血も涙も無い
「錬さん、もしかしてゲーム時代の頃とかを未だに頭の中でシミュレートとかしていたとかですか?」
「ち、違う! 俺は……」
「この反応からして心当たりがあるのでしょうね。僕も時々思いますから」
「俺も昔やったゲームを思い出す事はあるよ。つまり頭の中で今の強さならこのクエストはクリア出来るなーとか思って、記憶の中でそのドラゴンを何度も倒してたとか?」
「その度に、少女は親を殺されて不幸になるんですね」
「だ、黙れ!」
お義父さんと樹の会話に錬が両手で二人の肩を掴んで止めようとしていますぞ。
人の事は言えませんが、樹は一言多いですな。
「それは元康にとって過去の俺の事だ! 今の俺はやってない!」
「何をうろたえているのですかな? 落ち着けですぞ」
「そのドラゴンの家族、しかも少女を不幸にした未来があるなんて知ったら、そりゃあね」
「是非とも阻止しないといけない事ですよね?」
わかってるとばかりにお義父さん達は頷きます。
特に錬が乗り気ですな。
「ちなみに前回のお義父さんが助手の経緯を錬に伝えた所、『親共々殺しておけば良かった』と言いましたな」
え、と唖然とした表情でお義父さんと樹が静かに錬の方を向きました。
錬は意味がわからない、とでも言いたげな顔ですぞ。
「ち、違う! 俺はそんな血も涙も無い奴じゃない!」
「ええっと、元康くん自体に悪気がある訳じゃないのは前提として、話を羅列すると……」
「ドラゴンを仕留めて死体を放置、疫病を蔓延させると同時にドラゴンの育てていた少女を不幸にする。そしてその少女に親共々殺しておけば良かったと言ったのですか……情状酌量の余地が無いほどの外道ですね」
「違う!」
「待て待て、キタムラ殿はどうも説明が下手な所がある。もう少し経緯を噛み砕いて理解せねば分からないと私は思うぞ」
エクレアが間に入って説明しましたな。
お義父さん達も別に錬を弾劾しようとしている訳ではないので素直に応じていますな。
「確かに……元康くん、もう少し詳しく説明してくれない? 何が起こったのか、ドラゴンと助手って子の経緯を」
「わかりましたぞ。まずは――」
俺は前回のループでお義父さんが助手を保護し、村で起こった観光地化と死体の腐敗問題から説明しましたぞ。
やがて死体が腐って疫病が蔓延し、助手と一緒に同行していたライバルに関しても説明しました。
「ここまで聞くと運命めいたものを感じるね」
「義理の娘とはいえ、とても大事にしていたんですね」
「それで? 何故俺は親子共々殺しておけば良かった、なんてどうしようもない台詞を吐く? このままだと俺は俺自身がわからなくなるぞ……」
「それは三勇教を仕留め、カルミラ島と言うLvアップの促進イベントの時ですぞ」
勇者同士の友好の為に仲間交換をしたのですぞ。
ここで助手と錬は衝突をしてしまったのですな。
「あー……ゲーム知識を頼りにワンマンをしたのか」
「以前の錬さんの戦い方がそのままだと連携は怖いですね。息を合わせるでは無く、息を合わせさせられると言いますか……」
「今の錬は多少周りが見えて、皆と呼吸を合わせられるようになったけどね」
「……ふん。それでどうなった?」
「魔物との戦闘中に邪魔だと助手に突き飛ばされ、激怒した錬が怒鳴り、助手の我慢が限界を迎えて錬をボコボコにしたそうですぞ」
あの時の衝突が決定的な亀裂を産んだのは確かですぞ。
ですが……おそらく助手との軋轢が無くても錬と樹は四霊の封印を解いたでしょうな。
ゲーム知識を元に行動していたら間違いは無いと思いますぞ。
時期的に挑戦したくなる頃ですからな。
「経緯を知ったのはその後かな? 錬って防衛本能が強いから、一度敵対すると思わずそういう台詞を言っちゃうかも……」
「なるほど、納得できますね」
「仲間交換の前に言え! そうすればさすがの俺も遠慮くらいするだろ! ……するよな?」
「タイミングが悪かったのですぞ。助手も錬と関わりたがりませんでしたからな」
全てタイミングが悪かったのですぞ。
お義父さんのフォローも無意味でしたからな。
それでも……鳳凰か霊亀に挑んで敗北したに留まれば、まだミスをケアできたのですぞ。
まさか次々に封印が解けるなど誰も予想だにしませんでしたからな。
「とにかく、この事実を知ったからにはそんな真似は絶対にしないからな」
「そうだね。それにドラゴン系の素材は地味に揃ってるから態々そのドラゴンを倒す必要も無いし」
「そうなのですけど……フィトリアさんの羽をもらってからロックされてませんか?」
「フィロリアル系の武器は全て解放されたみたいだけどさ」
「ずいぶんと困った置き土産をしたな。あの大きなフィロリアルは」
錬が愚痴りましたぞ。
少し不機嫌ですな。
「しかし……錬さん」
「なんだ樹? 優しい目をして俺を見るな」
「今日ほど錬さんへ仲間意識が芽生えた日は無いかもしれません」
「それもどうなのかなー……」
「うむ、イワタニ殿の言う事はもっともだと私は思うぞ」
「ちなみに島から帰って来た時、エクレアの葬儀が行われてましたな。お義父さんの活躍に苛立った三勇教の八つ当たりを受けて獄中死したそうですぞ」
「う……アマキ殿、カワスミ殿、どうやら私も仲間のようだ」
エクレアが錬と樹に近づき、何やら手を繋いでおります。
連帯感が生まれたのですな。
「なんだかなー……」
その様子をお義父さんが遠い目をして見ておりました。
尚、その後、しばらく最初に赤豚に騙されたお義父さんを含め、自虐的な会話が続きました。
「話を戻しますが、ロックを解除するにもライバルを仲間にすると良いのですぞ」
「そうなのか?」
「俺はドラゴン系の素材の武器は使いませんが、確かロックを外すのに必要とか聞きましたな」
俺の言葉に錬は考え込みましたぞ。
これまでの話に何か不備でもありましたかな?
「しかし……説得できるのか? そこまで強く無いドラゴンと言う設定だったが……」
「最弱の竜帝と自称していましたな」
「それは自慢する事?」
「とにかく、まずは言われた通りに向かうのが良いんじゃないですか?」
「最初からそのつもりだ。テイミングする感じで行ってみるか」
「巨大なドラゴンが仲間になるのでしょうか? ……移動が楽になりそうですね」
「だけど最弱でしょ? いきなり迎撃されて墜落死とかされたら冗談じゃ済まないと思うよ?」
「ユキ達と同じで基礎能力を強化していけばいいだろ」
ポータルで移動したので馬車がありませんからな。
各々フィロリアル様に乗って移動しますぞ。
何処かで馬車を調達しますかな?
「ドラゴン嫌いー!」
「嫌ですわね。ドラゴンは臭いですわ」
「コウもイヤー」
「そうは言っても、これから必要な手順なんだし、我慢して……ね?」
前回のサクラちゃんを思い出しますな。
ストレスによる抜け毛や抜け羽がありましたぞ。
お義父さんが色々と気を使ってくれたお陰である程度は回復したようでしたが。
「なんか反応がイジメみたいじゃないですか?」
「お互い毛嫌いしているというのは本当みたいだな」
「そうですぞ。フィロリアル様は奴等と遺伝子レベルで分かり合えないのですぞ」
「じゃあどうするんですか! どうして元康さんはいつもそんな適当な事ばかり言うんですか」
「落ち着け樹、どうせ今まで尚文に全部丸投げしていたんだ。言うだけ無駄だ」
「おお、良くわかりましたな。樹の質問に対する答えですが、槍で脅して仲間にすれば良いと思いますぞ」
俺がそう言うと溜め息を吐かれました。
そして何故か会話がそこで途切れましたな。
なんてやっているとお義父さんがサクラちゃんと達と話をしているようですぞ。
「うー……」
「まあ、ドラゴンの生息地に入りそうになったらサクラちゃん達には待っていてもらうってことも出来るし」
「イヤ! ナオフミがドラゴンに何かされそうなのを黙って待ってられないー」
「嫌ですわね」
「うん! コウも待たない」
ユキちゃん達の返答にお義父さんは困り顔ですぞ。
お義父さんはお優しいですからな。
理不尽に叱る事は出来ないのでしょう。
「元康さん、ユキさん達を……って元康さんは叱れそうにないですね」
「崇拝してるもんね」
「面倒だな。尚文ならどうにか出来ないのか?」
「ふむ、このままでは堂々巡りになりかねん」
「と、とりあえず、みんな。これからの為に少しだけ我慢、良い?」
「……はーい」
フィロリアル様達は賢い方々ですからな。
この程度でワガママは言いませんぞ。
しかし樹は俺に言い掛けて止めるとは……ですが間違っていませんぞ。
俺はフィロリアル様にお願いは出来ても叱るなどは不可能ですな。
「この際です。尚文さん、コウさんに僕の髪を弄るのをやめるようにお願いしてくださいませんか?」
「それくらいは自分でやってよ」
「言っても聞かないんですよ」
「うーん……じゃあ後でお願いしてみるけど」
「前回のお義父さんはコウをしつける事が出来ましたぞ」
「ほら、元康さんが言ってるのですからお願いしますよ」
「はぁ……わかったから。というか二人も俺を便利に使ってない?」
ちなみにその日の晩、コウにお願いしたお義父さんですが、コウはあんまり話を聞いていませんでしたな。