大川洋輔、前田智、吉川喬
学校法人「加計(かけ)学園」の学部新設問題で、安倍晋三首相の「腹心の友」や元側近相手に苦言を呈した愛媛県の中村時広知事。11月1日告示(18日投開票)の知事選に立候補し、3選を目指す。「1強」政権を向こうに回す「もの言う知事」の強気を支える背景は何なのか。
「国・県・市の上下関係とか、大嫌いだ」
今月15日、中村知事は報道陣にこう語った。
安倍政権を揺さぶり続ける加計問題で中村氏が全国的に脚光を浴びたのは、半年前のことだ。同県今治市に新設された獣医学部の計画段階で、県や市の職員らが首相官邸で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と面会したとする県文書の存在が判明。そこには、柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べたと記されていた。
ところが、政権側は全否定。国会に呼ばれた柳瀬氏は県職員らに会ったことを認めなかった。
中村氏は「人間としての誇りやプライドがある」と、文書を作成した県職員を擁護。職員が受け取ったという柳瀬氏の名刺を公開し、政権側にプレッシャーをかけた。
さらに、首相の「腹心の友」と言われる学園の加計孝太郎理事長が会見し、県文書で言及された加計氏と首相の面会を「記憶も記録もない」と否定すると、中村氏は「もやもやした感じが残る。(証拠を)探す努力をされるべきでは」。不信感をあらわにした。こうした中村氏の姿勢は、「もの言う知事」として注目された。
ただ、知事としての任期満了を半年余り後に控えての政権との対立。知事を支える自民系県議はこう漏らした。「国との関係が心配だ」
なぜ中村氏は「安倍1強」にあらがえるのか。背景には、政治家としての「したたかさ」と強固な選挙基盤がある。
もともと自民党との対決もいとわない政治経歴の持ち主だ。父親の故・時雄氏は、民社党衆院議員を経て松山市長も歴任した。中村氏自身は1987年に商社マンから転身し、無所属で出た県議選で初当選。93年衆院選で日本新党公認で当選し、その後、新進党に所属した。
愛媛県は現在、衆院の1議席を除く県選出国会議員が自民という「保守王国」だ。その中にあって中村氏は99年の松山市長選で、当時の加戸守行知事の支援を受けて当選。当時の橋下徹・大阪府知事らと連携するなど、存在感を増していった。
知事への転身は2010年。自民県連などから推薦も取り付けて初当選した。一方で、足元の松山市長選ではその4年後、自民系候補と激突した自身の後継現職を全面支援。長年県政界で対立してきた塩崎恭久・元官房長官らが擁立したこの自民系候補を破った。「知事と対立すれば選挙で不利になる」(自民系県議)という印象を植え付けた。
安倍政権との向き合い方について、加戸氏は「真正面から対立する気はないだろう。加計問題は、国との政治的な駆け引きに使っている面がある」と指摘する。
今回の知事選でも、すでに自民、公明、国民民主などが中村氏への支援を表明。対立候補は、共産推薦で脱原発を掲げる新顔の和田宰氏(66)と、新顔で不動産業の山口節生氏(69)=さいたま市=が立候補を表明している。
和田氏は、そんな中村氏について「加計問題でも原発問題でも大事な争点は回避して、したたかに県政を運営している。ほぼ全ての政党会派が知事を気遣っている、ゆがんだ事態だ」と指摘。加計問題のほか、27日に県内で再稼働した四国電力伊方原発3号機の問題などで中村氏に論争を挑む考えを示す。
3期目を目指す中村氏にとって、「もの言う知事」としての真価が問われる選挙戦になるかもしれない。(大川洋輔、前田智、吉川喬)
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