日本はこれからどうなるのか。「消費増税」「金利上昇」「人手不足」「米中摩擦」「高齢化社会」の5つのトピックについて、竹中平蔵氏に聞いた――。
TOPIC 1【消費増税】
増税前に買うべきは不動産。キャッシュレスの活用を
■経済界も主要メディアも、間違っている
最初に明らかにしておきたいのは、私は消費税の増税には反対だということです。
日本の財政は、2017年度で歳出(支出)が約98兆円、歳入(収入)のうち税金は約58兆円で、差し引き約40兆円もの赤字になっており、その赤字を主に国債発行という借金で賄っています。
歳出では急速な高齢化の進展で年金・医療・介護などの社会保障費が毎年増え続け、赤字の最も大きな要因になっています。いずれギリシャのように借金もできない日が来ないように、消費税の税率を上げる増税によって、財政赤字を縮小させ、財政再建を図ろうとしています。
財政再建は必ずやらなくてはいけませんが、重要なのは政策の手順です。景気回復・デフレ克服が先で、増税が後です。そうしないと、増税はしたものの不況に陥って経済全体の規模が小さくなり、税収全体は減るということもありうるからです。私は増税を主張する経済界も主要メディアも間違っていると考えています。
どうしても消費増税をやるのであれば、「改革減税」を実施すればいいと思います。つまり、経済構造の改革に資するような減税を行って、増税の悪い影響をオフセットする。例えば、現在の日本ではいろいろな取引の決済においてキャッシュレスの比率がものすごく低いために、データが蓄積されずビッグデータにならない。
だからキャッシュレスの買い物に対しては、一定の減税を行うとか補助金を出す。働き方改革も率先して取り組んでいる企業に対しては、それなりの減税を行う。今、部分部分、パーツパーツで行われている政策を、パッケージにして、打ち出すべきだと思います。
■高額商品ほど、軽減税率適用がされるべきなのに
低い消費税率が適用される軽減税率制度の実施については、すでに自民党と公明党の与党間で、次の消費税を増税するときは、飲食料品について軽減税率を適用するということで合意しているわけです。
国会では、どこまでが食品、どこまでが外食かというような、神学論争みたいなことをやっていますが、本当に軽減税率を議論するのであれば、実は、住宅とか車などの高額商品にこそ軽減税率を適用すべきかどうかを議論すべきです。ヨーロッパでは適用されています。
要するに、前回の14年の消費増税のときも、結局、高額品である住宅や車、耐久消費財が落ち込んで、景気がだんだん悪くなったわけです。例えば、首都圏で1億円のマンションを買うとしましょう。1億円のうち半分が土地代だとすると、これには消費税はかかりません。残り半分の建物5000万円に消費税がかかるので、税率が10%になると500万円ですから、ベンツが1台買える金額になり、大変な負担です。景気に悪影響を与えるのは当然です。
住宅投資についてはすでに駆け込み需要がみられます。これは増税後に反動減を招き、景気の振幅を大きくして、先行きを不確実にします。
TOPIC 2【金利上昇】
株・不動産保有者は要注意! 大いなる安定時代の終焉
■「黒田バズーカ砲」は、なぜ間違っていないか
メディアでは金利が上昇し始めているという記事が増え、19年は金利上昇の年になるとの見方が強まっています。しかし私は金利が急上昇するとは思っていません。グレートモデレーションと呼ばれる大いなる安定が終わりを迎えるため、金利上昇圧力が弱まるからです。むしろそれにより株、債券、不動産の価格のボラティリティ(不確実性)が急速に高まることに留意すべきだと思っています。では、なぜ足元では金利が上昇しているのか。
日本銀行は13年4月に「量的・質的金融緩和」政策を導入しました。前年比2%の消費者物価上昇率を目標とし、これを2年で達成するとして、日銀が大量の国債を購入することなどによって巨額のマネーを市場に供給しました。
08年のリーマンショックの後、米欧の中央銀行は通貨供給量を増やしたのに対し、日銀だけが増やしませんでした。すると相対的に通貨量の少ない円が高くなるわけです。民主党政権時代には1ドル80円近辺もの円高になった結果、日本の企業は大量に海外へ生産拠点を移しました。
国内での投資は減り、日本のデフレを克服できませんでした。だから、デフレを克服するためにも、通貨量を増やす「黒田バズーカ砲」という政策は間違っていない、ということです。
■日銀の動きに対し、市場が過敏に受け止めている
ところが、こういう物価目標政策は、本来は短期決戦のはずでした。政府も足並みを合わせて、規制緩和を行い投資機会をつくって、一気に経済の流れを変えるという戦略だったのですが、日銀は変わったけれども、政府の規制緩和が思うほどできなかった。
結局、物価はマイナスではなくなったが、目標の2%達成にはまだ遠いという、日銀にとっては非常につらい状況が続いています。本来短期決戦の政策が長期化したことによって、運用利回りを調達利回りが上回るという逆ザヤが常態化し、銀行部門、とりわけ地銀の経営に非常に強いしわ寄せが起こっています。
そのことに日銀も配慮せざるをえなくなって、金融緩和は継続するが、その緩和の程度を抑え始めました。例えば国債を年間80兆円買うと表明したが、実際はそれほど買っていないというように微調整をしているわけです。それを市場が過敏に受け止めているという面はあるでしょう。
もう1つの要因は、米国の金利が上昇していることです。米国では、政府が巨額の減税の結果、財政赤字が拡大をする一方で、FRB(連邦準備制度理事会)は、超金融緩和からの出口を求めて金利を上げている状況です。つまり、これは財政赤字という金利上昇要因と中央銀行による金融引き締めの組み合わせです。それが世界の金利に影響を与えています。
ただ、19年、さらにもっと金利が上昇していくとは見ていません。というのは、このところ世界経済が少しずつ悪くなり始めているので、そういう状況の下で金利を引き上げるということはありえないからです。
TOPIC 3【人手不足】
AI導入は加速していくが、当面、ピンチは変わらない
■この30年間のグローバル競争とは、何だったのか?
18年12月10日に幕を閉じた臨時国会で、外国人労働者の受け入れ拡大を目指す出入国管理法改正案が脚光を浴び、わが国の労働力不足を強く印象づけました。実は、これは日本が人材の獲得競争で、後れをとってしまったことを示しています。
18年は平成30年ですが、この30年の間に、日本の人口はほとんど変化していません。平成の途中まで人口は少しずつ増え、その後、減り始めて、結局はほとんど同じです。問題はこの30年の間に、世界で何が起こったかということです。米国の人口は約30%も増え、3億人を超えました。すっかり成熟したと思われている英国でさえ、15%増えている。
つまり、この30年間のグローバル競争というのは、要するに主要国にとっては人材の取り込み競争だったのです。日本だけがそれに背を向けてきた結果、今とんでもない人手不足が起こってきて、もうにっちもさっちもいかなくなり、ついこの間まで移民反対とか言っていた人までが、急に、「何でもいいから外国人を入れてくれ」と言い出しました。外国人を受け入れざるをえない状況になったということでしょう。