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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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ループの無駄遣い

「元康さん、違うみたいですよ」

「違いません。アレはエクレアですぞ」

「元康の事だ。尚文をお義父さんと呼ぶように何か理由があるんだろう」


 錬に察しられてしまいましたな。

 今までに無い、謎の信頼関係が構築されている様な気がしますぞ。

 お義父さんが困った様に俺を見た後、再度エクレアに顔を向けます。


「じゃあ貴方の名前を教えてくれませんか?」

「私か? 私の名前はエクレール、エクレール=セーアエットだ」

「字面は似てなくもないね。俺達の方の世界で言う所の同じ意味の言葉があるし」

「そうなのか?」

「フランス語だったかな? エクレアってお菓子は正式にはエクレールって名前だったはず」

「なるほど……尚文さんは外国語に詳しいのですか?」

「雷とかの外国語読みをアニメ関連で知って調べたのを覚えていただけだよ」


 それとなくお義父さんが補足してくださいました。助かりますな。

 お義父さんの勉学の姿勢は常に参考にすべきですぞ。

 何せ、お義父さんは独学でこの世界の文字を短い期間で学んだのですからな。


「その……確認なんですが、なんでここに収監されているのか教えてくれませんか?」

「私か? 私は亜人狩りをした同国の兵士共を罰した罪で捕えられている……今や騎士の身分も剥奪された者だ」


 お義父さん達が顔を見合わせて俺の方を見ますぞ。

 特にお義父さんは非常に驚いています。


「どうやら正解みたいだけど、なんで元康……くんは知ってるの? それに錬や樹も俺がやってないって、どうして信じてくれたんだ?」

「ああ、それは元康に尚文があの女に寝ている間に身ぐるみを剥がされる光景を見せられてな」

「な――」


 お義父さんがパクパクと口を何度も開いて絶句しています。

 屋根裏からひっそりと見ていましたな。

 よく考えたら、かなり気持ち悪い事なのでは?

 まあ作戦を考えたのは前回のお義父さんなので問題はありません。


「ええ、その後、あの姫が元康さんにくさりかたびらを渡しに来て、断るから僕の所へ来たら受け取ってくださいと、まるで未来を知っているかのように教えてくれたんです」

「で、その後、尚文が強姦魔の冤罪を被せられるとまで教えてくれてな。くさりかたびらも尚文の物だって武器屋に確認までしたんだぞ」

「なんで元康……くんはそんな事まで知ってるんだ?」

「元康は未来からやってきたんだとさ。お前を庇う時に言っただろ? 未来から貴方を救いに来ましたって」

「そういえば……」

「だから不自然に強いし、未来の出来事も大体知っているみたいなんだ」

「じゃあ、なんで俺が身ぐるみはがされそうになった時とか、最初の内に言わなかったの?」


 やはりお義父さんは必ずこの疑問を投げかけるのですな。

 お義父さんはどんな世界でもお義父さんなのですぞ。


「何度かループしてるらしい。元康、どうせ試したんだろ?」

「そうですぞ。召喚直後に真実を告げると国は盾の勇者を信仰している国……シルトヴェルトへ輸送すると言いながら暗殺しようとしました。俺は罠に掛けられて殺されそうになりましたな」

「う……じゃあその時にループしたのか?」

「幸い俺が助けましたが、執拗にお義父さんへの追跡がありましたな」


 掻い摘んで説明してますぞ。

 前々回のループでの話ですな。

 シルトヴェルトに辿り着くまでのエピソードを説明しました。


「シルトヴェルトに到着したのは良いですがメルロマルクが戦争を仕掛けて来て大変でしたな」

「なるほど……」

「騙されるまで、未来の話をしてもお義父さんは信じてくださいませんでした。なので、信じてもらえるタイミングで俺はお義父さんを助けるのですぞ」

「そりゃあ……信じようが無いと思う。わかったよ」


 この周回で樹が殺されたと言うべきですかな?

 まあ、後で説明するとしましょう。


「何を話しているのかよくわからんが……お前等は何者だ?」

「一昨日召喚された、四聖勇者と言えば良いのですかな?」

「何!? 何故、四聖勇者殿達がこんな所に!?」


 エクレアは興奮気味に鎖を鳴らして詰め寄ろうとしましたぞ。

 前々回に見た様な光景ですな。


「詳しく話してくれ!」


 俺達はエクレアに事情を説明しましたぞ。

 まずは自己紹介からでしたな。それぞれ名前を名乗りました。

 そして俺達は波からこの世界を救ってくれと頼まれ、仲間と共に出発したが、クズと赤豚がお義父さんに冤罪を掛けて勇者同士の不和を招こうとした所まで話したのですぞ。

 エクレアは真剣な面立ちで聞いておりました。


「と言う訳で、元康のお陰で国の陰謀を暴いて俺達はここにいるんだ」

「つまりキタムラ殿は未来の出来事を記憶していて、強さもある。そしてこの国の陰謀から盾の勇者であるイワタニ殿を勇者全員で助けたのだな?」

「そうですぞ」

「その後はどうしたのだ? 王や国の者達が黙っているとは思えないが……」

「奴等は俺達を騙せないのを悟った後、俺達を皆殺しにしようとした。それを全て返り討ちにしてここにいる」


 錬がエクレアに答えました。

 するとエクレアは複雑な表情を浮かべました。


「返り討ち……まさか――」

「ええ……」


 樹もお義父さんも頷いております。

 エクレアが力尽きたようにガクリと足がふらついておりますぞ。


「自業自得とは言え、王が崩御するとは……女王はどうなっている?」

「女王はまだ帰ってきてませんな。これまでのループ知識を頼るに2、3ヶ月は掛かりますぞ」

「そうか、あの英知の賢王が殺されたとなれば女王は……」


 驚いたエクレアがポツリと呟きます。


「このような暴走を仕出かした奴を女王が擁護しますかな?」

「……」


 おや? 黙りこみましたぞ。

 まあ実際、暴走したクズはほとんど見限られていますからな。

 奴が頼りになったのは最初の世界位なものですぞ。


「はは、私も気が触れたな。そのような世迷言を信じそうになってしまったとは」

「あ、俺達の言ってるのが嘘だと思われたみたいだ」

「ウソでは無いですぞ」

「話を聞いただけではな」

「大々的に僕達を騙そうとしているんじゃないかと僕も思いましたが、元康さんが虐殺したお陰で嘘じゃないとは思えるようになりましたよ」

「確かにアレで嘘でした、じゃな……」

「元康……くんが黒幕で俺達を手駒にするとかならありそうだけどね」

「「……」」


 おや? お義父さん達が黙ってしまいましたぞ。

 違いますぞ。俺はそんな事しません。

 そう思っているとお義父さん達は口は開きました。


「無いな~……まだ付き合いは短いけど、そういうタイプには見えないよ」

「尚文、その認識は正しいぞ。きっと今までループに失敗したのは、さっきみたいになんでも力で解決してきたからだろうな」

「僕達を信用させる為の手段も前回の尚文さんが立てた作戦らしいですしね……」

「なんというループの無駄遣い……」

「なんで元康がループしてるんだろうな……」

「もっと適任者がいると思うんですけど……」


 おお、お義父さん達が親睦を深めていますぞ。

 前回頼まれた事が実現出来てますな。

 俺も嬉しい気持ちになってきました。


「とにかく、俺は前回の周回でお義父さんと女王に頼まれているのですぞ。エクレアは友好に必要だそうですからな」


 俺は牢屋の格子を槍でスパッと切り裂いてエクレアを縛る鎖を切り裂きました。

 自由になったエクレアですが、動こうとしておりません。


「私は夢を見ているのだ。そのような世迷言の挙句、こうして自由にさせられるなど……」

「まだそんな事を言っているのですかな?」


 面倒ですな。

 とりあえず槍の柄でエクレアを吊るしますぞ。


「では外を見ればわかるのではないですかな?」

「ぐ……放せ!」


 エクレアが暴れますが、とりあえず連れて行きましょう。

 お義父さん達は何やら困った様子で俺についてきますぞ。

 やがて監獄から出て外の景色を見せてやります。


 まだ辺りは騒がしい限りですな。

 俺達の姿を見た兵士達が恐怖に慄いて逃げて行きますぞ。

 そして、見晴らしの良い庭から焼き払った教会を見せつけてやりました。


「こ、これは!?」

「さて、エクレア、パーティーに入れですぞ。お義父さんも」

「あ、うん」

「何をするつもりだ!」

「ここにいてはいつ刺客が襲ってくるかわからないのでスキルで転移するのですぞ」

「何を訳のわからん事を……」


 さすがにじたばたと暴れるエクレアを連れていくのは面倒ですが、約束ですからな。

 何があろうとも従ってもらいますぞ。


「夢だと思っているなら、頷いておいてください。僕達も悪い結果にはならない様、努力するので」


 樹がそれとなく囁いたお陰かエクレアは勧誘を了承した様ですな。


「では飛びますぞ! ポータルスピア!」


 こうして俺はポータルで移動し、既にいるかどうか分かりませんが、三勇教の刺客すら完全に撒いたのですぞ。


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