手中に収める
昨日あれだけやられたのに、懲りずにやってくるとは……アホですな。
何処の国でも似たような奴等がいますな。
俺は馬車を引くのをやめて一歩前に出ますぞ。
「雑魚が群がってきても無駄ですぞ。お義父さんが殺すなと言うので、痺れさせるか幻覚を見せるかで我慢してやるから来るのですぞ」
「舐めやがって! いけ!」
強盗団が俺に向かって襲いかかって来ました。
「パラライズランス! イリュージョンランス!」
麻痺効果のあるスキルと、幻覚効果を引き出すスキルを強盗にそれぞれ放ってやりますぞ。
槍が軽い音を立てて、強盗達に命中していきます。
「ぐあ! し、しびれ――」
「あ、ああああ――」
イリュージョンランスは使い方を注意しないと色々と面倒なんですぞ。
幻覚で脅えて逃げる者や幸せな幻覚に陶酔して、あられもない姿になる者等、個人差が出ますからな。
寝かせた方が良かったですかな?
仕留めないでいるのはお義父さんの優しさですが面倒ですな。
「ほら、ささっと来るのですぞ」
突き刺して幻覚を見せた後、槍を引き抜いて、残った連中に向けますぞ。
「な、何者だコイツ!」
「化け物みたいに強い人間だぞ!」
「コイツ、国の連中に通報した方が良いんじゃないか!?」
「おや? 強盗が国に泣きつくのですかな?」
何処の犯罪者も行動は変わりませんな。
「人間の分際で――」
「その人間にコテンパンにされている無様な連中が何を言うのですかな?」
もはや作業ですな。
いくら戦闘面で人間よりも優れていると言っても俺の前では雑魚も同然ですぞ。
やはり勇者の立場を隠してと言うのはこう言う輩に絡まれる危険があるのですな。
前回はシルトヴェルトの使者に行くかもしれないと話を通していたので、通達があったのですな。
俺だけで考えるのは危険ですが、その辺りをシルトヴェルトの上層部と掛け合いますかな?
ただ、お義父さんがシルトヴェルトにいると知ってそれを大義名分に戦争になったら厄介かも知れません。
「そうですぞ。お前等、この辺りの裏を牛耳っているボスとか知りませんかな?」
お義父さん達の為に、こう言う輩は根っこから知らしめるのが手ですぞ。
そうすれば少しは治安が良くなりますからな。
路地裏強盗共を締めあげて、俺は槍の穂先を頬に付けてやります。
「ヒィ!」
「ほらほら、教えるのですぞ。お前等の親分は何処にいる誰なのかを」
強さに恐れを成したのか路地裏強盗は俺に案内を始めましたぞ。
「あ!? なんだお前は!」
現代だったらヤクザの事務所ですかな?
何やら豚臭い小屋の裏側にあった汚らしい家で、ふんぞり返った奴がいますぞ。
偉そうに椅子に腰かけて、鎧を着ております。
「お前等がこの辺りのボスですかな?」
「人間如きが何様のつもりだ!」
「愛の狩人様ですぞ!」
俺は素早く、そいつの喉元に槍を突きつけ、鎧だけを器用に切り裂いてやりました。
「話を聞いてるのは俺ですぞ」
「な――!?」
周りの亜人と獣人共が各々武器を持ち出して俺に向けようとしてきました。
「スキルにはこういう使い方もありましたな。大風車! パラライズランス!」
槍を振り回し、麻痺効果のあるスキルを発動させてコンボで周りの連中を痺れさせてやります。
持っている武器を弾かれる者、槍を受けて突き飛ばされる者等、色々居ますな。
「ほら、さっさと答えるのですぞ。じゃないとお前を尻から串刺しにして、外に放りますぞ」
「ふざけ――」
激昂したが、素っ裸な事に気付いたボスらしい奴がやっと状況を理解した様ですぞ。
もはや周りには仲間がいませんからな。
この手の連中は一人じゃ何も出来ないのですぞ。
「……何が目的だ」
「金目の物を持っていると思って俺達に関わろうとする連中が鬱陶しいのですぞ」
ペチペチと頬に穂先を当ててやります。
俺は頼みこんでいるのですぞ。
「……わかった。部下どもにはお前に関わらない様に命じておく」
素っ裸で頷かれても気持ち悪いですな。
しかもコイツ、良く見たら喋る豚ですぞ。
おかしいですな。俺は豚の言葉はわかりません。
ああ、コイツは豚では無くオークと言う奴ですな。
だから話が出来たのでしょう。
お義父さんはオークを見て、どんな反応をするのでしょうか?
手土産に持って帰るか検討しますぞ。
「それで、お前がこの辺りのボスなのですかな?」
「ここは俺達の縄張りではあるが、他にも裏の派閥はある」
ふむ……一個一個潰して行くのは面倒ですな。
「なあ、アンタ。そんなに強いなら俺の所で用心棒をしないか?」
「お断りですぞ。それと豚は豚らしくブヒブヒ鳴けですぞ」
「ヒィ!? ブ、ブヒ……」
おや? 俺の殺気を受けて黙りこみましたな。
これは滑稽。
「まあ良いですぞ。俺達に関わってきたら、迷わずお前の所に乗り込んで行くので、命がけで他の派閥を抑えるのですぞ」
辺りの転がっている連中を無視して、俺は事務所を後にしました。
お義父さんが前に言っていましたからな。
盗賊は資源であると。
つまりこういう闇の連中も資源で、脅して言う事を聞かせるのが一番なのだそうですぞ。
手痛い仕返しを受けるのを覚悟させれば思い通りになるそうですからな。
HAHAHA。
「く……」
「ああ、まだ反抗心があるのですかな? ブリューナク!」
俺は事務所内から空目掛けてブリューナクを放って大きな風穴を作ってやりましたぞ。
「本気になればお前らなど消し炭に出来るのを、見逃してやっているのを理解する……のですぞ」
「ヒィイイイ!?」
痺れている連中も唖然とした表情で俺が放った風穴を見つめておりますな。
まあ、これだけ脅せば、金目当てに俺達に強盗に来る事も無いでしょう。
こうして俺は今日、シルトヴェルトの闇を一つ、手中に収めたのですぞ。
「ただいまー!」
その日の夕方頃、お義父さんがコウの引く荷車に乗って帰ってきました。
おや? やはりエクレアはグロッキーの様ですな。
荷車の上でぐったりしてますぞ。
「アマキ殿とカワスミ殿の話は本当だった……グフ……」
「エクレールさん、何度か荷車から落ちて大変だったよ」
良く見るとボロボロですぞ。
回復魔法を使ってやりましょう。
「コウにあんまり走らない様にお願いするのに苦労したよ。と言うか……」
お義父さんがコウを見ながら俺を手招きしますぞ。
「もはや別の魔物に見えるんだけど?」
「これが勇者が育てたフィロリアル様の姿なのですぞ」
「そういう物なの? なんて言うか、ふっくらとして見えるけどね」
「クエー!」
コウは褒めてとばかりに俺に鳴きますぞ。
俺は沢山褒めてやります。
「元康くんの方はどう? 確か服を作る機材を買いに行ったんだっけ?」
「ここにありますぞ」
俺は馬車に乗せた機材をお義父さんとコウに見せます。
コウは馬車を見て興奮しているようですな。
みんなの馬車ですぞ。
「へー……なんか水晶っぽいのが付いた、糸巻き機? これが服を作るのに使うんだ?」
「魔力を糸化させて服にするのですぞ」
この辺りは毎回教えなければいけない話ですな。
変身能力を持つ亜人や魔法へ変身する者が使用する服には必須の機材なのですぞ。
「まあ良いや、こっちは多少Lvが上がったよ」
「それは何よりですな」
「一応Lv32だね。さすがに元康くんのような強さをコウは持ってないからこんな所なんだろうね」
「俺の現在のLvは103ですな。資質向上も観点に入れるともっと上でしょうな」
前回Lvリセットに近い状態まで下げましたから若干低下しておりますぞ。
一応は、フィロリアル様達の育成をしたので、底上げは出来ましたが。
他にも資質向上をして少し下げております。
「うわー……先は長そうだね。一応、コウと一緒に回って素材とか色々と集まって来てるから着実に強くはなってるよ」
「合間を見て、素材で変化条件が解放された武器を更に解放する事で技能や能力付与を増やして行くのですぞ」
「そうだったね。余裕があったらやっておくよ。ところで元康くんの方はこれを買っただけで終わったの?」
「違いますぞ」
俺は路地裏で強盗に襲われて、面倒だったのでその背景に居る黒幕の組織に乗りこんだ経緯を説明したのですぞ。
するとお義父さんは慌てた様子で言いました。
「誰がそこまでやれって言ったの!? 絶対に目を付けられたよ!」
「絶対的な強さを見せたので問題は無いと思いますぞ」