オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁
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週末に更新できないと言っちゃったから平日にする。


『銀糸鳥』

「一体何なのだ、この報告は?」

「それが……中継員の話によれば、距離は前日とほぼ変わりないが

 兎に角聞き取りにくかった伝言(メッセージ)だった、という事でして……」

 

 バハルス帝国帝都アーウィンタール、現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、自らの私室で再び芳しくない報告を聞いていた。

 

 相手は帝国の誇る主席宮廷魔術師フールーダ・パラダイン――その弟子であり帝国情報局の局長、伝言(メッセージ)による迅速な情報収集、その裏を取るための権限などを与えている者だ。優先度の高い情報によっては、軍や別の部署の協力を取れる権限まで有している。

 

 そして今回の情報は、帝国の行く末に強く影響するかもしれない。一月程前にアゼルリシア山脈で見られた赤い空、その直後に観測された神話を思わせる魔法、もしくはアイテムの行使。その調査を依頼した銀糸鳥には、伝言(メッセージ)のための巻物(スクロール)を必要経費の名目で大量に持たせている。その量は往復二カ月と考えた場合、道中で行われる定時連絡に必要な数の三倍の量になる。

 どんな些細な情報でもいい、なにかあればすぐに連絡するようにとフールーダー直々の手渡しであった。

 

 帝国で使われている伝言(メッセージ)は、それほど高度な物ではない。距離が離れると聞き取りにくくなるため、今回のような長距離での使用では複数人の中継局員がいる。間に人を挟めば挟むほど、情報というものは信憑性は下がっていく。ガテンバーグの悲劇があってから伝言(メッセージ)は、裏取りを前提とした物となったが、今回は調査先が国外ということもあり時間がかかるだろう。

 

「聞き取れたのは『美女』『ドラゴン』、あとは『神話のような美しさ』……か」

「おそらく、最後の言い回しからしてリーダーのフレイヴァルツ殿と思われますが」

「同感だな。しかし聞き取れなかったといのはいったいなんだ?

 伝言(メッセージ)阻害の魔法で妨害された可能性は?」

「その可能性もございます。私としては内容からして使用者の精神が、興奮状態にあった可能性が高いと思われますが」

 

 ジルクニフは書類から目を離し思い出す。直々に会ったフレイヴァルツは、凛とした声を発する吟遊詩人(バード)の青年だ。アダマンタイト冒険者としての自信に溢れ、背中のリュート星の交響曲(スター・シンフォニー)を始めとした様々なマジックアイテムに身を包んでいた。

 メンバーの紹介を詩的にしたり、変わった二つ名をつけたり、癖のある人物だったが仕事に対して最善を尽くそうとする責任感はジルクニフも好む部分だ。

 

「その前のメッセージでは、間もなくドワーフ国に着くという内容だったな。今回も内容だけなら危機感は感じられん。冷静沈着かはわからないが、アダマンタイト級冒険者にふさわしい仕事の実績がある者達だ。重要な定時連絡をお粗末にするとは思えん。やはり私としては何者かの妨害ではないかと思うのだが」

「かもしれません、ですが……」

「どちらにせよ憶測の域を出ないか」

 

 神妙に頷く臣下から再び目を離す。窓からは遥か遠方だが、雪で大部分が白くなったアゼルリシア山脈が見える。あの地にフールーダーを別の意味で震え上がらせる存在が、今もいるかもしれないのだ。それに接した二つの国、その片翼を担う王としてできることは何でもしなければならない。

 

「ドワーフの国からの最寄りの都市、及び村全てに足の速い馬を複数用意しておけ。乗り手も軍から選りすぐりの者を一時的に引き抜いて構わん。エ・ランテルと併せてになるがよろしく頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ジルフニクが報告を聞く数刻前

 

 

 

 銀糸鳥はドワーフ国の地上の砦についていた。マジックアイテムの効果で凍死の心配こそなかったが、険しい山により一部のメンバーは疲労しており、ドワーフ兵たちの勧めもあって客間を間借りし休んでいた。

 

「――どう思いやす?リーダー」

 

 壁際に佇み、少しばかり考え込んでいた丸刈りの小さな男が背中にリュートを背負った青年に話しかける。

 

「……俄かには信じられないな、ドラゴンを従えるなんて」

「しかもその数が大小二十頭ですからな。本当であれば拙僧は震えあがってしまいますよ」

「ウンケイもそうだよな。まったく、悪い冗談ですよ」

 

 客間の暖炉の前にある椅子に座りこみ、体力を回復させていた編み笠の男の同意を受け、丸刈りの小柄な男は手をヒラヒラさせる。

 ドワーフ兵達が話してくれた、人間の少女が王都を取り戻すまでの英雄譚。一月前に現れ、そして王都を取り戻してくれたその少女の話題でドワーフの国は今もちきりらしい。巨大なドラゴンを一瞬でバラバラに切り飛ばし、腕力と魔法でもって他のドラゴン達を屈服させ、そして酒好きなドワーフ達を上回る酒豪っぷり。

 

 魔法は兎も角、腕力と酒豪を聞くにどんな怪物少女であろうか。そしてその少女は、外の大陸から仲間達を捜すため国を飛び出してきた女王様。アダマンタイト級冒険者である吟遊詩人(バード)でも、こんな英雄譚は思い付かないだろう。せめて剛腕の王様なら子供たちに聞かせる内容だったかもしれない。

 

「ですがドワーフ達も与太話をしているようには見えませんでした。それに一月前って言えば――」

「あぁ、わかってるさポワポン。私たちの依頼にも関わる事かもしれない」

 

 雪山の行軍中も、そして今も上半身裸で窓際に立つ男の真面目な台詞に、リーダーであるフレイヴァルツは頷く。

 

 一月前の深夜、アゼルリシア山脈上空で見られた赤い光。生憎と銀糸鳥は帝都から出払っており、見ることできなかったが数日後に帰ってきた際に聞く事が出来た。そして詳しい情報を集めようとした矢先に、皇帝ジルクニフから直々に情報提供を受け、これに関しての調査依頼を受ける事となった。

 

「ひとまず、ドワーフ国で早々に手掛かりを掴むことができた訳だが」

「早速当たりだったんじゃないのね?」

「わかりませんな。とりあえず言われた通り、拙僧達は商人会議長なるドワーフの方を待つしかないかと考えますが」

「っちぇ!これで空振りだったら、雪ん中アテもなく歩き回ることに事になっちまいますぜ」

 

 そうなるだろう。一先ずその少女にも会えるように兵士にはお願いしたが、何せ彼らにとっては――英雄。どうなるかはわからないそうだが、アダマンタイト級冒険者であることと国からの依頼をちらつかせ、その少女と親しいドワーフを紹介してもらえた。ドワーフの外見の違いはあまりわからないが、この国では一番少女と親しいドワーフらしい。

 

「入国したら少女と会いましょう。王都を取り戻したという話も含めて、調査をする。

 ドワーフの国での行動指針は、一先ずこの二つでいいでしょう」

「了解しやしたっ!もう真っ白になって先頭歩くのは嫌なんですがねぇ」

 

 

 セーデに限らずそれはみな同じだろうが、この場にいる全員共に本気で嫌がってなどいない。アダマンタイト級冒険者という矜持もそうだが、かのフールーダ・パラダインに直々に必ず情報を持ち帰ってくれと懇願されたのだ。

 

 一国を背負う大魔法詠唱者。英雄の領域を超えた逸脱者――生きる伝説に、いかにこの件が帝国の行く末に暗雲をもたらす危険性があるのか『エ・ランテルの件で動くことができない自分に代わって、帝国の将来を救ってほしい』などと言われては帝国を拠点とする冒険者であれば断ることは出来ないだろう。

 

「散々言いましたが確認です。目標と思われる人物に会った場合、どのような外見であっても決して油断など――」

 

 ――その時、ノックのなかった扉が勢いよく開き

 

「遥か北方の大陸よりドワーフの国に参られた、シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン女王陛下の御成りである!」

 

 ――ブヨブヨした妙な生き物が、妙な宣言をしながら入ってきた。

 

 




ちなみにおわかりかと思いますがフールーダは完全に私情です。内心は頼むぞ連れてきてくれとかかな

お知らせ:今後は約三千文字程度で三日程度の投稿目標ペースを目指します(三日坊主の可能性有)
何か問題点があれば(なくても)今後も感想などでご指摘いただければ嬉しいです。





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