっすよ!』

 

 

 

以上、億泰君からでした〜

さて、場面は戻って依子ちゃん。彼女は完全にメシの顔をしていました。メシの顔が何だか分からない人は画像検索をしましょう。幸福になれるかもしれません。

 

「んぅ〜!おいしぃ〜!」

 

トニオさんのお客様に快適になってもらうという志には一点の曇りもありません。依子ちゃんは今、幸せの絶頂にいました。そして依子ちゃんは億泰君と違って心優しいので、幸せを独り占めせずに皆んなに分け与えたくなってしまうのでした。

 

「ほら、トーカちゃんも食べて食べて!ホントすっごい美味しいんだから!」

 

「う、うん」

 

怒涛の勢いに押されて、若干素で及び腰になってしまったトーカちゃん。ですが、このあーん攻撃は想定済みの事態、覚悟は完了しています。トーカちゃんは普段から依子ちゃんのお弁当を食べさせて貰っているので、これくらいどうってことありません。

 

「はい、どーぞ」

 

「……ん」

 

あら^〜

食べやすいよう、一口サイズに切り分けられたカプレーゼを依子ちゃんが差し出します。それに合わせてトーカちゃんも口を開きました。そして、トマトとチーズが口の中へと運ばれました。

 

 

 

「んっ……んぐっ⁉︎」

 

 

 

突然ですが、産まれた時から目が見えなかった人が、急に目が見えるようになったどうなるでしょう?触覚が機能していなかった人が、突然触れられる感覚を得られるようになったら?それはきっと、与えられる刺激が強すぎて"痛い"と感じるのではないでしょうか。刺激から身を守ろうと、目を閉ざし、体を遠ざけるのではないでしょうか。

トーカちゃんはそうでした。舌が焼けるような圧倒的刺激。"それ"が一体何なのか、初めて感じるが故に理解出来ない。味覚で踊り狂う情報が、キャパシティをオーバーして脳がパニックを起こす。咄嗟に吐き出しかけた"それ"をすんでの所で堪えるのが、今のトーカちゃんには精一杯でした。

次第に冷や汗が顔を伝い、動悸がし始めます。飲み込むことも忘れて、呼吸を荒くしながら心を落ち着かせることに努めます。痙攣して震える身体を抑えつけるように、腕を肩に回します。やがて、長い長い時間を掛けて、漸くトーカちゃんは"それ"が何なのかを理解し始めました。ゆっくりゆっくりと"それ"を噛み締めて、少しずつ少しずつ。

 

 

 

きっと

きっとそうだ

そうに違いない

これが

これこそが

私が求めていたもの

 

 

 

「"ひと"だ」

 

 

 

トーカちゃんの頬を涙が伝いました。ポロポロ、ポロポロと止め処なく溢れてきます。そして、トーカちゃんはそれを拭うことなく、ひたすら口の中に迸る人の味覚を味わい続けました。




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