FAQ

試験運転中。質問は質問箱


01

gnckは日本画も鑑賞/批評するのですか?


基本的には絵画全般について鑑賞してます。そもそも批評行為については誰しもが行っている行為です。→02

で、現在の日本画については、画題の傾向と画材の縛りくらいしか実質的なジャンルの同定はできない状況となっています。画材については膠と岩絵具で描くということになるけれど、そもそも岩絵の具の乾燥し、ざらついた表面が得意とする表面は、植物か錆かくらいで、それ以外のものを描くときにあの表面は基本的には扱いづらいものとなってしまう。(膠画はたとえば水墨画とは技法的に断絶してる。)にも関わらず、不得意なモチーフを選ぶものや、向いているというだけで保守的な画題となっている作品ばかりで、個別にうまい作家はいるものの、ジャンルとしては見るべきものが無い状況に陥っていることは確かでしょう。

ジャンルの前提となる「日本の絵画」と「日本画」の違いや制度史的な解説については北澤憲昭や佐藤道信の仕事を読むといいんだと思う。けど、画壇の形成や各地の団体展の構造など詳しいリサーチはあるのかな?無いのかな?どうでしょう。近代以降の文化政策とのかかわりについての基本的な本とかもそんなに無いような(というか、文化政策そのものが日本においては明確な指針をもたない期間がかなりあったようです。)。

例えば「日本の伝統を背負うのだ」ということは、一作家が考えるようなことかといえば、それよりは、思想家や宗教家などの専門家がクライアントとなって画家に発注する方が適切な「ナショナルペインティング」になりそうです。(そのような発注すら存在しないがために作家が「なんとなく伝統画題の中で自分にあったものを選ぶ」とか「極私的なモチーフに内向する」ことが起きている。起きているにもかかわらず、画材や表現技法とは齟齬をきたしているということが大きな問題のように思えます。)

その上で、植物への注目や画材に縛りが与えられているという教育プログラムをきちんと”応用”しているみなはむのような作家に注目しています。

(2019.2)




02

批評を行うというのはどういうことですか?


食事について美味いか不味いかを判断しないことが困難であるように、作品を見て、善し悪しを判断すること(=鑑賞)は、誰しもが行っているはずです。その判断について「根拠をもとに言語化し説明する」ことも、たとえばあなたのそばに展覧会を見に行く人がいたり、ギャラリーのレセプションにいたりすることがあれば分かるように、決して専門家に専有されるようなスキルでもありません。その話の聞き手はそれが妥当かどうか判断することもできるし、その場で質問を投げかけることもできるはずです。本来的には批評行為とはそんなものであって、テキストで発表するかどうかとか、そこに新しい理論的枠組みがあるのか無いのかというのは二次的な問題(というか、作品の質の説明のために理論的な枠組みが必要とされてはじめて理論は提示し得るものでしょう)だと言えるでしょう。

詳しいことは森功次訳のノエル・キャロル『批評について』とか読むといいんだと思う。

(2019.2)




03

作品のコレクションはしますか?


あまり積極的ではないですが、ドローイングくらいなら何点かあります。あんまり積極的にコレクションを形成しようという気が無いのは、それによって言説が歪むのが嫌だなという風に感じているからですが、別にコレクションすることと言説の正しさは直接的な関係がありません。なので、単に億劫だとか、容積に限りがあるとか、お金が無いとか、そういうことでもあります。デジタル画像の批評が専門であるという出自もまた、関係しているかもしれません。また、作品を所持するよりは、作品の達成を理解すること、適切に言葉にできることに重きを置いている部分もあります。しかしながら展示芸術においては、何よりもコレクションの形成が言説の形成のための強力な資源であることに疑いの余地は無いでしょう。

(2019.2)




04

講評を希望しています/展示を見てほしいです。


学生である/ないを問わず、講評の希望は可能です。twitterおよびメールにて連絡してください。展示については「良ければ来てください」という情報提供なのか、「是非来てほしい。その場でコメントが欲しい」という依頼なのかをはっきりとお知らせしてもらえると嬉しいです。

講評については2019年現在、相原、橋本駅近辺には向かいやすいです。(なので相模原も至近距離です。)

(2019.2)




05

最近気になっている作家はいますか?


トレンドだとか、次に来る、という意味で聞かれている側面が多分にあるかと思いますが、興味の更新がどんどんされるタイプではありません。したがって、2009年に企画した「解体されるキャラ」展で取り上げた二人の作家JNTHED梅沢和木が継続的な興味の対象だといえます。また、エドゥアール・マネについて、非常に高い達成を成した画家であると思っています。

近年の関心については、『スクリーン・スタディーズ』で取り上げた作家たちもご参照ください。

(2019.2)




06

gnck自身も制作をするのですか?


「芸術作品の制作」を行うことはありませんが、普段の業務では造形行為やその指導も行います。(プロフィールにも書きましたが、高校はデザイン科を卒業しています。)批評においては、作り手や作品に内在する理論を言語化するような仕事をしたいと考えています。

(2019.2)



07


ステートメントのポエム化について、どのようなものが「ポエム」とお考えですか。(具体例を出すことが悪口になってしまうので、挙げにくいかもしれませんが・・・)わたしは美大生の作品タイトルの「たゆたう」のような曖昧な動詞やキュレーターが作家の作品に色をつけるために寄せる文章によく見られる、比喩の多い独特な文体のことを想像しているのですが。


詩が現に一つの表現領域であるように、詩的な表現であることそのものをもって、ステートメントを断罪することはできません(一つの立場として、絵画のものは絵画にせよ、という態度であれば、言語の部分に無用に修辞を尽くしてはならない、という立場もあるでしょう)。

さしあたってファインアートにおいてステートメントが要求される瞬間とは、「作品が、アートワールドのイシューや、美術史に対して、どのような立場を表明しているのかを鑑賞者に伝える補助線」としてのものになるでしょう。→08

「ポエム化」が非難される所以は、まずはそのような態度表明がなされていないとか、あるいは結論が出ているはずのことに対して、新しい角度の批判ではなく、作家の感覚的な態度表明しかなされていない、ということにあるのかもしれません。(そもそもステートメントとは「声明文」という意味ですから。)

詩的な表現を用いてもよい場面を考えるならば、「作品に内在する感性や美意識を適切に言語化できている」時であって、詩的な言葉が造形的な作品を超えてしまえば、本末転倒でしょう。

作家としては、「言語的なフレームを不用意に設定すると、単純化された視点からしか鑑賞されない」ことを嫌って、そのような詩的な言葉遣いとなっている事情もあるかもしれません。同様に、作家を説明する言葉として用いられる際にもそのような事情が機能している可能性はあります。

作品についての言葉を読むものには、「作品が真に価値をもち、その内在する可能性を誠実に言葉にしようとしている」のか、「言葉によって煙にまこうとしているのか」という視点が求められるかもしれません。

(2019.2)




08


アートワールドとは何ですか


要するにファインアート業界のこと。

「ファインアートとは欧米のアートマーケットのことであり、そこでは全てが言語化され、ルール化された世界である」という態度は、村上隆が特に強力に言説を展開し、展覧会をはじめGEISAIや書籍の刊行、講演、カオス*ラウンジやOOOOをはじめ若手アーティストのリクルートなどのプロジェクトを推進していました。(カオス*ラウンジとは後に訣別しています。)

gnckは、この業界が単に世に数ある業界のうちの一つなのか、国家行政による美術館制度と密接に関わる業界なのかという点を問題にします。(gnck「芸術の公共圏」(『絵画検討会2016』)も参照ください。)

(2019.2)





09


美術系学生など初学者向けの本や、重要だと思う本はありますか?


まずgnckはあんまり本読めてません。多読の人にちゃんと聞いたほうがよい質問です。誰だろう。その上で。

問題は何のために本を読むのか?ということです。本を読むことによって、作品を見る際の視点がより豊かになるとか、制作する際の気を使うべき点がより分かるようになるならば、積極的に本を読むべきですが、書籍に書かれた理論によってあなたの作品の造形的な欠点が覆い隠されたり、作品がすぐさま承認されたりはしません。あるいは、鑑賞中に腑に落ちないことが理論的に説明さえされれば直ちに覆るとも限りません。

また初学者がまず芸術について学ぼうという時に、はじめに気をつけてほしいことは、印刷芸術と展示芸術では、作品の見え方や鑑賞体験にそもそも相当に隔たりがあるということです。その上でどのような表現形式でもそうですが、一定の量の作品を鑑賞する必要があります。

一定量の鑑賞を併せて行うことを前提に書籍を紹介するならば、普通に教科書的にド定番に通史を勉強したいとかならばエルンスト・ゴンブリッチ『美術の物語』でしょうか。ポケット版もありますが、図書館でちゃんと図版が大きいものでペラペラ読むと良いです。また図書館でオススメしたいのは、美術コーナーの端から端まで全部中身を「見る」ことです(いきなり「読ん」ではいけません)。入門書や全集などはすべてパラパラ見る。理論書であれば、目次くらいはちゃんと読んでみる。そうすることによって、全体的な地図が手に入りやすいのではないでしょうか。

(とにかく図書館というのは、そういう入門書や初学者向けの本はしっかりと取り揃えているものです。大学図書館や、美術館に併設のライブラリーであればなおのこと美術書も豊富です。ザッピングをたくさんするのは、どんなジャンルでも有効な手法だと思います。)

gnckのテキストで初学者向けだと思うのは『パンのパン03』の「モネと水鏡(イラスト:山本悠)」です。山本悠のせいで、やや難解な図になっていますが・・・。

(2019.2)


10

絵画空間とは何ですか。


この言葉を用いている人間がどのように意図して使っているかにもよりますが、自分が用いるとしたら、ということで答えます。

「絵画」という平面のものに対して「空間」という言葉を用いるのは不思議なことですよね。しかしながら、線遠近法的を用いることによって平面の中にあたかも奥行きがあるように空間表現ができることも分かると思います。

絵画において奥行きを表現するためは、画面の上を奥、画面の下を手前として表現する鳥瞰図的な方法や、2つの事物の重なりによって表現するなどの初歩的な方法から、進出色と後退色、空気遠近法などの色彩を用いるもの、大きさの大小や短縮法など形態によって奥行きを表す方法や、絵の具の重なりを遠近に見せる方法など、様々な表現技法が試みられてきました。

さて、絵画を「現実の再現」と考えるならば、それは「線遠近法によってよりリアルな表現が可能になっていった」のだといえばよいし、あえて「絵画空間」と呼ぶ必要はなく、「(絵画における)空間表現」と呼べば良いはずです。しかしここで「絵画空間」と呼ばれているということは、おそらく「絵画を鑑賞している人間が知覚する(現実の空間の物理法則とは異なる)空間」という含意があると思われます。→11

たとえば、トリミングを経験した人は誰もが知っていることですが、画面でモチーフが見切れている/いないことで、同じような図像であっても、その広がりの感じられ方が異なったり、細かく描き込まれている部分とそうでない部分を作ることによって、注視点を操作し、そのことによって作品と対面し続けられる構造を作ることが絵画とイラストとの大きな差であり、絵画の鑑賞体験を大きく左右したりします。あるいは、セザンヌの絵画は注視点によってパースの消失点がガチャガチャと組み変わる経験をもたらしますし、モネの睡蓮の連作は、ストロークの方向性によって面の奥行きや、水鏡の光線の反射までトラッキングしているかのような試みであると言えると思います(詳しくはgnck「モネと水鏡」を参照のこと)

近代絵画の特質は、このような「あるパース(視点)からあるパースへと視点をうつす」とか、「絵画空間を認識したり、それが絵の具でしかなくなったりする」といった認識をスイッチングする鑑賞体験にあると考えます。

(2019.2)




11

グリーンバーグのいう「イリュージョン」とは何ですか。


クレメント・グリーンバーグの批評は近代芸術の特にモダニズム芸術について語るものですが、近代絵画においては、この空間がどんどん圧縮され「平面」となっていくプロセスがあるとしました。(絵画はもともと平面なので、それに奥行きがあるかのように見せるのではなく、自己純化のプロセスとして、より平面的、かつ抽象画へと発展していくという発展史観でモダニズムの絵画を説明しました。)

たとえば、グリーンバーグはキュビスムの絵画(ピカソだったかブラックだったか失念してます。すみません)のコラージュの上に描かれた釘の影に注目します。釘の影を描くことは、その釘を立体感のあるものに見せようという行為なわけです(実際、鑑賞者はそのように感覚できる)。本来平面であるはずの絵画に立体感や奥行きを感じさせることをグリーンバーグは「イリュージョン」と言った訳ですね。しかし、キュビスムの絵画においては、絵画全体がそのようなイリュージョンを起こそうとしていない(部分的な奥行きがバラバラに連結され、「空間そのものがガチャガチャと組み合わさっている」ように見える)がために、それが「イリュージョンである」ということが白々しくも露見してしまうわけです。グリーンバーグは、モダニズムの絵画において、その態度がどんどん進行して、単なるフラットな平面へと還元され、「メディウム」が顕になることがモダニズムの芸術において起こっていることだと指摘しました。

(2019.2)



12

日本であまり紹介されていない現代美術系の批評家や批評、研究で最近なにか面白かったものはありますか?


そういうのは私が知りたいです。ぜひ教えてください。とりあえずポストインターネットアートについては、イベントを企画中です。

(2019.2)