一人では強くなれない
「踏み出す?」
「そう、俺を信じて庇ってくれたように、後輩が強くなった時、一緒にがんばって行こうと思うだけで良いんだ」
何も難しく無いとお義父さんは続けますぞ。
さすがはお義父さん、何か有効的な助言があるのですな。
「背伸びをせず、相手が望む場所に合わせて上げるだけで良い。そこで一緒に遊ぶだけでも違ってくる。いつの間にか行きたかった場所に辿り着けるようになるよ」
「そういう……物なのか?」
「始まりはね? 俺だって最初はそこから始まったんだから」
錬が納得しかねると言う顔をしていますぞ。
「じゃあなんでアイツの周りには仲間が多い? 言っては何だがブレイブスター内じゃ俺はアイツよりも強かったのに」
「んー……そこはその人が面倒見が良かったからじゃないかな? 社交的だったりね。MMORPGは名前の通り、人数が多ければ多い程有利だからね。だから仲間が多いという事は助けられる事も多い。ソロの友人は群れなきゃ何も出来ない癖にって言ってたけどね」
お義父さんは苦笑いをして錬に語りかけております。
「その人もギルド上位の人だった?」
「……いいや、ただ俺よりも仲間が多いと感じた」
「隣の芝生だったんじゃないかな? それに、結局は如何にして仲間に利益を供給するかでしかないんだ。苦労人体質でも無いとやってられないと思うよ」
だからいじめないでね、とお義父さんがお茶目に錬を宥めますぞ。
苦労人……そういえばお義父さんは最初の世界で色々と苦労していますな。
冤罪から連なる事件もそうですが、開拓した村でも色々と忙しそうでした。
とはいえ、キールなどに慕われていたのですから、間違ってもいないという事ですな。
「羨む様な要素ってあんまりないよ。まあ逆に錬が気を付けないといけない相手もいるよ」
「どんなだ?」
「相手を自分が強くなる為の踏み台と思ってる人。こういう人は親切心から手伝ってあげても何の得にもならないし相手にも悪い結果しかならないね」
この時の目付きは確かにお義父さんだと俺は確信しましたぞ。
錬も知り合いに心当たりがあるのでしょうか?
何度も頷いています。
「僕はネットゲームには詳しくありませんが、ネットは変な人も多いと聞きますね」
「ああ、良くも悪くも不特定多数だからな。色んな奴がいる」
「そうだね。上を見たら限が無いけど、下を見ても限が無い感じだね」
ここは俺にもわかりますぞ。
これでもエメラルドオンラインをやっていましたからな。
「元康くんが俺達にパワーレベリングをさせようとしているのは、似たような問題があるんだよ。まあ俺達は問題ないと思いたいけどね」
「大丈夫ですぞ!」
何せ、お義父さん達ですからな。
きっと大きな力を使いこなしてくれるでしょう。
「とにかく、俺を友人と重ねて苦手意識を持たないでほしいな。別にこの中で誰が一番かを決める為に俺達がいる訳じゃないんだし」
「……わかった。考えてみればアイツは敵対する者に対しては冷酷だった。尚文と比べる様な奴じゃないか」
「ちなみに前回のお義父さんは錬や樹を自分が主人公だと錯覚してると言ってましたな」
場の空気が凍り付きましたぞ。
お義父さんや錬、樹が苦笑いを浮かべております。
「否定はしないね……うん。俺も主人公な気分だよ」
「ええ……人生の主役は自分ですからね」
「……」
「自分よりも強い相手は裏切るか、庇って死ぬそうですぞ」
「あー……ゲームでありがちな展開だね。うん、その発想は非常に危険だ。この場合は元康くんが裏切るか死ぬことになるけど」
「何かしらの不備で元康さんが死ぬ運命ですか……あったら間違いなく自分達が主人公と思うでしょう」
「では俺が最後まで生き残れば良いのですな?」
「そんな理屈があるか! ああもう……元康の所為で空気が乱れる!」
錬が不快そうに言いますぞ。
むむ、そんな事はないと思いますが。
「とにかくギルド管理経験とか聞きたいなら話すよ? 別に隠す様な間柄じゃないんだし、最終的には錬の方が人望が得られるかもよ?」
「そうだな……尚文がどんな手腕で仲間達を扱って行くのか見ていれば納得できるかもしれない。未来じゃ相当やり手だったらしいしな」
「錬に教えられるようにがんばるよ。俺達は前よりも一歩進んでいるんだ」
「わかった。だが……なんか俺を子供扱いしていないか?」
何を当然の事を言っているのですかな?
錬は高校生でお義父さんは大学生ですぞ。
大学生から見れば、高校生など子供みたいなモノですぞ。
「あー……ごめん、そんなつもりはなかったんだけどね。錬は俺の弟と年齢が近いから、気付かずにそういう風に扱っちゃったのかもしれない」
「尚文には弟がいるのか」
「うん、兄より出来の良い弟だよ。高三だから正確には樹の方が近いのかな? まあ、小さい頃は俺が良く面倒を見たんだよ」
「へぇ、どんな弟なんだ?」
「不良になったり、ギャルゲにハマッたり、世間体を妙に気にしてたり、俺に料理を作らせたがったり、良くも悪くも変わった弟だと思うよ」
「そいつブラコンなんじゃないか?」
「どうだろうね。あれで勉強が出来て、彼女もいるんだから凄いよ」
そこで、お義父さんが何かを思い出した様な素振りをしました。
「そういえば……弟は剣道をやってるんだけど、以前、どんなに一人で練習しても強くなれない、とか言ってたなあ。もしかしたらゲームでも同じ事が言えるのかもね」
「……そうかもしれないな。機会があったら相手に合わせて見るか……それが近道ならば」
うんうん、良い話でしたな。
さてと……俺は樹を見ますぞ。
俺が視線を向けると樹は若干、眉を上げました。
「では次は樹の問題ですな」
「ここで僕に風向きを当てないでください!」
樹の言葉に錬もお義父さんも微妙な笑みを浮かべていますな。
そうして俺が何か言うよりも早く、錬が言いました。
「クエストで正義の味方をするんだったか? で、解決が不十分で厄介事を増やすとか言ってたな」
「副将軍プレイですぞ。最初の世界のお義父さんは宗教と言ってましたな」
「まー……色々と事件を解決したら信者みたいに信じてくれる人が増えて行くんじゃない? 結果が悪かっただけで、正しい事をしようとしている訳だし、悪い事じゃないと思うけど」
「主に仲間が自分達は特権階級と勘違いして横暴になりますな」
「確か勇者ってだけで権力があるんだっけ? なら勘違いもするかもね。錬の仲間となる人達とは別のベクトルで悪化した感じか」
「尚文さん、わかってると思いますが――」
「うん、俺達も同様の事になりかねないから注意して行けば良いよ。ぶっちゃけ……元康くんを見てよ」
お義父さんに言われて、錬と樹が俺を眺めます。
すると頷き始めましたな。
「なんですかな?」
「あー……うん、わかります」
「そうだな。未来の……尚文の信者と見て間違いない」
何やらお義父さん達が半眼で頷いております。
どういう事ですかな?
「ただ、邪険に扱っていた様な匂いがしない? 最初の世界の俺の話を聞く限り」
「だな。そのフィーロって子の為に行動しているんだろ。完全に顔色をうかがってる感じだ」
「間違いないですね。それからは尚文さんの為に行動してるのでしょう。フィーロって子の代わりに」
「俺は真実を知ってお義父さんの度量の深さに心酔しているのですぞ」
何せフィロリアル様は元より、様々な人達が信じている偉大な方ですからな。
様々な問題を俺や錬、樹では無くお義父さんが解決させてきたのですぞ。
ですからフィーロたんの顔色をうかがう為と言われては心外ですぞ。
この元康、この事だけは信じてもらいたいですな。
「わかったから落ちついて」
「とりあえず、尚文さんは盾の勇者ですし、人それぞれ向き不向きがありますからね。経験を生かして元康さんのフォローをお願いしたら良いと思いますよ」
「さり気なく元康くんを俺に押し付けようとしてるでしょ……まあ、良いけどね」
「任せたぞ、尚文」
「ああはいはい。まったく、こういう時だけ俺を信じないでよ」
何やらお義父さん達の結束が強まった気がしますぞ。
「俺達は特別な武器に選ばれた人間でしかない。そう思って、良識の範疇で行動して行けば良いんじゃないかな?」
「単純ですが、そうですね」
「そうだな。この世界はゲームではない。強いからって何をしても良い訳じゃない」
「うん。強いからって皆殺しとかは、しちゃいけない」
お義父さんが頷き合ってますぞ。
先ほどからコレばかりですな。
「元康くんも、力だけで解決させちゃダメだからね」
「わっかりましたぞ!」
俺が敬礼をして、お義父さんの言葉を教訓に致しますぞ。
ですが、力で解決させねばならない事も沢山ありますぞ?
というのは黙っておきましょう。
話し合いの席に持ち込むのは相手の戦意を奪ってから、というのは未来のお義父さんの言葉ですぞ。
こうして最初の強化方法の講習は終わり、俺達は就寝したのですぞ。