なぜトヨタではラインを止めても怒られないのか © 画像提供元 なぜトヨタではラインを止めても怒られないのか

トヨタ生産方式を形だけ導入しようとしても成功しない。うまく機能させるには、カイゼン哲学を共有し、不断の努力を続けなければならない。そして、その背景には、トヨタに脈々と受け継がれる労使間、社員間の徹底した対話文化がある。トヨタ労組の書記長や自動車総連の会長などの要職を長年務め、『トヨタの話し合い』を上梓した加藤裕治弁護士に、トヨタの現場の情熱や創意工夫の秘密を聞く。

真因をつかむ「なぜ?」を5回のルール

 会社に対する信頼感の有無は、仕事上の失策をしてしまったときなどのネガティブなシーンにも表れる。

 実にトヨタらしいと私が思うのは、現場のラインでちょっとした不都合やトラブルが発生したときの対処法である。

 たとえば、部品切削ラインでコンベヤーに小さな部品が引っ掛かり、ライン停止を起こしてしまったとしよう。

 引っ掛かった部品をすぐに手で戻せば、ラインはすぐに動き出すので、なんということもない。おそらく、車に限らず世の中の生産工場の大半はそのように対処し、何事もなかったかのようにラインを動かし続けるのではないだろうか。

 トヨタの場合、こうした対処法はご法度絶対にやってはいけない論外の対処法なのである。

 コンベヤー停止が小さな部品の引っ掛かりによって起こったことがわかっているなら、その部品を元に戻せば、コンベヤー停止という現象は当面解決するかもしれない。しかし、それはあくまで「そのとき、その場で起こった現象」を修正したにすぎない。

 これでは、あまりに浅い問題解決法である。同じ現象がまた起こる可能性は消えていない。トヨタではこれを問題解決とは言わない。

 ここで、トヨタの社員なら誰でも口にする「『なぜ?』を5回」の問題解決ルールが首をもたげてくる。

 これは、「起きた現象に対して最低5回は『なぜ?』を繰り返し、現象を引き起こしている真の原因を突き止めよ」というルール(原則)である。

 一つの現象には、それを引き起こす原因が幾重にも重なっていることが少なくない。何が真の原因(真因)なのか、その現象が再び起きないようにするにはどの原因を取り除けばよいのか。この答えを得るには、「なぜこの現象が起きたのか」を最低でも5回は掘り下げていかないと、真因には行き着かないというわけだ。

5回の「なぜ?」の実践プロセスどのように行うのか?

「なぜ?」を5回繰り返す例を先のコンベヤー停止に当てはめてみよう。

 コンベヤーに部品が引っ掛かったのはなぜか。これが1回目の「なぜ?」で、担当者は目の前のコンベヤーを仔細にチェックすることによって、コンベヤー上にある微妙な凸凹を発見する。この原因を除去するだけだったら、なんらかの方法で凸凹を取り去ってコンベヤーを滑らかにするだけで事足りる。

 しかし、これでは真の問題解決にならないことは前述の通り。5回の「なぜ?」の原則が身についている担当者は、ごく自然に2回目の「なぜ?」に入る。

 コンベヤーのわずかな凸凹はなぜ生じたのか。凸凹ができたのはこのラインだけなのか、隣のラインにも同じような現象は起きていないか、などを調べる。

 その結果、他のラインでも同じような現象が起きていたのなら、コンベヤーに問題があると推測できる。そこで、コンベヤーの製造工程を検証する。これが3回目の「なぜ?」になる。

 検証してみると、コンベヤーを構成する一部の部材が温度変化に弱く、ゆがみやすいものだったことが判明する。そこで、コンベヤーの設計者はなぜこの部材を使ったのかと、4回目の「なぜ?」に入る。

 調べた結果、設計者は温度の変化を想定していなかったことが明らかになる。当然、なぜ温度変化を想定しなかったのかという疑問が湧く。これが5回目の「なぜ?」。調べてみると、設計者に現場での使われ方が十分に伝わっていなかったことがわかる。

 ここまでで「なぜ?」は5回。この5回目の「なぜ?」によって、ライン停止という現象に対する真の原因がつかめる。すなわち、「設計部門に、部品切削ラインに関する現場の情報が十分に伝わっていなかったことがそもそもの原因」ということになる。

 ライン停止の真の原因はここでわかったことになるが、「なぜ?」は現実にはここでは終わらない。

 このあとも「なぜ?」は続く。「なぜ現場の重要な情報が伝わっていなかったのか」「なぜ設計者は現場での使い方を十分に考慮しなかったのか」といった具合だ。

 このように掘り下げていくと、社内のコミュニケーションや部署間の情報共有の問題など、他のケースに応用できる場合も出てくる。

 したがって、トヨタの一人ひとりが「なぜ?」という掘り下げを常に行っていれば、問題の発生を未然に防ぐこともできるし、会社全体の効率アップ、生産性向上に大いに役立つことになる。

古市憲寿氏 次の記事

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