鮮血
さて、お義父さん達を守る為に俺は全てを薙ぎ払いますぞ!
「エイミングランサーⅩ! ブリューナクⅩ!」
槍を高らかに……とは言っても天井があるので調整しながら周りに居る兵士達から順に仕留めてやります。
お義父さんに冤罪を掛けた罪、償わせてやりますぞ。
「「「ぐああああああああああああ!?」」」
「「うわあああああああああああ!?」」
「な……なんで……低Lvじゃ……無かったのか」
「こ、これが異世界人の……強さ……」
兵士共が各々今際の台詞を吐いておりますな。
今更遅いですぞ。
自らの愚かさを知れ、ですな。
「死ね! 偽勇者! はああああああああ!」
辛うじて避けたらしい騎士が飛びかかってきました。
少しは動ける様ですが、勇者を相手にするには貧弱過ぎますな。
「動きも遅く、愚かですな」
俺はスキルを放つまでも無く、胸に向けて槍で刺してやりました。
「あ……!?」
胸を串刺しにされた騎士は唖然とした表情で、自らの胸と俺を交互に見ております。
少し滑稽ですな。
「死にたいのならサッサと前に出ると良いですぞ」
槍を振り回して騎士を放り捨てますぞ。
あ、返り血が錬と樹の頬辺りに当たってしまいました。
ビチャッと良い音がしましたな。
「ヒィ!?」
「あ……」
錬と樹が顔を青ざめていますぞ。
二人は頬に触れて、手についた鮮血を凝視しております。
どうしたのですかな?
「お、俺達を殺そうとしてきたんだから、しょ、しょうがない……な」
「そ、そうですね。降りかかる火の粉は払わないと……戦いとはこういう物ですよね。相手も人間で死んだら血くらい……でますよ……」
「あわわ……」
お義父さん達は一瞬にして起こった出来事に唖然としております。
ああ、なるほど。まだ戦いに慣れていませんからな。
魔物相手だって戦って倒せば血が出ますが、錬も樹もお義父さんもまだ慣れていないのでしょう。
気にするのも良いですが、今はクズと赤豚ですな。
狙ったのに避けられてしまいました。
いや、騎士や兵士共が邪魔で外れたと言うべきですかな。
……違いますぞ。
赤豚は咄嗟に騎士達を盾にしたのですな。
なんという外道。
「ブブブブヒーブヒー!」
赤豚が不利を悟ったのか逃げようとしております。
逃がしませんぞ。
ここで逃がせば新たな火種を残す事になります。
「何処へ行こうと言うのですかな?」
素早く追いかけて串刺しにしてやります。
「ブ!?」
「ま、マルティ!」
腰の抜けたクズが赤豚に向けて叫びました。
「これで三度目ですな。消し飛べですぞ! バーストランスⅩ!」
「ブヒ―――……」
穂先を爆発させて赤豚を爆殺してやります。
最大出力で放ち、肉片すら残らない程の消し炭にしてやりました。
「マルティイイイイイイイ!」
クズが叫び声をあげましたな。
「許さん! 許さんぞ! よくも――偽勇者共め!」
クズが烈火の如く激怒して俺達を睨みつけますぞ。
誰が偽者ですかな?
その偽者に負けるお前等が本物とでも言うつもりですかな?
「自業自得ですな。素直に俺達を送り出せばこうはならなかったのですぞ。いえ、むしろこの世の猛毒を消して感謝してほしいくらいですな」
確か……クズも最終的に赤豚を仕留めるのに協力した様な覚えがありますぞ。
ですが、お義父さん達を救った引き換えに完全な決裂をしてしまったでしょう。
「絶対に惨たらしく殺してくれる! 者共! 早く来るのじゃ!」
自分で戦えば良いものを……クズは杖の勇者のはずなのに、どうしてこの頃は戦わないのですかな?
おぼろげですが、最初の世界では戦っていた気がしますぞ。
「ここまで来て他人頼りですかな? 逃げるなら今ですぞ」
「黙れ! 死ねぇええええええええ!」
クズが無謀にも拳を振り上げて襲ってきますぞ。
愚かな……英知の賢王など夢のまた夢ですな。
「派手に散らせてやりますぞ! ブリューナクⅩ!」
「ぐあ――」
クズが俺のブリューナクを受けて跡形も無く消し飛びました。
おや? クズがいた場所に光が集まって、何処かへ飛んで行きましたな。
周りを見るとまともに立っているのはお義父さん達だけですぞ。
後は死んでいるか瀕死の重傷を負っていて、辺りは死屍累々ですな。
前回のお義父さんは『一悶着あるかもしれないけど、どうにか逃げ伸びて』とおっしゃってましたな。
やりましたな! 完勝ですぞ!
おやおや? 俺の記憶の中にいる前回のお義父さんが『誰が皆殺しにしろって言ったの!』と怒っていますぞ。
気の所為ですな。きっと褒めてくださるでしょう。
「こ、こっちに義があるとしても……これは……」
「戦った結果なんだ。相手を倒したらこうなるのは当たり前……だ……」
「う……沢山の人が目の前で死んだ……」
血への抵抗感がまだお義父さん達は強かったのですな。
「早く、偽勇者を早く殺せー!」
どうやら城中が騒がしくなってきましたぞ。
代表であるクズを殺しても国の兵士共は諦めない様ですな。
このままではお義父さん達の命が危険ですぞ。
「この臭い、この感触……」
「ええ……これが僕達の現実なんですね。異世界で夢の様なシチュエーション……正義が悪を倒すというのは相手の命を奪う事……こんな事に期待して、胸を躍らせてはいけなかったんですね……」
「そう、だよな。みんな死んでしまえって思ったけど、実際に死ぬと……生々しくて……」
お義父さん達のテンションがずいぶんと低くなっておりますな。
まあ、初めて生物っぽい魔物を倒した時は俺も抵抗感がありましたからな。
徐々に慣れて行くのですぞ。
「勇者に逆らったらどうなるかを見せつけてやりますかな?」
「こ、これ以上やるのか!?」
「もう良いんじゃないですか!? やりすぎたらどっちが正しいかわからなくなりますよ!」
「そうそう!」
お義父さん達が日和った様な事を言ってますぞ。
しょうがないですな。
ポータルで……あ、思い出しました。
エクレアですぞ。
置いて行ったらきっと死にますな。
「逃げる前に一人、ここで助けなきゃいけないもう一人の相手を思い出しましたのですぞ」
「何ですって!? 今から行くんですか?」
「どうしてそれを早く言わない!」
「じゃなきゃ死にますぞ」
「これだけ虐殺しておきながらですか!?」
「何があるのですかな?」
俺が首を傾げるとお義父さん達はそれぞれ話し始めますぞ。
なんとなく最初の世界のお義父さんとお姉さん達を思い出しますな。
「敵には容赦しないけど味方は助けるってことなんじゃないですか?」
「かもしれない。確かにこの場を逃げるにはやらなきゃいけなかったとは思うよ」
「ゲームだったらここで皆殺しにするだろうな。話に関わるNPCだと勝手に逃げ伸びる」
「ディメンションウェーブだと結果でイベントが変更になりますね。ですが……ゲームでは無いのでしょう。この血生臭さがゲームだったら逆に凄いですよ……」
「いや、こうなってしまった以上、例えここがゲームだとしても迂闊な事は出来ないぞ……」
「どうしたのですかな?」
お義父さん達は恐る恐るとばかりに俺に視線を向けますぞ。
早くしないと兵士共が群がってきますぞ。
ああ、良い手がありますな。
玉座の間に続く道に、炎の壁を生成しておきましょう。
何者も寄せ付けない炎の壁ですぞ。兵士共は通る事すら出来ないでしょうな。
俺が魔法を唱えてお義父さん達の会議の時間を稼ぎますぞ。
「そいつをどうしても助けないといけないのか?」
「前回の周回で頼まれたのですぞ。それに……信用の出来る者であるのは確かですな」
前々回、お義父さんをシルトヴェルトに送り届けるのに協力してくれましたし、何より戦争を止める時に色々と活動していましたからな。
出生も悪くは無いですし、真面目ですから事情を説明すれば一緒に来るでしょう。
「とは言っても……」
「なーに、すぐですぞ」
「軽い……えっと、出来る限り死人を出させない様に出来ないの?」
お義父さんが頼むように尋ねてきますぞ。
そうですな。お義父さんのお願いですから、実現可能か考えて見ましょう。
「出来なくはないですが、お義父さん達が危ないかもしれませんぞ?」
「それでもお願いしたい。強いんでしょ?」
俺の強さを錬、樹、お義父さんは理解してくださったご様子。
お義父さんに任されたのならこの元康、どんな事であろうとも達成して見せましょう。
「わかりました。ではこの先の敵は全て戦闘不能で抑えますぞ」
「お願い!」
お義父さん達が若干脅え気味ですな。
ですが、しょうがありません。