こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。日本の伝統文化を捏造する輩があとを絶たないのは困ったものです。歴史にフィクションも思想も要りません。必要なのは事実だけ。本日は、建国記念の日(旧・紀元節)にちなんで、国旗に関する正しい歴史の事実をお伝えしましょう。
祝日に一般家庭で国旗を掲揚するようになったのは、昭和13年の紀元節からです。それ以前の日本には、一般家庭で国旗を掲揚する習慣も伝統もほとんどありませんでした。やっていたのは、ごく一部の国粋主義者だけ。
大正9年の読売新聞にその手の読者から投書が寄せられました。天長節の日に警視庁が国旗を掲揚してなかったぞ、けしからん! というもの。記者が警視庁に問い合わせたところ、祝日に国旗を掲揚する慣例はないからやってないのだ、との回答。大正時代には官公庁ですら祝日に国旗を掲揚する習慣はなかったのでした。
大正12年か13年の話と思われますが、紀元節にその手の人が東京・小石川で調査したところ、2000軒くらいある家のなかで、国旗を掲揚してたのはたったの9軒だったと報告して腹を立ててます。わざわざそんなこと調べるなんて、ずいぶんとヒマだったんですね。
作家・永井荷風の昭和10年の日記によりますと、近頃祝日に国旗を掲揚しない家にはその手の人たちが来て暴行されるというウワサを聞いてビビったので、急いで三越に日の丸を買いに行ったそうです。荷風のような金持ちでも家に国旗がなかったのだから、貧乏人の家にはなおさら国旗などなかったはずです。
昭和12年、大正天皇祭のときの調査では、新宿近辺の一般家庭で国旗を掲揚してたのはまだ16パーセントにとどまってました。
そしてついに昭和13年の紀元節からは、一般家庭でも国旗掲揚をするよう、国が町内会や青年団を通じて積極的にはたらきかけをはじめたことで、7~9割の家庭で国旗を掲揚するようになったのでした。
もともと日本の家庭にも官公庁にも、祝日に国旗を掲揚する習慣や伝統は存在しなかったのです。ごく一部のその手の人だけがやってたことを戦時体制下で強制されたため、一般家庭でも8年間くらいやってたというのが真相です。なので戦後はめんどくさくなってやめてしまったのですが、それは戦前の伝統に回帰しただけのこと。
もし、あなたが祝日に自分の家で国旗掲揚をしたければ、どうぞご自由にやってください。ただし、国旗掲揚をするかしないかは個人の自由なので、しないのも自由だということを忘れてはいけません。
祝日の国旗掲揚を日本の伝統だと偽り押しつけてくる人には、祝日に国旗を掲揚しないのが日本庶民のむかしからの伝統であり、私は伝統を大切にしているのだ、といえばいいのです。
でもどういうわけか、その手の人に事実を教えると、感謝されるどころか怒り出すことがあるので、気をつけてくださいね。
根拠となる史料など詳しく知りたいかたは、拙著『歴史の「普通」ってなんですか?』をお読みください。
[ 2019/02/11 08:26 ]
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