しょっぱいネトゲ
錬の意見に俺も考えますぞ。
確か……竜帝の欠片をドラゴンに摂取させれば良いのでしたかな?
「竜帝の欠片が、俺達の倒したドラゴンの核にあれば問題は無いかもしれませんな。ですが上手く説得できるか分かりません。それに前回頼まれたのですぞ」
「えっと、もしかして尚文さんの時の様に、ループ前に言付けか何かを頼まれたんですか?」
樹の言葉に俺は頷きますぞ。
察しが良くて助かりますな。
「ですぞ!」
「まったく……それを早く言え!」
「完全に二度手間……って、よくよく考えたらアレだけの騒ぎを起こした俺達がメルロマルクに滞在するのは不可能じゃない?」
がっくりとお義父さんは脱力気味に答えますぞ。
「しかも目の前にフォーブレイが迫っているしな……」
「出来ればやっておいた方が良いですぞ」
「何故ですか?」
「フォーブレイに巣食う敵を駆逐するのに一役買うでしょうな」
念には念をですぞ。
良く良く考えてみれば前回の周回で手を焼いたタクトのドラゴンですぞ。
最初の世界やシルトヴェルトに行った時にはアッサリと倒すことが出来ましたが、蘇る危険性が無いと言いきれません。
ドラゴンゾンビ化までする様な奴ですぞ。
何処ぞのドラゴンを説得するべきですかな?
「それに敵の取り巻きは前々回の周回で俺とお義父さんがずいぶんと手を焼きましたからな」
更に応竜化する可能性も捨てきれません。
そうなったらどれだけ面倒になるか分かったものでは無いですな。
「討伐するのに条件が必要ってタイプの敵と思えば良いの……かな?」
「間違いは無いですぞ」
「なるほど、ゲームや神話とかで聞いたことがあるな」
「固体でも液体でもダメとかですね。僕も覚えがありますよ」
「複雑な条件だと初見殺しになる奴かー……」
「上手く行けば仕留める事は出来ると思いますぞ。ですが、フォーブレイでは何が起こるか分からないので事前に準備をすべきだと思うのですぞ」
仮にタクトの竜帝を仕留めて欠片を保管しておいたとして……悪用されないと言いきれますかな?
残党だけでは無いですぞ。
竜帝は強力な素材として扱う事も出来ますし、国が管理して盗まれたら厄介ですな。
かといって武器の素材に入れたとしたら取り出すのに一苦労ですぞ。
事前準備は重要ですからな。
「わかった。どうなるかわからないが、今フォーブレイに向かうのは危険なんだな? 元康」
「ですぞ。出来ればそのライバルをある程度強くさせてから挑みたいですな」
「どうして?」
「竜帝と言う種類のドラゴンは核石を集める性質がある様なのですぞ。そして他のドラゴンに乗り移る事も出来る様なのです」
「ああ、なるほど。それなら十分なくらい強くしておかないと危ないかもね。倒すべきドラゴンに味方が乗っ取られる危険とかありそう」
お義父さんは理解力があって助かりますぞ。
そこにエクレアが手を上げますな。
「ふむ……それならば同時に父の領地を少しばかり確認させてもらえないだろうか?」
「あー……エクレールさんのお父さんの領地がどうなってるかも気になるよね。ほら……ずいぶんと俺達が暴れたから」
「タイミングとしてはまだ悪い時では無かったと思えば良いかもしれませんね。幸い、僕達を傷つけられる様な脅威はもう無いに等しいですし、敵地とはいえ必要ならば行った方が良いでしょう」
「決まりだな」
「どこかいくの?」
サクラちゃんが首を傾げておりますぞ。
「話からメルロマルクという国に行くのですわね?」
「出発ー?」
コウが楽しげに尋ねてきますぞ。
「そうだね。とはいえ、何が起こるかわからないから、今日はゆっくりと休んで明日行こう」
「わかりましたぞ」
こうして俺達はフォーブレイ目前でメルロマルクへ移動する事になったのですぞ。
そうそう、よくよく考えてみればメルロマルクでは様々な物がまだ回収できていませんでしたな。
ついでに速攻で波を鎮めておくのも悪くは無いですぞ。
世界の為ですな。
翌朝。
フォーブレイの国境が見えそうな所で俺はお義父さん達を連れて、ポータルでメルロマルクに戻ったのですぞ。
最初、城の庭に飛ぼうとしたのですがお義父さん達に注意されたので、メルロマルクの村に飛びました。
「ここがメルロマルクか……って良く考えたら俺達を召喚した国なんだから知らない様な言い回しは間違ってる……のかな?」
「実質二日と少ししかいませんでしたし、城下町近隣に滞在していただけですからね。知らない国の括りで良いのでは?」
「そうだな。ゲームだったらどんな魔物が居るかとか町の場所を記憶している所だが……」
「大体間違いは無いですな。ただ、ゲームとは違って町や村は若干多めですぞ」
「……だからこそ、俺や樹はゲームと間違えて認識してしまったんだろうな」
「ええ、ところで……僕達への刺客とかには十分警戒しなくてはいけませんよね?」
「さすがに無いんじゃない? ポータルで転移してるんだし」
「私もそう思うぞ。もちろん、警戒するに越したことは無いと思うが」
朝日が昇ったばかりの、のどかな農村ですな。
さて、ここからライバルの所へ行くのにどれくらい掛りますかな?
「で、元康。お前の目的地は何処なんだ?」
「錬なら分かると思いますぞ」
「は?」
錬が唖然とした様な表情で俺に答えますぞ。
主に錬が良く行く場所であり、どのループでも問題を起こしていた場所でしょう。
最初の世界でもきっとそうだったと思いますぞ。
「錬さん、元康さんがこういう時は最初の世界とかで錬さんが起こした問題……ゲーム知識に関わる所なのではないでしょうか」
「だからと言って、いきなり言われてもな」
「ドラゴン系列じゃないかな? 何かそんな感じで優秀なクエストとかゲームでなかった?」
「そう言われて心当たりならあるな。足がかり的な竜退治が出来るクエストが」
「多分そこじゃない? Lvが十分に稼げたら素材とかドロップ目当てに錬が戦ったのかもよ」
「ですぞ。そのドラゴンを説得して引き入れるのですぞ」
「そんな事まで出来るのか……」
「アレだよね。ネットゲームとかでフィールドのボスを仲間に出来るとか、アップデートに行き詰った結果だったり、製作側が奇抜なつもりで作ったシステムみたいな感じ」
ふむ、お義父さんは詳しいですな。
しかし何か皮肉を感じる様な言い回しでした。
そういえば以前どこかで、騎乗システムなどの、どこのゲームでもある様なシステムを大々的に宣伝しているしょっぱいネトゲがあると聞いた気がしますな。
お義父さんの口振りからは、それに似た皮肉を感じます。
「尚文ほど俺は様々なゲームをしていた訳じゃないから詳しく無いが、あるのか」
「そのようですね」
この反応から樹も知らない事の様ですぞ。
「ちなみに錬がこの時仕留めたドラゴンの亡骸を放置する事で、近くの村の者達が観光名所にした揚句、亡骸が腐って風土病が蔓延するのですぞ」
「え……」
「それって……」
「ちょ、ちょっと待て、俺の所為で死人が出たって事なのか?」
錬が何やら表情を青くしていますぞ。
今更何を言っているのですかな?
「確か錬の言い訳は死体を放置した奴が悪いでしたかな? あくまで一般冒険者の為に放置したみたいな台詞だった様な気もしますぞ」
「結果、疫病が蔓延ですか……良く最初の世界の僕が錬さんを見逃しましたね」
「話によるとお義父さんが解決させたそうですぞ。それに樹の方は樹の方で何やら揉め事に足を入れていた様ですし、錬に指摘出来なかったのではないですかな?」
「そ、そうですか。おそらく、錬さんを悪と思うよりも尚文さんに文句を言おうと思っていたのかもしれませんね」
「じゅ、十分注意しよう。最初の世界でそんな事を仕出かしたのなら同じような事を起こさない様にしないとな」
錬は責任感だけはあるようですから、これだけで回避出来るでしょうな。
ああ、ついでに説明しておきますかな?
「ちなみにこのドラゴン、俺は助手と呼んでますが亜人の養子が居るのですぞ。この助手、錬に対してずいぶんと因縁があるようですな」
「それって養子とは言え、結果的に親殺しをしちゃったって事だよね?」
お義父さんが錬と俺を交互に見ながら言葉に注意しながら聞いてきましたな。
「え、あ……う……」
錬の方はまだ犯行に至っていないにも関わらず顔が青いですぞ。
他人と思って切り捨てるのではないのですかな?