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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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三枚目

 野生のフィロリアル様に遭遇するという、平和で楽しいイベントがあった夜の事……。


「なんかグアグアうるさくない?」

「来ましたな……」


 野宿をしていると遠くから多くのフィロリアル様の声が聞こえてきたのですぞ。


「元康くん、来るって?」

「大きな……フィロリアル様が来るのですぞ」

「なんだ?」


 錬と樹が目をこすりながら起きますぞ。

 考えてみれば錬と樹がこの瞬間に立ち会うのは初めてでは無いですかな?

 確か前回は船酔いでダウンしていた樹を眠らせた様な覚えがありますからな。


「大きなフィロリアルさんですか?」


 樹が首を傾げていますな。


「何が起こっていると言うのだ?」

「えっとねーそっちへ行くって言ってるよ」

「そうですわね」

「うん、声が聞こえるよ」


 ユキちゃん達が揃って教えてくださいますぞ。


「元康くん、何か知ってるの?」

「大きな、フィロリアル様が来るのですぞ。俺はフィーロたんの次に好いております」

「むー……」


 ユキちゃんが何やら悔しげな声を出しますぞ。

 それから闇夜の中で俺達を取り囲むようにフィロリアル様達がやってきました。


「な、なんだ?」

「蛍のように辺りに光が漂ってますよ?」

「アレだ。昔のアニメで見たことがあるぞ。森の主だ!」

「いえ、鹿の神様ですよ」

「麒麟とか……命を司る存在だよね。こっちにもいるんだっけ。何処の世界にも似たような作品があるんだね」

「そんな事を言ってる場合ですか! 何か化け物が来るんじゃないですか? 悪さをしているかもしれない僕達を罰しに」

「女王と第二王女が興味を抱いていたフィロリアルの主という伝承があるそうだが……」


 などとお義父さん達は各々推理していますぞ。

 いずれ、すぐに答えはでるのですぞ。


「なんか元康くんの様子がおかしくない?」

「実は元康はそいつに操られてループする力を貸し与えられたとかじゃないのか?」


 いやいや、とお義父さんは首を振っていますぞ。


「フィロリアル狂いになった理由とかなら分かるけど、なんか違くない?」

「何が出るのか……」


 と、話をしていると大きなフィロリアル様が――



「元康くんしっかり!」

「尚文さん抑えていてください。僕と錬さんで元康さんをどうにか取り押さえますので」

「敵と言う訳じゃないが、やはり化け物みたいに頑丈だ。状態異常にするのも一苦労だぞ!」


 お義父さんに後ろから抑えられ、錬と樹から何やら状態異常の攻撃を受けたような気がしますぞ。

 挙句目隠しをまたされてしまいました。

 それと何故か地面にスキルか何かで抑えつけられておりますな。


「おや? どうなっているのですかな?」

「我を忘れた元康くんが飛びかかったんでしょ」

「取り押さえるのに苦労したぞ」

「クエエエ」

「ぬおおお! 大きなフィロリアル様の声ですぞ!」


 声を頼りに強引に立ち上がって抑えを振りほどきますぞ。


「クエエエエエエ!」

「元康、暴れるな! じっとしてろ!」

「まったく……元康さんが理性を失うとか、厄介極まりないですよ」


 再度俺は押さえつけられてしまいました。


「ユキちゃん、えっと元康くんの上に乗っかって音を出来る限り遮断して。話が進まないから」

「わかりましたわ」


 ユキちゃんが俺の上に乗っかってきましたぞ。

 おお、ユキちゃんのふかふかの羽毛ですぞ。

 なにやら幸せな気分になってきますな。


 それから、声がくぐもって聞こえてきましたな。

 何をやっているのかなんとなく察することしかできません。

 やがてユキちゃんの代わりに疲れ切ったようなサクラちゃんが俺の上に乗っかりました。

 サクラちゃんは何故かフィーロたんに近い匂いがしますな。きっと近い種類だからですぞ。


 それからしばらくして、ドシンドシンと俺の近くまで音が聞こえましたな。

 同時にサクラちゃんは俺から離れました。

 そしてお義父さんは俺を自由にしてくださいました。


「元康くん、大丈夫?」

「何がですかな?」

「特に問題は……なさそうだな」

「フィロリアルの女王を見て理性を失うのは十分問題だと思いますけどね」

「あのままじゃ、危ない一線を越えそうだったしね」

「フィーロって子に出会ったら元康はどうなるんだ?」

「出来れば、元康くんの紳士な部分が働いてくれる事を祈るしかないね」


 と何やらお義父さん達は話し合っておりますぞ。

 ああ、大きなフィロリアル様を一目見たかったですな。

 で、ユキちゃん達を見渡すと、頭に可愛らしいアクセントが生えておりました。


「はい、元康くんの分」


 と、お義父さんは大きなフィロリアル様の冠羽を俺に手渡してくださいました。


「これだけの効果があるなら、フィロリアルだけでもどうにか出来るかもしれないな」

「そうですね。人を仲間にするよりも効率が良いかもしれません」


 錬や樹も受け取ったらしく、項目のチェックをしている様ですぞ。


「おお! 大きなフィロリアル様の羽ですな」

「そう、武器に入れると――」


 俺は迷わず、いつもの場所に括りつけますぞ。


「いや、そうじゃなく……」


 するとバシッと音を立てて、羽根が三枚に増えましたな。

 段々と見栄えが良くなってきている気がしますぞ。


「えー……」

「これで三枚目ですぞー!」

「三枚目って……今更ですが、本当にループしているんですね……」

「えっと……元康くん、槍には?」

「入れたらもったいないですぞ」


 俺は槍に括りつけた羽根の匂いを嗅ぎますぞ。

 んー……良い香りですな。


「クエ!?」


 遠くから何か声が聞こえた様な気がしますな。


「とりあえず、これでフィロリアル達の能力もずいぶんと上昇したみたいだな」

「移動も早く、楽になるかもしれませんね」

「何が何やら……まあ、女王への土産話になりそうだ」

「もっと強くなりましたわ」

「体がかるーい」

「でも疲れたー」


 ユキちゃん達がアピールして跳ねておりますぞ。

 俺も一緒に跳ねますぞ。

 何やら楽しくなってきました。


 どうやら大きなフィロリアル様はメルロマルクに滞在していると来るのが遅い様ですな。

 手早く会うにはシルトヴェルトとメルロマルクの間か、フォーブレイ方面に行くのが良さそうですぞ。

 もしも次があったら考えておきますかな?


 後、不思議に思ったのですが、ユキちゃん達やフィーロたんに渡されるアクセントは何か意味があるのですかな?

 まあ、きっと素敵なチャームポイントをくださるのでしょう。

 ユキちゃん達の能力も上がりますから不思議な加護があるのは分かっている事ですな。


 そんなこんなでフォーブレイの隣国までゆっくりとした旅が続きましたぞ。



「ふー……後数日でフォーブレイかー」


 宿の部屋の窓辺でフォーブレイの方角を見ながらお義父さんは呟きましたぞ。

 移動自体は思いのほか早く済んでしまっていますな。

 まだメルロマルクの波でさえも余裕がありますぞ。


「割と楽な旅だったな」

「ええ、不思議なくらい順調でしたね。面白味が無いくらい」

「それでも、この世界の人達がどんな生活をして、どんな思考をしているか……この旅で分かって来た気がするよ」

「なんて言うか、単純と言うか宗教が根付いた世界だな。波に関しても理解していない者が多い」

「ですね。波を地震とかの災害的な認識と捕らえている様に見えました」

「そういえば剣の勇者だけを信仰する教会とか通った町にあったね」

「ですね。なんかシルトヴェルトは邪教を信仰してるとか、それとなく尋ねたら言ってましたよ?」

「錬はあそこに行って金を要求したら大金くれそうだね」

「勘弁してくれ! 尚文の二の舞になるだろ」

「それもどうなのかなー……」


 お義父さん達はこの道中で世界情勢をある程度は知った様ですな。

 盗賊退治もしましたぞ。

 国同士の同盟こそあれど、下手に勇者が関わるだけで争いの火種になるとお義父さん達は毎日話しあっているようですな。


「ただ、ここ数日だっけ? なんか三勇教徒っぽい連中の襲撃は受けたね」

「そうですな」


 移動中の馬車に向かって突撃し、後方から合唱魔法をぶっ放してきた連中がおりましたな。

 お義父さんが降り注ぐ魔法の雨をエアストシールド類の魔法を多重展開させて傘にし、魔法攻撃を全て弾きましたがな。

 近接で襲いかかって来た者は錬と樹が迎撃し、ユキちゃん達が追い打ちをしましたぞ。

 更に出現した敵は問答無用でエイミングランサーで戦闘不能にしてやりましたがな。


「結構な集団だった。勇者殿達でなければ私も苦戦したと思う」

「まあね。後は突然、現れて俺に含み針を放った忍者みたいのも居たね」

「三勇教の影でしょうな」

「影って確かメルロマルクにある暗部の情報部隊だっけ?」

「正確には各国にそれぞれ存在する秘密部隊……と、私は聞いた」

「あの時は冗談か何かだと思ったな。尚文に向けて毒針らしきものが飛んで行ったのに、カンって音を立てて弾かれるんだもんな」


 錬が若干呆れ気味に言いますぞ。

 そうですな。

 俺も警戒をしては居たのですが、器用にも隙を潜りぬけて来たのでしたぞ。

 ま、ここまで強くなったのを確認した後のお父さん達なら耐えきれると思っておりましたがな。


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