陣形
「まあ、こんな所だな」
錬が剣を鞘に収め、お義父さんが構えを解きました。
俺は辺りを警戒しつつ槍を背中に回し、樹は近づいてきました。
「余裕だったね」
「ステータスによるごり押しだったのが少し残念だが、打ち合わせ通りに戦えた」
「やっぱ樹は凄いね。一発も俺達に当てずに魔物だけど射抜いて行くし」
「一度、元康さんに指摘されていた手加減するかの問答に負けそうになりました……」
どうやら樹は自らを律するように自白した様ですぞ。
俺も目を光らせていましたからな。
今の樹なら出来るだろうと言う所は推測していましたぞ。
その通りに行動したのですから、手加減はしていないでしょう。
「ふむ……さすが勇者殿達だ。私も遠くから見ていたが、呼吸がちゃんと合っていた様に見えるぞ」
エクレアとユキちゃん達が混ざると乱戦になりますからな。
練習の為に離れてもらっていました。
「すごーい! ナオフミ、魔物をずっと捕まえてたー」
「それしか出来ないしね」
「レン様は元康様と一緒に魔物を屠っていました! 私、惚れぼれとしましたわ」
「まだエクレールやお前達の方が強い相手だと思う。もっと精進しないとな……」
「カワスミ凄いよね。コウの背中に乗ってる時も矢をずっと当ててたしー」
「僕は安全な所で矢を放ってただけですけどね」
「味方に当てないのが凄いんだよ」
「尚文さんに当てても大丈夫そうですけど、錬さんは怖かったですね」
「なんだと!? 俺だけとはどういう事だ!」
「あー……うん。そこは問題かもね。錬って良く動くから……」
「元康さんを参考にしてくださると助かるのですけどね」
錬が理不尽を感じたように俺を見ますぞ。
「周りに気付かずに突撃してる時がある様に見えたもんね」
「未来でもその辺りは問題視されていましたな。戦いを意識すると周りに目が行かないそうですな」
「この前、一対一だったらいい成績を出したと言う所に繋がるんじゃないかな?」
「少々言い辛いのですが、錬さんの為に言うとしたら当てそうで怖いです」
樹が申し訳なさそうに答えるとさすがの錬も怒るに怒れず、だけどムッとする感じに腕を組んでしまいましたぞ。
「俺は錬を守る様に動いたんだけど、それでも、不意の攻撃に錬が狙われたら怖い。まっすぐに進む錬に怪我をさせかねないから」
今回の戦いでお義父さんは錬を守る様に回り込んでおりました。
俺はちゃんと見ておりましたぞ。
「そうですね。遠くから見ると分かりますが、尚文さんに錬さんが守ってもらっているのが分かります」
「ああ、指摘するか迷ったが、確かにアマキ殿はとても集中力が高い。だが、その集中力が乱戦では悪い方向に働いてしまっているようだ」
「レン様はナオフミ様や元康様にフォローしてもらいながら戦っていた様に見えましたわね」
「もうちょっと周りを意識した方が良いとサクラも思うー」
「じゃないと獲物を横取りされるもんね。コウは周りを見てるよー」
「く……」
お義父さんがまあまあと錬を宥めますぞ。
錬がボロクソに言われていますからな。
誰かが仲裁に入った方が良い頃合でしたな。
まあお義父さんが自然に入った訳ですが。
「これから練習して行こうよ。そうだね……当面は遠距離か中距離で攻撃出来るスキルがあるなら、ユキちゃんを前衛にして一歩下がって戦って見ると良い。自然と周りが見えてくる様になる……かも?」
「不確かな助言だな」
「そこはごめん。でも錬は元康くんと同じで攻撃の選択肢が広いから、経験を積めば俺や樹より自由度が高いんだよ」
「自由度……」
「俺は防御特化で樹は遠距離特化。覚える事が少ないし、理想的な立ち位置がわかりやすいんだよ」
「逆に俺や元康は近距離から遠距離まである程度カバーできるから覚える事が多いのか」
「うん、最終的には臨機応変に対応できるから、技術が上がれば上がる程、結果が出せると思う」
錬は髪をいじりながら考えておりますぞ。
ふむ、お義父さんは良く観察していますな。
確かに俺のスキルは近距離から遠距離まで揃っています。
若干中距離スキルが多い気がするのは、きっと槍だからでしょう。
その点で言えば錬は近距離よりのスキルが多いので、勇者四人で陣形を組めれば百人力ですぞ。
お義父さんが最前列、錬が前列、俺が中距離、樹が遠距離。
これが理想的な陣形ですな。
どうやらお義父さんはこの方向で進めたい様ですぞ。
もちろん俺は中距離よりは前に出るので状況によって切り替えますが。
「それこそ経験して覚えるしかないと俺は思うな」
「……ふん」
そう言いつつ、錬は武器の項目で良いスキルが無いかを探しているように見えましたぞ。
確かに錬は周りを見ているように見えて、実は全く見えない所がありますからな。
俺もありましたぞ。
まあ、俺の場合は豚共に援護を任せて一人で先頭に立っていたからですが。
それでも豚共を傷つけないようにと気を使ってはいました。
「これで依頼された数の魔物は倒せたし、報酬をもらったら出発だね」
「では運んできますぞ」
今回の依頼は魔物の素材を持って行く事で達成を報告できるのですぞ。
エクレアが持ってきた依頼では……ブラウンゴートと言う魔物でしたな。
巻き角を一定数持って行く事で倒した証明になるそうですぞ。
他にも何種類か倒さないといけなかった魔物はありますな。
ブラックヘラクレスという大きなカブトムシも対象でしたぞ。
俺が倒した魔物の持っていくべき部位を捌いていると錬も手伝いに……。
「ほら、錬……解体」
「わ、わかってる! 尚文も樹も手伝え」
「そ、そうだけど」
「ええ、ちょっと怖いですよ」
などと言いながらお義父さん達は譲り合っていましたな。
最初はオドオドとしておりましたが、徐々に慣れてきたのか、解体して行きましたぞ。
「ふう……川辺とかでやって正解だったね」
「血を拭わないと、大変ですよ。その点で言えば錬さんと元康さんは便利ですね」
「血糊が付きませんぞ。ちなみにブラッドクリーンコーティングと言う刃物を使えば誰でも出来ますぞ」
「素材採取の知恵で生み出された技術?」
「血糊が付かない魔法の技術なんですから戦争用かもしれませんよ?」
「エクレールさんは知らない?」
「ずいぶんと昔からある技術だからな。私も詳しくは知らん」
「「ごはーん!」」
サクラちゃんとコウがお義父さん達が解体した魔物の肉を頬張っておりますぞ。
ユキちゃんは優雅に引き裂いて食べております。
「そこ、本能の赴くままに食べないでください!」
樹がユキちゃん達に不満を述べていますな。
フィロリアル様を庇いたい所ですが、栄養管理も大事な仕事ですぞ。
まあほとんどお義父さんに任せていますが。
「今日は肉料理が良さそうだね。肉の種類的にはサッと焼いた方が良いかなー」
「焼き肉は飽きてきましたよ」
「ああ、毎度毎度じゃ飽きるから別のにしてくれ」
「ってやってるじゃないか。毎回違うの」
「似たような料理が続いたぞ」
と、錬がお義父さんに指摘しました。
「しょうがないじゃないか。地域の名物料理って言うから色々と品を変えようと思ったら亜種料理だったんだから」
「じゃあ尚文さんのレパートリーで何か無いのですか?」
「ああ、名産品を尚文が店で試食して来てから俺達の口に合う様に作るのは、いい加減飽きたぞ」
「店で食べれば良いのに……なんで俺の料理ばかり……」
そこでエクレアがコホンと軽く咳をしますぞ。
「舌が肥えたのだな?」
サッと錬と樹が目線を逸らしました。
確かにお義父さんの味付けは慣れるとホッとしつつも癖になる物ばかりですからな。
美食とも家庭的とも言える不思議な味わいですぞ。
「……わかったよ。じゃあ色々と作って見るね」
などと言いながら俺達は解体を終えて、ギルドへ報告に行きました。
報酬は山分けですな。
お義父さん達は受け取った金銭をとても大事そうに握り締めていました。