焼き肉パーティー
「うう……」
「もはや食事どころじゃないんじゃない?」
「ですが、せっかくお義父さんが作ってくれた食事ですぞ。ほら、錬も樹も食えですぞ」
「うう……気持ち悪いのに臭みのある肉を食わされそうになる悪夢が……」
「なに無理やり食べさせようとしてるの! まあ……まだ焼いてないから少し様子を見ようよ」
お義父さんに怒られてしまいましたな。
やがて定期的にエクレアとお義父さんが冷えた手ぬぐいで看病する事で、1時間後には錬と樹は多少回復しました。
意外と回復が早いですな。
さすがは勇者という事でしょうか?
「まったく、何度死ぬかと思った事か!」
「本当です。あまりにも乗り心地が悪過ぎますよ」
「「「グア!」」」
おお、ユキちゃん達が合わせたように右の翼を上げてポーズを取ってますぞ。
錬と樹の頭に青筋が浮かんだ様な気がしますな。
「してやったりみたいに合わせて鳴かないでください!」
「俺達を乗せ殺そうとしてるんじゃないのか?」
「乗せ殺そう……凄い言葉だね。初めて聞いたよ」
「心外ですぞ。ユキちゃん達は善意でやっているのですぞ」
過去にも沢山のお義父さんの配下を育成してきた、お義父さん流のブートキャンプですぞ。
これで強くならなかった者はいない伝統ですな。
つまりコレに耐え切った錬と樹はすぐに強くなりますぞ。
あのキールも体験ですぞ。
「まあまあ、二人共Lv上げの方はどうだった? 俺は程々に上がったんだけど」
「む……まあ、確かに2時間でそれなりに上がったな」
「ええ、2時間でこれだけの上昇が見込めるなら確かにやる意味は……」
ぐったりとした様子で錬と樹はお互いの視線を交差させていますな。
そうでしょうとも。
短時間でLvを上げるにはコレが一番ですぞ。
「明日が来て欲しくないな」
「ええ」
「そんなに乗り心地悪かったかな?」
錬と樹、お義父さんとで温度差がある状況になっていますな。
お義父さんはフィロリアル様に乗っても大丈夫な方ですからな、俺も最初は夢見心地だったのですぞ。
この差が埋まらないのですな。
「すぐに慣れて行きますぞ。でなければこの先思いやられますな」
「乗り物酔いに慣れて行く感じだと思うよ。慣れだよ。俺は経験した事無いけど」
「尚文さん、乗り物に強いんですか?」
「特に経験した事は無いね」
そういえば前回だったか前々回に船酔いもした事無いと言ってましたな。
他にもバスや電車などの移動手段で本を読むのが日常だとか言ってました。
というよりもフィーロたんの馬車の中で勉強や薬作りをしていたとか。
凄い才能ですな。時間を無駄にしません。
「正直、ここまで尚文さんを羨ましいと思った事はありません」
「そこまで?」
「もはや異能力の次元ですよ。尚文さんの世界には無いんですよね?」
「聞いた事は無いなぁ」
「ああ、最初の世界で樹はお義父さんが異能力持ちだと分析していた様ですな」
覚えていますぞ。
お義父さんがフィロリアル様の夢見心地を楽しめないのは能力だと言っていました。
「他にも酒に極端に強いそうですな」
「酔い無効の能力者ですか……確かに、存在しても未開発である可能性は……ありますね」
「く……」
その話を聞いていた錬が悔しそうに呻きました。
「あの、俺自身が自覚ないんだから羨ましい目で見られても困るよ?」
「だが、この先であの乗り物酔いを経験しないのは不公平だ!」
「そんな事言われてもなぁ……」
錬のいちゃもんにお義父さんも困っていますな。
樹は確か命中の能力とか聞きました。
だからこれからの事を考えたら文句は言えないのですな。
「その代わり、お義父さんがいろんな雑務をしてくださいますぞ」
「え!? 聞いてないよ、そんなの。まさか元康くん、これからも俺に料理とかの仕事をさせる気なの?」
「嫌ですかな?」
「えー……まあ、みんなが望むならやるけどさ」
「お義父さんはとても家庭的な才能があるのですぞ。ささ、錬も樹もお義父さんの作った料理を味わえですぞ。それとも風呂が良いですかな?」
既に風呂の準備は万端ですぞ。
「そ・れ・と・も、ユキちゃん達と寄り添って眠りますかな? 星空が綺麗ですぞ」
「何ですかその気色の悪い新妻みたいな台詞は」
樹が半眼で俺を睨みますぞ。
何かおかしい事を言いましたかな?
最高のシチュエーションだと思いますぞ。
「遠くで不吉な感じに遠吠えが聞こえるこの状況で野宿をするの? 食事を終えたら宿に戻ろうよ」
「……そう、だが。気持ち悪いのがまだ残っていて、上手く立てん」
「今日は食べずに寝る? 風呂も……」
「そういう訳にはいかないだろう……重い体を引き摺ってでも風呂には入る。少しすれば気持ち悪さも抜けるだろ」
と、言って錬はふらふらと立ち上がり、湯気の立つ俺が沸かした風呂へと向かいました。
「ええ、べとべとで正直不快です。最低でも風呂には入りますよ」
樹も同様ですな。綺麗好きなのでしょう。
まあ、樹はナルシストな所がありますからな。
ああ、錬もですか。
おっと、俺は燻製を作っている最中でしたな。
……もう一つ窯を作ってウシ型にしますかな?
ちょっとした彫刻ですぞ。
ハハハ、最初の世界の燻製を思い出しますな。
あのウシの話を皆に話しますかな?
丁度燻製肉を食べている時が一番ですかな。
勝利の味ですぞ。
そういえば燻製を含め、錬や樹の仲間だった敵、豚共は消しましたな。
ソイツ等が未来でどんな風に消えたかを話すと気分が良くなるかもしれません。
と、俺が話そうとした所でしたが、既に会話が始まってますな。
「ふう……なんか今まで色々とあって、しかも緊張の連続だったからどっと疲れが……」
「部屋に待機してても警戒してたもんね」
「こんな星空風呂じゃ、気が抜けないのはありますけどね」
「ユキちゃん達が守ってくださってますぞ」
そう、ユキちゃん達はキャンプの周りを見張る様に陣形を組んでおりますぞ。
これぞフィロリアル様の縄張り意識ですな。
「いやいや、尚文さんが用意した肉を貪ってるだけじゃないですか!」
「「「グア!」」」
「グア! じゃないですよ!」
「ペットは飼い主に似る。自由すぎる元康にそっくりだ!」
錬と樹が浴槽から俺を指差してます。
心外ですな。
ユキちゃんもコウもサクラちゃんも、みんな個性があるのですぞ。
「あはは……」
お義父さんが苦笑いしながらユキちゃん達に少しだけ肉を分けて差し上げていますな。
既に焼き肉パーティーは始まっているのですぞ。
「じゃあ二人にも食べさせてあげるよ」
お義父さんが焼いた肉を小皿に盛って石風呂に入浴中の錬と樹に肉を差しだしますぞ。
錬と樹はプンスカと文句を言いながら肉を口に入れました。
「お? 臭みは強いけど、腹が減ってると美味く感じるな」
「ええ、不思議なほど柔らかいですね。これって野生の魔物の肉なんですよね? こういうのって筋っぽくて不味いと聞きますが」
「お義父さんが念入りに筋を切っているので、野生の肉でも美味しいのですぞ」
「まー……部位的に美味しい所を見繕ったからね。ユキちゃん達はその残りを食べてるんだよ」
「ふむ、ならば少しは良い気分だな」
「ええ、至れり尽くせりですね」
む……フィロリアル様達を馬鹿にしている様な気がしますぞ。
しかもお義父さんへの感謝が足りませんな。
「元康くん、まあまあ。これは俺を信じてくれた事に対するお礼……かな? 次は自分達で食べてね」
お義父さんはそう答えましたぞ。
なんとも優しいですな。
お義父さんの山の様な優しさと真心に感謝するのですぞ。
「……ふん、これが尚文を信じた礼なら、悪くは無いな」
「ええ、道化として良い様に利用されるよりも、遥かに心に来ますね」
そう言いながら錬と樹は星空を見上げながら、微笑を浮かべていたのですぞ。
「キタムラ殿! 燻製作りでよそ見をしてはならん」
エクレアが警備と火の番をしながら言って、台無しですぞ。
こうして俺達は川辺で夜のバーベキューを終え、宿に戻ってぐっすりと休みました。
ちなみにユキちゃん達は俺達を送り届けた後、川辺で就寝したのですぞ。