中日打線を2イニング無失点。ヤクルト・石川が浴びた4安打はすべて内野の間を抜けていった。
「ゴロヒットは仕方ない。そう思って投げています。それより福田君(右飛)みたいな大きな打球を減らしていきたいですね」
囲み取材の輪がほどけかけたとき、僕は人さし指と中指を曲げて「やってますか?」と尋ねた。彼は笑顔で「キャッチボールではいつも試しています。でも、試合で投げる勇気がまだないんですよね」と話した。
石川がナックルボールに挑戦し始めたのは昨春のキャンプだった。そのきっかけは、あのドラゴンズOBだった。
「浦添に取材に行ったら、いきなり『ナックルを教えてください』って来たんだよ。僕が投げられることを、(大のヤクルトファンの)さだまさしに聞いたらしいんだよね。僕のナックルはフィル・ニークロ直伝だから」
田尾安志さんだ。メジャー屈指のナックルボーラーは、来日時に惜しげもなく投げ方を披露してくれた。ところが本職の投手が投げられないのに、田尾さんだけがあっという間にコツをつかんだそうだ。そのエピソードを聞き付けた石川は、ほぼ面識のない田尾さんに願い出た。快諾。打者が投手に教える逆レッスン以来、ブルペンの投球後や練習の合間にナックルの習得に励んでいる。
現役最多の163勝。そして39歳。200勝への思いもあるだろうが、石川から伝わってくるのは「もっとうまくなりたい」という貪欲さだ。
「どこかにヒントがある。いつか役に立つ。そう信じてやっています」。この日の最速131キロ。投げ合った福谷は149キロ。小さな体(167センチ)と遅い球を補ってきたのはこの飽くなき探求心だ。
ちなみにニークロは通算318勝のうち121勝を40代で挙げ、48歳まで投げた。日本初のナックルボーラーとして、石川が名球会入りする道は十分に開けているということだ。