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(萬平)福子が僕の奥さんじゃなかったらまんぷくラーメンは出来なかった。
(福子)フフフ…。
僕は ここまで来られなかった。
何ですか 急に 萬平さん。
ありがとう 福子。
昭和33年8月25日。
ついにまんぷくラーメンが発売されました。
さあ どうぞ いらっしゃいませ!
(鈴)いらっしゃいませ!
まんぷくラーメンです~!
♪「丸まってる背中に もらい泣き」
♪「恥じだって一緒に」
♪「あなたとならトゥラッタッタ♪」
♪「飛行機雲ぼんやり眺む」
♪「心ここに在らず」
♪「年間トータル もししたら」
♪「付き合うあたしすごい?」
♪「とぼけてる眉毛に もらい笑い」
♪「照れだってなんだって」
♪「あなたとならトゥラッタッタ♪」
♪「頑固で面倒で 腹も立つけど」
♪「あなたの情熱は」
♪「あたしの誇りで自慢で覚悟なの」
♪「もらい泣き もらい笑い もらい怒り」
♪「もらいっ恥じ どんと来い!」
♪「晴天も曇天も霹靂も」
♪「さあ あなたとトゥラッタッタ♪」
(かつ江)1袋20円!?
確かに 20円は高いと思われるかもしれません。 せやけど…。
(かつ江)これが20円。せやけど 手間暇考えると 決して…。
(かつ江)高すぎる。 あほちゃうか。聞いて下さい!
(栄子)お湯をかけるだけで?はい。 お湯をかけるだけでたった3分で出来るラーメンなんです。今 やってみますね。
(栄子)3分も待たれへんわ。 忙しいねん。
あっ! あっ あっ…たった3分ですよ~!
(昌子)これがラーメン?はい。
この透けて見える これがまんぷくラーメンです。
(昌子)真っ茶っ茶の煎餅やん。
ですから これをですね こう…。
(昌子)ああ もう いらんわ こんなん。
全然売れない。試食してもらう以前の問題だ。
(鈴)私は もう嫌。情けのうなってきた。
最初は こんなもんです 萬平さん。弱音を吐いたら駄目 お母さん。
最初はって…。(鈴)1時間ももう こんなことやってるのよ。
それなのに ただの一個も売れない。(鈴)はあ もう嫌。
お母さん!(鈴)私は 武士の娘ですよ!
今 そんなこと どうでもいい…。
いや あれ あれ…あれ あれ あれ あれ あれ…。
そうや… そうや! そうや 萬平さん!
順番が間違うてたんです。順番?
あ~ もう 何で こんな簡単なことに気付かへんかったんやろ。
あ~! もう あほ あほ あほ あほ あほあほや~! あほや~!
お義母さん 大丈夫ですか 福子…。あ~!
どうぞ いらっしゃいませ。 どうぞ。
(道代)あら ええ匂い。
これが まんぷくラーメンです。どうぞ お召し上がり下さい。
おいしいですよ。 どうぞ。さあさ どうぞ どうぞ。
どうぞ。(道代)うん おいしい。
ですよね~!(太田)ほんまや!そうなんです。
(礼子)お出汁は何?あっ 鶏ガラスープです。
(礼子)鶏ガラスープ。
うん いいお出汁。(礼子)あ~ おいしいわ~。
そやけど この まんぷくラーメンはおいしいだけではありません。
これが たったの3分で出来るんです。
3分?そう!
まず 袋を開けて 麺を取り出して丼に入れます。
そして お湯を注ぐ。
やることは これだけ。(一同)ええっ。
ここから たったの3分で出来上がり。
3分?うそや。
うそやありません。これを作るのに どれだけ苦労したか。
初めに思いついたのはあれは そう! あれは終戦直後でした。
皆さんも覚えてらっしゃるでしょう。
闇市の屋台のラーメン屋さんに並んでいた行列。
あれを見て やっぱり 人間食べることが一番大事や思たんです。
ねえ 萬平さん。
せやけど どんなに食べることが大事やいうても 作る方は大変です。
主婦は 毎日毎日 ごはんの献立考えて掃除 洗濯しないといけないんです。
忙しいんです。そやね。
そこで 私は考えた。私!?
おいしくて 簡単で 栄養があって冷蔵庫に入れなくても保存できるラーメンは出来ないかと。
そこから 血のにじむような研究が始まったんです。
(太田)どんな研究や。あっ 萬平さん。
え~… 最初はですね 最初は麺そのものにスープを混ぜ込んでみようと考えました。
せやけど それがどうしても うまくいかない。
次に 麺にスープを振りかけて乾燥してみようとそういう方法を思いついた。天日干ししてみたり 陰干ししてみたり高野豆腐みたいに凍らせて乾かしてみたり。
せやけど どれもこれもうまくいかないんです。
(一同)うん うん。そして ついに 見つけたのが!
油で揚げる方法です!そこ持っていく!?
油!?はい 説明してさしあげて。
油で揚げてみたら水分が きれいに とんでいった上にお湯で戻すと 香ばしい香りが鶏ガラスープと混ざり合って何とも言えない味になったんです。
(礼子)確かに 香ばしいわ。でしょう。
2分!2分。 え~っと…。
あっ 油で揚げたら おいしくなった。これには 実は理由があってグルテンのα化…あっ いや それは違う。
あっ そや!麺が多孔質化してる言われたんです。
たこう?とにかく油で揚げたことによって麺にスポンジみたいな穴が開いて…。
麺がスポンジて…。スポンジで出来てるん?
そんな難しいこと言わない方がいい。
そしたら 今のは もう忘れて下さい。
2分30秒。とにかくですね工夫に工夫を重ねて作ったラーメンなんです。
スポンジでは ありません。
画期的な発明なんです。確かに 20円は高いと思うかもしれない。
せやけど このラーメンの手軽さと おいしさを考えてみたらそう! 主婦にとってはお湯をかけるだけで出来るラーメンっちゅうのは時間と労働力を買うのと一緒なわけです。
ほら 英語のことわざ聞いたことありませんか。
タイム イズ マネー!3分!
はい。熱っ!どうぞ~!
出来上がりです~!(鈴)どうぞ。
(ざわめき)
いや 大丈夫です。先ほど召し上がったお客様と同じラーメンですから。(美佐子)そしたら 食べさせて!
(森)俺にも食わせてくれ。俺も!俺も!
うちも一杯下さい。
さあ さあ さあ さあ おいしいですよ。
(世良)ほんで 全部売れたんか?
2箱分しか売れませんでした。
(吉乃)何で?おかしいやろ。 今の話 聞いとったら福ちゃんと お母さんは3分間しゃべり倒して「はい ラーメン出来ました」「おお~!」いうてみんなが飛びついてきたんとちゃうんかい。
飛びついてくれたお客さんも いましたよ。せやけど まだ皆さん 疑心暗鬼いうか…。
何べんも何べんも3分間しゃべるのは大変やし。
しゃべってるのは私でしょ。皆さん それで 売れなかったんでしょ。
全然売れへんかった。
(神部)食べたお客さんはおいしい言うてくれたんですけど。
(真一)これが どんなに すごい発明品か説明しても うまく伝わらん。
それは 真一さんが口下手すぎるからや。僕なんか 立て板に水で説明したったで。
それでも売れなかったのは どうして。分からん。
世良さんは しゃべれば しゃべるほどうさんくさく思われるのよ。
そんな身も蓋もない 根も葉もないことを。
大急百貨店が売り場を提供してくれるのは3週間でしたよね。
そう思たらまだ1日目が終わったばっかりやない。
せやけど 明日から どないしたらええのか分からへん。
これじゃあ せっかくのチャンスを生かせないまま終わってしまう。
いつ問屋から注文が来てもええようにもう一本 電話を引いたんやけどなあ。
やっぱり値段よ。20円は高すぎるのよ。
また その話。
もうやめましょう。20円で決めたんだから。
私は 値段は関係ないと思う。
そしたら 何が問題なん。やっぱり売り方やろ。
もしかしたら この袋かも。ん?
袋?(鈴)このデザインよ。一見 明るくて楽しげに見えるけど忠彦さん 言うてたんでしょ。これは 福子と萬平さんの今までの人生をイメージした荒波やって。
そうです。
何で わざわざ荒波なのよ。縁起が悪い。 誰が決めたの。
立花君と福ちゃんと真一さんや。
世良さんも いたでしょう。
私にはてんぷくラーメンに見えてきた。
(2人)てんぷくラーメン!?
(波音)
見えません!
(忠彦)デザインが悪い…。
いや そういう話もちょっと出ただけです。
あかんで 吉乃ちゃん。今のは忘れて お父さん。
デザインが悪いから 売れない…。
(克子)せやから それは違うって。(タカ)私は とっても ええと思う。
(神部)僕も。私も。
もう気にせえへん 気にせえへん あなた。
画家をやる資格なんかない。
そんなことないわ!そんなことないですって!
(克子)誰が言うたん 駄目とか。
まんぷくラーメンです!
おいしくて便利。さあ どうぞ 食べてみて下さい。
どうぞ。
でも 次の日も その次の日もやっぱり売り上げは伸びませんでした。
もう 嫌や。
あそこに3人で立ってたって労力の無駄よ。
(しのぶ)それで帰ってきたんですか。
そやかて 売れないんやもん。
(アキラ)う~んそんなことがあるんやろか。
あれは画期的な発明なんやけどな。
そやから 画期的とか 発明とかそういう言葉は食べ物には合わないのよ。
う~ん… あっ「新しいラーメンです」は?
駄目。駄目。
「珍しいラーメンです」は?
駄目に決まってるでしょ。そんな にらまんでもいいやん。
(ドアが開く音)(しのぶ アキラ)いらっしゃいませ。
あ~ しんど。世良さん!
お母さん 何で ここにおるんや。
あなたに お母さん言われる筋合いはありません。
もしかして サボってるんですか。
休憩です。 世良さんこそ売り場は どうしたの。
僕も休憩や。 レーコーくれ。
アイスコーヒー ワン。ユー アー アイスコーヒー。 オッケー。
前から思ってたけどなそんな英語ないねん。
まんぷくラーメンが売れないんやから売り場を吉乃ちゃんに押しつけて逃げてきたわけね。
そもそも 僕はまんぷく食品の人間やあらへん。
善意で手伝うてるだけです。
まあ! まんぷくラーメンを 日本中に売ってやるって たんか切ったくせに。
商品を売るのが あなたの仕事でしょ。
お母さんかて 娘夫婦が頑張ってるのにサボってるやないか。
休憩です。休憩。
ややこしい組み合わせやなあの2人はな。
水と油。いや 似た者同士や。
言うたら 菜種油と ごま油やな。
50分は かかるど。
そもそも ラーメンにしたのがいけなかったのかも。
えっ。
一から考え直した方がいいのかな。
何を言うてるんですか 萬平さん!そんな…。
・ごめんください。
そんな弱気になって!・ごめんください。
はい!
あっ…。忠彦さん。
実は…別案を考えてきたんや。
別案!?
ああ。
ここにも 一人弱気になってしまった人が…。
え~…。