料理効果
「中々癖があったが美味かったな」
「お粗末さまでした」
お義父さんが作った夕食を俺達は食べてゆっくりと火を囲んで談笑をしております。
俺も食べましたが、想像通り美味しかったですぞ。
「確かに、俺の知る料理とは似てる様で違う料理ばかりだね。メルロマルクにいた時からそうだけど、さすがは異世界だね」
「今晩のはどうしたのですか?」
「市場の人にどう料理するか聞いて、その後は勘だね。だから本物とは少し違うかもしれないな」
「これで勘か……」
錬と樹が食べ終わった皿を眺めながら言いました。
もっと驚くと良いですぞ。
お義父さんから溢れ出す才能に。
「もっと正確な味を確かめるには一度食べないとダメかなー……」
「大分、僕達も余裕が出てきた様な気がしますね」
「そうだな」
「勇者殿達が順調のようで何よりだ」
エクレアが納得したように頷きながら武具の手入れをしていますぞ。
それに倣って錬と樹が川辺で服の洗濯を始めましたな。
「「「グア!」」」
ユキちゃん達はお義父さんが作ったフィロリアル用の食事をまだ頬張っております。
何分、今日もがんばりましたからな。
お義父さんも調理器具の手入れをしております。
俺も何かしますかな?
「元康さんは……」
「何もしなくて良いだろ。一番がんばっている様なものだからな」
「俺だけゆっくりしているのは気が引けますぞ。では今日も風呂の準備をしますかな?」
「そうだな。じゃあ頼む」
昨日と同じく、俺は風呂焚きをしますぞ。
まあ、魔法で水をお湯にするだけですが。
「何だかんだでサバイバルになっちゃってるけど、明日辺りには出発……出来るかな?」
「フィロリアル共が今夜、変身するんだろ?」
「らしいね。見た感じだと、その兆候は見られないけど」
「Lvによる成長促進ですぞ。本来は後1日は掛るでしょうな」
なので、実際は何時になるかは勘ですぞ。
まあ天使の姿になったら、神々しくも可愛らしい姿に、あっと驚くでしょうな。
今から楽しみで興奮してきました。
「僕達は遊んでいる余裕は無いですものね」
「異世界お約束のギルドでのクエストも、犯罪者に近い今の俺達じゃ難しいな」
「そもそも身分証明とかどうやって取得するんだろうね。ゲームだった時はゲームに寄るけど何事も無く出来るけどさ」
「クエストか……ゲーム知識を元に挑戦すると痛い目を見そうだ。それ以前に、金自体は元康が既に十分なほど確保はしてるからな」
「強化に金を湯水のように使う物があるので、最終的には枯渇しますぞ」
投擲具の強化方法でしたかな?
あれに相当な金銭を使うのですぞ。
なので当面の活動資金には事欠きませんが、最終的には最初の世界のお義父さんでさえも一番使う武器にだけ強化をしろと注意しておりました。
何分、勇者は沢山いましたからな。
その全てが湯水の如く金を使ったらあっという間に枯渇してしまうからでしょう。
「俺達の知らない未知の強化方法か、まだまだ先がありそうだな」
「四聖の強化方法でさえも覚えている最中なのに、他の強化方法があって、それを詰め込まれたら混乱しそうですね」
「だな。最大の問題は信じないと出て来ない挙句、複雑だと言う事だ」
「でもゲームっぽいだけなら感覚で覚えられるかもよ? 他にもあるの?」
「もちろん、技術でも覚えないといけない物は沢山ありますぞ。勇者だけが唱えられる魔法、リベレイションは努力をしないと覚えられませんな」
お義父さんの笑顔が若干引きつりましたな。
「うわー……これから先を生き残るのには、本当に努力しないといけないようだね」
「錬や樹なら分かる他の技術、エネルギーブーストと言う物は、職業特徴と認識すれば覚えやすいですぞ」
「なんですか? それは?」
「ああ、覚えやすいなら教えてくれ」
「気ですぞ。具体的にはモンクや修行僧等の職種になると出来るようになる設定上の技術ですな」
「ああ……伝説の武器の系統外だが、使えるのか」
「よく考えたら技術的な物なのですから、修練すれば他職業でも使用可能に出来ますよね。まあ難しいんだとは思いますが」
飲み込みがずいぶん早くなりましたな。
前回の錬や樹は信じようとすらしませんでしたぞ。
それがコレですからな。
教える俺も気分が良いですぞ。
「ゲームだと料理を食べると能力上昇とか、特殊な効果が付与されるとかあるけど、この世界だとどうなのかな?」
「検証した事はありませんな」
エメラルドオンラインでも料理アイテムがありましたな。
一定時間特定の能力が少しだけ上昇する、などの効果がありました。
よく考えれば割と重要な事では無いですかな?
「さすがにそこまでは無いだろう。そもそもこれだけの強化方法を重ねた勇者のステータスに能力付与なんてあってない様なものじゃないか?」
「一概に言えませんよ? 料理効果が%の割合だったら馬鹿に出来ませんし」
「しかも尚文の料理だからな……」
「そこまで上手くは無いと思うけどなー……」
ですが、よく考えてみたらお姉さんやフィーロたんはお義父さんの料理を食べて育った様な方達だったのですぞ。
つまりはそれだけ能力の伸びが良かった可能性も捨てきれませんな。
お姉さんと初めて一緒に狩りに出かけたあの日、お姉さんは部屋でそれはもう鍛錬に勤しんでおりました。
あの頃の腐っていた俺は肉体派の女子……と若干引いていましたな。
まあ豚の尻を追っていた頃の俺はそう言ったタイプも構わずアタックしていましたが。
何分、赤豚達が怠け者だったので、感覚がおかしくなっていたのでしょう。
何処までも前向きに、いつ何が起こっても対処できるように努力していたお姉さんに、この元康、感服ですぞ。
「ゲームだと、一定時間だが毎回食っていたら肉体にステータス付与が永続して残るかもしれないぞ」
「コンシューマーとかだとあるよね。一個使う毎に力が永続的に1アップ、みたいな」
「ありえない話ではありますが……かといって豪勢な物ばかり食べるのはどうなのでしょう?」
「奥が深いな」
「ええ、自分の知るゲームだと思いこんでいたら考えつかなかった発想です」
まあ料理の効果が事実かはわかりませんが、食事は重要という事なのでしょう。
なんせ食べる事で肉体を構築している訳ですからな。
ステータスなどという、ゲームの様な肉体なので、どうにも意識がズレがちですが、そういう物なのかもしれません。
そういえばお姉さんの様に、日々鍛錬すると微量ですが能力が上がりましたな。
現実で言う所の筋トレなどですぞ。
こうして考えると食事と身体は密接に繋がっていそうですな。
という所でお風呂が出来ました。
「お風呂の準備が出来ましたぞ」
「ああ、じゃあ尚文、お前が先に入れ」
「わかったよ」
そんなこんなで俺達の夜は過ぎて行ったのですぞ。
「それで元康、フィロリアル共は今夜、本当に人化するのか?」
「おそらくですな」
ふむ……。
クエクエと楽しげに鳴いているユキちゃん達を錬と樹は凝視しております。
お義父さんはユキちゃん達と遊んでいますぞ。棒を投げて捕らせる遊びをしております。
これは前回も前々回も……最初の世界でも見た光景ですな。
お義父さんはフィロリアル様達を初め、様々な魔物達と遊んでくださっていました。
「よーし! じゃあ一番に取れた子にはご褒美をあげるよー」
「「「クエ!」」」
お義父さんは今日作った料理の残りを加工してユキちゃん達のご飯にしております。
ユキちゃん達は我先にと、お義父さんが投げようとしている棒を凝視しておりますぞ。
「お義父さん! 俺も混ぜて欲しいですぞ」
「元康くんは大人げなくみんなから棒をとりそうだからダメだよ」
「何を言うのですかな? 競争意識は重要ですぞ」
「じゃあ……加減が出来るならやってみても良いよ」
がんばりますぞ!
お義父さんが投擲する木の棒を、誰よりも早く走って俺は跳躍しますぞ。
「クエ!?」
おや? ユキちゃんが対抗意識を燃やし始めましたな。
メラメラと闘志がわき上がるのが俺にはわかりました。
「元康くん! もっと手加減して! ほら、サクラちゃんが諦めちゃってる」
反面、サクラちゃんは唖然とした表情をした後、お義父さんの隣に座り込んでしまいましたな。
コウはまだやる気がありますぞ。