誠意
そんなこんなで東の村に到着しました。
「不思議なほど問題なく来れたね」
「そうだな。ギルドとかに関しても何も無かった……」
「不気味ですね。メルロマルクで何が起こっているのか、少しばかり調べてから移動しても良いかもしれませんね」
「それでは村に立ち寄るか?」
エクレアが尋ねるとお義父さん達は首を横に振りました。
「むやみやたら宣伝する必要は無いだろ」
「ええ、無関係ですし、話によると守銭奴な方々みたいですから関わらない方が良いでしょうね」
「金に目が眩んじゃうようだし、最悪の結果になっても黙っていた方が良いでしょ」
考えは一つのようですぞ。
まああの村の連中はどうしようもない輩ばかりですからな。
多少はまともな者もいた様ですが、関わり合いになるのも面倒という奴ですぞ。
「じゃあ行きますかな?」
「そうだね。元康くん、巣穴の場所とか知ってる?」
「知ってますぞ。ですがその前に死体があった場所で待っていた方が良いかもしれません」
「確かに、言わば巣穴は奴にとって守らねばならない所の可能性が高い。交渉するならあちらも話しやすい所が良いだろうな」
「ところでお義父さん、交渉で仲間にするライバルの話なのですが」
「何? まだ何かあるの?」
「一度死んだライバルは、新しい体……その体にも意識があって、その体と同居関係にあるようなのですぞ。そのライバルが今のライバルが生きているとお義父さんに出会えなくて困ると言ってましたな」
「うーん……一つの体に二つの意識か。肉体の方に頼まれたって感じなのかな? その辺りは話をして聞いてみるしかないけど、難しそうだよね」
「色々と複雑な様ですね」
「どちらにしても一度遭遇して説得するしかないだろう。今の俺達の強さなら可能だ」
お義父さん達は一番強化している武器に各々変化させました。
これだけで既に右に出る者はおりませんからな。
やることはやるだけですな。
助手が俺に頼んだライバルを錬に殺させないと言う願いも錬に事前に話をしたお陰で回避できるでしょう。
「それで……ここがドラゴンの死骸があった所か……」
あの見た目だけは大きなドラゴンが死んでいたのは確かここでしたな。
さて……どうしますかな?
何だかんだでここは魔物の生息地ですぞ。
黙っていると時々魔物がやってきますな。
「とりあえず待機するか」
「いつでも戦闘に入れるようにしましょう」
「素直に出て来てくれると助かるけど、臆病っぽいからなー……逃げられたら困るね」
「殺気や気配を出来る限り消すのが良いですぞ」
「そうは言っても僕達はまだ戦いにそこまで慣れていませんから難しいですよね」
「だな。まあゲーム知識を元に俺が倒すことが出来たのなら割と不用意に現れるかも知れんぞ」
「推測だと勇者ってだけで多少は補正が入るんだろうし、この世界の人に当てはめるとLv80で勝てる強さって所かな?」
「妥当だな。どっちにしても……と言うよりも、ドラゴンの気配に落ちつきが無いフィロリアル達を抑える方に苦戦しそうだな」
錬がユキちゃん達を見ながら呟きましたぞ。
そうですな。
ユキちゃん達が落ちつきなく辺りをキョロキョロとしております。
「何分フィロリアルとドラゴンは相性が悪い。引き寄せる効果がある事を願おう」
「とりあえずドラゴン型の魔物は目的のドラゴンの子供かもしれないから殺さない様に注意しよう」
「ああ」
俺達は出てくる魔物を殺さない様に意識しながら状態異常で封殺して行きました。
「意外と難しい物ですね」
「巣穴に乗り込んで力づくでも良いと思いますぞ」
「誠意は重要だって、話を聞いてもらうにはこっちの方が良いと思う」
などと話をしていると雄叫びと共にドラゴンが混ざった魔物が現れましたぞ。
「お出ましの様だ。樹、元康、注意しろよ。尚文は俺達をちゃんと守ってくれ」
「俺の役割なんだから大丈夫、むしろサクラちゃん達が飛びださない様にさせるのが大変だろうね」
「むー……」
お義父さんに手綱を握られてユキちゃん達は困っておりますぞ。
本能が戦いを意識してしまうのでしょうな。
俺だってやりたくてしょうがないですぞ。
ですが、我慢ですぞ。
やがて襲い来る魔物を返り討ちにしていると空に暗雲が立ち込めましたぞ。
若干、魔力の力場が発生している様な気がしますな。
「そろそろ出てくるか?」
と、錬が呟いた所に崖の上から巨大なドラゴンが姿を現しましたぞ。
「グルアアアアアアアアアアアアアア!」
大きな雄叫びですな。
ですが今の俺達ではその雄たけびに怯む事はありませんぞ。
あまり強い所を見せたら逃げられてしまうでしょうし、どうしますかな?
羽を消し飛ばせば逃げるのを阻止できるかもしれませんな?
「元康くん、何かやろうとしているみたいだけどやめてね」
お義父さんが察して俺を制止させますぞ。
「説得をするんだろ? どうやってやる?」
「素直に話せば良いのではないですか? とはいえ、僕も出来る自信はありませんけど」
「うむ、魔物の王であるドラゴンと話をするなど、伝説での話……私も難しいな」
「こういう時は交渉事が得意な尚文、お前に任せた」
「ええ!? ま、まあわかったよ。出来る限り努力してみるね」
若干引き気味のお義父さんが、殺気を放つライバルに向けて一歩前に出ますぞ。
「グルアアアアアア!」
ライバルが思い切り炎を吐いてきましたな。
「ナオフミ!」
お義父さんに手を上げるとは不届き千万!
その身をもって償ってもらいますかな?
「樹! フィロリアル共を抑えておけ! エクレールと俺は元康を抑えるぞ」
「ぐぬ! 放せ、ですぞ!」
炎がお義父さんに向かって飛んで行っているのですぞ。
いくら平気とはいえ、見過ごすわけにはいかないのですぞ。
ええい! 錬! 放せですぞ!
「エアワンウェイシールド」
お義父さんは手を前に出してスキルを唱えました。
するとライバルが放った炎が曲がって行きましたぞ。
「エアストシールドⅤ、セカンドシールドⅤ」
そしてお義父さんはライバルを射程に捕えるとライバルの周りに盾を出現させて動きを阻害させました。
「あんな応用があるのか」
「尚文さん、割とよくやってませんでしたっけ?」
「そうだったか?」
「錬さん、戦闘中は本当に相手にしか意識が向いていないのですね。結構な頻度で尚文さんが錬さんを守るためにやってますよ」
「そうだったのか……俺もまだまだだな」
「グルアアアアア!?」
どうにかしてライバルは拘束を解こうとしておりますが、今のお義父さんに手も足も出ないようですぞ。
ははは、やはり最弱のドラゴンは弱いですなー?
「お願いだから話を聞いてくれない? 俺達は貴方と争う為に来た訳じゃないんだ」
「ギャオオオオオオオオオオオ!」
話を聞く気が無いとばかりにライバルは雄叫びを強めていますな。
お義父さんも自信なさげにこっちに振り返りますぞ。
無理ですかな?
何ならやりますぞ?
「俺達は四聖勇者なのは……まあ分かって欲しい。そして貴方に力を貸してほしくてここで待っていたんだ」
ライバルは抑えつけられた苛立ちを当てつけるようにお義父さんに魔法を唱え始めましたぞ。
「やっぱり無理……?」
お義父さんはそんな状況で考えております。
聞く耳を持っているように見えませんがな。
「とりあえずあまりにもドラゴン側が得にならない方から話すか……」
お義父さんはポツリと呟くとドラゴンに視線を向けますぞ。
「貴方の養子に亜人の子が居るはず。その子の事も関わっている。このままじゃその子が不幸になるけど良いの?」
「ギャウウ!?」
ピタッと一瞬、ライバルの動きが止まりましたぞ。