僕は、この9年間ずっとホワイト企業を探して転職を続けてきた。
が、週2日休める仕事や、夜家に帰れる仕事に巡り会えることはなかった。
これまでは正社員にこだわっていた。
理由は前編にも書いたが、非正規は待遇が悪いことが多いからだ。
賞与の有無が一番大きく、同じような仕事内容と労働時間でも
正社員が一番多く給料をもらえる。
だけど今は、非正規でも何でもいいから、家から近くて週2日休めて残業が少なくて、
健康を害して寿命を縮めるような現場仕事じゃなければ何でもいいと思うようになった。
月500時間働いて、夜家に帰れるありがたみを知った。
365日いつ休めるかわからない仕事をして、予定を立てられることの幸せを知った。
いつ死んでもおかしくなく、每日有毒物質を大量に吸う現場仕事を経験して、
每日明日死ぬかもと思いながら眠りにつく恐怖や、健康のありがたさをよく知った。
前の仕事は現場直行だったので通勤に車で片道3時間もよくあった。もちろん入社前にはそんなこと聞かされていない。家から15分の会社でデスクワークという話だった。
每日4時に起きて3時間かけて通勤し、1日肉体労働をしてまた3時間かけて帰宅する日々はきつかった。
働く意志はある。就職したい。
でも、これまで経験してきたようなのは、もう全部こりごりだから、慎重に選ばせてくれ。
これが今の僕の正直な気持ちだ。
仕事を探していますという登録のことを、求職者登録と呼ぶ。
ラノベ的にいえば、冒険者ギルドへの登録のようなもので、
これに登録するとハローワークで仕事を紹介してもらえるようになる。
失業保険をもらうにはこの手続が必須だ。
登録する際に、名前や住所の他に、前職での仕事内容や給料の額、
次の仕事に重視することなどを紙に記入して、
ハローワークの職員と簡単な面談をする必要がある。
きりい けんじ 31歳
前職の仕事内容 → 現場管理
前職の給料 → 32万円
次の仕事に希望する勤務地 → 実家から15分以内
希望する仕事内容 → こだわらないが現場仕事や営業はどうしても残業休出が多いので
できれば事務系の仕事を希望
希望する勤務時間 → 9時~17時
希望する給料 → 12万円以上
希望する雇用形態 → 正社員にはこだわらない
優先するもの3つ → ①休日がちゃんとある ②残業少ない ③勤務地が家から近い
正社員じゃなくてもいい、給料が安くてもいい、
休みがほしい、夜は家に帰りたい、通勤に何時間もかけたくない。
伝えたいことはそれだけだった。
そう思いを込めて、記入を終えた紙をカウンターに提出し、面談の順番を待った。
20分ほどすると、僕の番号が呼ばれた。
大学新卒で初めて就職した会社が、每日16時間以上の肉体労働、残業代一切なし、
多額のノルマ(自腹)あり、宗教に入らないといけない、保険なし、休み無し。という
仕事だったので、3ヶ月で辞めたことがあるのだが、辞めてハロワに仕事を探しにきたとき、
「そんなのどこの会社でも普通だから、そんなんで辞めちゃどこいってもやってけないよ」
とハローワークで説教され、帰り道で泣いたことがある。
ハローワークに来るのはそれ以来なので、僕は緊張していた。
ハロワ職員「どうも」
僕「はい、よろしくお願いいたします」
ハロワ職員「んー、休みを重視するんだね」
僕「はい、そうです」
ハロワ職員「んー、まあ、いいと思うよ」
僕「はい」
ハロワ職員「ただし、ここ、勤務時間。9時から17時になってるよね」
僕「はい、そう書きました」
ハロワ職員「9時から始まる仕事は18時に終わる。9時から17時なんて仕事はないよ」
僕「そうですか・・・」
ハロワ職員「17時に帰りたいなら、8時から働かなきゃね」
僕「わかりました。それでは8時から17時に書き換えます」
ハロワ職員「うんうん。あと、今は有効求人倍率が2倍超えてるから、すぐ見つかるよ」
僕「ニュースで聞きました」
ハロワ職員「ただし、介護と肉体労働だけどね。事務職だと0.5倍くらいかな」
僕「そうなんですね。できれば事務系がいいんですが」
ハロワ職員「0.5倍だし、ほとんど女性しか採用されないけど、まあ頑張って」
僕「そうですか・・・わかりました。」
ハロワ職員「じゃあ、これで終わりでいいかな」
僕「はい。ありがとうございました」