国への不信
「僕達に尚文さんを殺させようとしている……まるでネットで読んだことのある小説の様な展開ですね」
樹がそれとなく同意しましたぞ。
元の世界で手に入れた知識を関連付けなければいけない病にでも掛っているのですかな?
「小説? なんだそれは?」
「異世界に召喚されたけれど、気に食わないからと国や召喚者に捨てられて成り上がると言う話があるのですよ」
「ほう……」
「他にゲームのシナリオなんかにありそうなシチュエーションですね」
「そういえば、俺も知り合いからベータテストでそんなストーリーのゲームがあると聞いたことがあるな」
「ゲームでも何でもないのですぞ」
「尚文さんがそんな目に遭いそうな瀬戸際だと言う事ですか。ちなみに真実を知らない未来での僕達はこの後何をするんですか?」
樹が興味津々に聞いてきますな。
素直に話すべきですかな?
あんまり良い未来ではありませんぞ。
ですが、包み隠さず説明するべきだとお義父さんはおっしゃっていました。
「まず、最初の世界……何も知らない俺はあの女……いえ、髪の色から赤豚と呼びますぞ。奴に騙されて、おと――尚文を強姦魔として糾弾してしまったのですぞ」
「確かに情報だけで嘘泣きでもされようものなら、尚文を蔑んで見るだろうな」
「強姦ですか……そういえば僕の仲間になった女性が露骨に誘惑をしてきましたね。少々浮かれていました」
何度も錬と樹は頷きます。
どうやら心当たりと考えられる結末に納得出来た様ですな。
「おと――もう面倒ですな。俺はそんな尚文を将来、お義父さんと呼んで慕っております」
「なんでですか!?」
「いきなり話がおかしな方向に飛んだぞ!」
おや? 何かおかしなことを言いましたかな?
そうでしたな。
お義父さんがこういう時の対処を教えてくださっております。
「その経緯も同時に説明しますぞ。俺達は各々冒険とLv上げをしながら国の依頼を解決して行きます。ですが、お義父さんにはそんな援助はまったくありません」
「……だろうな」
「まあ冤罪とはいえ、強姦魔という事になっている訳ですからね」
「勝手に召喚しておいて身勝手な連中だ」
「許せませんね」
証拠をちゃんと見せたお陰か錬と樹は聞く耳を持ってくださっております。
やはり段階が必要なのですな。
「最初の波を乗り越えた後、お義父さんは表面上配布される援助金を元手にフィロリアル様……フィーロたんを購入したのですぞ」
「ああ、あの鳥だな。それで?」
「フィロリアル様は勇者が育てると特別な成長をし、天使の様な姿になるのです」
「……」
「はぁ……」
「俺はそのフィーロたんに落ち込んでいる所を励まされて心の底から好きになったのですぞ」
「……だから、そのフィーロって子の育ての親である尚文をお義父さんと呼んで慕っていると?」
「ですぞ」
「先ほどの出来事を見ていなかったら微塵も信じたいと思えない話ですね。正直、半信半疑です」
錬と樹に完全に信じてもらうのは難しいですな。
ですが、俺の話を少しでも信じてくれているようですぞ。
この二人が俺を信じるなど、夢でも見ているかの様な気分になりますな。
「後ほど、フィロリアル様の成長は実践してみせますぞ」
「話を戻せ。俺達はそれからどうなったんだ?」
早く未来を知りたいのか錬がやや詰問気味に聞いてきますな。
「まず、俺達が各地で好き勝手した所為で、国に居る魔物の生態系に変化が起こって問題があったそうですぞ」
「リポップするんじゃないのか?」
「魔物も生物ですからな。殺せば減りますぞ」
「……そ、そうだよな。それで?」
「他にギルドの仕事を中途半端に達成した所為で更なる災厄をばらまいてしまったようですな。俺の場合、ゲームの知識を元に封印されていた植物の種の封印を解いて飢饉で困っていた村を救ったのですが、その植物が暴走してとんだ災害になったそうですぞ」
ゲーム内のクエストではそれで解決だったのですが、前回のループを参考すると、おそらく暴走したでしょう。
それをお義父さんが解決したと後から聞きました。
この内容を上から下まで全て話しました。
「それは、俺や樹もか?」
「そうですぞ」
おや? 確かライバルと助手に関する話もすべきですかな?
それよりも問題は樹ですかな?
「樹はお義父さん曰く、副将軍でしたかな? 時代劇でやる様な善行をしようとして失敗するそうですぞ」
「樹、そんな予定があったのか?」
「そ、それは……クエストですよ。錬さんもゲームでやりませんでしたか?」
「まあ……良い報酬のクエストならやったことがあるな」
「ですが、国に良いように利用されてしまうのですぞ。まあ最初の世界では俺も片棒を担いでいたので似た様な物ですな」
むしろ最初の世界では俺が主導でやっていた仕事ですな。
樹の方はまだマシだったのではないですかな?
「そんな中で俺達の身勝手がやがてこの国の宗教、三勇教は疎ましく思い、同時にその尻拭いをお義父さん達はやって国民の信頼を勝ち取るのですぞ」
「好き勝手やっている俺達と冤罪を受けてどん底からがんばった尚文とでは大きな違いが出る訳か」
「僕達が悪人扱いの嫌な未来ですね……」
まあ樹の言い分もしょうがないですな。
俺は自分のやった悪行に胸が締め付けられますが。
「だが、ありえない話ではないな。それで?」
「やがて三勇教は勇者全員を処分するために赤豚の妹をお義父さんが誘拐したと流布し、俺は追いかけたのですが、真相に気付きそうになった錬と樹は罠に掛けられるのですぞ」
「まさかそこで俺達は殺されるのか!?」
「いいえ? 幸い、どうにか危機を乗り越え、黒幕である三勇教は敗れるのですぞ」
「待ってください。あの王と王女はどうなるんですか?」
「あれは王ではありません。この国は女王制で女王は国外で外交中、しかも代理の王が勝手に勇者召喚を行った罰で実質権力を失うのですぞ。赤豚も同様ですな」
「ずいぶん、大々的で遠回りなイベントになるんだな」
「しかも僕達は実質道化ではないですか」
ゲーム感覚なのが少々引っかかりますが、まだ良いですかな。
お義父さんが合流すれば、錬と樹も少しずつわかってくれるはずですぞ。
「そんな役割は嫌だと思いませんか? ですぞ」
「ああ」
「正直、この国からさっさと脱出したい所ですね」
国への不信が募って行きますな。
それも半信半疑なのでしょうが。
「まだまだ先の話は出来ますが、それは今回の出来事を未然に防いでからで良いと思うのですが、どうですかな?」
「……じゃあ最後に確認だ。元康、お前は最初の世界という言葉を使ったな? お前は未来から来たと言うが、これが初めてなのか?」
おお、そこに気付くとは良く聞いていますな。
気付かずに最初の世界と言ってしまった訳ですが、良い方向に転んでいると思いますぞ。
「違いますぞ。今回が初めてではありません」
「……やはりか」
「俺の敗北条件は複数ありますが、その中に錬、樹、お義父さんが死ぬことで俺は召喚された日に巻き戻ってしまうというモノがあります。時に樹が仲間に殺されるという結末もありましたな」
「僕がですか!?」
自分が殺されると聞いて樹が驚きの声を上げます。
俺は迷わず頷きますぞ。
なんせ、俺はこの目で樹が殺される瞬間を見てきた訳ですからな。
「あの方々に?」
「樹の仲間を俺はよく知りませんが、錬の仲間になっている鎧を着た男が樹の仲間になって、最終的に手を上げるのですぞ」
「そう、か」
「本当なんですか? 正直、まだ信じきれないのですが……いえ、どちらかと言えば、信じたくない未来と例えた方が良いんでしょうか……」
何か決め手になる樹の正義感を刺激できる話はありませんかな?
今までの記憶を紐解いて見ましょう。
……お? ありました。
「ではこのくさりかたびらが盗品である証拠を聞きに行くのはどうですかな? 未来では証拠を改竄されてしまうのですが、今なら大丈夫でしょう」
「元康さんを信じさせるために国が主導で行っている茶番……でないと言いきれなくないと思いますが」
「無理があるだろ。態々異世界まで召喚して演技とか……どれだけの手間が掛かると思っているんだ」
「そうですよね……」
まあ自分が殺される未来ですからな。
信じたくない気持ちも理解できますぞ。
「元康さん、すいません。言葉が過ぎました」
錬の言葉に樹は頷いてから、俺に頭を下げました。
樹が、ですぞ。
あの傲慢な樹が、ですぞ。
最初の頃は謙虚さがあったという事なのでしょうか。
ある意味、今の方が勇者然としていますな。
「よし、盗品である証拠を見せてもらおう」
「では今日、二人が行った武器屋に行きますぞ。あそこでお義父さんが買ったのですからな」
「わかりました」
善は急げですな。
親父さんの店は閉まっているかもしれませんが、素早く行きますぞ。
「……忘れそうになったが転移スキルはどうやって使える様になるんだ?」
「俺はループによる強くてニューゲーム状態ですぞ。転移スキルは龍刻の砂時計の砂で出る武器にあって、変化条件はLvが必要ですな」
「そうか……期待は外れたが、別の意味で収穫と言うべきなのか……」
ま、詰め込み過ぎると錬も樹も拒否をしてしまうから段階を踏んだ方が良い、と前回のお義父さんが言っていました。
強化方法も、未来から来たと完全に信じてもらってからの方が、今の二人は信じやすいでしょうからな。
NPCの力を宿している等、自分の信じたゲームだと思いこませない様にと、お義父さんに注意もされていますぞ。