野次
「尚文、その言い方だと完全にタダの脅しだぞ」
「いや、脅しているんだけど……聞く耳持たせるのには早いと思って」
錬との問答はささっと切り上げ、お義父さんは言葉は通じていると理解したのか、更に訴え掛けます。
「えっと……わかってると思うけど、俺に押さえつけられている時点で貴方は敗走の色が濃い。俺の後ろにいる人達は一人でも貴方を十分に倒せる力を持っている」
これはお義父さんの交渉術の一つ、脅迫ですな。
相手がこちらと話し合いをする気が無い時に行うと前回、お義父さんが仰っていました。
聞く耳を持たせる強引な手だそうですぞ。
現にライバルはお義父さんの提案に動きが止まりましたからな。
ですが――
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
知らないとばかりに雄叫びを上げましたな。
愚かな。
やはり俺の出番ですかな?
チャキッと槍に入れている力を強めます。
「何、キラキラした目で見てるの? 少なくとも元康くんの考えている事はしないよ?」
「そうですか、残念ですな」
「元康、お前本当に何しに来たんだ……」
「実はこのドラゴンを倒したいだけなんじゃないですか?」
何しにですと?
強引に加入させるのではなかったのですかな?
ドラゴンを倒す件については……正直、どっちでも良いですぞ。
興味が無いとでも言えば良いですかな。
……やはりお義父さんの寵愛を得ようとするライバルは蹴落とすべきですかな?
「なんか引っ掛かるけど続けよう……これで聞かないとしたら、餌で釣るしかない」
お義父さんは錬の方に目を向けますぞ。
「錬、竜の核石をこっちに!」
「わかった」
この時の為にと準備していた今まで倒したドラゴンの核石を入れた大きめの袋を錬はお義父さんに投げ渡しました。
その袋をお義父さんはライバルに見せつけますぞ。
「君は弱い方の竜帝だと聞いた。この核石を条件に、こちらの話を聞いても良いんじゃないかな? 決して悪い話にはさせない!」
「ギャオオオオオオオオオ!」
ライバルはお義父さんに向けて火を吐きつけましたぞ。
お義父さんは防御すらしません。
炎がまるで柳の葉に風が通り抜けるようにお義父さんを包んで通り抜けました。
「ギャオ!?」
ライバルが絶句したのは一目でわかりますな。
そこには無傷で立っているお義父さんがいました。
「これでわかった? 君は俺達を傷つけることすら出来ない。だから話を……聞いてほしい」
ライバルは諦めたとばかりに戦意を喪失させ、お義父さんに頭を垂れましたぞ。
「今のはヒヤっとした」
「ええ、尚文さんの防御力は理解していましたが、さすがに危ないんじゃないかと思いましたよ」
「そうだな。しかしさすがは盾の勇者って事か……ドラゴンのブレスが湾曲してたぞ……」
サクラちゃん達は未だに飛び出そうとしております。
俺は交渉が成功したのを理解して落ちつきました。
「……して、我に何の用だ」
諦めたとばかりにため息交じりにライバルは喋りましたぞ。
ライバルが戦意を喪失したのを察した周りの魔物達は逃げるようにこの場を去りました。
「まったく……何をどうすれば我と交渉しようなどと思うのだ」
「うーん、こっちにも色々と事情があるんだけど、まずは目的に関してかな。フォーブレイに強力な竜帝がいるんだけど、そいつは俺達の敵なんだ。その竜帝をこっちが倒すから、欠片を条件に……力を貸してほしい」
「ほう……破格の条件だな。汝らが本当にその竜帝を倒せると言うのならの話だが」
「俺達は四聖勇者だからね。しかも十分に強さを持ってるから戦闘自体はすぐに終わると思う」
「信用に値するか判断は出来ぬが、拒否しようものなら我はどうなるのだ?」
「それは……出来ればってだけだね。ダメならこの核石で新しくドラゴンを育てて説得するだけだよ」
どちらにしても必要な事ですからな。
正直、ライバルでなくてもドラゴンなら問題無いですぞ。
「前回のライバルに頼まれたから優先してやっただけですぞ」
「そうですわ! 元康様の善意とナオフミ様の優しさに感謝するのですわ」
「そうそうー仲間にならず出てけー」
「出てけー」
「出て行けですぞー」
ここで俺とフィロリアルの野次が炸裂ですな。
皆で出て行けコールをしまくりますぞ。
「う、うざい……」
「誰の所為でこんな所に来たと思っているんでしょうね」
「えっと……あっちは気にしない方向でおねがいします」
と、お義父さんがライバルに言っていますな。
俺達はめちゃくちゃ気にしてますぞ。
「む……フィロリアル共に拒絶されるとはますます以って話に乗らねばならん」
「なんだか口調は仰々しそうなのに子供っぽい感じがしますね」
「そうだな。重厚な声と台詞が噛み合っていない」
錬と樹も援護射撃してくださっていますぞ。
俺達は更に声を張り上げて出ていけコールを強めます。
「……しかし美味い話には裏があると言うが、とりあえず話を聞こうではないか」
「まあ、そうだね。じゃあ何から話すべきかな……そうだなぁ……俺達がここに来て君を説得しようと思った経緯からにしよう。まずは――」
お義父さんはライバルに向けて話し始めましたぞ。
俺がループしていて、錬や樹の信頼を得てお義父さんを助けた事から始まり。
前回のループでの出来事を俺から聞いた範囲で説明をしてくださいました。
「で、助手って元康くんは呼んでるけど、貴方の養子に亜人の女の子が居るらしいんだ。その子を前の周回で俺が保護したらしい」
「ふむ、作り話として一蹴する事は可能だな」
「まあ、ね。決定的な証拠を出すのは難しいと思う」
未来で手に入る話で証明するのは色々と難しいですな。
このライバルを説得するのに必要な情報は何か無いか俺も考えますぞ。
「だが……四聖勇者に従うというのも一考の余地はある。内容に問題があったとしてもだがな」
「強くさせる、というのは保障するよ。最初は利害関係だけでも良いから信じて欲しいんだ」
ライバルはユキちゃん達を一瞥しておりますぞ。
このライバル、何だかんだで強さに対して欲求が強いですからな。
「ふむ……わかった。ならば我も少々反則的な予防線を張っておくとしよう。要求を呑む条件として、汝らが寄越そうとした核石を数点要求する。騙すつもりはない」
「え? うん」
お義父さんが核石を取り出してライバルに渡しますぞ。
ふわりと数個の核石が浮かび上がり、ライバルはそれを食べましたな。
若干、ライバルの力が増加したように見えました。
「報酬の前倒しだな……一緒に来るが良い」
ライバルはそのまま俺達を巣穴の方へ案内しますぞ。
巣穴の前ではライバルの配下と言うか嫁とかですかな? が、各々生活している様ですぞ。
俺達は少し離れた所でライバルが巣穴に戻るのを確認しました。
ライバルは鳴き声で魔物達と会話しております。
その中に助手がおりましたぞ。
今まででお義父さんと話をしていた時のような純粋そうな顔をしております。
何やら一匹の魔物に寄り添って、卵を大事そうに抱えておりますな。
「お帰りなさい! お父さん」
「ふむ……良い子にしていたか?」
「うん! さっきね、少しだけピクってこの子が動いたんだよ!」
「おお。早く孵ると良いな」
「どんな子が出てくるのかな? 弟? 妹? とても楽しみ!」
とても楽しげですな。
ライバルも何やら微笑ましいとばかりに笑みを浮かべている様ですぞ。
「それでだなウィンディア。ちょっと話があるのだ」
「なーに?」
助手は言い辛そうにしているライバルに向けて首を傾げていますぞ。
「うむ……その、な。ウィンディア……とても酷な話であるのだが……わかっていると思うだろうが、実は汝は我の実の子では無い」
「……」
助手は俯いておりますな。
「……うん。だから……?」
「その、だな……我の巣穴から自立する時が来ると我も思っている」
助手はライバルを涙目で見つめておりますぞ。
ライバルの方は何やら挙動不審なのか隠れているこちらに何度も視線を向けようとしておりますな。
落ち着きの無い奴ですぞ。
「機会が来ればと我も先延ばしにしていた。もう少し大きくなってからとな……ウィンディア、まだ汝は幼い」
「……お父さん?」
「だが、大きくなればなるほど人の世に戻れなくなるのもまた事実」
「じゃあお父さんのお嫁さんにして!」
なんとも無邪気な笑顔を助手はライバルに言いますな。
おや? ライバルが何やら赤面して仰け反った様に見えますぞ。
ハッ! 完全に親バカですな。
そんなんだから毎回錬に殺されるのですぞ。
「アレだよね。なんか惚気の現場を見せられてる様な気がしてきたよ。ギャルゲとかで主人公とヒロインの初デートの時にデバガメしてるサブキャラみたいな心境だね」
「なんですかその極端な例えは……まあ元康さんから聞いた通りヘタレっぽいドラゴンですね」
「あんまり強くも無いしな」
「ドラゴンにも生活があるのだと思うが……この一場面だけを見ると微笑ましい物があるな」
などと隠れている俺達はそれぞれ感想を述べますぞ。
ああ、ユキちゃん達はもう少し後方に待機してもらっております。
気付かれますからな。