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【社説】

成績で校長評価 子どもを見る目が偏る

 大阪市が、市や大阪府で行う学力テストの結果を小中学校の校長の人事評価に反映させる。全国学力テストの結果が政令市で最下位だったことが発端だ。子どもの顔が点数に見えてしまわないか。

 吉村洋文市長は全国学力テストの結果が公表された昨夏、翌年からこのテストの結果を校長や教員の給与などに反映させると表明。市民や教育関係者から批判が起きた。

 二〇一九年度、試行実施する新制度では学校ごとに具体的な成績目標を定め、その達成度を校長評価に反映させるという。使用するのも国ではなく府や市独自のテスト結果とした。だが、当初方針と同じく、学校運営の中で今まで以上に点数が幅を利かせるようになるであろうことは容易に想像できる。

 全国学力テストは学力低下の批判を受け、〇七年、四十三年ぶりに復活した。一九五〇年代から六〇年代に行われていた全国テストは、地域間の競争が過熱し、成績下位の子どもを休ませたり、教員が指さしで正解を示唆したりの不正も横行し中止された。

 再開当時から序列化や地域間競争が再燃する懸念はあった。文部科学省は「個々の児童生徒の指導改善に生かす」と全員調査の必要性を説明したが、この十年の経緯をたどると、競争原理が過熱していく方向での変質が続いている。

 当初は都道府県別としていた結果公表も、一部の自治体が市町村別などの成績を公表し、文科省も認めるようになった。二〇一七年度から政令市別の公表も始めた。

 一方で過熱を懸念する動きも出ている。一昨年末、福井県議会は「『学力日本一』を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因になっている」として教育行政の抜本的な見直しを求める意見書を可決した。中学二年の男子生徒が学校で飛び降りたことが契機となった。

 本来、学校の役割は、いじめや虐待、貧困など、一人ひとりの子どもが学業に集中できないような環境に気付き、手を差し伸べることにある。教師の過重労働も問題となる中で、成績での目標達成ありきになれば、理念を追い求めることも困難になるだろう。

 他の自治体の議会でも、大阪市の動きに追従することを求めるような動きもある。負の面がこれ以上大きくなるようならば、国は全国テストのあり方を見直すことも検討すべきだ。

 

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