核磁気共鳴用 送・受信器の作成



  1. 核磁気共鳴の測定原理:


  水素やフッ素などの原子核は半整数のスピン角運動量 /2 を持っているので、核の電荷の回転による磁気モーメント μ = γ (γ:核磁気回転比)が伴う。 核磁気モーメントμ(核スピン )は、磁場中 H において、その歳差運動(みそすり運動)のエネルギー順位が、 -I、-I+1、・・・、+I-1、+I のように分裂する。 また、核磁気モーメントと磁場との相互作用エネルギー(ゼーマンエネルギー)は、 E = -μH0 = -γ0 (Z方向の磁場)となる。

  このエネルギー差と同じエネルギーを持つ電磁波を照射すると、核磁気モーメントは電磁波を吸収してより高いエネルギー準位に遷移する。

  たとえば、17O は、核スピンが I = 5/2 であり、  μ = γ・I より、  E = ω = 2γ・I・H 

  1(T(テスラ)=104(G))の磁場中では、
             共鳴周波数  f = ω/(2π) = γ・I・H0/π = 0.3628×108×(5/2)×1/π ≒ 28.9(MHz)

  同様に、1H (プロトン)では、   f = γI H0/π = 2.675×108×(1/2)×1/π ≒ 42.6(MHz)

  

  核磁気モーメントは電磁波を吸収し高エネルギー準位に上がる。 この逆向きに向いた磁気モーメントが一旦吸収したエネルギーを放出して磁場方向を向く(=元の準位に戻る)確率は、フェルミの黄金律より理論上0であり、このような「自然放出」は起こらないはずである。
  しかし実際は、物質内部の電子や原子核による「磁気ゆらぎ」によって「誘導放出」が頻繁に起こる。(「核磁気緩和」) この「緩和時間」(逆数は、「緩和速度(緩和率)」)をパルス法で測定して、物質内の磁場のゆらぎの程度を知ることができる。(たとえば、水のプロトン(1H)の励起に対する 磁性イオンであるCu2の影響)

  また、外部から与えられた吸収電磁波の周波数ピークは、原子核が放出する電磁波のピークとは少しばかり差がある。 このことを利用して、その差のビート(うなり)を検出し、入力パルスを切った後のビートの減衰振動を見ることができる。 減衰振動の曲線をフーリエ変換すると、共鳴吸収の半値幅が得られる。

  このように、核磁気共鳴の測定は、印加した強い電磁波の中から少し周波数のずれた微弱な信号を取り出すもので、そのラジオ波程度の電磁波の検出回路にはいろいろな工夫が必要となり、連続法、パルス法、飽和回復法などが考案されている。(ほとんど無線技術である!)

   (参考HP)  ・ 核磁気共鳴実験(パルス法)    ・ 連続法



  2. 連続・パルス変調発振基板(送信器)の作成:


  零磁場(磁石不要)で実験できる NQR(nuclear quadruple resonance、核四極共鳴)を想定して、30MHz付近のみを扱うための発振基板を作成した。


  まず、LC発振出力を PINダイオード(1SV128: 7Ω/10mA; 400nS、100MHzまで; max50V、50mA)を用いた高周波スイッチでパルス変調することを実験したが、出力正弦波の形は良いが、出力が弱かった(1.5~2Vp-p)。 出力は、そのまま10W広帯域パワーアンプ(→ 12.高周波増幅器の発振基板を除き、L、VCを調整したもの)へ入力するようにした。(このとき DBMの参照信号と周波数カウンター用の出力も取る) 変調用の低周波パルス発振(500Hz程度)はPIC(PIC16F84A)で行ない、同時にオシロのトリガ入力へ入れて掃引する。
  PINダイオード(1SV128)でパルス変調しても充分な出力を得るために、2SK439Eで増幅し、トロイダルコアには 高μの77材を用いた。結果は、22~37MHzで 出力は4Vp-p程度で、パワーアンプにつなげて 終段 Trの Ic≒1A(28Mc)となり、充分使えるようになった。




  また、もっと簡単に、LC発振出力をただちにデジタル化する方法で行なった。(6.(2)周波数カウンタの入力部参照、発振出力は0.3Vもあれば充分)
  この発振基板は40MHz程度のTTL ICの限界周波数まで、2~4Vp-pをパワーアンプに供給する。(* 30MHz以上では、発振部のモノコイルのコアを抜く。)
  ただし、低周波側では出力波形が歪み、高調波を多く含むようになる。

  受信側のDBM出力のビートが分かる程度の波形でよいので、一旦デジタル化し、C-MOSからTTLレベルのインピーダンスにして、高速AND回路(74F08; pLH=4nS))でスイッチングする。 このデジタル化された出力波形(14MHz、4V)は矩形波がかって歪んでいるが、パワーアンプ出力ではほとんど正弦波になった。 約30MHzまではLC発振器の出力レベルによらず10W以上の十分な一定出力(連続の場合)に増幅できた。 ただし、NQR測定などの25MHz以上で使用する場合は、パワーアンプのL、VC を調整する必要がある。 また、受信側では、NMR出力の高調波を除くためのローパスフィルタを付ける必要がある。






  3. DBM検出部(受信器)の作成:


  ① ダブルバランス・ミキサ(DBM)の作成;

  送・受信機のミキサ回路で一般的に用いられる広帯域のDBM(使用ショットキー・ダイオード: 1SS106(10V、30mA))を作り、14Mc水晶発振器(2、(2))を基準に、発振基板の74HC00出力(または、発振出力)からの14MHz前後の信号(連続 またはパルス)を混合し、その周波数の差のビート(うなり、⊿f = -f)を検波・AFアンプで増幅してオシロで見る。 扱う周波数を広帯域にするためのトロイダルコア(モノコイルなどよりも Q値=ω0L/Rが低い)には77材を使用し、巻き数を小さくする(μ=2000)ようにした。

  DBMへの入力電圧の差があっても、出力はそれらの積( I = Iin1 × Iin2)なので混合信号を見ることができる。片側の入力が無いときは原理的には出力は0になる。 両信号ともDBMを通すとかなり減衰し(アッテネーターの減衰率3dB、50Ω)、入力・数ボルトが数10mV程度になった。

  AF(オーディオ)アンプ(+5V付近で動作)の出力は、一般用検波ダイオード・1N60のために、±300kHz程度までのビートを表示し、それより外れた周波数では出力が出なくなる。 ショットキーダイオード・1SS106で検波すると、連続で±500kHz程度、パルスで±100kHz程度の周波数範囲できれいなビートになった。(ビート音はイヤホンでも聞こえる)
  尚、オーディオアンプは増幅率が大きいので、発振防止には注意する。


 

  ② ローパス・フィルタの実験;

  検波用ダイオードの代わりに、500kHzなどのLC型のローパスフィルタ(500kHz以下の周波数のみ通す)を挿入することを実験する。 各ローパスフィルタを通るかどうかで、NMR信号が印加した電波の周波数とどのくらいずれているかを知ることができる。




  ③ 高周波ローノイズ・プリアンプの作成;

  信号の検出用に、30~40MHz近辺をカバーする超ローノイズのプリアンプを作成する。(10数MHzではコイルの巻き数を直す)
  NE3210S01(超ローノイズ高利得FET・NEC、NF:0.35dB、Gain:13.5dB(at.12GHz)(米軍規格を除いて最もローノイズ?))は、マイクロ波まで使用できるFETなので、FB(フェライト・ビーズ)を入れるなど発振防止に特に注意する。(全体をプリント基板の銅箔面側に組付ける。)

  検知コイル(φ10mm、4T)を上記発振器のコアに近づけ、back to back ダイオード・ペア(1S1588×2)によって制限された入力0.5Vmaxに対し、出力電圧はmax 2.5Vp-pで飽和し、アッテネーター付きのDBM入力につなげられるほどの充分な出力になった。(* 検出コイルを付けると、高周波の電波検出プローブになる。)

 

  ④ フェーズ・シフタ(移相器)の作成:

  フェーズシフタは、参照RF出力の位相をシフトさせ、DBMで混合するとき励起用高周波成分を打ち消して信号を見やすくするために用いる。 フェーズシフタの簡易型として、λ/2 までの同軸ケーブルを6分割してロータリースイッチで切り替えるタイプを作成した。( f = 34Mc、0.67×λ/2 ≒ 3(m) の同軸ケーブル(1.5D2V)を6分割)
  

  ⑤ パワーアンプの整備:

  強い電磁波の中に混在する 微弱なNQR信号のビートを取り出すために、さらにいくつかの工夫が必要である。

  28~35MHz用に、パワーアンプの終段同調回路の L、VC と 結合部を次のように修正して、30MHz近辺に合わせておく。(* ドライバー段は50MHzまで問題ないが、終段の2SC1945(27MHz用)は30MHz以上では増幅率がかなり落ちる) また、信号の逆流を防ぐため、高速のファストリカバリー・ダイオード: ES1D(15nS、1A、200V; 順方向0.7V)×2 を出力部に入れた。

  



  4. 核四極共鳴(NQR)の実験:  (NQRについて


  磁石の要らないNQR(核四極共鳴)の実験をする。
  結晶内電場勾配と 核の電気四重極モーメントの相互作用に基づく 35Cl 核の共鳴吸収が、30MHz付近に見られる。(パラジクロルベンゼン: 34.2MHz、塩素酸カリウム: 28MHz など)


  ① 試料・NQR測定部の作成:

  パラジクロルベンゼン (p-ジクロルベンゼン、 Cl-C64-Cl ;商品名・パラゾール(m.p. 53℃))を試験管に入れ、溶融したところへ検出コイル(φ0.8ホルマル線、φ10で3T)を挿入し固化しておく。 φ1.0mmスズメッキ線をφ18mmで、6Tガラ巻きしてコイル(L≒0.55μH)を作り、VC20pF+セラコン33pF で共振回路とし、この試験管コイルを差込みNQR測定部とする。(コイル同士が直交するようにして、極力誘導を避ける。高周波印加コイルからつなげるとプリアンプが即壊れるので注意。)



  ② NQRの測定:

  34MHz近辺の連続発振周波数で、パワーアンプのモニター出力の波形(CH1)を見ながら同調VC、出力共振VCを調節し、きれいなSIN波の最大出力が出るようにする。CH2の振幅の幅(ノイズ)が最小になるようにフェーズシフタを合わせ、オシロのレンジを適当な値にしておく。
  DBMから出力を取り、CH2を見ながらゆっくり発振VCをまわすと、DBM出力が現れる。(試験管コイルを抜いて異常発振でないことを確認する)
  また、AF出力からとると、ローパスフィルタを通った半整流波形が見られる。

  測定によると、パラジクロルベンゼンのNQR共鳴吸収の中心周波数は、ビートが両方向からゼロビートとなる周波数として、約34.17MHz(ただし、自作周波数カウンタを補正した値)だった。 しかし、パルス法の緩和時間は、パワーアンプの出力が小さく(普通は100(W)~1(kW)もかける)、また不純物による電場勾配のゆらぎが大きすぎたためか、ノイズに隠れて観測することができなかった。






  * 水のNMRによる分析によく用いられる17O NMRの 信号幅を決めている要因は複雑であり、測定温度にも大きく影響されます。 17Oのように、電気四重極モーメントを持つ核のNMR信号の半値幅は、観測核に対する化学結合や配位子の違いによって変化します。つまり観測核のまわりの電子の状態に依存 しています。このことが四重極モーメントを持った核の緩和時間の解釈や分子運動の議論を複雑にしていて、特に、信号幅のみからの議論には注意を要します。

  このように、”水”の分子間の結合をNMRで分析する実験は、水の”クラスター”の状態を議論することができないものであることに注意しなければなりません。


  * 「降りて(単数)、行って(複数)」(創世記11:7) とあるように、神様の存在の本質は、『三位一体』です。 被造物である あらゆる量子も、その状態の可能性が分離するということで、神の三位一体をあかししています。

  2つの異なる周波数の電磁波を合成して、その差のビートを取り出すDBMの働きは、電磁波の重ね合わせの原理によって行なわれます。
  神様は私たちに語られる方、「ことばの神」です。 神様は、語られたことばを必ず成し遂げられます。 そして、私たちの心の中に多くの”雑音(ノイズ)”があっても、その”肉の声”を完全に殺すならば、神様の「かすかな細い声」(Ⅰ列王記19:12) を聞き分けることができます。
  「雷、暴風、地震」(神の御声はこれらの中には無かったが)は、エリヤの”恐れ”という心の雑音を、充分打ち消すものでした。(”断食”という”絶対零度”に近づける方法もあります。)



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