ここ数年、度々耳にするようになったキーワード ―「ハイレゾ」。
当サイトでも、その簡単な仕組みの紹介から、ハイレゾ音源再生に対応したウォークマンのご案内をさせて頂くなど、何かと機会があっては関連したトピックを取り上げてきました。(過去記事1,2)
では、 “実際にそのハイレゾを楽しむためにはどうすればいいのか?” ということを、できるだけ難しく考えず、また簡単に楽しむための方法を整理してみましょう。題して『難しくない!初めてのハイレゾ』 !
本記事ではその “準備編” としてハイレゾ音源、そして “ハイレゾ対応” という言葉の説明からハイレゾ音源の入手方法等を説明していこうと思います。
ハイレゾ音源って何?
まず初めにハイレゾ音源には大きく分けて2種類あることを知っておかなければなりません。1つは「PCMハイレゾ音源」、もう一つは「DSD音源」です。難しいことは抜きに、というコンセプトの下さっそく小難しいお話になってしまいますが、少しお付き合いください。「原理なんかどうでもいーよ!」という方は次の章へジャンプしていただいても大丈夫です。
まずは「PCM(Pulse Code Modulation)」について。PCMでは “サンプリング” と “量子化” の2つをキーワードに、普段私達が耳にしているアナログ音源をデジタルデータ化します。
下図において “低い音から高い音までどこまで広く記録できるか” ということを縦軸(=サンプリング周波数)に、 “音の大小をどれだけ細かく記録できるか” ということを横軸(=量子化数)に見て、それぞれ細かく区切られた方、つまりサンプリング周波数・量子化数共に大きいほうが赤いサインカーブで示した元のアナログ音源に近いデジタルデータが得られているのが分かるかと思います。このことを「PCM方式によるハイレゾリューション化」とします。
元のアナログ音源(=赤いサインカーブ)に対して、左よりも右のほうが
細かく正確なデジタルデータ(=黄線)を得ることができている
PCM方式は一般的なCDの規格にも用いられており、スタジオやホール等で録音されたデータは、最終的に44.1kHz/16bitとなってCDに記録されています。そして、このCD規格を超えるサンプリング周波数・量子化数を持つ音源を「PCMハイレゾ音源」と呼んでいます。
一方、DSD方式では量子化数を1bitに固定、そのかわりにサンプリング周波数を極端に上げることでデジタルデータの精度を上げることを目標とします。
CD用サンプリング周波数が44.1kHzであり、一般的なハイレゾ音源が96kHz・192kHz程度であるのに対し、DSDでは2.8MHz・5.6MHzが主流となっています。これは一般的なCDのサンプリング周波数に対して実に64倍・128倍の情報量を記録できることになります。また、アナログ音源をカーブとして捉え、それに沿うデジタルデータを得ようとしたPCM方式と違い、DSD方式で得られるデジタルデータは信号の濃淡で記録されることになります。音は空気を媒体に縦波(疎密波)として私達の鼓膜に届いていますが、それに近い形式でデジタル化できることもDSD方式の大きな利点の1つです。
原理的にはDSD方式のほうが簡単ではあるのですが、CD規格に沿ったPCM方式が一般化してしまい、一度規格競争の波に飲まれ、扱いの難しいDSDの再生環境はまだ整いきれていないということも事実です。 “ハイレゾ対応” を掲げるスマートフォンや音楽プレイヤーの多くもDSD音源の再生には対応していないか、していても「リアルタイムPCM変換」という手法を用いて再生時に内部でPCMハイレゾ音源へ変換処理をかけているということがほとんどです。
本記事では、より身近なPCM変換方式のハイレゾに的を絞って説明を続けることとします。
ハイレゾ音源の入手方法
ハイレゾ音源に対して、簡単に原理的なことをまとめました。
では、実際にハイレゾ音源を楽しむためにはどうすればよいのでしょうか。そもそも、ハイレゾ音源自体がCDの規格を超えたものであるために、従来のように『CDのから取り込んで~』といったことはできません。
そこで、ハイレゾ音源の入手・購入はインターネットを介したダウンロード形式が一般的です。ハイレゾ音源の配信を行っているサイトは複数存在しますが、例として「e-onkyo」「mora」「OTOTOY」を紹介します。全ての音源に対してハイレゾ音源が存在するとは限らず、その数はまだまだ少ないと言えます。お気にいりの音源を手に入れるためには、それぞれのサイトの特色を理解して探してみるしかないのかもしれません。
ちなみにクラシックを好む筆者は、主にe-onkyoを利用させていただいています。サンプル音源のダウンロードも行われているので、一度試聴してみてはいかがでしょうか。
“ハイレゾ対応” とは?
ハイレゾ音源の入手をしただけでは残念ですが音楽は聴けません。ここで必要になってくるのは「ハイレゾ音源出力に対応した “プレーヤ” 」と「ハイレゾ音源再生に対応した “ヘッドホン・スピーカ” 」です。
近年のハイレゾオーディオブームに則って、日本オーディオ協会は「ハイレゾの定義」を行いました。プレーヤに関しては純粋に再生・出力ができるかどうかというだけの問題ですが、ヘッドホン・スピーカに関してはまた少しややこしくなります・・・。
日本オーディオ協会の定義に「音源が96kHz/24bit以上のロスレスフォーマットであること」「40kHz以上の高音域再生能力があること」という項があります。人間の可聴域が20~20kHzと言われているなか、どうしてここまで高域再生が望まれるのでしょうか。
またしても難しい話になってしまいますが、ここで「音」について基本的なことを確認しておきましょう。主に音楽を成している “楽音” には「倍音」というものが含まれます。簡単に説明すると、「ド・レ・ミ」のように出されるべき名前のついた楽音はそれぞれの固有の周波数を持ちますが、それ以外にも整数倍の位置にピークを持つ、ということです。そしてそれはもちろん可聴域外にも存在し、いわゆる “原音” の波形にも少なからず影響を与えているのです。
CDで聴く音楽と違って生で聴くオーケストラの豊かな響きにうっとりできるのは、楽器が奏でる音楽の中に豊かな倍音が含まれていることも、その理由の1つといえるでしょう。
そしてもう一つ倍音に関連して「ナイキスト周波数」と言うものについて紹介させていただきます。ナイキスト周波数とはサンプリング周波数の1/2の周波数のことであり、すごく簡単に説明させていただくと、ナイキスト周波数とサンプリング周波数との間には「サンプリング周波数に対して音はその半分の周波数(ナイキスト周波数)までしか正しく再生できない」そして「ある周波数のアナログ音源をデジタルデータ化する際にはその2倍のサンプリング周波数が必要である」という関係があるのです。
可聴域を超えた音とは読んで字の如し、人間の耳では “聞こえない” 音です。こう言ってしまってはしょうがないですが、ハイレゾオーディオが求めているものは人間の感覚を超えたものなのかもしれません。しかし、サンプリング周波数と量子化数を引き上げることで、より細かい音量表現や、正確な倍音表現によって実際に目の前でアーティストが演奏する音楽に近いものが再現できる、ということは事実です。
また、量子化数に関しては16bitから24bitになることで、簡単に考えてCD音源よりも256倍の細かさで音の大小を記録できることになるので、その分なめらかな音量表現が可能になります。もしかするとサンプリング周波数の向上よりもこちらのほうが、実際に音楽を聴いていて「変わったな」と感じる事ができるかもしれません。
ここまでのことをふまえて、例えば96kHzで録音された音源の場合、約40kHz程度までの再生可能能力を備えたヘッドホンやスピーカがあれば、より生の演奏に近く、可聴域を超えた倍音を含む領域の再現が可能であるということ、さらに、例え音として耳に聞こえなくとも、ハイレゾ音源は今までの音源よりも原音に近い、ということが理論的に少しでも理解していただけたのであれば幸いです。
いまさらですが、難しく考え過ぎず「今までよりアツいライブ会場の熱気や、消え入るようなオーケストラの響きに近づくことができるものがハイレゾオーディオ」だと捉えておいてください。対応ヘッドホンやスピーカに関してもそうです。ヘッドホンやスピーカはそれぞれの個性が強く、必ずしも「ハイレゾ対応ヘッドホン」が個人の好みに合うとは思えません。好きに楽しむことが大切だと思います。
ハイレゾ準備のまとめ
さて、ずいぶんと長く難しい説明が続いてしまい申し訳ございませんでした。
まとめさせていただくと、
- ハイレゾオーディオでは、より生の演奏に近い “感覚” を得ることができる
- ハイレゾオーディオをより楽しむためには、対応したプレーヤと再生機器(ヘッドホン・スピーカ)等が必要
- 音源はダウンロード販売が主流
というところです。
次の記事では実際にハイレゾリューション・オーディオの楽しみ方について紹介してみたいと思います。
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