家畜伝染病「豚(とん)コレラ」の感染が五府県に広がった。これまでは昨秋に初感染が確認された岐阜県の施設に被害は集中していたが、隣県の愛知県などにも波及。効果的な防止策が急がれる。
今回、新たに感染が確認されたのは愛知県豊田市の民間養豚場。そこから出荷された長野、滋賀、大阪、岐阜の四府県への感染拡大も確認された。岐阜県以外の施設で感染が確定したのは初めてだ。
農林水産省は、岐阜市に現地対策本部を設置。各県と連携し「飼養衛生管理基準」の徹底などを直接指導するという。
そもそもは昨年九月、国内で二十六年ぶりに岐阜市の養豚場で感染が判明したことが発端だ。
豚コレラは豚やイノシシがかかるウイルス性の伝染病だ。致死率が高く、感染すると多くの場合、数日のうちに死ぬ。
二十六年ぶりの感染を確認して以降、岐阜県は養豚場の豚の殺処分や、防疫体制の徹底を促してきた。だが同県内の施設では、その後も八例の感染が確認され、封じ込めはうまくいっていない。
豚は風邪をひきやすいなど体調不良になりやすく、症状を見極めるのは難しいとされる。今回の豊田のケースも、それで見誤ったようだ。しかし隣県の岐阜で“非常事態”になっている時も時だ。指導する立場の自治体が最悪のシナリオを想定せず、出荷を許す形になったことには疑問が残る。
かつて日本にまん延していた豚コレラ。人には感染せず、感染した豚やイノシシを食べても、人体に影響はない。ワクチン接種で一九九二年以降は撲滅され、今は国際機関から豚コレラがない「清浄国」と認められている。
しかしここまで感染が拡大すると、生産農家などからは「ワクチンをまた使わないと止まらない」との悲痛な声も聞こえてくる。
だが国は否定的だ。いったんワクチンを使うと、清浄国に戻るまでに手続きが長引き、豚肉の国際取引に悪影響が出るからだ。
そうした間も、岐阜、愛知両県では、感染が確認された野生イノシシが優に百頭を超えた。感染経路は不明だが、この野生イノシシがウイルスを媒介、感染を拡大しているとも指摘されている。
豚コレラの拡大防止のため、餌に混ぜてイノシシの生息地に経口ワクチンをまいた実績がドイツやフランスなどにある。防疫の徹底はもちろんだが、こうした新たな対策に学ぶことも必要だろう。
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