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【検証と見解 / 官邸側の本紙記者質問制限と申し入れ】

(上)国、投入土砂の検査せず 「辺野古工事で赤土」は事実誤認か

記者会見する菅官房長官=首相官邸で

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 首相官邸にある記者クラブの内閣記者会に上村(うえむら)秀紀・官邸報道室長名の文書が出されたのは昨年十二月二十八日。その二日前に行われた菅義偉(すがよしひで)官房長官の定例記者会見で、本紙社会部の望月衣塑子(いそこ)記者が行った質問に「事実誤認」があったとしていた。

 「東京新聞側にこれまで累次にわたり、事実に基づかない質問は厳に慎むようお願いしてきた」。会見はインターネットで配信されているため「視聴者に誤った事実認識を拡散させることになりかねない」とし、「記者の度重なる問題行為は深刻なものと捉えており、問題意識の共有をお願いしたい」とあった。

 記者会側は「記者の質問を制限することはできない」と官邸側に伝えた。

 官邸側が「事実誤認」としたのは沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設工事に関する質問で、本紙記者が「埋め立ての現場では今、赤土が広がっている。琉球セメントは県の調査を拒否し、沖縄防衛局が実態把握できていない」「赤土の可能性が指摘されているにもかかわらず、国が事実確認をしない」と述べた部分。

 官邸側は(1)沖縄防衛局は埋め立て材(土砂)が仕様書通りの材料と確認している(2)琉球セメントは県の立ち入り調査を受けている-として「質問は事実に反する」と指摘。「赤土が広がっている」という部分も「汚濁防止措置を講じており、表現は適切でない」と批判した。同じ日付で長谷川栄一・内閣広報官から臼田局長に抗議文書も送られてきた。

 実際はどうなのか。十二月十四日に土砂投入が始まると海は一気に茶色く濁り、県職員や市民が現場で赤土を確認した。県は一週間後に「赤土が大量に混じっている疑いがある」として、沖縄防衛局に現場の立ち入り検査と土砂のサンプル提供を求めたが、国は必要ないと応じていない。

 代わりに防衛局は過去の検査報告書を提出したが、検査は土砂を納入している琉球セメントが二〇一六年三月と一七年四月の計二回、業者に依頼して実施したものだった。

 そのため県は「検査時期が古く、職員が現場で確認した赤土混じりの土砂と異なる」として、埋め立てに使われている土砂の「性状検査」結果の提出を求めているが、これも行われていない。

 このような状況から本紙記者は「現場では赤土が広がっているのに、発注者の国は事実を確認しない」と発言したのであり、官邸側の「事実誤認」との指摘は当たらない。

◆「表現の自由」にまで矛先 内閣広報官名など文書 17年から9件

 長谷川広報官の申し入れ文書は「事実に基づかない質問は慎んでほしい」という抗議だけでなく、記者会見は意見や官房長官に要請をする場ではないとして、質問や表現の自由を制限するものもある(表(1)参照)。

 本紙記者は昨年一月の質問で、国連人権理事会のデービッド・ケイ氏が二〇一五年十二月一日から特定秘密保護法や報道の自由度の調査で来日を予定していたが、外務省が三週間前に面会を一年延期したことに触れ、「ケイさんが菅さん(官房長官)や高市(早苗)総務相(当時)に面会したいというときも、政府側がドタキャンしたという経緯があった」と述べた。

 官邸側は、ケイ氏は菅氏に面会を要請した事実はなく、高市氏も日程が整わなかったとして、ドタキャンしたとの質問は事実に基づかないと指摘してきた。

 臼田局長は「官房長官の面会予定があったと受け取れる箇所など、一部で事実誤認があった」と誤りを認める一方、「『政府側がドタキャンした』という表現は論評の範囲内だと考える」と回答した。ケイ氏の来日中止は当時、本紙や毎日新聞、共同通信も「日本政府の要請で突然延期になった」と報じていた。

 今月十二日の衆院予算委員会で、菅氏はケイ氏に関する質問を例に挙げ、「内外の幅広い視聴者に誤った事実認識を拡散させる恐れがある」と答弁した。だが、会見では菅氏も「ドタキャンなんかしてません」と即座に回答しており、記者の言いっ放しにはなっていない。

 昨年十一月、外国人労働者を巡る入管難民法改正案の国会成立について、本紙記者が「短い審議で強行に採決が行われましたが…」と質問したのに対し、長谷川氏から「採決は野党の議員も出席した上で行われたことから、『強行に採決』は明らかに事実に反する」と抗議がきた。

 採決の状況から本紙や他の新聞や通信社も「採決を強行した」と表現していた。それにもかかわらず本紙記者の発言を「事実に反する」と断じており、過剰な反応と言わざるを得ない。

 森友学園に対する国有地払い下げを巡る決裁文書の改ざん問題で、本紙記者が昨年六月、財務省と近畿財務局との協議に関し「メモがあるかどうかの調査をしていただきたい」と述べると、長谷川氏から「記者会見は官房長官に要請できる場と考えるか」と文書で質問があった。

 「記者は国民の代表として質問に臨んでいる。メモの存否は多くの国民の関心事であり、特に問題ないと考える」と答えると、「国民の代表とは選挙で選ばれた国会議員。貴社は民間企業であり、会見に出る記者は貴社内の人事で定められている」と反論があった。

<官房長官会見> 原則、月-金曜日の午前と午後に1回ずつ、首相官邸で開かれる。主催は内閣記者会。金曜日午後の会見は、内閣記者会に所属していなくても一定の要件を満たしたジャーナリストが参加できる。官邸のホームページで会見の動画を見ることができる。

<内閣記者会> 記者クラブの一つで、所属記者は首相官邸などの取材を担当している。記者会の常駐会員は新聞、テレビ、通信社の計19社。非常駐会員やオブザーバー会員として地方紙や海外メディアも所属していて、全会員数は185社に及ぶ。

表
 

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