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「年利10%」をうたうヤバイ儲け話、ただいま連続摘発中のワケ

2019年2月15日 14:47 現代ビジネス

(文・伊藤 博敏)

連続摘発の皮切りはココ


日本銀行が、金融政策としてマイナス金利を実施している時代に、年利や配当が10%を超えるような金融商品は、「ありえない」ということを肝に銘ずるべきだろう。

しかし、詐欺的商品を売りつける側は狡猾である。「儲けたい」「老後の不安を解消したい」「誰かとつながりたい」といった高齢者を中心とする“小金持ち”たちの心理を巧みに揺さぶる形で、投資に引き込む。

終戦直後に摘発された闇金融の「光クラブ」、元祖ネズミ講(無限連鎖講)の「天下一家の会」、純金ペーパー商法の「豊田商事」など、詐欺的金融商法は業者と捜査当局のイタチごっこが続いている。

需要と供給があるから無くならないわけだが、悪徳業者数と被害者数と被害金額が、過去と比べものにならないほど増えており、2019年は「マイナス金利時代の詐欺商法」を連続摘発することになりそうだ。

その皮切りが、ケフィア事業振興会である。警視庁は、2月5日、出資法違反容疑で東京・千代田区の本社などを家宅捜索した。

私が本サイトで、「被害者3万人!ケフィア事業振興会『1053億円巨額破産』の深層」と題して配信したのは、同社が東京地裁に、9月3日、破産を申し立てた直後である。破産から本格的に捜査着手、5カ月で強制捜査に乗り出したのは、記録的な早さだ。

ため息が出るような自転車操業だった。オーナー制度と称して柿などのオーナーになれば半年で10%の利回り、あるいはサポーター制度と称して太陽光などの発電投資で7~8%の利回りを保証していた。

それだけの金利を支払って成り立つビジネスや投資があるハズもなく、結局は出資金を売り上げに計上して、約束の利回りを支払う形態。目先の変わった商品を開発、オーナー募集を途切れなく行ない、一度、ケフィアに入ったオーナーは、歌舞伎やサーカスの無料招待、海外旅行接待などで繋ぎ止めた。

市田柿などを通信販売する「かぶちゃん農園」など傘下の牧歌的ネーミングの会社で行なう詐欺的勧誘で、13年7月期の65億円の売上高が、17年7月期には1004億円と急成長した。「かぶちゃん」は、グループを引っ張る鏑木(かぶらぎ)秀彌、武弥父子に由来。マスメディアの直撃を受けても動ずることがない。「取れるものなら取ってみろ」という開き直りである。

冗談のような勧誘で500億円集めた


マルチまがい商法の草分け的存在の山口隆祥氏が75年に興したジャパンライフは、浮沈を繰り返しながら生き延び、娘の山口ひろみ氏が後を継ぎ、磁気治療器などの預託商法を継続してきた。購入者が知人などにレンタルすると6%の金利が得られるというレンタルオーナー契約である。

しかし、16年12月以降、特定商取引法違反や特定商品預託法違反などで、消費者庁から4回の業務停止命令を受けて命運が尽きた。

17年12月、経営破綻状態となり、18年には債務超過に転じ、同年11月、第一回の債権者集会が開かれた。全国に7000人の顧客を抱え、負債総額は約2400億円。既に、警視庁は特定商取引法違反容疑で捜査着手、愛知県警も刑事告訴を受理しており、合同捜査体制を取ることになる。

「月利3%、年率にして30%超の配当を約束する」というほとんど冗談のような勧誘で、約500億円を集めたのが「テキシアジャパンホールディング」である。

中高年女性を中心に、カリスマ的な投資話術で資金を集めたのは主催者の銅子(田中)正人氏。多彩なエンターテイナーでもあり、著名歌手を呼んで行なう投資セミナー後の歌謡ショーでは、自らマイクを握って歌を披露、会員サービスに努めた。

当然、月利3%を実現する金融商品があるハズはなく、刑事告訴が愛知県警などに寄せられて捜査に着手、13日、銅子代表らを詐欺容疑で逮捕した。

昨年、スルガ銀行はシェアハウス事件に揺れたが、現在、4月12日までの業務停止処分に入っており、その間、アパート融資の全件調査を実施中。そのため、報道も含め小康状態が続いている。

金融庁は、預金流出に悩むスルガ銀行のために、地銀各行に預金協力を打診。昔懐かしい「奉加帳方式」での救済に動いた。庁内には「自業自得」の声があるものの、資金規模3兆円を超え、地域経済にも根を張るスルガ銀行を潰すわけにはいかない。

だが、スルガ銀行が主導したシェアハウス事業が、詐欺的要素の強いものであることは変わらない。顧客数1258名、融資額2036億円のシェアハウス事業は、どのように伸びていったか。

「8%、30年の家賃保証」という前提が、まずありき、である。その条件を満たす物件を、オーナーの資力で選んで勧める。だが内実は、その基準内で、土地売買に絡んで中抜きをしたり、建設会社にキックバックをさせたりする。

当然、家賃は割高で、入居率はその分低くなり、利回り保証などできぬまま「かぼちゃの馬車」で知られたスマートデイズは経営破綻、他の業者も連鎖した。

いずれもスルガ銀行の融資ありきでスタートしており、同行行員が通帳の書き換えに加担、融資基準をクリアさせており、「銀行ぐるみの詐欺商法」と、オーナー被害者弁護団が声を上げるのも無理はない。

調査途中で銀行の行方が定まらない間は刑事事件化することはないが、5月以降、刑事告訴を受けての捜査着手という流れになりそうだ。責任の所在を明らかにする捜査である。

「フィンテック」界隈でも…


金融とテクノロジーを融合させたフィンテックのなかでも、個人が企業に資金を貸し付けるソーシャルレンディングは、新しい金融の形態として期待を集めたが、18年に債務不履行が相次ぎ、金融庁は業務改善命令を連発、規制を含め抜本的な解決を迫られる事態となっている。

これも10%前後の利回りを保証した事業への融資を、ネットの情報だけで集めるというビジネスモデルが、「借りたら返さん(返せん)」という業者の開き直りに繋がっている。なかでもソーシャルレンディングの老舗で最大手、1500億円超のローンファンドを組成したmaneoの不振は、業界の将来を暗示させる。

同社は、maneoファミリーと呼ばれる不動産業者や太陽光発電業者などにプラットフォームを貸して資金調達を手助けしているが、ファミリーの債務不履行が相次いでいる。1社や2社だけでなく、総崩れといっていい状態で、ファミリー破綻は目前だ。

原因は、「借り手保護」を理由に、投資家にどこのどんな事業かを詳細には明かさなくていいことになっており、それに乗じて、集めた資金を別の配当に回すなどの自転車操業が常態化、なかには事業実態のない詐欺案件で募集しているものもある。

業務停止命令、業務改善命令が相次ぎ、ビジネスモデルの破綻が明らかになった以上、規制と同時に警察当局が、犯罪摘発によるケジメをつけることになりそうだ。

投資は自己責任が原則だが、騙す方はあの手この手のテクニックを磨くのに比べ、騙される方は、はじめて引っかかるケースが少なくない。数百億から数千億円単位の詐欺商法がこれだけ多くなっているのは、低金利の逼塞感から逃れようと蠢くカネが、いかに多いかの証明でもある。

メディアは「うまい話には罠がある」という報道を続け、捜査当局は飽くことなく摘発に務めるしかない。

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cat_11_issue_oa-gendaibusiness oa-gendaibusiness_0_63dc6b0483f7_「キャッシュレス決済」で自動的に貯まる人に!今さら聞けないキホン 63dc6b0483f7 0

「キャッシュレス決済」で自動的に貯まる人に!今さら聞けないキホン

2019年2月15日 14:45 現代ビジネス

(文・風呂内 亜矢)

今年こそは「キャッシュレス決済」を始めよう。そう思うあなたに、基本のキからアドバイス。『ほったらかしでもなぜか貯まる!』などの著書があるファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんが、キャッシュレス決済で使いたい「カード」「銀行口座」「コード決済のいま」など、やさしく解説します。

文・構成/星飛雄馬

お金を貯めたいなら「決済」の仕方から見直そう


皆さんこんにちは。ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢です。

2019年も早くも1ヶ月が過ぎましたが、今年こそはお金を貯めたいと思ってらっしゃる方も多いかもしれません。貯蓄を増やすための大切なポイントは、仕組みにして自動的に続けられる流れを構築すること。中でも、日々の買い物などの決済のルールを決めることは重要です。

今の時代、おトクに支払いをする上で「キャッシュレス決済」は欠かせません。すでにキャッシュレス決済中心の方にとってはご存知のことも多いでしょうが、まだ現金払い中心の方のために、基本的なことからご説明します。

キャッシュレス決済の中で、最も私たちに浸透しているのはやはり、クレジットカードに代表される「カード決済」になるでしょう。

Apple PayやQR/コードなどによる「モバイル決済」は、イメージとしてはカード決済の次のステップです。最近、キャッシュレス決済というとモバイル決済の話になることが多いですが、慣れない人はカード決済によるキャッシュレスから試してみるのもおすすめです。

カード決済の場合、鞄からお財布を取り出すという作業をとりのぞくことができません。一方、Apple Payなどの「かざして決済」をする方法(非接触型決済)は、iPhoneであれば7以降のモデルなど、使える端末に一定の制限があります。

ここで、PayPayやLINE Payなどのコード決済を使えば、シンプルな機能のスマホなど、どんな端末を使っていても、コードを表示できさえすればモバイル決済が可能になります。そうした背景から、コード決済に注目が集まっています。

コード決済は今、シェア争いが激しく、20%や50%、日や店舗を限定して買い物金額の約8割の還元が受けられるキャンペーンを行うこともあり、強烈な魅力を感じさせます。けれど、まだコード決済に対応した店舗が少ないという大きな欠点があり、メインの支払い手段として考えるのは現実的とはいえません。

そもそも、コード決済の場合、銀行口座やクレジットカードと連携して、支払いをすることになります。つまり、メインで使用する銀行やクレジットカードをしっかり固めておきさえすれば、コード決済のアプリを複数使用していても、お金が引き落とされる場所は1つにまとめることができます。

大切なのは、どの銀行やクレジットカードをメインで使用するかの「地固め」であって、コード決済のアプリは現時点ではあくまでおまけの位置づけ。キャンペーンなどその時々で一番有利なものを使えばいい、という選び方であれば、うんと選択しやすくなります。

「王道カード」でキャッシュレス決済をおトクに


それでは、ここで私自身が実践している、キャッシュレス決済の黄金のコンビネーションをご紹介いたしましょう。まずは、クレジットカードからです。私がおすすめするカードは、楽天カードです。

楽天カードの魅力は、年会費が無料で、どこで使っても還元率が1%以上だと言うことです。私は年会費無料で還元率が“どこで使っても”1%以上のものを「王道カード」と呼んでいます。

王道カードは他にも、リクルートカードやYahoo!カードなどが該当します。自分がよく使うECサイトや店舗で、さらにポイントが上乗せされるものをメインとして据えるのが良いでしょう。

楽天カードは、国際ブランドをVISA、マスターカード、JCB、アメリカン・エキスプレスの4つから選べます。どれも、世界中で使えるブランドですが、私はマスターカードを選択しています。そして、それには深い理由があるのです。

iPhoneにはいろいろなクレジットカードを取り込むことができます(Apple Pay)。従来であれば、Apple Payにカードを取り込んだ場合は、Suica、iD、QUICPayのいずれかに紐付けされ決済を実現していました(現在もメインの動きは変わりません)。

Suica、iD、QUICPayは主に日本で使われているTypeFという決済の規格のため、海外では通常利用することができません。

2017年の秋からは日本で発行されたクレジットカードでも、JCBやマスターカードによる非接触型決済(TypeA/B)が可能となり、その対応はマスターカードが比較的早い印象でした。

海外で荷物が多く、お財布を出すのが大変なときほど、スマホをかざすして支払える非接触型が便利です。そのため、楽天カードはマスターカードで作成しiPhoneに登録し、いろいろな国でApple Payによる決済の便利さの恩恵を受けています。

もう、重い荷物を持ちながら、必死に鞄の中の財布を探さなくてすむのです。

ちなみに楽天カードの場合、JCBブランドでも2018年3月から、マスターカードと同様にTypeA/Bによる非接触型決済が可能になっています。

日本のカードと日本のiPhoneの場合、JCBかマスターカードブランドであれば、同様にApple Payに取り込んで利用できる可能性があります。手持ちのカードも確認してみると良いですね。

クレジットカードが楽天カード(あるいは他の王道カード)に決まったら、二枚目に持ちたいカードが、LINE Payカードです。このカードはクレジットカードと異なり、先にお金をチャージして利用するプリペイドカードになっています。

プリペイドカードは、その時点でチャージしている金額までしか買い物には使えません。ムダ使いを防ごうと、袋わけで予算管理をしていた人が、代わりに使うのにも適したカードと言えるでしょう。

既にクレジットカードの楽天カードを持っているのに、LINE Pay カードを持つのはなぜでしょうか?

理由は、そのポイント還元率にあります。決済金額月10万円以上という基準を満たせば、LINE Pay カードのポイントの還元率は2%になります。つまり、100円使うたびに2円相当のポイントが貯まる計算です。

クレジットカードとしてはポイント還元率の高い、楽天カードでも還元率は1%。いかに、LINE Payカードのポイントの還元率が高いか分かりますね。私はApple PayのモバイルSuicaにLINE Pay カードを使ってチャージをし、非接触型決済による便利さとLINE Pay カードの還元率の高さの両方を得ています。

なお、LINE Pay カードは保険料や通信費など、毎月定額で引き落とされるような費目に使えないことが多いため、固定費の引き落としにはやはり王道のクレジットカード(私の場合は楽天カード)が頼りになります。

お金が貯まる「銀行口座」の選び方


カードが決まったら、次はメインの取引先銀行を選びましょう。

主に給与の振り込みに使われるようなメインの取引先銀行は、3大メガバンク(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)のどれかから選ぶのが無難です。公的な引き落としなどの中には、まれにまだインターネット銀行を指定できないことがあるためです。

自営業の方や、複数の取引先から収入がある方の場合、取引先のメインバンクと同じ銀行の方が好まれることもありますね。

私も、お仕事の入金や楽天カードの引き落とし、LINE Pay(カード)のチャージ口座には、メガバンクを指定していて、動くお金については1つの口座にまとまっている状態です。

メインバンクが決まったら、次はセカンドバンクを決めましょう。メインバンクと異なり、セカンドバンクは純粋に利率やサービスで決めるのがよいでしょう。私はイオン銀行をセカンドバンクにし、定額自動入金サービスを活用しています。

定額自動入金サービスとは、他行口座から毎月、一定金額をイオン銀行の普通預金口座に入金するサービスのことです。イオン銀行では、手数料が無料で、最大5契約まで定額自動入金サービスを設定できるので、これを活用してメインバンクからセカンドバンクに預金を移動させ、貯蓄用の口座として活用しています。

ちなみに、イオン銀行では条件を満たすと普通預金金利でも金利が最大0.12%(2018年12月10日現在)にアップするという点も魅力的です。

このようにメインで使う銀行やクレジットカードを決めておけば、後は複数のコード決済のサービスを紐づけても、お金の最終的な出口は1つにまとめることができます。

時期により、様々なキャンペーンが提供されるコード決済。そのおトクな特典は生かしつつ、決済のルールが固まっていない人は、まずはメインの銀行やカードを固めるというところから始めましょう。そうすれば、自動的に貯まる生活が手に入ります。

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cat_11_issue_oa-gendaibusiness oa-gendaibusiness_0_f9e4613060d0_東横線、田園都市線、池上線……東急沿線が人気であり続けるヒミツ f9e4613060d0 0

東横線、田園都市線、池上線……東急沿線が人気であり続けるヒミツ

2019年2月15日 14:43 現代ビジネス

(文・東浦 亮典)

東横線、田園都市線をはじめ、「住みたい路線」アンケートでつねに上位にランクインしている東急電鉄。同社の現役執行役員、東浦亮典氏は、著書『私鉄3.0』(ワニブックス刊)で、東急の人気の秘密とその未来について分析・提言している。相鉄との直通線が開業予定の東横線、近年人気が高まっている池上線と世田谷線、人口減少・高齢化という課題を抱える田園都市線……これから東急沿線はどうなっていくのか? 東浦氏が語った。

東横線はこれからどうなるのか


東横線、特に神奈川エリアの駅には、これから大きく変貌を遂げていく街が含まれています。

すでに武蔵小杉駅には川崎市の都市計画方針により元工場だった跡地に次々とタワーマンションが建ち並び、街の様子も一変しました。子育て世代を中心に大規模な民族移動が進んでいますし、都心にも負けないような商業施設も多数でき、住みたい街ランキングの上位にランクインするまでになりました。

次に変わってくる可能性があるのが日吉駅~綱島駅周辺です。神奈川東部方面線が近い将来完成すると、この一帯の利便性はさらに向上します。特に「新綱島駅(仮称)」という新駅ができるエリアは、駅周辺の再開発機運が高まっています。

綱島街道の拡幅も予定されており、日吉側でも工場跡地で大規模開発が進行中です。あのアップルの研究所も入居する「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン」は、すでに2018年にまちびらきしています。

これまで東急は東横線沿線で大きな開発はやってきませんでしたが、今後はこうしたさまざまな動きが契機となり、周辺でも開発機運が高まってくることでしょう。

東横線はこれからどうなっていくのでしょうか。

渋谷駅というターミナルはなくなりましたが、みなとみらい線、副都心線、目黒線、南北線、三田線、日比谷線(2013年に相互直通は廃止)と行き先のバリエーションは増えていますし、利便性が高い路線として輝き続けるでしょう。

タワーマンションや大規模開発も目白押しで、子育て世代を中心に変わらぬ支持を得ていますし、昔ながらの駅前商店街も元気です。古いアパートやマンションもたくさん残っていますので、学生や20代の若者でも手が届く安い住居もあります。東横線に魅力を感じる人はこれからも変わらずたくさんいることでしょう。

人気路線の東横線と比べ、これまでやや地味であまり耳目を集めてこなかったものの、今後注目されるのは、世田谷線と池上線だと考えています。

大きな理由として、東急が有する他路線とは違い、他社乗り入れをしていないので、独自路線イメージがつくりやすいことが挙げられます。いい意味でのローカリズムがあって、それを好む人も多い。

池上線や世田谷線にはコンパクトな街のサイズや、人との程良い距離感、のんびりとした空気があり、居心地の良い毎日の中で自分が街の主役になれると感じることでしょう。

特に池上線・多摩川線が走る大田区エリアは2015年を起点に見ると、人口の伸び率が東急沿線で一番高いのです。

東横線沿線とは異なり、この両線の駅周辺には大規模な開発余地はありませんので、今後街並みが大きく変わることもほとんどありません。むしろリノベーションなどにより、街の景観を変えることなく、中身がアップグレードされてくることが期待されます。

高まる世田谷線、池上線の人気


現在、東急電鉄では池上線を「生活名所」と銘打って、地域の商店街などと協働してかつてないほど力を入れて独自の沿線ブランディングを進めています。

世田谷線沿線でもNPOや地元商店街とともに、花植えや食べ歩きイベントなどを連携したり、観光系ベンチャー企業と協働してインバウンド観光客を誘致したりして、ありのままの世田谷線を楽しんでいただく活動をしています。

若く感度の良い人たちを中心に、池上線や世田谷線が持つローカリズムを再評価する動きもあります。

駅で言うと世田谷線の松陰神社前駅や上町駅、山下駅(豪徳寺の周辺)、池上線では戸越銀座駅や洗足池駅、池上駅などが注目されています。

良い街の条件はいろいろあると思いますが、活気ある商店街や個人経営の個性的な店がたくさん残っていることに集約されるのではないでしょうか。

企業がショッピングモールを計画する場合、ある程度の資本力と信用力があるテナントを入れざるを得ません。その結果、日本中のショッピングモールが同じようなテナント構成となり均質化してしまっています。

創意工夫を凝らした個人経営の店がどれだけ残っているか、車の往来を気にせず、ゆったりと街を歩いて移動できるか。こういう要素がこれからの街の価値の向上につながっていくと私は思います。

目黒線の武蔵小山駅前には、かつてとても魅力的な猥雑な飲み屋街が残っていましたが、今は市街地再開発事業によって跡形もなく取り壊されてしまいました。数年内にタワーマンションが建ちます。

駅前から続く巨大アーケード街も賃料高騰により生業で経営している店はほとんどなくなり、全国チェーンのお店ばかり。便利ではあるでしょうが、面白さに欠けてしまいました。アーケード街の一本裏道に入ると味わいのある店がいくつか残っているのがせめてもの救いです。

沿線の個性を大事にしながら開発を進めることは簡単なことではありませんが、それが私たちの使命でもあると考えます。これらの路線は距離が短くコンパクトなので、路線の個性を出しやすいのも強みです。

東急沿線全体の人口は、2018年の推計ベースで2035年がピークと予測しています。以前の調査では2025年がピークと予測されていましたので、人口減少に転ずる年次が10年も後ろ倒しになったことになります。

これは首都圏レベルでの都心回帰傾向と、東急沿線人気による社会増などによるものです。直近の統計データでは東急沿線人口は約530万人となっており、10年前と比較しても約28万人も増加。日本全体が人口減少社会に突入していることを考えれば、東急沿線の人口増加ぶりは目を引くものがあります。

しかし人口が増えているからと言って安心はできません。東急沿線も確実に高齢化はしています。生産年齢人口は、2025年をピークに減少に転じます。

町丁目別の人口動態をみると、田園都市線の青葉台駅のバス圏などでは人口が高齢化と同時に減少している地点が出てきました。

かつて多摩田園都市は「新興住宅地」と言われていました。しかし、このままの傾向を放置していると、ニュータウンはあっという間にオールドタウンへと変わり果ててしまうでしょう。まちづくりデベロッパーとして、東急はそれを傍観しているわけにはいきません。

「田園都市」をどう再生するか


都心を中心とした同心円をイメージしてください。経済的な発展と人口膨張が落ち着くと、都心から遠いところから、徐々に人口は少なくなっていきます。

それは均等に少なくなるわけではなく、「手のひら」のように、指にあたる鉄道路線に至近のエリアはまだ大丈夫ですが、指と指の間、つまり交通利便性の悪いエリアから住人が欠けて縮小していくのです。

また路線別でも等しく縮退しているのではなく、東武沿線や西武沿線の遠隔地や京急沿線の三浦半島方面などは人口減少、高齢化ともに問題となっています。

人口のパイはどうしても減ってやがてマイナスサムになりますから、創意工夫をして「選ばれる沿線」にしていかないと地域間競争に負けてしまいます。

東急は「交通」「不動産」「生活サービス」という三つの柱を基本として、広く事業を展開しています。開発の終わりは仕事の終わりではありません。一次開発が終わり、宅地販売が済んだからといって高齢化が進んだ地域をそのまま放置してしまうと、通勤・通学する人が減って鉄道収入が得られなくなってしまいます。

駅前、駅上にたくさん投資してきた商業施設や生活サービス関連施設の利用が少なくなると、街そのものが衰退してしまいます。これは東急にとっての最悪のシナリオです。初期の開発とはまた違った手法を編み出して、反復継続して再投資・再開発・再生事業を続けていかなくてはならないのです。

東急グループ全体として、新たに沿線に人をたくさん流入させることも大事ですが、いったん流入した人が定着して、そこで一生安心して楽しく快適に住み続けていける環境を維持していくことも等しく大事です。

多摩田園都市は多摩丘陵沿いに開発されたため、坂道や階段が多いことが街の特徴になっています。30代、40代でこの街に移住してきた頃は、まだ体力もマイカーもあるので、そんな土地の起伏も街の風格に映ったことでしょう。

しかし、体力の落ちた方、障害を抱えた方、運転免許を返納した方などには極めて住みにくい街の構造をしています。それは多摩田園都市を開発した頃には、いずれそのような社会が到来するとは想像しきれていなかったからです。

東急グループでは鉄道とバスは運行していますが、その他の多様なモビリティサービスを提供できていません。今後は少人数での短距離移動に向いた「パーソナルモビリティ」や好きな時にどこでも乗り降りできる「フルデマンドバス」、あるいはシェア型のモビリティサービスなどを街中に充実させていく必要があります。

「この街に引っ越してきて良かった」「この家を終の棲家としたい」、そう感じて人生の最後まで安心安全、便利、快適に過ごしていける、そんなまちづくりをすることがまちづくりデベロッパー東急の使命だと考えています。

誰もが必ず迎える「老い」という現実。「街」とは生き物であり、まちづくりとは一旦造り上げた街に継続的に手を入れながら、その後も見守り続けること。その責任が東急にはあると思っています。

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cat_11_issue_oa-gendaibusiness oa-gendaibusiness_0_b0758b67200b_「リアルナンパアカデミー事件」裁判で見えた、犯行の奇妙な構図 b0758b67200b 0

「リアルナンパアカデミー事件」裁判で見えた、犯行の奇妙な構図

2019年2月15日 14:41 現代ビジネス

(文・小川 たまか)

昨年5月に2人の「塾生」が逮捕されたのを皮切りに、これまでに7人の逮捕者が出ている、ナンパ講座「リアルナンパアカデミー(通称RNA)」による集団準強姦事件。女性に酒を飲ませ酩酊させた上で強姦するという手口を繰り返していた。

裁判が進むなかで、彼らの犯行の奇妙な点が明らかになりつつある。昨年の9月に行われた公判では、裁判傍聴に慣れた記者たちをも驚かせる「保釈取り消し」という異例の事態が起きた。こうした事件のプロセスを取材してわかってきたのは、犯行の原因が「性欲」だけにあるとは思えない、グループの異様さだ。

さらに「塾長」の言動には、激しい「女性嫌悪」が見て取れる。彼らは何を考え、犯行に及んだのか。昨年9月の公判から振り返っていこう(※年齢はすべて逮捕当時)。

異例の保釈取り消し


2018年9月27日。この日は、5月に共犯者とともに準強制性交等事件で逮捕された根本賢(27)の第3回公判で、判決言い渡しが行われる予定だった。しかし意外なことに、開廷後すぐに検察側から根本に対する「追加尋問」が始まった。通常の判決言い渡しとは、何か様子が違う。

「あなたは前回の公判で、もう二度とRNAや塾長の渡部と連絡を取らないと誓いましたね?」
「しかしあなたは、9月4日に塾生の一人と会い、その後、渡部とLINEで連絡を取りましたね?」

淡々とした尋問。根本は言葉を詰まらせながらも事実を認める。小柄な体がいっそう小さく見えた。

順を追って説明しよう。根本は8月27日に行われた第2回公判で罪を認め、謝罪や反省を口にしていた。ところがその後の9月4日保釈されていた根本は、自宅を訪れた塾生に飲食店に連れ出され、LINEでRNA塾長の渡部泰介(42)と連絡を取ったのだ。「塾長とは連絡を取らない」と、その前の公判で誓っていたにもかかわらず。

渡部はLINEでのやりとりのなかで、根本に対して被害者の女性と再度示談交渉をすることなどを提案した。根本はこれに同意する。さらに根本は、被害女性の画像を渡部から受け取り、感謝の言葉を返信していた。LINEには、被害女性に対する中傷の言葉や、担当弁護士が「使えない」といった侮蔑の言葉も含まれていたという。

これらの行為が明らかになったのは、9月10日に渡部が別の準強制性交等事件で逮捕されたことによる。当然ながら、根本の保釈は取り消され、両親が支払った保釈金200万円も没収された。

こうした経緯があった上での判決言い渡しの公判だったのである。被害者の代理人弁護士は「(根本の)謝罪の言葉はでまかせ」と厳しく言い募り、「使えない」扱いされていたことが法廷で明らかになった根本の担当弁護士は両手で眉間を押さえていた。判決は懲役5年6カ月(求刑、同6年)だった。

「僕が頭悪いので、アドバイスしてくれると思った」


傍聴席には、それまでのRNA公判を傍聴してきた東スポ記者や傍聴ライターの高橋ユキさんがいたが、彼らにとっても保釈取り消しは想定外の出来事だったようだ。

東スポ記者は判決を報じた記事の中で、根本を「大バカ者」と書いている。私も同じように感じた。傍聴者の多くが同じ感想を持ったはずだ。怒りというより呆れに近い。

なぜ、塾長の渡部と連絡を取ったのか。そう聞かれた根本は、消え入りそうな声でこう答えた。

「僕が、頭悪いので、(塾長が)アドバイスをしてくれると思った」

自分では考えられないことを渡部が考えてくれると思った。自分で考えるよりも、渡部の指示に従った方がうまくいくと思った――。根本が言いたかったのは恐らくそういうことだ。逮捕されてなお渡部を信頼し、その助言を仰ごうとしていたかに見える。根本をそこまで頼らせたものは一体何だったのだろう。

2011年頃から活動を開始し、一時期は1000人を超える組織だったというRNA。初公判で容疑をすべて否認した塾長の渡部は一体どんな人物なのか。第三者の目から事件の経緯を追うと、決して彼にそこまでのカリスマ性があるようには見えない。犯行の様子を振り返ってみよう。

「90%不起訴」と主張した塾長の根拠なき自信


RNAはこれまでに渡部のほか、6人の塾生が逮捕されている。前述の通り、渡部は9月10日に逮捕され、その後10月と12月に別の事件で共犯者とともに再逮捕された。

事件発生日と逮捕が交錯していることから時系列がわかりづらい。2017年7月の性犯罪刑法改正前の事件では罪名が「集団準強姦」、改正後は「準強制性交等罪」だが、女性を泥酔させ複数人で行為に及ぶ手口はほぼ共通している。

着目するべきは、2018年5月に根本と羽生(はぶ)卓矢(33)が逮捕された後も渡部は「ナンパ」を続け、同年6月17日にも事件を起こしていることだ。

渡部は、塾生たちは「冤罪」であり、ましてや自分が捕まるわけがないと思いこんでいたと思われる。これは、根本と羽生が逮捕された5月8日直後に、自身のツイッターアカウント(女好き@RNA)で、こんな内容のことを繰り返しつぶやいていたことからもわかる。※以下、ツイートの一部を抜粋。原文ママ。()内はツイートの日付。/は改行。
「刑事が正義のために動いていると思わない方が良い。これ分かってない人多すぎる。気にくわないから、話題性があるから、そういうので確固たる証拠もなく逮捕して不起訴でも知らんぷりするからね。」(5月9日)
「弁護士が最低限の仕事をすれば90%は不起訴になる事件。この事件の背景を知れば、公判維持できると思えないでしょう。ただ、弁護士が最低限の仕事をするかどうか。刑事事件でちゃんと仕事できて頑張る弁護士はほとんどいません。」(5月15日)

性犯罪が不起訴になることは確かに多いし、刑事や弁護士だからといって全員を信頼できるわけではない。しかし、渡部のこのふてぶてしい自信は何なのだろう。現実にはこの後、羽生・根本は起訴され実刑判決が下っている。6月に逮捕された大瀧真輝(29)も同様だ。

「和姦の証拠」のはずが「強姦の証拠」に


渡部は性交中の動画を記録することをツイッターなどで繰り返し推奨していた。動画を撮れば、罪を問われないと思っていた節がある。
「和姦の動画を残すこと自体が悪いと言う人は単純に頭が悪い。/冤罪の可能性を0にしてから言うべき。/本当に事実か分からない女の証言だけで懲役になったら悲惨すぎる。(後略)」(6月26日)

しかし、渡部が「和姦の証拠」と豪語する動画は、実際には「強姦の証拠」となった。
 
準強制性交等罪(旧・準強姦罪)の実行行為は、飲酒酩酊などの抗拒不能に乗じて性交を行うこと。動画は、被害女性たちが抗拒不能だったことの証明になった。「和姦の証拠になると思っていた動画がその逆になったのだから、考えが浅いとしか言いようがない」とは事件関係者の言葉だ。

その後、塾生の公判が進むと、渡部は焦りを見せ始める。8月後半、根本らの裁判を傍聴して記事を書いた高橋ユキさんにツイッター上で急に「曲りなりにも記者なら真実見ましょうね」などと噛み付いた。

渡部が高橋さんに送ったリプライの中には、被害女性に対する中傷が含まれていた。被害女性を貶めることでRNAの「潔白」を証明しようと思ったのかもしれないが、言うまでもなく逆効果だ。自ら手の内を明かし、被害者や捜査関係者の心証を害するようなことをツイッターで発信し続けた塾長・渡部の言動は浅はかと言うしかない。
「弁護士無能すぎてヤバいw 勉強多少できただけでほとんどの弁護士が無能。(後略)」(9月7日)

このツイートの3日後、渡部は逮捕されている。

指示に従わなければ「村八分にされる」


しかしそんな渡部が、塾生たちにとってはカリスマ的な存在だった。

保釈取り消しとなった根本の行動もそうだが、公判からは、塾生たちが渡部の提唱する「ナンパ術」に多少の疑問を持ちながらも抗えなかった様子が窺える。たとえば、2件の準強制性交等で実刑判決となった大瀧は、公判で「(女性を酔わせて性交に及ぶようなやり方は)本当はいけないことではと思った」と語っている。

2017年11月の<事件3>の際、大瀧は何度か渡部に「帰らせてほしい」と言った。理由は「お金がなかった」から、そして「女性を泥酔させて性交に及ぶことが想像できたのでそれはイヤだと思った」から。

しかし渡部は「そのままいろ」と命じ、大瀧は「塾長の顔を潰したらいけない」「塾長のトークを近くで見られる機会だ」と自分を納得させる。被害女性がトイレで吐き、もう飲めない様子を見せたとき、女性の様子を見ていた大瀧は「ギブ言うてます」と渡部にLINEを送ったが、返信は「クソ」「死ね」「仕事しろ」だった。

「仕事しろ」とはどういうことか。検察官に聞かれた大瀧は、「お酒をもっと飲ませろということだと思った」と答えている。指示に従わなければ、RNAのLINEグループの中で「村八分にされる」と思ったとも言う。その後、渡部が犯行に及んでいる間、大瀧は風呂場で寝て自分の番を待った。レイプを順番で行うのは、女性に被害感情を持たせづらくするためのマニュアルだった。

ただ一気飲みさせるだけの「ナンパ術」


大瀧は渡部について、「当時はすごくカリスマ性があった」「トークのスキルや女性とのコミュニケーション能力が優れていると思っていた」と語った。しかし事件の被害者から見た渡部の印象は、だいぶ違う。

<事件3>の被害女性は、事件前に入った居酒屋での渡部の印象がほとんどないと公判で証言している。

「大瀧はしゃべるタイプ。場を盛り上げて面白い人だと思った。渡部は記憶にない。ほとんど喋っていない。よく携帯をいじるなと思ったのを覚えている」

大瀧が見たかった「塾長のトーク」とは、一体何だったのだろう。

また被害者によれば、居酒屋で性的な話やボディタッチ、あるいは口説くような素振りもまったくなかったという。一方で居酒屋の後にダーツやカードゲームに誘われ、負けると度数の強い酒を飲まされた。ゲームで一気飲みさせる手口は、これまで明らかになったすべての事件で共通している。

「塾長が歳をとってモテなくなったから強引なやり方をするようになった」という塾生の証言も明らかになっている。確かに裁判の証言からは、女性を口説いたり、その気にさせようとする様子は見て取れない。強引に酒を飲ませて泥酔させているだけの「ナンパ術」だ。

「僕が頭悪いから」発言の意味


RNAが起こした一連の事件の気味悪さは、大瀧の「村八分にされる」という言葉に集約される。

すでに複数の記事で報道されているが、塾生たちはナンパした相手との性交回数をLINEグループで共有し、競い合っていた。

女性との会話や性交を楽しむというより、グループ内での競争ややり取りを面白がっていたのだろう。女性への性欲だけで説明できる事件には思えない。手口を見ても「性欲」という、この種の事件に付き物の欲望が見えづらいのである。

もちろん、性欲に見えないからといって悪質ではないわけではない。彼らはコントロールできない性欲に突き動かされたなどというわけではなく、仲間内での上下関係を極めて理性的に見極めながら、その場で一番弱い立場の女性を加害することで連携した。

傍聴を続けてきた高橋さんはこう分析する。

「泥酔させて性交する手法がいつから伝わっていたのかはわかりませんが、一連の手口がマニュアル化していたと裁判所は認定しています。もともとモテたいという目的を持って入塾したとはいえ、彼らのモテの指標は性交人数。その数が増えれば、塾の仲間たちの称賛を集めることができる。入塾後はそちらの優先順位が上となり、ゲット数を上げるという目標のため、マニュアル通りにこなしたのだろうと思います」

「ほかの有罪になった元塾生らの中には、自分たちの行為が犯罪にあたると、うすうす認識していた者もいました。ですがマニュアルに異を唱えてRNAという組織の空気を乱したり、塾長から『役立たず』認定されてRNA内での地位が下がってしまうことが、彼らにとっては何よりも恐怖だったのではないでしょうか」

保釈取り消しとなった根本が口にした「僕が頭悪いから」は、東大生らによる準強制わいせつ事件(2016年)で話題となった「彼女は頭が悪いから」と対象的な言葉だ。

自分にイマイチ自信を持つことができず、「モテ」のマニュアルを求めた塾生たち。彼らの中の何人かは、自身の「弱さ」に向き合うことができなかったように見える。最初は純粋に「モテたい」「女性と仲良くなりたい」と思ってRNAに加わったものの、いつしかグループ内のルールや塾長に認められることに囚われ、女性と親しくすることはむしろ二の次になっていったのではないか。

公判から伺える渡部の塾生に対する言動は高圧的だ。中には嫌気が差した塾生もいたのだろうが、一方で高圧的な態度を取られるほうが楽だった塾生もいるのかもしれない。「明確な指示」があれば、自分の頭で考えずにすむからだ。人の考えたマニュアルに自分の言動を合わせるだけなら、精神的な葛藤や迷いを持たずにすむ。

人は誰でも悩むものだし、自分の言動を日々選択している。大瀧や根本は公判で「自分の弱さがあった」という趣旨の発言をしたが、葛藤や選択を放棄し他人にすがるのは確かに弱さだろう。

しかし、このような弱さは何も塾生たちだけに限ったことではない。カリスマに惹かれ、思考停止に陥る可能性は誰もが持つ。様々な趣味サークル、宗教、スピリチュアル、オンラインサロン、あるいは就職した企業の中で。「これさえ信じれば救われる」は、手を変え品を変え発信されている。

渡部は彼らに対してカリスマ的に振る舞うのが得意だったのだろう。根拠なき自信に、人は間違って惹きつけられることがある。塾生らは良心に反し、マニュアルに従って女性の尊厳を奪った。

「女好き」仮面の裏の女性嫌悪


もう一つ注目すべきは、その「カリスマ」渡部から立ち上る強烈な女性嫌悪である。

高橋さんは、渡部がツイッターで被害者女性を中傷したことについて、「セカンドレイプ的な思考が染み付いている印象を受けた」という。

「女性だけ守られて俺らが悪者になるのは許せない、という感じも受けたので、『女好き』というアカウント名ながら、実は女が嫌いなのかなとも思いました」

責任を被害者に転嫁するのは、性犯罪加害者によくある思考パターンだ。そして、渡部が「冤罪」や「女1人の証言だけで」といった言葉を繰り返していた様子からは、女性蔑視を超えた女性嫌悪を感じる。渡部は「女に騙される」という妄執に今も囚われているのではないか。実際は、渡部が女性たちを罠にかけたのにもかかわらず。

RNAから初めての逮捕者が出る約1カ月半前の2018年3月28日。渡部はある女性ブロガーのVoicy(音声を配信するメディア)に出演し、「ナンパについて話をさせてもらいました」とツイートしていた。このブロガーは2017年12月に元上司を「#metoo」告発して大きく報道された女性だ。

渡部は彼女と一体どんな「ナンパ」について語っていたのだろう。少しの後ろめたさも感じなかったのだろうか。RNAの事件発覚後に、Voicyは削除されている。

外部リンク

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孤児院で育ち両親を知らない…『CoCo壱番屋』創業者の壮絶人生

2019年2月15日 14:37 現代ビジネス

(文・週刊現代)

無私の人である。自分のために稼ぎたいと思ったことがない。趣味はないと断言もする。何が楽しいのかを聞くと、「人の笑顔」と即答する。この稀有な成功者はいったい何者か。本日発売の『週刊現代』で、その激動の半生を振り返る。

電気代も払えなかった


『カレーハウスCoCo壱番屋』を創業し、日本一のカレー専門店チェーンに育て上げた宗次德二氏(70歳)は、自分の生まれた場所を知らない。

「私は1948年、石川県で生まれたらしいんです。戸籍上ではそうなっています。しかし、物心がついたのは、兵庫県尼崎の孤児院。今も実の両親は知りません。

私が3歳のときに、尼崎で雑貨屋をしていた宗次夫婦が引き取ってくれました。資産家とはいかないまでも、当時は貸家を持っていましたし、施設のほうもいいところだと思って、送り出したのだと思います。

実際、引き取られた直後に写真館で撮った家族写真が残っています。私はスーツを着せられ、和服を着た母の膝の上に乗り、その横には格好いい帽子をかぶった父が寄り添うように立っている。

しかし、それっきり、そういう家族写真はありません。写真とは無縁の生活になりましたから」(以下、「 」内は宗次氏の発言)

原因は、養父のギャンブル依存症だった。競輪にどっぷりとハマった養父は、レース開催日になると、養母の財布や店からおカネを抜き取って出かける。転落はあっという間だった。

夜逃げ同然に岡山県に転居した。養母は夫の暴力と借金に愛想を尽かして出ていった。

「父もたまに働くことはあったんです。岡山では近くに造船所があり、日雇い労働に出かけていきました。その給料のほとんどを競輪に使ってしまう。そんな人でした。

タバコを買うおカネもありませんから、パチンコ屋に連れられ、落ちている吸い殻を拾うように言われました。ポケットいっぱいに拾い集めると喜んでくれましてね。

それを唯一の家具だったリンゴ箱の上に置いておくのです。リンゴ箱はフタを閉めれば食卓にも勉強机にもなりますし、中には荷物も入れられるので便利に使っていました。夜になると、そこに父がロウソクを灯して明かりにしていました。

いくら昔の話だと言っても、もちろん当時の岡山には電気は通っていますよ。しかし、電気代を払っていませんでしたから電灯はつきません。明かりはロウソクだけ。

そこで父は、私が拾ってきた吸い殻から笑顔で葉っぱを取り出し、キセルで吸っていました」

8歳の頃、養母が愛知県・名古屋にいることがわかり、父子は夜行列車で名古屋に移った。だが、養父の競輪狂いがおさまっておらず、養母は再び夜逃げをした。

「父には父なりに私への愛情があったのだと思います。怒ることはあっても、出て行けとは一度も言いませんでしたから。

だから、父への恨みは一切ありません。自分が不幸だとも思いませんでした。当時は日本全体が裕福ではありませんでしたし、他の家庭がどうなっているのかも知りませんでしたから。ただ、父が喜ぶ顔を見るのが、とても幸せな時間でした」

奇特な人である。幼い頃、貧しい暮らしを送った人の多くは、豪奢で楽な暮らしを夢見るが、宗次氏はそんなことを考えもしなかった。

取材当日、現れた宗次氏の服装は「背広から靴まで合わせて3万円くらい」。3足8980円の靴を愛用していると笑う。

高校生で出生の秘密を知る


そんな宗次氏の父子二人暮らしは、中学3年生の卒業間際、突然終わりを告げた。養父に胃がんが発覚し、闘病3ヵ月で急死。葬式の出席者は宗次氏と養母だけの寂しいものだった。

その後、母子二人暮らしが始まる。

「ようやく、電気と食事のある生活が始まりました。母は会社の賄い婦をしていたので、毎日、私のために余ったご飯とおかずを持って帰ってきてくれました。高校に入ると同時に食が満たされるようになり、本当にありがたかったです。

私がもらわれた子だと知ったのは、その頃ですね。高校入学に戸籍謄本が必要で、役所に行ったら、戸籍には育ての親と実の親の名前が書かれていた。

しかも、私はそのときまで、『宗次基陽』として育てられてきたのですが、実の親につけられた名前は『德二』だったんです。父がギャンブルで負け続け、縁起が悪いということで変えたとのことでした。

高校生になって、宗次氏は「宝物」を手に入れる。アルバイトで貯めたカネで友人から購入したナショナル製のポータブルテープレコーダーだ。

「早く録音をしたくて、家に帰ってテレビをつけて、録音しようとしたんです。テレビは母親が職場の同僚から譲り受けた14インチの白黒テレビ。

たまたまNHK交響楽団が演奏していた。それがメンデルスゾーン作曲のバイオリン協奏曲。この出会いがなかったら、クラシック音楽には縁がなかったと思います」

「ここのカレーが一番や」


これが現在の音楽ホールの運営につながるのだが、それは先の話。宗次氏は高校を卒業すると不動産会社に勤め、後に独立する。

田中角栄の列島改造論に沸いた時代のこと、家は飛ぶように売れた。稼ぎも同年代の2~3倍はあったという。

「職場で出会った妻、直美と結婚。社交的な妻に喫茶店をさせて、私は不動産業を続けようと思っていました。

ところが、喫茶店オープンの当日、喜ぶお客さまの笑顔を見て、飲食店経営に心を奪われた。その日の夕方には不動産業を廃業して、喫茶店を手伝うと決めてしまいました」

開店当初こそ客で埋まった喫茶店だったが、商売は甘くない。

厚切りパンやゆで卵などが出る「モーニングサービス」をはじめ独特の喫茶店文化が根付く名古屋で、新参者はすぐには受け入れられなかった。

しかも、宗次夫妻は独特のスタイルを貫いたから、成功は容易ではない。

「私たちは『モーニングサービス』は一切しませんと宣言したんです。だから、なかなかお客さまが来ない。自転車操業でパンの耳を食べる生活でした。

でも、私たちはお客さまの笑顔があふれる店にしたいという信念がありました。若い夫婦が一生懸命に頑張っていると評判になり始め、1年が経った頃には2号店をオープンしました。

場末の喫茶店の店主だった私が、最初に作った標語が、『お客さま/笑顔で迎えて/心で拍手』です。これは私にとって日本一の標語ですね」

3号店はカレー専門店だった。妻の作るカレーが喫茶店で好評だったのが始まりだ。

宗次氏はカレー専門店を出すにあたって、東京の有名カレー屋を食べて歩いたが、結論は妻の作るカレーが一番おいしい。

「ここのカレーが一番や」

『CoCo壱番屋』が誕生した。

最初はフランチャイズ制で展開し、後に社員が独立する形で店舗を増やし、宗次氏が'02年に引退する頃には、全国で1000店舗の大台が見えた。

開店から41年経った現在では全世界に1500店舗近くを展開する。

「25歳から53歳で引退するまで、まじめにコツコツやっていたら、知らない間に大きくなっていたというのが実感です。毎期の目標を必達でいくために、まずは誰より自分が一生懸命になろう、と思ってやってきました。

失敗する経営者は、途中でよそ見をしたり、油断したりしたのではないかとしか考えられないのです。だって、私みたいな人間でも、やり続けたらこうなったのですから。

ただ、その代わり、大変ですよ。365日出社、年間5500時間の労働をしたこともあります。何が何でも増収増益をやりましょう、というシンプルなことなんですけどね。

でも経営者だって遊びたい、休みたいって、みなさん、そう思います。それはそれでいいんですけどね。能力がある人が地道にやれば、私の出番なんかなかったでしょうから」

稼いだおカネはすべて寄付


宗次氏の引退は53歳。創業者としては異例の早さだった。ハウス食品に持ち株を譲って得た私財を元に、困っている人たちを助ける活動を続ける。

'07年には二十数億円を投じて、クラシック音楽のコンサートホール、宗次ホールを建設した。

「経営から身を引いたとき、することは何も考えていませんでした。クラシックに関わるとは思ってもみなかった。

ただ、妻と稼がせていただいたおカネは、自分たちのものではなく、一時預かりという形にして、世の中に返していこうと決めていました。そこで、NPO法人『イエロー・エンジェル』を立ち上げたんです。

貧困問題の解決に奔走する市民団体、学費に困る子供への奨学金などに寄付をするなかで、クラシック音楽に携わる人たちの困窮も見えてきた。

有望な演奏家たちが高価な楽器を使えなくて困っている。学校の吹奏楽部も楽器が古くて、数も足りない。

結局、何に困っているかというと、おカネなんです。一生懸命頑張っているけど、先立つものがないために何かを諦めざるを得ないという話を聞くと、黙っていられませんよね。

これらを助ける原資はすべて、ココイチで稼がせていただいた私のおカネです。何歳まで生きるかわかりませんが、私名義の資産はすべて、そういうことに使おうと決めています」

宗次氏の生き方は、リンゴ箱越しに養父の笑顔を見た幼少時代から変わらない。だから、今日もコンサートホールの前に立ち、笑顔で人を迎える。心の中で盛大な拍手を打ち鳴らしながら―。

発売中の週刊現代では、このほかにも、「CoCo壱番屋」創業時の苦労や趣味についての話題にもふれ、宗次德二氏の半生を特集で紹介している。

「週刊現代」2019年3月2日号より

外部リンク

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眞子さまの結婚問題、秋篠宮さまは永遠に「婚約」を認めないのか

2019年2月13日 13:20 現代ビジネス

(文・沢田 浩)

ひたすら「放置」のそのワケは……


小室圭さん(27歳)をめぐる騒ぎが、いっこうにおさまる気配が見えない。取り沙汰されている金銭トラブルに対し、1月22日に小室さんが弁護士事務所を通じて「釈明文」を公表したことがきっかけだが、3週間が経過した今も、テレビや週刊誌は連日ネタにしている。

「ありえない。解決していない段階で、あんな文章を公開するなんて……」
「そもそも順序が逆。当事者と話し合ったうえですべきことでしょう」

コメンテーターたちは、そんな常識論からの批判を繰り返すばかり。

そんなメディアでの報道を受けて、ネットユーザーたちのコメントもほぼ同じ傾向にある。Yahoo!ニュースで見つけたコメントには、

「そもそも400万円を返せないような人が、皇族と結婚するのは無理」

というストレートな意見には5桁もの「いいね」がついていた。結婚の意思を固めているお二人には大変申し訳ないが、「破談」から「ご辞退」までも切望する声が飛び交うのが、ネットニュースに寄せられた現在の国民感情なのである。

秋篠宮家の長女・眞子さま(27歳)との正式な婚約が延期となっている小室さんだが、その最大の理由は、母・佳代さん(52歳)と元婚約者(69歳)の間のこの金銭トラブルであることはこれまでの経緯からも明らかだ。

だが、小室さんが文書で公表した釈明や、メディアの報道される内容を見聞きする限り、僕は秋篠宮さまも、宮内庁も、眞子さまの婚約延期問題を、現状のまま放置し続ける道を選んだのではないか――と感じている。

放置するという言葉は、穏やかではないかもしれない。

けれど、ここまでケチのついた眞子さまの婚約内定後の問題を、秋篠宮さまが本気で解決したいという気持ちを持っているとすれば、宮内庁はとっくに解決に走っていることだろう。

そういうご意向があったうえで動いていれば、婚約の延期もなかっただろうし、今回の小室さんの釈明文が飛び出すこともなかっただろう。しかし、現実はそうした状況にない。放置され続けている。だから、とんでもない釈明文まで飛び出したのである。そこに、僕はこの騒動の深層があるととらえている。

宮内庁の伝統的体質


というのも、宮内庁というお役所は、両陛下や皇族方の課題については、そこにご意向があれば、なりふり構わぬ行動で動いていく役所だからだ。

一例を挙げさせていただこう。

現在の僕は、書籍の仕事を生業とするが、昭和から平成のお代替わりの前後十数年間、僕は皇室担当記者だった。出版社の雑誌記者にはめずらしい、皇室テーマだけを担当する専従の編集記者だった。

その間に体験したことからいうと、宮内庁は雑誌を報道機関とは認めていない。そのため、両陛下の記者会見はもちろん、各皇族方の誕生日の折の記者会見にも参加できない。認められていることは、行事へお出かけになる際の撮影取材くらいだった。 

そんな扱いの一方で、皇太子さまと雅子さまの結婚問題が佳境に差しかかるタイミングで、雑誌社の多くが加盟する日本雑誌協会に対し、宮内庁は報道協定の締結を迫まったのである。1992年(平成4年)3月のことだった。背景には、皇太子妃選びが一気に動き出すことがあったからだ。

「雅子さまではだめなのでしょうか……」

という皇太子さまの意思を確認した当時の宮内庁幹部は、両陛下に報告のうえ、雅子さまを最優先のお相手として動くこととなった。

その際、お二人や宮内庁の動きが万が一にも漏れ、報道されることがないよう、正式な婚約発表があるまで報道を差し控える協定を、新聞社やテレビ局が加盟する新聞協会だけではなく、雑誌協会にも申し入れてきた。

つまり、宮内庁は報道機関と認めていないところにまで、報道協定を成立させるような論理性のない、ゴリ押し体質の役所なのである。

それから二十数年が経とうが、宮内庁の体質は何も変わっていないと僕は感じている。

わかりやすい例でいえば、今年4月31日となった天皇陛下の退位、5月1日の新天皇即位の日程である。政府の検討過程では、「平成31年の新年とともに新天皇即位、新元号移行」ということも議論されてきた。国民生活を考えれば、年の切り替わりのタイミングが好都合なことはいうまでもない。しかし、新年(1月)にはならなかった。

「皇室にとって重要な祭祀や儀式がいくつもある新年に、退位と即位に伴う皇位継承儀式まで行うことは現実的でない……」

そう報道されたように、結果として宮内庁側の要望が通ったことは記憶に新しい。

眞子さまの結婚は、あくまで「秋篠宮家の私事」


ところが、こと、眞子さまの結婚問題となると、宮内庁は一定の距離感を置いているように見える。

いや、最初は違っていた。昨年2月の婚約延期発表のあと、7月に皇后・美智子さまの「小室さんへのお嘆きのお気持ちとお言葉」を報じたメディアに対して、誤解が生じないようにとの配慮から以下のような説明を公表している。

「なお、日頃から両陛下と親しく、そのお気持ちをよく知る本当の「知人」であれば、このような時に、敢えて両陛下のお気持ちに立ち入ろうとしたり、匿名の「知人」として外部に自分が推測した話をするようなことは到底考えられないことです」

だがこれ以降、繰り返される眞子さまと小室さんをめぐる週刊誌などの記事に対し、宮内庁が表立って「説明」を加えることは起きていない。

小室さんが公表した釈明文についても宮内庁の反応はいたってクールだ。1月28日、宮内庁次長は、宮内記者会との定例会見のなかで、「コメントする立場になく、今後特段の対応も考えていない」と説明したうえで、この釈明文が、秋篠宮さまが小室さん側に求めた「相応の対応」になるのかについても、「秋篠宮さまを含め関係者が判断されること」との考えを示しただけという。ここでも、事実上の放置である。

誤解のないように説明すれば、眞子さまの結婚について、制度上は天皇陛下のご裁可も、秋篠宮さまの許可も必要はない。

皇室に関しての法令である皇室典範においても、その点ははっきりと示されている。

男性皇族の結婚に際しては、「皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する」(第十条)と定められており、皇族会議議員(10名)の過半数の賛同が必要となる。が、皇族の女子の場合は、皇室会議さえ開かれない。その第十二条で「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と、規定されているだけだ。

あくまで、秋篠宮家の私事であり、天皇陛下のお孫さんであろうが、その手続きに必要なのは、眞子さまと小室さんの結婚の意思だけである。

「納采の儀」を行わないことが、唯一の抵抗


つまり、憲法にあるとおり、「婚姻は両性の合意による」ことで十分であり、父母の同意が必要な場合は、現民法の規定では未成年の場合のみの同意である。したがって、すでに27歳である眞子さまも、同じ年齢の小室さんもなんら法的な支障はない。

ただ、皇族女子の結婚までには、その儀式上、さまざまな手順がある。その一つが正式に婚約が整った時に行なわれる「納采の儀」である。

秋篠宮家のケースでは、その結婚相手の使者が秋篠宮家に出向き、鮮鯛料、絹地、清酒などの結納の品を届け、それを秋篠宮さまがお受けになって初めて婚約が成立するという儀式だ。

この納采の儀が済まなければ、結婚の日取りを伝える「告期の儀」にはつながらない。つまり、儀式上は、眞子さまは「納采の儀」を経なければ婚約ではないという慣例なのだろう。

昨年10月29日に日本郵船社員の守谷慧さんと結婚した高円宮家の絢子さま(現・守谷絢子さん)の場合も、6月に婚約が内定したことを宮内庁が発表し、納采の儀を昨年8月12日に行い、晴れて正式婚約となった。

その慣例の儀式を考慮されたのが、昨年11月の秋篠宮さまの誕生日の折の記者会見での発言だろう。引用してみる。

「今でもその二人が結婚したいという気持ちがあるのであれば、やはりそれ相応の対応をすべきだと思います。これは二人にも私は伝えましたが、やはり、今いろんなところで話題になっていること、これについてはきちんと整理して問題をクリアするということになるかもしれません。

そしてそれとともにやはり多くの人がそのことを納得し喜んでくれる状況、そういう状況にならなければ、私たちはいわゆる婚約にあたる納采の儀というのを行うことはできません」

納采の儀は、眞子さまと小室さん当人というよりも、秋篠宮家と小室家がかかわる儀式である。「相応の対応」と「多くの人の納得と祝福」を課題とし、ここで抵抗することしか秋篠宮さまには道がなかったということなのだろう。なにしろ、当初は二人の結婚の意思を尊重し、婚約が内定したのも事実だからだ。

想定を超えた人物であったとしても……


秋篠宮さまと親交のあるメディア関係者はこう話していた。

「もともと、法律事務所のスタッフであった小室さんとの結婚を許したのは、ほかならぬ秋篠宮さまです。そのお家にお金があるかとか、どんな仕事についているかよりも、当人同士がよいのであれば、あとはきちんと働いて、幸せな家庭を築いてくれればそれでいい……。そんなふうなお気持ちをうかがいました。そのためには、小室さんが留学し、ニューヨーク州の弁護士を目指さなくても、さほど問題にはならなかったのです。

普通に働いてくれる人であればそれでいい……とうのが、殿下のもともとの本心と感じました。それが、通常ありえないレベルのトラブルを抱えた家庭だったとは、想定を超えた婚約内定者でしたね」

そう、正式な婚約者ではないかもしれないが、小室さんが眞子さまの婚約内定者である立場は今も変わりがない。一昨年の9月、宮内庁は眞子さまの婚約が内定したと発表したとおりである。

実際、宮内庁のホームページでは、トップページから→「皇室のご活動」→「ご活動について」→「秋篠宮家のご活動」というカテゴリーの中に、「眞子内親王のご婚約内定関係」という専用のページを設け、以下のトピックスを公開している。

●眞子内親王殿下のご婚約内定について(平成29年9月3日)
●文仁親王同妃両殿下御感想(平成29年9月3日)
●宮内庁長官発言要旨(平成29年9月3日)

この宮内庁長官の発言では、今となってはブラックジョークとしか受け取れない謝辞までが残っている。

「小室圭氏は、眞子内親王殿下のご結婚の相手にふさわしい誠に立派な方であり、本日お二方のご婚約がご内定になりましたことは、私どもにとりましても喜びに堪えないところでございます」

なんとも虚しい言葉である。

もちろん、婚約が延期されたことについても、

●眞子内親王殿下のご結婚関係儀式等のご日程の変更について(平成30年2月7日)
として公開され、眞子さまのお気持ちまで掲げられている。

「今、私たちは、結婚という人生の節目をより良い形で迎えたいと考えております。そして、そのために二人で結婚についてより深く具体的に考えるとともに、結婚までの、そして結婚後の準備に充分な時間をかけて、できるところまで深めて行きたいと思っております。本来であれば婚約内定の発表をするまでにその次元に到達していることが望ましかったとは思いますが、それが叶わなかったのは私たちの未熟さゆえであると反省するばかりです」

周囲では「次なるお相手探しの声」も出始めて


秋篠宮さまは、眞子さまと小室圭さんの今後を、この先も放置し続けるのだろうか。秋篠宮家の取材を続ける記者に尋ねてみたところ、僕の推論である「永遠に放置し続ける」方向性と同様の感想を持っているという。

「内々で解決しなさいと伝えたにもかかわらず、文書を公開した対応に、秋篠宮さまは大怒りですよ。このままではどうにもなりませんね。

もっとも文書が出る前から、納采できないと言っていたのであり、納采できなければ結婚もできない。このまま、ずっと納采の儀をしないつもりなのが目下の秋篠宮さまなのです。とにかく“小室さんはもはやありえない……”。それが秋篠宮さまと紀子さまの受け止め方です。

ただ、会話がないそうです。親子の間ではね。聞く耳を持たない眞子さまということなのでしょう。小室さんではない誰かよい人でも出てくれば、当人の気持ちも変わるのでしょうけれど……」

と話し、こんなささやきをくれた。

「今さらですが、秋篠宮さまの周囲の人たちは結構真剣に、次なるお相手を探しているようです。それが、秋篠宮さまの意向なのかはわかりませんが……。極論でしょうが、フィギュアスケートの羽生結弦くらいお相手のインパクトがあれば、眞子さまの気持ちも変わるかも……とまでいう人もいます。そうなれば、小室圭さんのことも国民はすぐに忘れ、誰もが祝福することでしょうね。そんな相手探しをしなければならないところにまで、事態はきてしまったということですね」

女性週刊誌2誌は「結婚へ」と報道


一方で、小室さんの「釈明文」が出た翌週1月29日に発売になった女性週刊誌2誌の記事を見て、僕は驚いた。この「小室文書」への解釈が、世間の見方とは大きく異なっていたからだ。

●「眞子さま『借金トラブル』の円満解決で悲願の結婚へ」=週刊女性2月12日号
●「小室圭さん『借金トラブル和解で眞子さまと結婚』宣言へ」=女性自身2月12日号

同じ火曜日発売のライバル誌が、いずれも「結婚へ」という同じ方向性を打ち出していたのである。小室文書のどこをどうひも解けば、こんな解釈ができるのだろうか。

僕の古巣は女性週刊誌なので、関係者になぜ「破談へ」でなく、「結婚へ」なのかを探ってみた。

小室さんの金銭トラブルを最初に報じた週刊女性の関係者によれば、

「小室さんが文書を公開した一方で、元婚約者と代理人弁護士の話し合いが始まることは確実だからです。元婚約者も弁護士を立てて話し合いに応じる意向で、借りたお金としてではなく、慰謝料的なお金が支払われるのなら、婚約者は和解に応ずる意向があるからです」

つまり、金銭トラブルが解消されることで、秋篠宮さまから突き付けられた婚約延期の課題の一つはなくなるという。

女性週刊誌の見立てが正しいのか、秋篠宮さまの怒りはその見立てより大きく、眞子さまと小室さんの結婚には断固反対、もしくは「放置」されるのか……。

宮内庁が昨年2月7日に発表したところでは、後日に延期されたお二人の結婚関係儀式は、退位と即位に伴う「一連の儀式が滞りなく終了した再来年になる見込み」としている。つまり、2020年がメドなのだが、はたしてその日は迎えられるのだろうか――。

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cat_11_issue_oa-gendaibusiness oa-gendaibusiness_0_f07c3f8270ab_「就活格差社会」到来…無内定の悲劇を避けるために意識すべきこと f07c3f8270ab 0

「就活格差社会」到来…無内定の悲劇を避けるために意識すべきこと

2019年2月13日 13:16 現代ビジネス

(文・トイアンナ)

売り手市場は「みんなのもの」ではない


人材の超売り手市場が続く2019年、就職活動が本格化する時期にある変化が起きている。「就活イベントキャンセル率の急増」だ。

「就活イベント」とは、原則無料で行われる大学生向けイベントの総称である。内容は複数の企業がブースを持って説明会を行うものから、就活のノウハウを指導するセミナーまで多岐にわたる。

共通するのは企業がスポンサーとなって会場費を負担する点だ。社会人が情報を得るセミナーは大概有料となるが、採用側の企業が費用を負担するため学生は無料で就活情報を得られる。

筆者はイベントに携わりはや8年目となるが、今年は例年以上に学生のドタキャンが多い。通常30%前後で推移するところを、今年は50~80%もザラ。つまり100名が事前予約しても、20名しか来ないケースがある。こうなれば、採用側の元が取れずイベントは破綻する。

もちろん、やむをえない体調不良や価値のないイベントもあるだろう。しかし他社事例を聞いても軒並み同様であることから、私のイベントだけ関心を失われているというわけでもなさそうだ。

ここまでドタキャン率が上がる背景には「そこまで頑張らなくても内定できるだろう」という学生の感覚がある。有効求人倍率は1970年代並みの1.63倍。これだけを見れば、確かにそこまで頑張らなくとも……と思うのが当然だろう。

しかし、コトはそう単純ではない。超売り手市場だからこそ、優秀な学生とそうでない学生の格差がハッキリしてしまうからだ。

大企業に集中するエントリー


これまで好景気(と学生が感じている)状況で就活生がどうふるまうかを見ていると、大まかに下記のトレンドが起きる。

1. 全体的に就活を開始する時期が遅くなる
2. 受ける企業の数が減る
3. 大企業のみを受ける学生が増える

いずれも好景気だから「当然だ」と感じるだろうか。しかし、最後の「大企業のみを受ける学生が増える」点については、警鐘を鳴らしたい。

大企業は全企業の0.3%に過ぎない。たとえ従業員数で割っても、7割の社員は中小企業にいるのだ。だが学生の大半は大企業を目指す。つまり、たとえ有効求人倍率が1.6倍であろうと大企業の内定は難関でありつづけるのである。

そして大企業の中でも、就活生の年齢で知っている企業はさらに限られる。キャリタスの人気ランキングによれば、日本航空(JAL)、伊藤忠商事、全日本空輸がトップ3にランクイン。

どれも難関企業であることは、社会人なら知っているだろう。自分の子が「この3社だけ受けるよ」などと言い出したら、どんなに好景気でも「もう少しエントリーする会社を増やしたほうがいい」とアドバイスしたに違いない。

トップ3とまではいかなくとも、現実にはこのレベルの大企業だけを受けて全部落ちてしまい「好景気だと言っていたのに!」とショックを受ける学生が少なくない。

学生は不景気であれば、落ちることを前提に就職活動をする。だから落ちても「今年は厳しいのだから」と納得して次の選考を目指し、かつ保険の意味も込めて受ける会社数が増える。

だが売り手市場では「数社も受ければどこか通るだろう」と甘い目論見を立ててしまう学生が増えるのだ。

進む学生格差、質を担保するトップ企業


むろん、どの年にも優秀な学生はいる。トップレベルの大学生は、2年生の秋ごろから就職活動を開始する。そして3年生のうちに内定を取り、最終学年は卒論や旅行を楽しむ。

経団連による「就活解禁日」がなくなったことで日系企業が前倒し採用をしやすくなった今、その傾向はさらに強まるだろう。

いっぽう、せっつかれないと動けない平凡な学生は「後から始めてもどうにかなる」と楽な道を選びやすくなる。そして重い腰を上げたときには、すでに前倒し採用を決めていた企業のエントリーが締め切られているのだ。

受ける前からエントリー期限に間に合わず落ちているなら、それはもう勝負ですらない。

トップ企業の人事担当に話を聞いた。

「不景気の方がガッツある学生が集まるので頼もしい気持ちもあります。一方、弊社を受ける学生のレベルが下がるということはありません。みなさん真剣にOB/OG訪問をしてくれますし、きちんと調べてから面接へ挑んできます。

面接以前の、たとえば合同説明会ではとんちんかんな質問をしてくる学生が増えた印象はあります。しかしそういう学生は1次面接以前で落としていますから、採用に支障はありません」

また、21卒(現在学部2年生)の学生はこう語る。

「3年になるとすぐに、名門インターンの選考があります。いい会社へ内定しやすい学生ばかり集まる長期インターン先がいくつかあって。そこへ通れば優秀な仲間と先輩に指導をいただけて、内定できると聞いています。

だからまずはいい長期インターンの選抜クラスに入って、コネクションを作りたいですね。2年のとき交換留学しようか悩んだのですが、そうすると帰国が夏以降になって名門インターンの選考が受けられないので僕はやめました」

予備校には東大生を多く輩出する鉄緑会のように、受講生を絞り込むところがある。この学生が述べた「選抜クラスのある長期インターン」は、主に就活媒体が優秀な学生を集め、内定まで鍛え上げるインターンだ。

就活においてもあらかじめ優秀な学生を集め徹底指導する場が生まれている。いっぽう、普通の学生はそんなことを知る由もない。学生間で就活格差はとっくに生まれており、しかも固定しつつある。
無内定の悲劇を避けるために、学生へ指導できること

では、就活格差をひっくり返すために学生ができることは何か。簡単に言えば、さきほどの「就活トレンド」の真逆を行けばいいのである。

1. 就活を開始する時期を早める
2. 受ける企業を増やす
3. 大企業以外も見ていく

この3点を実施してなお、無内定に苦しむ学生はそういない。

まず、早く動くこと。

そうすれば優秀な学生と知り合って焦り、選考対策が早めに進む。たとえば表向きは4年生になってからリクナビ・マイナビで募集しつつも、3年の夏インターンでこっそり内々定を出す日系企業も多い。そういった「裏の情報」を得て、早期内定を獲得しやすくなる。

次に、受ける企業を増やすこと。

筆者は「業界をバラつかせながら20社は常にエントリーしている状態」を維持するよう勧めている。1社落ちたら1社エントリーを追加することで「あと〇社しかない」と焦らないようにするためだ。

また、学生が行きたい業界と向いている業界は得てしてギャップがある。特定の業界のみ受けて全落ちは、何としてでも避けたい。

最後に、中小企業も見ることだ。

学生は「大企業なら安泰だし、ホワイトだし、福利厚生がある」と思いがちである。しかし大企業にも労基法を一切守らないブラック企業はある。パワハラがひどい部署は、どの会社も持ちうる。福利厚生があるとは限らない。2012年には安泰とされていた東芝がどうなったかは、記憶に新しい。

大企業に入れれば、それは万々歳だろう。だが誰もが東大生と同じ会社を受けることはない。もしこれをご覧になった方の息子さん、娘さんがこれから就活を迎えるのであれば、まずは「何社受ける予定?」とさりげなく聞いてみてはいかがだろうか。

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cat_11_issue_oa-gendaibusiness oa-gendaibusiness_0_fae797ce7bbb_「Amazon Go」はなにが凄いのか…「詳しい人」の意外な答え fae797ce7bbb 0

「Amazon Go」はなにが凄いのか…「詳しい人」の意外な答え

2019年2月13日 13:14 現代ビジネス

(文・鈴木 貴博)

Amazon Goはなにが凄いのか


無人コンビニのAmazon Go(アマゾンゴー)が凄いという話です。私もAI(人工知能)がビジネスに及ぼす影響を研究しているのでAmazon Goについては興味津津です。詳しい人にどこが凄いのかを話を聞いてみました。

今回お話しをうかがったのは元日本コカコーラの副社長で小売と電子決済に詳しいコンサルタントのIBAカンパニー代表取締役・射場瞬さんです。

IBAカンパニーでは昨年1月、シアトルでAmazon Goの一号店が一般向けにオープンして以来、Amazon Goや競合の無人スーパーや、キャッシュレス決済など継続的に調査していらっしゃいます。つい先日もサンフランシスコに新規オープンしたAmazon Goに視察に行かれたということで、Amazon Goの最新事情をうかがってみました。

Amazon Goは「無人コンビニ」ではない


「そもそもですがAmazon Goは日本の都内で大きめのコンビニとよく似た品ぞろえ、同じくらいの店舗面積の小売店です。日本では一般的に『無人コンビニ』と言われていますが、実際の店舗ではたくさんの従業員が働いています」

正確にはレジがない「レジレスコンビニ」と呼ぶのが正しいそうですが、本稿では他の記事にならって「無人コンビニ」という表現を使わせていただきます。

「お店に入る場合、あらかじめAmazonのアカウントを持っていることと、Amazon Goのスマホアプリをダウンロードする必要があります。その上でQRコードをスマホに表示させてそれをゲートで読み取らせることでお店に入店することができます。

お店に入ったら棚にある商品をつぎつぎとAmazonGo店内で買ったショッピングバックや自分のエコバックに入れて、そのままゲートでQRコードを読み込ませてお店を出れば買い物終了です。普通のスーパーやコンビニと違うのはショッピングカートがないことと、レジがないこと。お店を出ると通常数分でスマホにレシートが届きます。同時に決済は完了します。これだけです」

と、Amazon Goでの買い物体験はレジがないという点で普通の小売店とはかなり違った体験になるようです。

でも気になるので、射場さんに質問してみました。届いたレシートを見て、買っていない商品が買ったことになっていたりしたらどうするんですか?

「それ心配ですよね。でも先にお答えしておくと、これまで何回も買い物をしたのですが、一度も計算が違っていたことはありませんでした」

こういったことは当然のようにすでに検証済みのようです。

Amazon Goでやってはいけない「あるルール」


もう少し詳しく聞いてみると面白いことを教えていただきました。

「Amazon Goの店舗では無数のカメラとセンサーを使ってAIが商品を誰が買ったかをチェックしているんです。その目を欺けないかと思って実は何度も、手に取った商品を別の棚に戻したり、手品のように隠しながらバッグに入れてみたりと、ありとあらゆるトリックプレイを試してみたんです。でも購入判定は正確でした」

ということで、私たちが「やってみよう」と思うようなことはIBAでは一通り実験済みということです。

「Amazon Goの店内ではひとつだけ、普通のお店と違うルールがあるんです。それは手にとった商品を、他のお客さんに手渡しをしてはダメというルール。でもそれも逆手にとれないかと思って試してみたんですけれど、二人で同時に同じ商品をつかんで棚から取って、あとでひとりが自分のバッグにしまいこんだのですが、そのときの購入判定も正確でした」

Amazon Goは2016年にアマゾンの従業員向けに開店して、1年ちょっとの試行期間があったのですが、そこですべてのこういった問題はクリアしたうえで2018年1月の実際のオープンを迎えているようです。

Amazon Goは「カイゼン」を続けている


では次の質問ですが、最初にオープンしたお店と、つい先日新規開店したお店では何が違うんですか?

「そこが面白いところなのですが、一号店のシアトルのお店には天井と棚の奥に無数のカメラが置かれていました。ところがつい先日オープンしたサンフランシスコのお店ではセンサーの種類や数が増えている一方で、天井のカメラは目隠しされているので正確にはわからないのですが、たぶん数はシアトルよりも減っているんじゃないでしょうか」

詳しく説明すると新しいサンフランシスコのお店では圧力センサー、重力センサーとマイクが商品棚に設置されているようです。

そうすることで顧客が商品をさわったかどうかは圧力センサーが、棚から商品が持ち去られたかどうかは重力センサーが確認するとともに、マイクが「カサっ」という商品がすれる音を検知して商品が動いたかどうかをダブルチェックしているようです。これとカメラの画像解析から顧客が何をどれだけ買ったかより正確に判定するのです。

「凄いなと思うのは、たとえばガムやキャンベルのスープ缶のように重さや外見が似ていても商品が違うものがあるじゃないですか。それを棚の位置をわざとぐしゃぐしゃにした後で買っても、買ったアイテムがどれなのかをAmazon Goはちゃんと判断できているんですよね」

しかし、そもそもシアトルの一号店で買い物判定の技術は完成していたわけですよね。サンフランシスコの新しいお店ではなぜセンサーが増えているんですか?

「そこがAmazonのAmazonらしいところなんですけど、要するにカイゼンを重ねているんです。最初の段階で無数のカメラを設置すれば正確に判定できることはわかっているのですが、そこからどれだけカメラを減らしても大丈夫か、ないしはどのようなセンサーの情報と組み合わせると一番ローコストで正確になるかを日々実験しているのだと思います。実際にそれまでなかったセンサーが新たに棚に設置されたということも目にしています」

Amazon Goは「キャッシュレス」を目指すのではない


わかりました。無人コンビニとしての技術は既に確立していて、それをよりよい形にカイゼンする活動が日々行われているということですが、Amazon自体はこのAmazon Goで何を目指しているのですか?

「Amazonの関係者に詳しく話を伺ったのですが、Amazon Goが目指すのはあくまでキャッシュレステクノロジーとかレジレスサービスということではないというのです。

そもそもECサイトのAmazon.comが目指してきたのは①ロープライス、②多様なセレクション、そして③コンビニエンス(利便性)なのですが、Amazon Goでも目指すところは同じだといいます。Amazon Goが今実験していることは、この目標を実現するために起きるさまざまな問題をどうカスタマーのために解決するか、その方法を発明することだというのです」

つまりレジなしで買い物ができるというのは店舗での買い物体験の単なる一部で、Amazon Goでは商品構成も日々変わっていくし、一年間通っていくと購入体験すら進化していくということなのです。

とはいえその辺りをもう少し実感したいので、具体例を聞いてみることにしました。

「具体的に言うとAmazon Goの店舗での売上の3分の1はフレッシュ系と彼らが呼んでいる食品カテゴリーです。日本のコンビニで言うお弁当やおにぎり、デザートや淹れたてのコーヒーを思い浮かべてください。

Amazon Goの場合、それをお店の中の特設キッチンで調理している。過去購買データ、リアルタイムに商品を触っているデータがわかり、需要の予測が詳細にわかるので、それらをもとに顧客が欲しいものを品切れしないように売り場に供給していくわけです。これが前もって見込み発注をする日本のコンビニと比べて少し進化したところです」

Amazon Goの「仕組み」が広がっていく未来図


ここがAmazon Goのおもしろいところで、実際に店舗に行ってみるとたくさんの人が働いていると言います。レジがないだけで決して「無人コンビニ」ではない。

むしろレジと言う手間がかかる工数を別のサービスに振り向けているわけです。そうしてたくさんの人が最高の顧客体験を実現するために働いているにぎやかな店舗がAmazon Goということです。

「店舗内だけでなく、実は、店舗オープンの企画段階から、バックエンドのすべてのファンクションにおいて、Amazonはデータサイエンティストを配置しています。そうやって顧客体験や購買を分析して、商品や仕入れも改善していく。今のところAmazon Goにかかっている人員数は日本のコンビニよりもはるかに多いかもしれません」

ではこれからAmazon Goはどうなっていくのですか?

「ふたつあると思うのですが、まずAmazon Go自体はこれからものすごいスピードで進化していくと思います。ビッグデータをデータサイエンティストが分析することで、フレッシュ系食品の品揃え、PB商品などの開発や仕入れ企画、プロモーションの中身がどんどん変化して、より素敵な顧客体験が生まれて行くことになるはずです」

つまり、Amazon Goを定点観測していくことで、四半期レベルでサービスと品揃えの進化が実感できるようになるというのです。

「そしてもうひとつ興味深い点は、Amazon Goの“仕組み”の競合が同時に生まれているということです。すでにサンフランシスコ市内にはAmazon Goの競合となる無人スーパーの開店テストがはじまっています。それだけでなく小売チェーン向けにAmazon Goと同等の仕組みを提供するという企業も出てきています。そういった企業がAmazon Goとはまた違った形で無人店舗を進化させていくでしょう」

つまりこれから数年で、アメリカでは無人店舗ないしはレジ無し店舗という小売スタイルが一気に一般的な小売業態として浸透していくことが予想されるわけです。そう考えるとAmazon Goから当面のところ目が離せないことになります。

IBAカンパニーは小売業、IT企業向けの流通・決済分野に詳しいコンサルティング会社です。より詳しい話にご関心のある方はぜひIBAカンパニーにご一報くださいとのことです。

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将来、大金持ちになる子どもは「もし自分が社長だったら?」と考える

2019年2月13日 13:10 現代ビジネス

(文・菅井 敏之)

みなさん、わが子にきちんと「お金の教育」をしていますか? 将来、お金に困らない大人になるかならないかは、親の教育しだい。元メガバンク支店長で、『あなたと子どものお金が増える大金持ちの知恵袋30』などの著書で知られる菅井敏之氏によれば、大金持ちが意識して子どもに教育している「もっとも大切なこと」があるという。一体、どんな教えなのだろうか? 菅井氏に教えてもらった。

「雇う側」の意識を身につける


大金持ちが意識して子どもに教育しているもっとも大切なことがあります。

それは、お給料をもらう側ではなく、支払う側の発想を身につけさせるということ。

「支払う側」といっても消費者側ではありません。人に給料なりの報酬を支払う側、人を雇う側=経営者の目線でものごとを考えられる人間になるということです。

経営者としての思考法、つまり「社長なら、どう考えるか?」です。

実際に会社のオーナーではない人が身につけるのは難しいと思われるかもしれませんが、実は簡単。オーナーの思考法を育てるチャンスは毎日の暮らしのなかにいくらでも転がっています。

たとえば、家族で外食に出かけたとします。そんなときこそチャンスです。

「このお店でいちばんお金を稼いでいる人は誰だと思う?」

ランチが出てくるまで、そんな質問をして家族みんなで考えてみましょう。

時給1000円のアルバイトさん?

月給35万円をもらっている店長さん?

店長とアルバイトを雇っているレストランのオーナーシェフ?

ランチセットはすべて税込み1000円。お姉ちゃん、弟、パパとママの4人で計4000円。お隣のカップルのテーブルは2000円。ランチタイムには、1テーブルあたり平均3000円の売上げがあることにします。このレストランにテーブルは5つ。ランチタイムはお客さんが2回転、ディナータイムは、コース料理のみで1人5000円。

一日のテーブル平均売上げは4万円。レストランの営業時間は8時間。お休みは週1日で、月に25日営業する、としましょう。

さて、オーナーの手元に入る売上げはいくらになるでしょう?

4万円×5テーブル×25日=500万円

簡単なかけ算でできる計算で十分です。

賃料や材料費など、さらに、そこから店長の月給とアルバイトさんの時給を引いたものがレストランオーナーの収入になります。ちょっとした計算でもアルバイトさんとの違いは明らかですね。幼い子どもなら、きっとこう言うでしょう。

「レストランのオーナーになりたい!」

家庭は「小さな会社」と同じ


でも、ちょっと待った。

このレストランが入っているビルは誰のもの?

テナントの家賃をもらっている人がいるのでは?

名物カレーを商品にして販売している会社の社長はいないか?

カレーをレトルト商品にするための特許を持っている人は?

「経営者の目線で考える」とは、この「見えない収入と支出」まで発想できるようにすること。

レストランが入っているビルのオーナーや、オリジナル商品の販売会社、特許で収入を得ている人の存在は、レストランにいるときにはなかなか見えてきません。同様に、税金など、見えにくい支出のことまで会話が広がっていったらしめたものです。

「稼ぐ力」の基礎となるのが「オーナー思考」。

お金持ちは常に「経営者」つまり「オーナー」の発想でものを考えています。このオーナー思考を育てるときに大切なのが、ヴィジョンです。

先の例でいえば、アルバイトより社員に、レストランオーナーに、さらにビルオーナーに、ビジネスの起業者に……と、いうこと。できる限りより大きなヴィジョンで世界を見る視線を持つということです。

「今まで会社を経営したこともないし難しそう……」という声が聞こえてきそうですが、そうでしょうか?

家庭の経済というものは、小さな会社を経営しているのと同じです。

この予算で家族全員の夏服を買うにはどこのお店で買うか? 次の家族旅行にハワイに行くためには毎月いくら貯蓄にまわせばいいか? 今年のボーナスは少ないから、パパの新しいコートは来年までがまん……などなど。

コストを下げて、赤字を減らし、収益を増やしていくにはどうすればよいか。増えた収益を貯蓄や投資にまわし、さらに増やしていくにはどの商品を選べばよいか。将来を予測し発展に備えて、いまなにを準備しておけばよいのか――少し考えるだけでもおわかりいただけると思います。

「定額おこづかい制」は大問題


では、ここでひとつ質問。家庭を経営しているのは誰でしょう?

お給料をもらって働いているお父さん?

パートで働きながら家事などの運営もしているお母さん?

子どもたちは、お金を稼ぐことはできないから「経営のお荷物」でしょうか?

共働きの家庭もありますし、稼ぎ頭であるお母さんを主夫であるお父さんが支えている家庭もあるかもしれません。ここで大切なのは、お金を稼いできてくれる人だけでなく、家族全員が、家庭の経営者である、と考えることなのです。

家族全員がいかに「自分の経営」を成り立たせるか、という発想こそが「家庭の経営」の基本です。家族ひとりひとりが、「お給料をもらう側」ではなく「給料を生み出して渡す側」の発想でいなければ、良い会社にはなりません。

家族全員が「家庭の経営」に関心を持つこと、そしてひとりひとりが「自分の経営を黒字で成り立たせる」という意識こそが、健全なファイナンシャル・リテラシーを育てていくのです。

そこで考えていただきたいのが「子どもの定額おこづかい制」です。

月々、定額のおこづかい制にしている家庭では、小学校に入ったから月に500円、2年生になったから600円に……と年齢に応じて増やしていく家庭が多いようです。

子どもに毎月定額のおこづかいをあげる、というのは、実は不思議なシステムです。

その月の働きや達成度いかんにかかわらず毎月の給料が口座に振り込まれる……これはまるで、入社したらよほどのことがないかぎり定年まで勤められる終身雇用制の会社で、年齢に応じてお給料が毎年昇給してきたかつての企業サラリーマンのようなもの。

現在はお勤めの方でもそんな悠長な時代ではありませんが、この“サラリーマン感覚”を育ててしまうのが、「月々支給のおこづかい制」だと私は感じています。

オーナーの目線とヴィジョンを育てるためには、まず、この受け身の意識=「受給者意識」から脱脚しなければいけません。

子どもへのおこづかいをどう渡すかは、ご家庭によってさまざまな考えがあると思いますが、わが家では、幼い子どもへのおこづかいは「働きに応じて」あげていました。

誰かが困っていることや悩んでいることを「発見」して、それを「解決」することで「お金がもらえる」ということが、ビジネスの基本だと考えるからです。

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30代で医学部に入った、とある私大文系卒サラリーマンの夢

2019年2月13日 13:07 現代ビジネス

(文・原田 広幸)

「大人の受験生」


大学受験シーズンに入った。今年も、医学部への志望者は多い様子だ。

しかし、医学部を目指しているのは、高校生などの若者だけではない。他の学部や専門学校に進んだ人、別の分野に就職をした人、すでにビジネスや教育といった分野で活躍している中堅のサラリーマンなど、「大人の受験生」(再受験生と呼ばれる)も、一定の割合でいる。

おおよそ10人に1人くらいの割合で、再受験生が存在しているようだ。(<社会に出てから医学部に入る「再受験生」が増えているワケ>参照)

他分野に進んだ人が、進路を変更して「医師」になろうとする場合、原則として医学部を受験する以外の選択肢はない。医師になるためのルートは、法律家(司法試験)や公認会計士といった、他のエリート資格とは異なり、「医学部(6年制)」卒業が条件となるからだ。

上記のような、医学部を目指す、大人の受験生=再受験生のリアルな姿に迫ってみたい。

「実は、若い頃は医者になりたかった」、「大人になってから、医師になりたいと思ったことがある」、等々、実は内心で、「医師」という魅力的な仕事に就きたかった(就きたい)人は、読者の方々の中にもいるのではないか。

ただし、お金や時間、学力や機会があれば、という条件付きで、というのが常識的な判断だろう。大人になってから、実際に、本気で医師を目指そうとするには、相当な覚悟が必要だ。

しかし、医学部受験や医師というキャリアの仕組み、きちんとした受験勉強のノウハウ、そしてお金の問題などがクリアになれば、30歳代からの医学部合格も夢ではない。いわんや、20歳代からのチャレンジなら、問題はお金と学力だけだ。

文系私大卒、リーマンから医師になったAさんの話


私の教え子のAさんは、東京にある偏差値62程度の私立大学(文系)を卒業後、一部上場企業で営業をしていた。

だが、赴任先の宮城で東日本大震災を経験し、医療職の重要性と尊さに気付き、医師を目指すことを決意。20代後半から受験勉強を始め、30歳で関西の私立医学部に合格。

受験回数は3回(3年)。数学と理科系科目未履修からのスタートだったため、受験を思い立ってから2年半が経っていた。予備校の学費や受験費用は、サラリーマン時代の預貯金でまかなった。受験最後の年は、予備校には通わず、実家で復習と受験校対策中心の勉強を行ない、学費を節約。合格までの学費・生活等の経費は400万円程度。

合格した医学部は私立大学だったため、6年間で3000万円も必要となったが、実家から通える医大に入学し、生活費を極力抑えることにした。

入学金と初年度の学費は、銀行から借り入れた学資ローンと親(Aさんの実家は一般家庭で、お金持ちなわけではない)からの借金で対応した。

2年目以降も、学生支援機構の公的奨学金と、医学生のための地方自治体の奨学金を組み合わせ、親の援助も受けながら、無事6年間で卒業し、国家試験に合格。初期研修が終わり、地元の病院で本格的な医師生活を送り始めている。

Aさんは、現在、救急医療に携わっており、とてつもなく忙しい日々を送っている。しかし、疲れや忙しさというマイナス面を、仕事のやりがいが、大きく上回っていると、力強い言葉で答えてくれた。

今までで苦しかったことは?という質問には、「2年連続で医学部に落ち、この何の所属先もない、何の保証もない状態がいつまで続くのかという不安に抗うのが、一番つらかった」と答える。

ただ、「学力が少しづつ向上しているという実感と、勉強それ自体への興味関心も、日に日に高まっていったため、勉強に没頭することで、不安感を払拭させることが出来た」とも述べている。

そして、「少ないながらも、同じ境遇の仲間がいた事は、落ち込んだときの精神安定剤になっていました」とのこと。

再受験生のコミュニティは、河合塾KALSなど、予備校にそれぞれ存在しているという。やはり、受験という競争においても、持つべきものは、仲間だということであろうか。
元が取れる

Aさんの場合は、医師家系ではなかったが、親にある程度の資産があったため、それと銀行の教育ローンや奨学金を組み合わせることで、私立医大に進学することが可能だった。

多額の借金を抱えることになったが、半分以上は親からの借金であり、また、数年後までの給与水準を計算に入れると、40歳代になるころには、かかった学費を十分回収できることがわかっている。

国公立医学部に合格できれば、学費も一般の大学と同じであるため、それほどお金に対する心配は不要だ。しかし、国公立大学に合格でできなかった場合でも、すぐに諦める必要はない。Aさんのように、実家からの援助や学資ローン、奨学金を組み合わせれば、なんとか進学できる場合もあるからだ。

Aさんは、合格まで3年近くを要したが、国公立医学部に進学することだけを目標にして、いたずらに浪人期間を延ばすよりも、1年でも早く医学部に入学し、早く医師になってお金を稼げるようになることが賢明であると考えた。

医師の平均所得(年収ベース)は、20代で700万、30代で1200万くらい、40代では2,000万円に手が届く。私立医学部でも、医師として10年働けば、元が取れると考えてよいだろう。

私立大学医学部を卒業するまでに必要な経費は、大学によりまちまちだが、近年は下落傾向にある。

学費・学納金が6年間で約3,000万円として計算すると、1年で約500万円、月額で約40万円である。生活費を極限まで絞って月額10万円とすると、毎月50万円を6年間払う資金が必要ということになる。

医学生だけが使える地方自治体奨学金


そのうち、学生支援機構の奨学金の最大額(約16万円/月)と、医学部生のための地方自治体主宰の奨学金(15万円程度~30万円程度)を組み合わせれば、月々5万円~20万円ほどの自己負担で、私立医学部に通うことも可能だ。大学によっては、成績優秀者に独自の奨学金(返済なし)を提供しているところもあるので、狙ってみるのも手だろう。

なお、医学部生のための地方自治体の奨学金は、自分で情報を探す必要があるため、受験する大学と地域をよく考えながら、準備を進めるとよい。現状の奨学金情報をまとめてあるサイトとしては、以下がおすすめだ。医学部受験情報全般に通じている編集者によるものなので、受験期全体を通じて利用するとよいだろう。

・自治体奨学金の一覧
https://www.sidaiigakubu.com/scholarship/local-government/map.php

親がお金持ちじゃなくても大丈夫です


医学部に入るには、そして、医学部に入って医師になるためには、お金が必要だ。しかし、親や親戚の援助も得ることが難しく、奨学金やローンを組み合わせてもなお、どうしてもお金が足りない、という人はどうすればよいのか。

第一の選択肢は、国公立医学部を目指すこと。当然だが、学費が段違いで安い。医学書などの教科書代等は普通の学部に比べ高価だが、授業料は他学部とほぼ同額である。

第二の選択肢は、私立医学部のトップ合格を狙うか、「自治医科大学」「産業医科大学」といった、公的性質の強い医科大学を狙う。私立大学でも、上位合格者や、成績優秀な生活困窮者には、ほとんどの大学において奨学金が設けられている。なかには、国公立並みの学費になる特待生枠がある大学も存在する。

また、自治医科大学や産業医科大学は、それぞれ特殊な目的によって設置された大学であるため、僻地での勤務や産業医としての勤務など、9年間の義務を果たすことにより、学費が無料、もしくは大幅減額となる。

高年齢の受験生よりも、若年受験生が有利なのではないかという評判もある。しかし、実態として30代の入学者も存在するし、昨年からの不正入試問題への対応で、あえて高齢受験生を排除する動きに出ることは考えにくい。偏差値は高めだが、おすすめの進路だ。

そして第三の選択肢は、東欧の医学部経由での医師国家試験を目指すルートである。もちろん、海外の医学部とて、若手の受験生が好まれるという事情には変わりがないが、20代、30代までなら、学力と気力、体力があれば、差別はされない。学費も生活費も格安なので、十分に合理的な選択肢として考えてよい。

学力さえつければお金はついてくる


医学部は、難関である。近年の受験難度の上昇ぶりは異常なほどだ。とはいえ、試験が難しいことそれ自体は、医師という職業の社会的重要性に鑑み、当然のことである。

したがって、学力もなく、お金もなく、時間もない、という人は、まず学力をつけるための準備から始めよう。勉強法の本を買い、合格者の体験談を読み、情報収集をする。そして、すぐに、勉強を開始する。学力さえあれば、お金は後でついてくるのが大学受験の良いところである。

働きながら受験を考えている人は、時間を有効活用しなければならない。個別指導を受ける、家庭教師をつける、予備校に通う、など、最小限の時間で合格できる勉強プランを考え、下のランクの大学への早期入学を目指すのである。

先に述べたとおり、医師になってしまえば、元は取れる。年代による報酬の差は、どの大学出身であっても、それほどないから、入れる医学部に早く入るのが合理的だと思う。

年齢の遅れは問題になる?


再受験のお金の問題がクリアになっても、不安が残ると言う人もいるだろう。たとえば、再受験をして、医学部に入ったものの、現役生や若年者の医学部生に、何かしらの遅れをとってしまうことはあるのだろうか。

これは、その人の最終的な目的と進路による。

臨床医を目指す場合でも、研究医を目指す場合でも、医師としての活動期間は、自分で決められるということをまず確認しておこう。場合によっては、死ぬまで現役、という選択肢もありうる。(日野原重明先生などはその典型例だろう。)

つまり、医師としての活動可能期間は、領域にもよるが、一般的なビジネスパーソンよりもずっと長いのである。だから、10年程度の遅れは、全く気にする必要はない。

また、内科系や精神科などの領域においては、年齢や他分野での活動経験がプラスになることも多いという。「医師は理系というより文系だ」と言われることがあるのは、こういった領域の臨床分野においては、人間としてのコミュニケーション力が極めて重要になるからである。

AI(人工知能)の医療への活用が日進月歩で進む中、多様な経験を有し、人間力に秀でた再受験生、大人の受験生が、医師を目指してくれるのは、社会全体にとっても、有意義なことだと思うのは私だけであろうか。

読者諸氏の中からも、あらたなチャレンジャーが出てくることを祈りたい。

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