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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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中二病みたいな台詞

「お義父さん、ただいまですぞー」


 宿屋の窓に向けて俺は手を振りますぞ。

 すると、お義父さん達は宿から出て俺達の元へと駆け寄ってきます。


「おかえり……ってずいぶんと大きくなったね」

「これで孵化して一日も経ってない、だと!?」

「ゲームじゃないと思いこみたいのに、この子達の成長がゲームだと主張してきますね」


 樹が頬を指で掻いて汗を流していますぞ。

 お義父さんも若干呆れ気味ですな。


「グア~」


 サクラちゃんがお義父さんにじゃれつきますぞ。


「この色合いからサクラちゃんだね。大きくなったねー」

「幾らなんでも成長が早過ぎないか? キタムラ殿、この者達のLvは幾つなんだ?」

「40ですぞ」

「40!? 一日で40だと!? 幾らなんでも早すぎる」

「ねえ、元康くん。サクラちゃんの体が動く度にバキバキ音がするけど大丈夫なの? 触ると肉が蠢いてるんだけど……」

「問題ないですぞ。フィロリアル様の成長ですな」

「バクバクバク、と音を立てて荷車の肉を平らげているんですけど……」

「グア!」


 ユキちゃんが荷車を降ろしてから走り去って行きますぞ。


「何処へ行くんですか! まさか飼い主に似てるという奴ですか!?」


 樹がユキちゃんを指差して言いますぞ。


「はは、樹はレディへの心遣いが足りませんな。お花摘みですぞ」


 だからストーカー豚なんてのに好かれるのですな。

 まあ最初の世界を見るにストーカー豚は優秀な豚ですが。


「驚異的な生き物だな」

「グア~」

「サクラちゃんくすぐったいよ」


 お義父さんとサクラちゃんの微笑ましい一枚ですな。

 おや? コウは樹に興味津津の様ですぞ。

 樹の匂いを嗅いでいます。


「う……僕を食べたりしないでくださいよ」

「フィロリアルは肉食なのか?」

「雑食ですぞ」

「グアー」

「うわ! やめてください」


 コウが樹の顔を舐めはじめました。

 正確には髪の毛を甘噛してますね。


「うう……べとべとじゃないですか」

「ふん」


 と、錬は言いつつ宿の扉の方に身を置いてますぞ。

 帰って来たユキちゃんがのしのしと近付き、錬を凝視してますな。


「……」

「……」


 不思議な沈黙が錬とユキちゃんの間で交差しますぞ。

 どうしたのですかな?


「あー……早くお風呂に入りたいです」

「そういえば警戒して碌に宿から出てないもんね。安宿だから風呂も無いし」


 汗だくですぞ。

 現実世界を思い出すと、こういう所も異世界という感じですな。


「では風呂に行きますかな?」

「待て、まずはキタムラ殿の土産の整理では無いのか?」

「ですな。お義父さん達、お納めくださいですぞ」

「え、あ……うん」


 お義父さん達は俺の土産を乗せた荷車にある素材を全て武器に入れました。

 これである程度は装備が整ったと思いますぞ。

 まあ、Lvの関係で使える様になるのはもう少し後でしょうが。


「殆ど解放出来てないけどね」

「ですね。根本的にLvが足りません」

「樹のジョブLvは上げられそうだよ。かなり上昇するみたいだし、良いんじゃない?」

「ええ、ありがとうございます」

「く……俺はまだ信じる心が足りないと言うのか」

「中二病みたいな台詞だね。大丈夫だって、すぐに出来るようになるから……信じて」

「みんなを信じる、俺は信じている……」


 お義父さんの言葉に錬が呟くと樹が呆れたように手を腰に当てていますな。


「それだけ聞くと思いこもうとしてるみたいですね」

「うるさい! 信じようと集中してるんだ。邪魔しないでくれ」


 やがて、錬は強化項目が出たのか顔が晴れやかになりましたぞ。

 これは成功したと見て良いのですかな?


「やった! 出来たぞ!」

「うん、さすが錬だね」

「で、キタムラ殿……あんまり注目を集めるのは不味いと思うのだが……」


 そういえば振り返ると、宿の前に通行人が集まりつつある様ですぞ。

 興味の対象は荷車に乗せた金目の物ですな。


「なんですかな? 見世物ではありませんぞ? とりあえず移動ですな」


 軽く殺気を放つと、野生の勘が強い連中は離れて行きますぞ。

 どちらが上か理解出来るとは……利口ですな。


「は、その金目の物をどうするつもりだ? 俺達が良い様に使ってやるから貸してみろよ」


 騙してやろうとか思っている様な奴は舐めた目で見てますな。

 こちらは愚かな連中ですぞ。

 強さ以前に盾の勇者であるお義父さんが何か言えば、お前等など社会的に抹殺されるというのに、ですな。

 しかしこの程度の事でお義父さんの手を煩わせる必要はありません。


「なんですかな? やるのですかな?」


 俺が槍を向けると、勝てると思っているのか武器を抜こうとしております。

 素早く武器を叩き落として首筋に槍を当ててやりましたぞ。


「次は痺れさせますが良いですかな?」

「く……」


 悔しげに去って行きましたぞ。

 何処の国もチンピラはいますからな。


「少し移動しますぞ。荷車に乗って欲しいですな」

「う、うん」


 お義父さん達は荷車に乗って、俺達はシルトヴェルトの城下町から出た夜の街道で止まりますぞ。

 夜空には夜行性の獣人や魔物が飛んでいますな。

 魔法で明かりを灯してから分配ですな。


「窓の外から見ててもわかるけど、シルトヴェルトって眠らない国みたいだね」

「メルロマルクよりも更にな」

「ああ、シルトヴェルトは亜人の国、夜行性の亜人や獣人が夜に店を経営するから眠らない町だ」

「不夜城って感じ? なんか淫らな空気があるね」

「尚文さんって地味にそういうの好きですよね」

「オタクだからね!」


 お義父さんが楽しげですぞ。

 考えてみれば二日近く宿屋で缶詰でしたから、外に出て気分が高まっているのかもしれませんな。


「一体どこでこんな金銭を手に入れたんだ……」

「それはエクレアと一緒に狩りに行った先にドラゴンの生息地があるのですぞ。そこのドラゴンを倒して奪ってきたに決まってるではないですかな?」

「当たり前のようにとんでもない事を言ってるではないか!」

「とんだ一攫千金みたいだね」

「良い装備とか余裕で買えそうだ」

「そんな物よりもドロップがありますぞ」

「何から何までフル装備になりそうだね」


 俺はエクレアが使えそうな剣をドロップの中から取り出しますぞ。

 槍に手を添えて……っと。

 スッと、槍から剣を出しました。

 ああ、まずは錬に持たせるのが先ですな。


「ドラグニールソードですぞ。先に錬にも持ってもらうと良いですな」


 コピーを終わらせ、剣をエクレアに手渡すと前々回の時の様に剣を凝視しました。

 そこらの剣よりも遥かに強いですからな。

 武の道に進む者なら良さがわかるでしょう。


「中々の名剣のようだ。些か私の身に余る気がするのだが……使いきれるか不安だ」

「前も同じことを言ってましたな」

「うわー……カッコいい剣だね。錬も使えるようになると良いね」

「ああ……本当に化け物染みて強いんだな」


 錬は唖然とした表情で、剣を見つめておりました。


「次は鎧ですな」


 俺を含めて最低五着は必要ですぞ。

 ああ、既に俺は鎧などの防具を装備済みですな。

 揃えるのに時間が掛ってしまいましたぞ。


「ドラゴンスケイルメイルやベアーワイルドアーマー等、いろんな防具を取り揃えていますぞ」

「では一式貸してくれ」

「エクレアなら装備できると思いますぞ」


 俺はドラゴンスケイルアーマーや他に小手、脛当てに靴などを出しましたぞ。


「う……やはり少し重い……が、恐ろしいほどの性能がある。使いこなすしかあるまい」


 エクレアが鎧を着込んで行きますな。


「俺達は?」

「お義父さん達は今着れますかな?」


 とりあえず一着だしますぞ。


「では誰から試着しましょうか?」


 お義父さん達が、話し合いを始めますな。

 面倒ですから残りの二着を出しましょう。


「何ならまだまだ出せますぞ?」

「いや、試すなら良いか……」


 お義父さん達が鎧を着ようとして首を傾げました。


「どうやって着るんだ? 胸当てなら分かったが……」

「くさりかたびらなら……」

「では着せて行きますぞ」


 俺が錬、樹、お義父さんに鎧を着せました。

 みんなちょっと楽しげに各々の姿を見あって微笑んでいますぞ。


「へー……結構様になるもんだね」


 そう言いながら荷車から降りて歩こうとしたお義父さんが前のめりに倒れました。


「グア」


 サクラちゃんが襟を掴んで持ち上げてくれますぞ。


「あ、ありがとう。凄く重い……」

「同じく……」

「動けん」


 錬も樹も同様に倒れそうになりました。


「Lvが足りないという奴だな」

「みたいですね」

「カッコいいのに、着れないとは……悔しいね」

「私も厳しいのだ……」


 みんな能力が低めですからな。

 今の装備は必要Lvを満たしていないのでしょう。

 しかし……豪華な鎧を着たお義父さん。やはり何だかんだで、最初の世界で着ていた鎧が一番しっくりくると思うのは、俺の願望ですかな?


「この鎧とかどうしよう? 置き場所とかさ」

「これだけの金銭があるなら部屋を長期に借りる事くらい出来るだろう。倉庫として利用したらどうだ?」

「フォーブレイの方へ移動するんだからな……宿で預かってもらうか?」

「そうだね。どっちにしても……まずは風呂とか行きたい」

「ではその前にお義父さん達を最低限、Lv上げに行ってはどうですかな?」

「もう夜だぞ? こんな時間では凶悪な魔物と遭遇しかねん」


 エクレアの言葉はわかりますが、お義父さん達をせめて町中だけでも歩けるようにしないといけません。

 その為にはLvが必要なのですぞ。


「ではユキちゃん、コウ、サクラちゃん。各々お義父さん達のLvを二時間だけ上げて来るのですぞ」


 俺の言葉にユキちゃん達はポーズを取り、鳴き声を出しますぞ。


「「「グア!」」」

「「「え!?」」」


 鎧で動けないお義父さん達をユキちゃん達はそれぞれ背にのせますぞ。


「うわ! なんだ!? 羽毛が手に絡みつく!」

「く……抜けない! 元康! 何のつもりだ!」

「一体何をするつもりですか!」

「パワーレベリングですぞ」

「聞いてはいたが今日じゃ無くて明日じゃないのか!?」

「少しだけの辛抱ですぞ。せめてLvを少し上げて行けば少しくらいなら対応できるようになると思いますぞ」


 その間にお義父さん達の装備に使う鉱石を買っておきましょう。

 低Lvの武器でも強化すれば馬鹿になりませんからな。


「では行ってくるのですぞ」

「「「グア!」」」

「うわ! 速い速い!」

「こんなべとべとな状態で二時間も何処へ――」

「うわ――やめ――」


 お義父さん達はユキちゃん達の背に乗り、各々走り去って行きました。

 なんとなく、お義父さんだけ楽しそうでしたな。


「ああああ……勇者殿達が……」

「では今の内にこの物を処分してお義父さん達の強化に必要な安めの鉱石を買いに行くのですぞ」

「わ、わかった」


 時間は二時間くらいですな。

 それだけでも十分、強さを実感できるでしょう。

 今のユキちゃん達のLvは40でも実質60くらいはありますぞ。

 一緒に、強くなっていけばいいのですな。

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