北谷を訪れたものまね芸人のさかともが、こんな芸を披露してくれた。
「又吉選手のスライダーに、やる気のない空振りをする坂本選手」。それを見た又吉本人が「そうそう。このシーン、見る!」と公認を与えた。このものまねには、笑いの後ろに又吉の魅力と隠れた課題が詰まっている。変化量の大きなスライダー。右打者への絶対的な強み。そして裏を返した左打者への苦しい投球だ。そこを的確に見抜き、解決策を示したレジェンドがいる。
「一塁側から投げるメリットはあるのか?」。岩瀬仁紀さんの言葉だ。又吉は投手板の一塁側を踏んで投げていた。変則右腕の常道だが、又吉の球種と球質を知る岩瀬さんは逆だと言い切った。
「あのスライダーは又吉の生命線。それなのに一塁側からじゃ生かされないんですよ」。アドバイスは2年ほど前だが、準備期間をへて今季から又吉は投手板の三塁側から投げ始めている。
昨季は右打者の被打率2割5分3厘に対して、左には4割2分と打ちのめされた。打数は左の方が少ないのに、浴びた長打の数も与四球も左が多い。奪三振は右が倍以上だから、左打者対策が急務なのがよくわかる。
この日は3イニングを無失点ながら4四死球。ただ、左打者はのべ6人で1四球だけにまとめた。「インスラを投げきることが左対策です。外野フライは二つともそのインスラなのでそこは収穫ですね」。勝負の先発挑戦。左打者に弱いというレッテルを剥がさねば、成功はない。
「又吉のスライダーは、三塁側から投げることで角度がついて、左にも食い込む」。岩瀬さんの言葉は、又吉にも染みている。「僕にとって岩瀬さんの存在は絶対。ああいう投手になりたいですから」。北谷には巨人・阿部をまねる、あれ慎之助も来ていた。坂本には逃げ、阿部には食い込むスライダー。立ち位置が変われば軌道が変わる。岩瀬さんが示し、又吉にも見えている道筋。歩ききれば、先発としての新境地に到達する。