日程
翌日。
サクラちゃんは恒例とばかりにお義父さんを抱き枕にしておりますな。
「うう……熱い……」
「すーすー」
「うわ! 尚文さんをサクラさんが抱きしめてますよ!」
起きた樹が寝ぼけ眼をこすって指摘しました。
「そもそもフィロリアル達は隣の部屋で寝るんじゃなかったのか?」
錬もぼんやりとした様子で起き上がって、その様子を分析します。
わかりませんかな?
サクラちゃんが寂しがったのでお義父さんが優しさを見せて一緒に寝てあげたのですぞ?
「なんか元康さんが知ってる様な顔をしてますよ」
「元康、知っていたなら尚文に先に注意しろよ」
「前々回のループでサクラちゃんがお義父さんにしてましたぞ」
「今更遅いですよ。夜遅くまで時間が掛ったのなら尚文さんも眠いでしょうに……」
樹がそれとなくお義父さんを揺すって起こしますぞ。
「うう……な、なんだこれ!?」
「サクラさんですよ。ほら、サクラさん、起きてください」
「やーん……」
サクラちゃんはお義父さんを抱きしめたまま寝相を変えようとしております。
ま、宿の床がギシッと音を立てますな。
何分、サクラちゃんは現在、フィロリアルクイーン形態なので若干、重量がありますからな。
「床が抜けるんじゃないのか!? キタムラ殿! どうにかしてイワタニ殿とサクラ殿を引き剥がしてサクラ殿を起こした方が良い」
「前々回はどうやったのでしたかな?」
えーっと、と言う所でユキちゃんがやってきましたぞ。
今日も凛々しい姿をしておりますな。
「おはようございますわ。元康様、皆さん」
「おはようですぞ」
「良い朝ですわ……ってサクラ! はしたないのでやめなさい」
「やーん……」
「た、助けて!」
「ずいぶん昔の子供向けのアニメに今の尚文の体勢のシチュエーションが無かったか? 大きな生き物のお腹の上に乗って眠るってシーン」
「ああ、錬さんの世界にもありました?」
「そこ! 悠長に見て無いで助けてくれない!?」
ユキちゃんの補助もあって、サクラちゃんは渋々お義父さんから離れました。
名残惜しそうな表情でしたな。
「あれ? コウは?」
そういえば見当たりませんな。
まだ外にいるのでしょうか?
「朝の散歩に出かけましたわ」
「何処まで自由なんだ、コイツ等は……」
コウは食いしん坊な男の子ですからな。
冒険心が疼いたのでしょう。
「ふう……とりあえずサクラちゃん、お願いだからこういうのはやめてね」
「なんでー?」
「宿屋だと狭いし、俺が熱いから良く眠れないの。野宿とかする時なら……少しだけなら良いから我慢して」
「はーい」
お義父さんがサクラちゃんを叱りつけ、錬と樹はその様子を呆れながら見ておりました。
「もしくは、錬と樹にやってあげてね」
「尚文、矛先を俺達に向けるな」
「そうです。そういう役割は尚文さんの役目ですよ」
「どういう役割?」
段々と錬と樹も慣れてきたのか反応が鈍くなってきた様な気がしますぞ。
お義父さんに変なポジションにさせないでほしいですな。
「さて、今日はどうする?」
「俺はユキちゃん達の服を作りますぞ」
「となると元康は今日も留守番で俺達はLv上げか」
「そろそろある程度軌道には乗ってくるので移動開始は近いですよね」
「そうだな……とはいえ、元康の暴走を誰が止めるか……」
お義父さん達はそれぞれを見合っていますな。
俺が何かするか不安なのですかな?
特に問題行動をした覚えはありませんぞ。
「時間毎に交代とかが良いのかな?」
「合流する時間を決めるのか、もしくは今日一日誰かが付き添いをするかだな」
「乗り物酔いと戦うか、元康さんの付き添いか」
「まさしくどっちに転んでも災難だな」
「酷い物言いだね……否定は出来ないけど、一人留守番だとLvの上昇が滞るから平等感がなー……最低三日なら良いんだけどね」
「正直、そろそろ移動を開始したい。何だかんだで問題こそ起こっていないだろうが注目はされ始めている様な気がするんでな」
「じゃあ今日はLv上げは程々に交代で元康くんの見張りをしようか。幸いにして今日の元康くんは服作りとかして忙しそうだしね」
「と言うか服ってそんな簡単に作れる物なのか?」
お義父さん達が俺を見ますぞ。
「昨夜作った糸を生地に出来れば、今日中には完成すると思いますぞ」
寸法と型紙は大体覚えておりますからな。
フィロリアル様達の体系は似ている子が多いですから、困りませんぞ。
「手先がずいぶん器用なんだな」
「Lvによる強引な細工をしているのではないですか?」
「敏捷を引き上げてって奴だな。ありえる」
「Lvのある世界で日本の常識は通じないよね」
「武器で薬や雑品を作れるんだから問題は無いのかもしれないな」
「MMOとかだとそういうのを一瞬で作れたりするのもあるしねー……」
ユキちゃん達を見ながらお義父さん達は分析しております。
今日中にはちゃんとした服を用意しますぞ。
なので、今日はそこまで出かける予定はありませんな。
ですが、お父さん達はユキちゃん達の服が完成したら出発したい様ですな。
何だかんだでフォーブレイまでは結構距離がありますぞ。
お義父さん達の話では世の中を知る為に色々と見ておきたいとの話。
寄り道を視野に入れると更に時間は掛るでしょう。
見積もりでは休み無しでフィロリアル様を交代で走らせると……最初の世界のお義父さんは無茶をさせましたからな。
確か三日か四日で到着しましたぞ。
ただ、その三日が壮絶でしたな。
フィーロたんも相当無茶をしていたのはこの元康、見ていたので覚えております。
馬車もかなり軋んでいましたからな。
今のユキちゃん達で行かせたら確実に体を壊しますぞ。
Lvによる補正で誤魔化しは出来ますが、お義父さんの意見を参考に多めに見てやはり一週間……いえ、二週間の工程を見た方が良いでしょうな。
「うーん……」
「フォーブレイは逃げませんぞ」
「そういう事を言ってる訳じゃないんだけどね」
「問題はフォーブレイまでの道のりだな。シルトヴェルトは山々や大きな森に囲まれた地が多い。地図を参考に直線で行くのはフィロリアルでは難しい。ましてや大きな迷いの砂漠に遮られているから難しいだろう」
エクレアが補足しますぞ。
ああ、そういえばありますな。荒野と砂漠が。
シルトヴェルト側からフォーブレイへ行く場合の話ですがな。
「メルロマルクからは?」
「同様に山や谷、荒野に山脈がある」
確かあの時はどうやって移動したのでしたかな?
ああ、山脈はライバルを大きくさせて飛び越えさせたのでしたな。
ライバルが馬車が重いと身振り手振りで喚いていた様な覚えがありますぞ。
お義父さんは当たり前の様に命令させていたので認識していないかも知れませんでした。
「砂漠越えか……」
「僕達に出来るでしょうか?」
「迂回する事を勧める」
「無茶をすれば行けなくはないですが、お義父さん達が世界を見ておきたいと言うのでしたら遠回りも一考ですぞ」
「うん、じゃあその方向で良いよね?」
お義父さんが錬と樹に尋ねると、二人とも同意したように頷きました。
ふむ、荒野に砂漠ですか。
フィロリアル様が荒野を駆け抜ける姿を想像するだけでロマンが溢れてきますな。
「じゃあ昼までは俺が元康くんを見張ってるから、次は錬か樹が見張ってるのはどうかな?」
「わかった。一旦俺達は帰ってくる。その時にでも何処かで飯を食って見張りを交代、三時過ぎくらいに最後の一人が交代して服が完成したら出発だ」
「そうですね。尚文さんが昼までですから、次は誰にしましょう?」
「一番楽なポジションだぞ。飯休憩が出来る」
ギラリと、またも錬と樹はジャンケンの準備をしていますな。
くじはもうやらないのですかな?
「もう昼までの狩りにして午後は二人とも休んでたら?」